「コートチェンジ!」

 現在、3−1で六角優勢

 

 

「どう見る?」

 いつも解説役の乾は、普段なら相槌役の不二が今コートの中だからか、今日は大石に問いかけた。

「英二次第だろうな」

 佐伯が菊丸をマークしていて、いつもの動きが見れない。

 不二が善戦してはいるが、このままでは敗色濃厚。

 今も、負い目からか菊丸は不二と目を合わせないでいる。悪循環だ。

「まずいな」

「そうだな」

 

「・・・・・・・・・の、割には声に深刻さが無いッスね先輩方?」

 余裕すら感じますけど?と越前が割って入る。

「ああ、そろそろ不二が何かすると思ってな」

「出る頃合いだな、不二マジック」

「・・・・・・・・・まーだ何か隠し持ってるんスかあの人は?」

 あれで打ち止めと思っていたわけではないけど、この状況から起死回生を信じさせるような技がまだあるというのか。

 だけども、これはシングルスではない。一体どんな技が見えればペアの士気を上げられるというのだろう?越前は首を傾げる。

「まあ、見守ろうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視線を戻せば、確かに不二がドリンクを飲んでいる菊丸に近付くのが見えた。

「英二」

「不・・・・・・・・・」

 菊丸が応えるよりも早く、不二の腕が風を切った。

 

 パァン!

 

 乾いた音が響き渡った。

 

「いっ!?」

「なっ!」

 ギャラリーからも驚きの声が上がる。

「あれって・・・・・・・・・」

「ああ・・・・・・・」

「ね・・・・・・・・・」

 

「猫だまし・・・・・・・・・?」

 

 

 そう、鳴ったのは不二の両手であり、目前でソレをやられた菊丸は、まさしく猫のように見事に固まっている。

「・・・・・・・・・へ?え?何・・・・・・」

 疑問の声を発するのを遮るかのように、不二は一歩下がり、音がしそうな程の勢いで菊丸の鼻先に指を突きつけた。

「え?え?え?」

 ますます混乱する菊丸を指差したまま、今度は横に一歩。

 そして、指をその形のまま平行に移し―――――止まった先に六角の二人。

 

「勝つよ」

 呼びかけではない、それは静かな宣告。

 呆けたように黙る菊丸の背を、軽く握った拳でポンポンと二度叩く。

 ポン、今度は離さず、触れたまま―――――

 

「勝つよ、エージ」

 

 声が、染み渡る。

 糸を引かれたように菊丸が頷いた。

 

「・・・・・・・・・うん」

 それを確認すると、不二はフワリと楽しそうに笑い――――――3度目

 

「勝とう!」

「おう!!」

 今度は間違いの無い呼びかけに、菊丸は力強く応えた。

 

 

 

 

 

 

 

「お、復活したな」

「出たな、不二マジック」

 楽しそうに言う二人の先輩と対称に、越前は目を瞬かせる。

「今のって・・・・・・・・・催眠術・・・・・・?」

「の、初歩だな」

 視覚と聴覚で思考を停止させ、指により1つの物に集中、目的を明確にしたのだと、乾が解説してくれる。

「芸の多い人・・・・・・・・・」

「本当にな、毎回手を変え品を変え、どこで覚えてくるのやら」

「って毎回違うんスか!?」

「ああ。英二は大石以外と組ませると好調不調の波が激しいからな。不二は毎回何かしらの手段で集中させてやっているな」

「前回は呼吸法だったな」

「初めてあの二人が組んだ時なんか、手品を披露していたしなぁ」

「ああ、それでマジック・・・・・・」

「それ以降その名が定着したからな」

 納得していいものかどうなのやら。

 

「何者ですかあの人は」

 思わずもれた呟きには

 

「「不二だろう」」

 

 声をそろえて言われてしまった。

 

 

 

 

 フェンスの向こうでは菊丸が1ゲームもぎ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、これくらいやってくれないかなぁと、菊丸の前半あまりの役立たずっぷりを見て期待していたのに、

あっさり何事もなく進化してくれやがりましたねあの猫は。

もうちょい何か無いんかお前ら。もう「36はクラスが同じな分、少しだけ仲良しだけどそれだけ」説、

再提唱するぞこの野郎。とか思ったんです。手叩くのは微笑ましかったですけど。

 

ところでこの文章読んでて不二が菊丸を平手打ちしたと思った人、いますか?

六角のダビバネコンビが両手ビンタやってたので騙された人もいるんじゃないかなーとワクワク。

 

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