Wind Climbing\

 

 

今、何時だろう。

真夜中にふとクラピカは瞼を開けた。

月が隠れたか、差し込む光も無い状況では判断できない。

身じろぎすれば酷使した体が悲鳴をあげる。

ため息をつきそうになりながら、開いたばかりの瞼をおろす。

こんな事であの扉を動かす事ができるだろうか。

期限は、ひと月

無謀な賭けでは、ある。

扉の向こうにはおそらく更なる壁があるのだろう。

その最奥にこそ、彼はいるのだろうから。

 

 

――――――――暗いね

『そこ』は、もっと暗いのか?

光の差し込む隙はある?

君はそれを、受け入れられる?

 

 

 

 

今、何時だろう。

闇の中、キルアは目を開けた。

地下には外からの光なんか届かないから。

割と正確な体内時計を持ち合わせてはいるものの、吊るされたまま何日もいれば狂いもする。

別に、何時だろうとカンケー無いけどね。

どーせしばらくはこのままだろうし。

この程度の拘束具、外そうと思えば軽く外せるんだけど。

だからって何が変わるもんじゃない。

結局、この家からは逃げれなかった。

夜目が利く事など何の役にもたたない暗闇を、それでもぼんやりと見つめ続ける。

 

 

―――――――暗いな

『あそこ』は、明るかった?

光差す場所だった?

オレはそれを、この身に受けていた?

 

 

 

 

ちかり、と。

月が出たのだろうか、瞼越しに微かな光を感じて、目を開けた。

けれども月は、未だ暗雲に覆われていて。

柔らかな一条の銀光は、それでも幻でしかなかったのか?

 

再び瞳を閉じたクラピカの耳に、その時かすかな呻き声。

「・・・・・・・・・ゴン?」

どうやら起きている訳ではなさそうだ。

キルアがいなくなってから、昼間は元気な彼であっても、そのダメージはこういった形で表出される。

 

ゴンは、未だ幼く、小さくとも。

紛れも無い恒星だ。

 

それに影を落とすもの。

落とすことができるもの。

 

ほら、君の影響力は、こんなにも大きい。

判っているのか、愚か者。

闇人形だと?ふざけるな。

人形遊びに戯れるほど暇じゃない。

 

刃を向けられようと引かなかった父親探し。

亡き友に向けた医大の受験。

・・・・・・・・・復讐と、弔い。

それらを後回しにしてまでここに来ている。

その意味が、わかるか?

 私達に・・・・・・・・・私に、こんな寄り道させて。

 それでも何も持たぬとは言わせない。

 

一度。甘やかすのは一度だけ。

もう、わかったろう?

 

 

 

 

機会は与えるから自分で選べと、そう言ったのは誰だった?

ひどく曖昧な記憶は、しかし現実の者の声。

 

友達が、迎えに来てると言われたよ。

3人、だって。

どうして?

みんな、オレに構ってる暇なんかないくせに。

・・・・・・どうして?

 

前方に向けたままだった瞳に、ちかりと何かの残像がよぎる。

月のように朧な金色。

 

身じろぎしたら、ジャラリと鎖の音がした。

・・・・・・・・・ゴメン。まだ、ちぎれない。

でも、

でもね。

きっと、選べると思うんだ。

きっと、間違わない。

 

だから、今回だけ。

 

もう一度だけ、

 

一筋でいい。

 

光を見せて。

 

 

 

 

雲がきれたか空に束の間の灯が燈る。

ぼんやりとしたつかみ所の無い光。

それでも決して弱々しくは無いのだと、誠に理解している者はどれだけいることだろう。

窓から見上げる瞳は、月を映して色を薄くする。

「恒星の恩恵も、無制限にそそがれるものではない・・・・・・・・・・・・」

ゆるゆると引き上げられる口端を見ているのは恩恵により輝く星のみ。

「お手並み拝見といこうか・・・・・・・・・・・・二人とも」

切れ間は終わり、再び世界は闇に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キルアの『ちぎれない』を『千切れない』と変換しようとしたら『契れない』と出ましてね。「まだ逃げ出す勇気がない」という意味のつもりだったけれど「まだ約束はできない」でも意味が通るので平仮名のままにしました。

何のジャンルにハマろうと月に例えたくなってしまう。これは私に限らずでしょうけど。

今回みたいな文体は非常に書きやすいです。このシリーズでは異色な雰囲気ですけどね。会話は一切無く、ひたすら二人しか出てこない。読んでる人に楽しい物ではなさそうだなぁ。

あ、最後の、クラピカですよ。何か邪悪っぽいけど(笑)別に邪な意味じゃないです。ただ私的にひたすら相手の事ばかり考えてる受はヤだったもので。一応意味はあるけどこの先話に説明入れる気が毛頭ないので深読みしちゃだめです。

次で一区切り……っつってもこれと一辺にUPしたいかも。というか今回のを単品だけで出したくない。とか言って出してたら笑ってください。

 

 

10に進む

小説区域に戻る