青学前線異常ナシ! 第一話(な訳ないけど第一話)
「麗らかだねぇ………」 「そうだな」 穏やかな昼下がり、部長とNO.2は茶を啜りながら呟いた。 「平和でいいね」 その笑顔こそが平和の象徴!と言わんばかりの柔らかさに、 「………そうだな」 名物鉄仮面の目も(彼の母親にしかわからないくらいに)柔らかくなる。
「………何寛ぎまくってんスかあの2人」 「部室を我が物顔で使うのは3年の特権だよな……」 「待て桃、あの2人を基準にするな」 「あの茶どっから調達したんだか」 「日本茶なところからして煎れたのは手塚だろうな」 「ってゆーか、2人ともジジくさ……もがっ」 「だからそういう事言うなって英二!」 「五分以内に大石が胃を押さえて出て行く確率は……」 「どういうデータ?それ………」 「フシュー」
……………………………… 穏やかな午後である
「あ、現実逃避」 ほっとけ
しかしそんな平穏も、容易く崩れ去るものである。
「ねぇ」 のんびりとした不二の一声に、逆に皆一種緊張状態になる。 コイツがこういった誰に言ってるんだ、な呼びかけをする時はロクな事が起こらない………!と皆経験から知っている(知りたくもなかったが)。 本人はうって変わった周囲の雰囲気などどこ吹く風。 開け放たれた戸の外、また来ていたらしいカルピンが蝶と戯れる様を眺めている。 「『西部前線異常なし』って知ってる?」 「……………?」 いつもの如く、問いかけの意味が掴めない。 「ドイツだったかな、戦争中の実話を本にしたもので、主人公が蝶を掴もうと隠れていた穴から身を乗り出した途端に撃たれて死ぬっていうラストなんだけど………」 蝶を、って……… そこまで聞いて顔色を変えた心優しき者、数名。 「カルピン!?」 珍しく叫んだのは飼主。 「まかせろ!」 走り出したのはドア付近にいた菊丸。 「ニャンコ救出〜!」 はしっ、とカルピンを抱き上げたところで……
ヒュンヒュン!
いきなり飛来する弾丸もといテニスボールの嵐。
「うわわわわわわぁー?!!!」 悲痛な叫びが木霊した。
ズズ、と茶を啜る音。 「続きだけど、この場合カルピンが蝶にあたるよね」 つまり先程のタイミングで外に出れば撃たれる事、予想していたと? ひでぇ………
「あああカルピンー!!」 先輩の心配はなしかい飼主。 「いやー、いつ見ても英二のアクロバティックは凄いね」 「ボールを返せるくらいなら避けるくらい軽いものだな」 「ちょっと数が多いけどね」 誰か少しは心配しろ。
「あ、止まった」 「弾切れかな?」 結局一発も当たらなかったらしいが、それでもヨレヨレの菊丸が入ってくる。
「無事で良かった……カルピン」 だから先輩の心配は(以下略)
「ひどいよ不二〜、わかってんなら………」 ガシッ!! 文句の途中で不二に両手で手を握られて、思わずビクッとする。 「すごいよ英二、自らの身を省みずに猫を守るだなんてヒーローの鏡だよ! 君の正義感と華麗に攻撃を避ける勇姿にテレビの前のチビッ子の目は釘付けだね!」 にっこり
「……………華麗?オレには例えるなら小学校のドッヂボールで最後まで残ってしまった図、って感じにみえたけど………」 「っていうか、テレビの前のチビッ子ってどうよ?」 後ろの野次は聞こえない振りで、更に笑顔。 「カッコ良かったよ、英二」 にこにこニッコリ、無敵の微笑み出血大サービス。
「そ、そっかにゃー」 何故ほだされる 見ていたもののほぼ満場一致の意見だったりする。 「ああでなきゃ、あの不二の同級生などやってられないという事か?」 「ある意味さすが英二というか……」 「単にあの至近距離で逆らえるほど命知らずじゃないって事じゃん?」 「本能が危機を回避したか………」 何気にけっこうな言われようである。(どっちにとっても)
「でも止めてくださいよ不二先輩、カルピンが怪我するじゃないっスか」 「えー?大丈夫だよ、朝7時枠で無意味に子供と小動物傷つけるとクレーム来るからやんないって」 「こら不二、そういう発言は番組が終わってからにしなよ」 裏事情暴露は控えましょう。
「ところで外の敵ほっといていいんスか?」 「「「あ」」」 「あー、すっかり忘れてた」 「そうだね、攻撃してきたって事はどこぞの学校の奴らが来てるんだよね」 「今日はどこだろ?」 等、口々に言いながら着替えて外に出る今回のヒーロー5名。
無意味だと思われるが一応本日のオーダー紹介しておくと、 レッド・越前、ブルー・手塚、イエロー・桃城、グリーン・大石。 あと勿論の事不二。 余談だが越前と手塚は赤か青になる確率がやたらめったら高かったりする。
「あれ?誰もいない」 「待たせ過ぎて帰ったんじゃ?」 その気になれば早いのだが、やる気が無い為最近着替えタイムが下降気味。 「なら平和でいいのだが」 その時
風に乗って聞こえてくる
んふっ
の声
「あ、観月だ」 「観月だね」 「ってことはルドルフか」 正体バレバレ
「ここですよ!」 声に視線を上げると……屋根の上。
「………上ったの?」 「何とかと煙はって奴か?」 「あの格好からして馬鹿だしね」 「馬鹿っていうか………黒マントはともかく蝶メガネがヤバくない? これで鞭とか持ってたら完璧変態ルックだよ」 「鞭………腰についてるやつ、違うか?」 ぱぱらぱ〜♪←効果音・黒子(おそらく菊丸あたり)の悪ノリ 観月は変態の称号を得た。 「要りません!」 だろうね。
気を取り直して、 「観月、1人か?」 「観月と呼ばないで下さい。僕は『ルドー』の『ミ・ヅッキー』です。 あ!ひとつ言っておきますがこの呼称、僕が付けたのではないですからね!」 どこも大変らしい……(合掌)。
「ルドーねぇ………不動峰の『フドー』と被るからせめて『ルディー』とかにならない?」 再度言う、バレバレ
「やかましい。ああもう出でよ怪人!」 ヤケクソ気味の観月の声に出て来たものは………
「この時期に着ぐるみは暑そうだね」 「なかなか気合の入った着ぐるみだな」 「でも動きづらそうだ」 「誰が入ってんだ?前回はバカ……いや赤澤だったよな」
そこに響く観月の声。 「さあ行け!僕の最高傑作、ユー………」 「あっ裕太ーv久しぶり元気してたー?」 「だー!こんな格好の時にオレだとバラすな馬鹿兄貴ー!」 やっぱり最後まで言わせてもらえない観月でした。
「くっ、やはり立ちはだかるか天才不二周助!」 それは橘の台詞じゃなかろうか………? つーかこの場合何の天才だ。
「アレ、弟君だったんだ」 「何で判るんだろう?」 「兄の愛ってやつじゃ?」 「だったらこの状況で呼ばれたくない事くらい察してやれよ」 「弟君も可哀想に」 「弟君……」 「不二弟……」 「不二先輩の弟……」 「弟………」 「弟弟言うなー!喧嘩売ってんのかお前ら!?」 諦めろ、弟。
「話を戻したいんですけどね不二くん?」 「え、僕のせい?」 9割方ね。 「っていうか人に名前呼ぶなって言うなら君の方も色で呼びなよ、えっと『ズッキー・ニ』?」 「わざとらしく間違えるなぁ!」 おそらく故意と思われます。 「大体君達みたいに毎回色替えしてくる連中に色で呼んでなどいられません。 今回は不二君、君までいつもと違うじゃないですか。それはパープルですか?それともバイオレット?」 そう、今回の不二の衣装はピンクではなく紫系だ。 「え、どっちだろ?越前くん『藤色』ってどっち?」 「つーか『ふじいろ』ってどんなんっスか」 「どんなって………こんなのとしか」 ピッと自分のコスチュームを指差す不二に、越前は一瞬黙り、
「とてもじゃないけど表現できません」 「いや待て越前、不二先輩は自分を指してるんじゃなくて服を指したんだぞ?」 桃城が誤解を解く。 「なーんだ。てっきり日本ではとうとうあの人を指す色ができたのかと思った。 バイオレット、あるいはラベンダーってとこじゃないっすか」 「まー、乾先輩もシャレ狙ってんだろうしな」
「………なんかムカツク」 「お、落ち着け不二。二人とも別に侮辱してるんじゃないから、な?」 誰か大石に胃薬持ってきてやれ。
「僕を無視するのもいい加減にしてくれませんか」 と観月。 「あ、ごめん君の存在すっかり忘れてた」 煽るのは無論不二。 「もういいっ、どうせ裕太君には期待していなかった!」 「ええっ観月さん!?」 哀れなり、弟。
「今度こそ本番だ、見よ!」 観月の後ろから、裕太に比べればやや小柄な人影が現れる。 「これこそ子供番組の王道!クローン技術を駆使して造り上げた 『 ブ ラ ッ ク 不 二 』だ!」
「んなっ!?」 「「なにー!?」」 「ブラック不二だと!?」 「馬鹿な!ありえない!!」 もはや黒子も合わせての驚愕の声があがる。 「観月!まさかお前……………」
「「「まさかこの不二が白いとでも言うつもりか!?」」」
「………って、ちょっと皆?それどういう………」 突っ込みを入れようとした不二の耳に、 『そんな事も判らずに、データを取ったと言えるのか』 「………乾?」 受信モードにしてある筈のトランシーバーから聞こえてきた乾の声に、不二が首を傾げている内にも話は進む。
「だよねぇ、それで不二に勝負挑むなんて………」 「ちょっ、だから皆………?」 「観月さん………見る目ないにも程がありますよ?」 「裕太まで!?」 お兄ちゃんちょっとショック。
「何言ってるんですか皆さん。そんな筈無いでしょう。 判りにくいので本物よりも多少色黒にしてあるのですよ」 「ああなんだ」 「そうだよな、いくら何でもな」 「どれどれ?」 視線が自分に集まるのを感じて、(仮称)ブラック不二がビクッとした後、おずおずと微笑んだ。
「「「おー!!」」」 湧き上がる拍手。 「なんかスゲー!」 「控えめだー」 「いっそ色白さを増して『ホワイト不二』とかにしてくれれば判りやすかったのに」 「確かに」
はにかむ(…!!)ブラックちゃんに、状況も忘れて声援を贈っていると……
バキィ!
突如響いた何かが破壊されたような音。
背筋が寒くなりながら振り向くと、トランシーバー握りつぶしたオリジナル不二周助の姿。
「ふふふ、いい度胸してるよね皆………」 ふふふと言いながらも切れ長の目は笑っていない。 ヤバイ…………!
「まず、乾」 指名の挙がった名は、しかしこの場にいない人物。 「不二……?今お前トランシーバー………」 壊したからには、他の誰かに借りないと乾との連絡はつかない筈だ。
しかし不二はコスチュームの、首の付け根あたりに手をやり、何かを取り出した。 そしてソレを顔の正面に持ってきて、 「わっ!」 かなりの大音量で叫んだ。
『ぐっ!?』 途端、四人のトランシーバー(やはり受信モード)からくぐもった呻き声が聞こえた。 「い、乾?」 「ふふ、何で送信モードの筈の君にこっちの声が届くわけ?盗聴とはいい趣味してるね乾?」 「何……?本当か乾!?」 「本当じゃなきゃどうして今のでダメージ受けるのさ?なかなか出来のいい集音器だね」 問い詰める手塚にあっさりと不二が言う。 『………鼓膜破れるかと思ったよ』 「破れてもそのうち直るよ」 「不二!」 仲間を仲間とも思わぬ発言に、手塚が諌める。 「何?手塚は、盗聴なんていう犯罪行為を黙認して、ただ声を出しただけの僕が悪いっていうの?」 「い、いやそうでは………」 「だったら黙ってて。どうせ乾にはこれ以上しないから」 乾『には』、という不二の言葉にその場に居たものの時が止まる。
「さて」 にっこりと、次なる犠牲者を言い渡す。 「観月、とそれから僕の『コピー』君。話をしたいから屋根から降りてきてくれないかな?」 それはさながら死刑判決の如く。
「ど、どうして僕が君の言う事を聞かなければいけないんです?」 ちょっとひきつった声の観月と、きょとんとした様子のブラックちゃん(顔しか似てないなコイツ……)。 「やだなぁ、持ちかけてるんだよ?話し合いで済むならそれに越した事はないからね」 「って言いながら兄貴、その手にあるラケットとボールは何だよ!?」 「ああ裕太も。いつからそんなに反抗的になっちゃったんだろう、ねっ!」 いい終わらぬ内に放られた球。無論振られるラケット。 ヒュン! 「うあっ!?」 寄りにもよって可愛い弟に向かって。 「何すんだよアブねーな!」 間一髪、しゃがんでかわした裕太だったが、兄から攻撃されたという精神的ダメージは受けている。 「何甘えてるの裕太?家を出てルドルフについて、敵方として登場してる限りは僕も攻撃する義務があるんだよ。ほら、肉親を傷つけて、それから立ち直って一回り成長するのもお約束のパターンでしょ?」 一応正論。 「そーゆーのはこっちの攻撃を防ぎきれなくなって初めて有効なんだよ!てめーから積極的に攻めてどうすんだ!?」 更に正論。
「そんな積極的じゃないよ。当てる気なかったし、裕太には」 裕太『には』。 「それって………」 ヒュン! 「うあ!」 疑問を発する間もなく、背後から襲い掛かるテニスボール。 無論、観月目掛けて。 「は、白鯨!?」 「にしてはタイムラグなかったか?」 「それ以前にこの角度で打てんスかアレって」
どさっ、と音を立てて観月と、傍に居て巻き込まれた裕太とブラックちゃんがまとめて転がり落ちた。 「いらっしゃい、さあ二人とも静かなところで話そうか」 優しげな口調と裏腹に、二人の胸倉引っつかんで
残された一同が沈黙して見守る。 いや、あくまで『話し合い』なわけで、間違っても悲鳴などは聞こえたりしない。 ………ただ、なんというか ゴッ! とかいう、例えるなら何か重いものが何かにぶつかるような音が響いてきたのと、 ……ええと、本当に何と言ったらいいか……… 「よく『蛙を踏み潰したような』って表現があるけど、今時都心部に住んでる子供はそんなの聞いた事ないよって思わないか………?」 まあ、そんな音(声とは言わない)。 あと、しばらく続くザクザクという土を掘るような音。
そして、 「お待たせー」 本部裏から、やったら爽やかに登場の不二周助(勿論オリジナル)。
「説得して快く帰ってもらったよ」 「そ、そっか………」 「えっと………」 はっきし言って信じてる奴など皆無だが、反論できる奴もまた殆どいない。 ええ、殆ど………
「不二先輩、顔に返り血ついてますよ」 居た。
「え、どこ?」 「そっちじゃなくて………」 片頬に手を当てる不二に、反対側に手を伸ばして越前が訂正する。 「ここら辺に………」
♪〜〜〜〜♪〜〜♪〜〜〜〜〜
越前の掌が不二の頬に触れた瞬間、突如鳴り響くバラード調BGM。 「「え?」」 呆けている内にも背景が夕日に変わっている。 ………黒子は今ごろ殺人的に大忙しだ。
『ふむ、不二の活躍(?)で予定よりも早く終わってしまったからな。 強引にラブシーンでも入れる他あるまい』 「復活したのか乾。お前もなかなかの回復力だな」 「返り血ってラブシーンの小道具に使える物だったか………?」
「だそうっスけど、どうします先輩?」 「そうだね、どうしようか。越前はどこまでできる?」 しばらくこのままでいる事を余儀なくされた二人だが、既に余裕を見せている。 「どうだろ?オレは据え膳は食うべし、っていう主義だけど、放送コードがどこまで容認するかが問題じゃないっスか?」 朝7時枠で何する気だ12歳。 「ふぅん?さすがは『サムライ』の息子。幼児番組で残念だったね」 クスリと笑って投げられた言葉は明らかにからかいを含んでいて、特に親を引き合いに出された事が腹立たしい。 「その言い方ムカツク。先輩こそ本気で来られると困るくせに挑発すんの、止めたほうがいいよ」 言いながらにグイっと顔を引き寄せて、 「そのうち痛い目みるから」 言葉と同時に口付けた。
「おおお!?」 「やるな……越前」 「でも不二も平然としてるな」 「いや、待て?」
涼しい顔で目を閉じていた不二が、ビクリと動き離れようとした。 もっとも、しっかりとロックしている越前がそれを許さなかったが。 「あー、舌入れられたな……」 「不二も幼児番組でディープが来るとは思わなかったんだろうな」 「油断したな」 「越前ー、糸引いたらNGで撮り直しだかんなー」
ギャラリーが騒いでいる内にも静かなる攻防は行われていたらしく、段々不二の力が抜けていくのが見て取れる。 恐るべし12歳。
「っは………はー」 ようやく解放された不二が、縋りつくような体勢で息をついた。 「ど、どういう人生送ってきたのさ君は」 「プライベート明かす義務はないんで。先輩は意外に慣れてないね」 「余計なお世話……っ!ちょっ!?」 首筋に顔を埋めてきた越前に、さすがに慌てる。 「懲りない人だね。実は頭悪いんじゃないの?」 神をも恐れぬ台詞だが、今は所業の方を止めるのが優先。 「朝7時枠7時枠7時枠ー!」 「あーうっさい。耳元で喚かないでくんない?馬鹿っぽいし」 ぱ、とあっさり解放して、背を向ける。 「じゃ、今日のノルマ分くらいは出演したと思うんで。お先失礼しまーす」 ひらひらと振り向きもせず夕陽に向かって去っていく主役。 それはまさにゴーイングマイウェイ、いやむしろ『強引にマイウェイ』極めたものの姿だと思わしめた……。
「オレ達も帰るぞ」 「あ、ああそうだな」 手塚の一声に、皆正気に戻る。
「ま、待って手塚」 「どうした不二」 「ごめん………手、貸してもらえない?」 へたり込んだままの不二が言い難そうに頼む。 「怪我をした訳でもないのだろう。自力で立て」 「うっ………」 本日のブルーはにべもなし。
「フージ!大丈夫?」 ててて、と黒子マスクを外した菊丸が駆け寄る。 「英二………仕事終わったの?」 そう聞き返す親友は、目は潤んでるし頬は上気してるし声掠れてるし。 ああ成る程据え膳ねー、と納得しながらも顔には出さずに立たせてやる。 「んー、ま、後は片付けだけだしいいっしょ」 神経使わないとはいえ後片付けが一番重労働な気もするけど。 でも無論不二もそんな事言わない。 「不二歩ける?肩貸そか?オチビのそんなに腰にクルの?」 一回の台詞に三つも疑問詞をつけるな、と思いながらも歩けないのは事実だし。 「ありがと、助かるよ。末恐ろしいよ越前くんは」 律儀に答えてやる不二だった。
「大石」 「何だい手塚?」 その様子を見ながら、手塚はいつも通りの生真面目な顔で、 「不二はどこか怪我していたのか?」 「………は?」 「立てない程の怪我をしていたのか?だったら悪い事をしたな。後で不二に謝らなくては」 大真面目にそんな事言われても………。 「いや………怪我っていうか、腰が抜けたんだろう?」 何でこんな事説明しなきゃならないんだ。 つくづく大石は苦労人である。 「腰が?何故だ」 何故ってお前。 天然な無愛想男を前に、痛む胃を押さえて何と言えば良いか悩む本日のグリーンであった。 合掌。
「……………以上です」 「ふむ、なるほどな」 数時間後、手塚は上司である竜崎スミレに報告していた。
同時刻・所変わって不二サイド。 手塚と越前を除く皆(強制連行の裕太含)で仲良く下校中だ。 「そーいやさ不二、さっき言ってたナントカ前線って………」 「西部前線異常なし?」 「そーそれ。どんな話なの?」 「えっと、さっき言った通り、戦争中の実話で………くわしくは避けるけど、 一介の兵士がひとり死んだとしても、そんな事は大局的には何でも無い事なわけで……」
「さがっていいぞ手塚」 「はい」 手塚が去り、1人になった部屋で竜崎正司令官は報告書を広げた。
「主人公が死んだその日の記録書にも、こう書かれていただけだったって話だよ」
ペンをインクに浸し、書かれる文字はたった一文。
「たった一文、『西部前線………」
『青学前線………
異常なし』
果たして彼らが何の前線なのか、それを知る者もこの場にはいない……
to be continued………
そんなわけで本編です。ふと気づけば長………Σ( ̄□ ̄;)! ……………しかもごめんなさい、続きます。 次で終わらせますけど。今回で終わってもいい気もしたんですけど! 迷ってたんですけど、山吹や氷帝も書きたくなってしまいまして(^^ゞ ええと、次の話の構成は出来てるんです。出来てるんですけど………ひとつ誤算が。 ブ、ブラック不二に情が移りました。 彼を入れてのプロット練り直しいいでしょうか?少し時間食いそうですが………
今回リョ不二風味が強かったので次は塚不二気味で行くつもりです。 ………練り直したら変わってるかもしれませんが。
|