青学前線異常ナシ!
『 闇あるところに光あり 悪が栄えた試しなし 学園の平和を守るため 戦え我らが青学5! 』
「………何スかこの激ダサなキャッチコピーは」 「こらこら失礼だよ、まあ確かにセンス無いにも程があるとは思うけど」 「先輩の方がキツくないっスか?いくら文脈からしておかしいとはいえ」 「うんおかしいよね。帰国子女の君から日本語習った方がいいくらいに」 「……それ褒めてんスか、それとも――――――」
ダンっ!
「越前、不二。制服で走りたくなければ集中しろ」 「「はーい」」 机を叩いた手塚の叱責により、張り紙の貼ってある壁を向いて論じていたマイペース極まりない二人が揃って返事をした。そもそも名前からしてダサいよなーとか思いながら。 視線をどこから持ち込んだかわからないホワイトボードに向けたところで、書いてあることに大差はない気もしたが。 なにしろそこに書かれている文字は 『青学5秘密会議』 なのだから………。
そう、彼ら青学テニス部正レギュラー陣(長い)こそが、この学園を襲い来る謎の(正体よりも理由が本当に謎)悪者たちから守る『青学5』(せいがくファイヴ)であり、今はここ『青学5秘密本部』で重要な会議の真っ最中だ。 ちょっと埃っぽかったり汗(むしろ男)臭かったり、先日は誰かさんの飼ってる狸に似た猫が眠り込んでいたりもしたというステキな本部だ。 「………他部の部室よりは優遇されている方だがな」 部室ゆーな。
「じゃあ続けるよ。今回の議題は『色』だ」 先日、新人が入ったために準司令官という役職に回った乾が司会進行。 「またそれ?」 「そう言うな不二。確かに今月入って4度目だけど、何度やっても不満な奴が出るのだから仕方ないだろ」 「人数枠変えたらまだマシになると思うんだけど……」 青学5はその名の通り、5人で戦隊を組む。 しかし彼らは準司令官の乾を抜かしたとしても8人、どうしても余りが出る。 そこで誰がどの色をとるかで毎度話し合いが開かれるというわけだ。 よって毎回メンバーや役職が違うという、異色なヒーロー集団になってるわけだがこれは仕方ない。 「しかし戦隊モノといったら5人というのがセオリーだろう」 意外と凝りますな部長殿。昔見てたクチですか? 「でも僕たちテニス部員なんだし、いつもの試合みたく7人とかの方が慣れてない?」 「その場合色はどうなるんだ?」 「普通にいくなら虹色とか?でも面白くないな」 「面白さを求めなくとも………」 「お遊びは入れないと」 「あー、んじゃ白黒抹茶小豆コーヒー柚子桜とかど?」 「色じゃないのが入ってないか?」 はーい、とばかりに手を上げた菊丸に冷静な突っ込み。 「っつーか先輩、地方ネタは良くないと思いますよ」 「………何の話だ?」 「………ういろうじゃないかな、多分」 お腹空いてるのか英二? 「はいそこ、大石とかは何か意見ないの?発言しとかないと存在忘れられるよ」 「存在ってっ………え、えーと。セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ・スズナ・スズシロとか……」 「…………胃によさそうだね」 「正月の締めくくりは七草ガユだよな………」 いきなり話を振られたらこうなっても無理はないか。 「そういうのでいいなら僕、芥子・ちんぴ・山椒・胡麻・菜種・麻の実・唐辛子がいいな」 「不二らしいな………」 「唐辛子って………何スか今の」 「七味唐辛子の調合」 もうかなり滅茶苦茶。 実際そんなのになってまで役に就きたいか、一度真剣に考えてもらいたい。
ただ、彼らの名誉のために言っておくと、彼らは決してやりたがっているわけではない。 一人二人、………まぁ童心を忘れない人物もいなくはないが、殆どは中学にもなってあんな格好はしたくないと思っている。 なのに何故取り合いになるかというと、 「そうもいかないよ。ウチは裏方がいないんだから溢れた三人には黒子になってもらわないと」 こういうこと。 この際、黒子になった者は普段の練習メニューも真っ青なこき使われ方をされる。 これが嫌で皆必死になっているという訳。 例外もいるけど。
「でも暇。僕は決める事無いんだし帰っちゃダメ?」 乾と同じく、不二はいわゆる固定ポジションというものに就いている。 「あー!ズッコイぞ不二!そりゃ不二は決まってるから楽でいーけど俺達の事も考えろよー!」 そう叫んだ菊丸の台詞に、その場に居た本人と不二以外の者たちはヤバイと感じたが、一度口に出した言葉は戻らない。 その言葉を受けて、不二は正面に座る菊丸に一度、にっこりと微笑んだ。 「英二………」 周囲が身構えた。 まだ机挟んでいる分マシかと思う間もなく、
ダンッ!!
次の瞬間には机に片足ついて菊丸の胸倉掴んでいる不二を見た。 「やりたくてやってると思ってるの?」 「っでー!?」 「代わってもいいんだよ英二?一度やってみるかい、男の身でピンク、しかもスカート姿なんて格好を!?」 ちなみにまだ開眼はしていない。 不二の静かなる怒りを目にしたメンバーは、うわー、こりゃアイツだめかも。成仏しろよ、と薄情な事を思ったりしていた。 が、
「不二!」
鶴の一声ならぬ手塚の一声。 どういうわけか手塚の言う事なら素直に聞く不二なので、助かった……と菊丸は目を潤ませた。
しかし甘い。 「机の上に足を乗せるな。非常識だぞ」 真面目な顔して天然です部長。 明らかに注意するのはそこじゃないと思われます。
「わかったよ……」 渋々手を離して足を引っ込める不二。 結果オーライ? いやだから人生そう甘くないんだってば。
「じゃあしょうがない、別室で話し合おうか英二」 ズルズルズル 「ってちょい待て!いつの間にこの紐付けた………って引っ張るなー!」 「まぁまぁ、じ〜〜っくり話そうよ、ね?」 にーっこしv ひききっ! 「いっ……ヤダヤダヤダー!!ごめんなさいごめんなさいもう言わないしスカート穿いてもいいから許して!!」 まぁ、命には替えられないよな。
「だから不二、会議中だと言っているだろう。席につけ」 今の不二にこう尊大な物言いができるのも手塚くらいなものだろう。 「でも………」 「つけ」 「………はい」 とりあえず命拾いしたね菊丸。 あとは会議の間に不二の怒りが解ける事を祈るばかり。
「ねぇ乾、英二もああ言ってる事だし――――」 「ピンク降りたいならダメだよ」 「あ、やっぱり?じゃあイエローとかなら女性がやってたことあるよね?二人でとか………」 そんなに道連れが欲しいのかお前。 「却下。女性ならともかく身長170以上のスカートは精神衛生上良くない」 「僕だって四捨五入すれば170だよ」 「するなよ四捨五入」 「だったら、せっかく新人が入ってきたんだし、150の越前にやらせればいいじゃないか」 「151っス。勝手に切り捨てないでください」 中学男子の身長事情は意外に切実だ。 「越前は駄目だよ」 「何で」 「主役だから」 「何それ。毎回色変わってるじゃないか。前回も赤じゃないし。……あ、でも黒子になったことない?」 「水ノ淵との時になりましたよ」 「あれは罰だろーが。そん時だけか?」 同じくその罰を一緒にくらった覚えのある桃城が小突きながら問う。 「他は見えざる力が働いたらしくて」 「うぁ、ズリー」
「そういう主人公特権使うんならさ、何でヒロインが僕なの?この話には正式ヒロインいるのに。あの三つ編みの……えっと、竜崎先生のお孫さん?に入ってもらえばいいのに」 「ああ、そんな話も出たけど、あの繊細な心をしていそうな彼女をこんな肉体的にも精神的にも厳しい役にするのは酷だということになってね」 「………僕はいいわけ?」 「もう疑問はないかな」 ナチュラルに無視。 そういえば乾も不二と対抗できる数少ない一人だ。 「じゃあさ、よくあの子と一緒に居る元気のいい子は?小坂田さんとかいう……」 「彼女は逆に強すぎて、もし越前が攻撃されでもしたら彼女の活躍だけで終わってしまうと目されたんだ」 情けない集団だな青学5。 「それに彼女たちは時々敵方にさらわれるというヒロインの王道を立派に果たしているよ」 話の流れからして、少なくとも小坂田朋華はわざとということか? 「僕はなんのためにいるわけ?しかもピンクだからって歴代の人達別にスカート穿いてなかったと思うんだけど」 「それこそ見えざる力が働いたんだ。いくらお前でも抵抗するだけ無駄だよ」 「なんなのさ一体………」 一応決着はついたらしい。かなり不満はありそうだが。
機嫌の悪そうな不二に、報復に怯えて菊丸が乾に縋る様な視線を送る。 ひとつ息をついて乾は頷き返し、不二に向き直った。 「ああでもスカートは強制だけど色なら変えてもいいらしいよ」 「えっホント?」 「ここ数年連続してヒロインがピンク以外らしいからね。何か希望があるなら言ってくれ」 「この疲れるピンクから解放されるなら贅沢は言わないよ。できれば落ち着いた色がいいな」 「わかった考えておく」
これで本当に一件落着。まだ本題が何も進んでないこと差し引いても平穏が訪れた。 「………ってとこ悪いんだけどさ」 「どうしたのタカさん、そういえば今日は一言も台詞なかったね」 さらっとキツイ一言。 「あ、あのさコレ―――」 「?」 おずおずと何かを指差しているが、よくわからない。 「だから、画面右下にロゴが入ってるんだけど………」 「え」
……………………
「嘘、もうCMタイム!?」 「ち、違うぞこれは『青学5』ではなく『つづく』と入っている!」 「え、もう三十分経っちゃったの!?CMタイム無視した上に今日話し合いしかしてないじゃん!」 「仕方ない、今回は総集編ということにして次回への引きを作れ!」 「誰か意味ありげな奴カメラ前に立て!」 意味ありげっていうと………
「え、僕?」 「おや」 当然というか何と言うか、アルカイックスマイル(一応)ヒロインと逆光指揮官に脚光があたる。 「いや……意図はわかるんだけど、自分で言うのもなんだけど僕達のツーショットで終わるっていうのは幼児番組の引きとして不適切だと思うんだけど」 自覚あったのか不二。
「まぁこうなった以上は仕方ない。残り三十五秒、行くよ不二」 「わかった」 残り三十二、三十一………GO!
「迫り来る散弾、襲い来る怪物。 ルドルフの狂科学者・観月のとった恐るべき手段とは!?」 「肉親の情すら利用する卑劣な集団に対抗すべき道はあるのか? そして死線をくぐり抜け芽生える想いの行く先は!?」 「「次回青学5も必ず見よ!!」」
はいカット。 秒針は見事12の位置。 「「「おおーー!」」」 パチパチパチ 「今のアドリブだろ?さっすがー」 「まあ大まかなデータは集まってたからね。次週構成なんて8割方予想できてるよ」 眼鏡を軽く押し上げながら、何でもなさそうに装ってはいるがやはりどこか誇らしげな乾だった。 「それでこそ乾!不二は?」 「僕?適当」 「「「え」」」 さらっと告げた一言に固まる空気。
「乾が次回はルドルフ出るみたいなこと言ってたから、ああそろそろ裕太に会いたいなぁと思ってさ」 「って不二ぃ〜、そんで次回裕太君出なかったらどうすんだよぉ?」 「え?やだな英二ってば」 にっこりと浮かべた笑顔の横に人差し指をピッと立て、 「僕が『そろそろ裕太に会いたいって思った』んだよ?」 ………いや、よ?って言われましても。 「本当にすればいいだけの話じゃない?」
……………………………… 全くもって仰る通りでございますね………
「ふ、不二。芽生える想いってナニ?っつーか誰と誰?」 ビクビク尋ねる菊丸に、ニコニコ笑顔で 「さぁ?パターンとしては赤とヒロイン、それに青が絡んでくるのが王道だけどね?」
間。
その後、こんなに気合が入ったのは設立以来であろうと思われる、熾烈な
はい、プロローグ………というより前振りお届けしました。 私がもぎ取ったリクなのに半年以上放置していましたスミマセン…… MITURUさんからのリクエスト、『テニプリで戦隊モノ。カップリングは塚不二かリョ不二どちらでも』 リョ不二は何も考えなくても出てくるので塚不二寄りを心がけて行くつもりです。 今回は説明で、次が本編です。 内容は、アニメに先越されましたが上の予告で言ってる通り。 下手すると次でも終わらないかもしれませんがどうぞお付き合い下されば幸いです。
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