投げ出された腕が見えた

 

 

「・・・・・・・・・殺人事件?」

 最初に浮かんだのはそれ。

 だって、『日暮れ過ぎ』に『人気の無い公園』の『植え込みから覗く人の腕』だよ?

 これが生きてる気配濃厚なら、ホテル代ケチったカップルかと思うとこだけど(おっと中学生には刺激が強いね)、チラッとしか見てないけどマネキンみたいに動いてなかった。

 本当にマネキンなら問題ないんだけどね、と考えながらもオレの漕いでる自転車は止まらない。いや、止めない。

 だってマジだった場合、犯人とかいたら危ないじゃん?鉢合わせは避けたいし。

 ゴールデンタイムの青春ドラマならともかく、火曜サスペンスの世界に混じりたくなんかない。

「・・・・・・バッカらし。んなワケねーじゃん」

 オモシロイからこの考えを進めてみたけど、本気でそう思ってるんじゃない。

@さっきも言ったが人形

A浮浪者

B変な奴

 といったところか。Bだけ妙に広義だが。

「C家出少年ってのもアリかにゃ?」

 それが一番しっくりきた。

 ひと目見ただけだったけど、若い手だった気がする。

 最も馴染みのある、言うなれば自分の腕にも似た雰囲気を持つ・・・・・・・・・

 そこまで考えて、ようやくブレーキを引いた。

 気がする、程度じゃない。

 覚えのある手だったんだ。だからひと目でわかった。

 オレの好きな手、だった。

 

 

 

「C番・・・・・・?いやB番かな?」

 確認に戻ってきて、ちょっと悩む。

 もちろん死体ではなかったし、人形でも浮浪者でもない。

 残る2つの内、家出するほど悲愴な感じはしないし、だいたいそんな奴じゃない。

 そう、知り合いだ。

 ・・・・・・・・・と思う。多分。

 クラスメイトでクラブメイトに対して多分ってのは何だよって感じだけど、だって考えてみれば寝顔見たことなかったし。

 授業中はもっての外、休み時間であっても居眠りなんてしないし、臨海学校ではオレが枕投げして疲れて真っ先に寝てたから覚えてない。

 そんな隙のない奴が隙だらけで寝てても確信持てなくても仕方ないって。

 唯一、いつもこの腕でどうしてあんな、と魔法を見てるような気分にさせてくれる腕だけが自信を持って彼だと言える箇所というのがまた妙だ。

 投げ出されたそれを軽く突付いてみても、ピクリとも動かない。

こんなとこでなーに熟睡してんだか。

 寝てるだけなのは呼吸のたび上下する胸で分かりきっている事だけど。

 

「不二、だよなぁ・・・・・・?」

 ポツリと呟くと、名前に反応したのか小さくいらえが返った。

「・・・・・・・・・菊丸・・・?」

 名を呼ばれたんだからもう間違いないと思うけど、掠れ気味の声もトロンとした目も覚えのないものだったから、

「不二、だよね?」

 もう一度言ってみると、不二は2、3度瞬きをしてからニッコリと笑った。

「何だと思って見てたのさ?」

 それを見てやっと、ああ不二だとホッとした。

「死体だったらどうしようかと思った。今日居なかったし」

 ニッと笑って言うと、不二の笑顔がちょっとだけ凍った。

「今・・・・・・何時?」

「聞かないでも暗くなってんのわかるっしょ。

 一時から寝てたの?あ、開始が一時だったんだからもっとか」

 荷物が植え込みにはなく、少し離れた草の上に置いてあるところからして相当長い時間寝てたんだろうなぁ。

「うわ、今日はもう眠れないな」

「サボりについては?」

「考えたくない。このまま不貞寝したいくらい」

 応えて、本当にそのままころんと向こうに寝返り打ってしまった不二に思わず吹き出す。

「おーい、逃避すなー」

「放っといてよ。自分でも呆れて放置しときたいくらいなんだから」

 ちょっと、変わった言い方をするなと思う。自分のことじゃないみたいに。

「家族心配してんじゃない?」

「今日は家に僕一人。しばらく捨て置いていいの」

「あ、じゃあ立候補」

「・・・・・・・・・何の」

 ハーイ、手を挙げて言うと、不二が顔だけこっちを向いた。

「所有者がいらないって言ってんなら、拾った人がお持ち帰りしてもOKだろー?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「ダイジョーブ、拾った責任持って大事に扱うから。返してって言われたら返すし」

「持ち帰ってどうするの」

 殆ど物扱いには何も言ってこないあたり、さっきの印象は間違ってない。

 そもそも、殆どにおいてソツのない不二にしてはありえない寝過ごしなんていう失点は、相当沈む事なんだろう。

多分、見た目よりずっと。

「んーと、とりあえず人生ゲームでも誘おっかなーって」

「どっから出たかなその発想」

「春だから」

「意味わかんない」

 呆れたような口調の不二だけど、少し興味持ったらしいのはまた寝返りをうったことでわかる。

 こっち向いたし。

「人生の節目じゃん。昨日兄ちゃんとやってたんだけど、姉ちゃん付き合ってくんねーし、二人じゃ盛り上がんなくって」

「ああ、そういう前提があるわけか」

「ん。ヤならいーケド、どーせなら一緒にバカやんない?」

 んー、不二がどっちとも取れるような声を出す。

「僕やった事ないけど、楽しめるかな?」

「ゼッタイ面白い!」

 力を込めて宣言すれば、不二はプッと小さく笑って

「乗った」

「そーこなくっちゃ!」

 気が変わらない内に、と不二の荷物を拾って自転車の荷台に放り込んだ。

 

 

 

 

 追記・ビギナーズラックなのか何なのか、人生ゲームは不二がボロ勝ちしまくった事を記しておく。楽しかったからいーけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side-F

 

 

 

 

タイトルは笠原弘子のアルバムより。

BLモノだったら、この会話でお持ち帰りされたらイタダカレても文句は言えないなと思いつつ、友達ですからとしつこい位に言っておく。だって春だから人生ゲーム、は友人が実際言ってたことだし。

仮称「お天気シリーズ」の番外その1です。どうもうちの36は三年通して同じクラスらしい、とご都合主義。

不二が「菊丸」と言っている時点で察して欲しい、うちの36馴れ初め編その1。その2は不二視点。時期的に1年と2年の間の春休みくらいなつもり。説明文はそのうち改定時に付け足す予定。

日本にもシェスタがあればいいのにー。・・・・・・あとの予定がキツキツになるだけかもしれんが。そもそも夜まで寝てたらシェスタじゃないだろう。私は時々やるが。