窓辺に佇む白い鳥

 動かないのは疲れたからか

 

 身じろぎひとつしないのは

 翼休めるだけですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「あり?」

 窓の方を見て、菊丸は声をあげた。

「なに?英二」

 不二の部屋の出窓には、不二の育てるサボテン。

それからグラスと紙、それから横にちょこんと座るガラスのクマ。

 何かと聞いたのは初めの一回だけ、もう半年以上も前のこと。

 意味の伝わる返事はなかったけど、とても大事なものだとは伝わったから。

 

「なんか、増えてる?」

 違和感を感じたのはそのさらに横。隅のほうに立てかけられた折鶴達。

 それが前見たときよりも多くなっているような気がした。

「ああ、うん」

 ベットから降りてくる気配。

「だんだん汚れてしまうから」

 言って、不二はグラスの下に敷かれていた、少しだけ日に焼けた紙を引き抜いた。

 

 角と角を合わせて、爪で折り目をつける。紙は三角になった。

 もう一度畳んで、一回り小さな三角。

 不二の細い指が紙を操る様は淀みなく、どこか現実感に欠けていた。

 

「できた」

 また一羽、彼のてのひらから生まれた鶴が窓際に加わった。

 

 引き出しから新しい紙を取り出して、グラスの下に敷く。

 ぼんやりそれを眺めながら、あれもそのうち飛ばない鳥になるんだろうなとふと思った。

 

「オレも」

「え?」

 手を出すが、不二は解らなかったらしく目を瞬かせた。

「折りたい」

「ああ」

 納得して、新しい紙を渡してくれる。

「何を?」

「おんなじ。ツルだよ」

「ふぅん?」

 小首を傾げつつ、覗き込んでくる不二はそのままに、手を進める。

「そこ、違わない?」

「いーの」

 

 程なくして、几帳面な彼のよりもやや不恰好な鶴が出来上がる。

「でーきた」

 多少不恰好なのは仕方ない。そうなってしまうものなんだから。

頭と尾の部分をつんつんと突付くと、翼部分が上下する。

「折り鶴、羽ばたきバージョン」

「わぁ」

 嬉しそうに不二が手を叩いてくれる。

「教えて」

「いーよ、一緒に作ろ」

 

 

 

 二人して、黙々と折る。

 紙の擦れる音だけがしばし部屋を満たす。

 

 紙の鳥が増えていく。

 

「鳥が、関係あんの?」

「ん?」

「気にしてるっしょ。羽音するたんびに空見てる」

「そうだった?」

「だった」

「そっか・・・・・・・・・」

 紙の音が妙に響く。

 

「飛びたいの?」

「・・・・・・・・違うよ。でも、空飛ぶ夢を見れなくなったのは寂しいかも」

「ふーん?」

「見れなくなったのはいつからだろう。近頃は水の夢ばかり見るんだ」

「水、ねぇ」

「夢診断だと、どっちも欲求不満になるみたいだけど」

「うわ、夢がねー」

「夢なのにね」

 笑う不二はキレイだけど。

 飛びたいのではなく(うん、そう言うからにはきっと嘘ではない)、でも夢は見たいという望みは何を意味しているんだろう。

 

 

 ひたすらに、ただ鶴だけが増えてゆく。

 

 

 

 いっそ千羽になればいいのに。

 願い事が、叶えばいいねと。

 菊丸は手の上の翼をつついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 増え続ける紙の鳥

 たとえ何羽になろうとも

 どんなに空を見上げても

 白い翼は羽ばたかず

 部屋の片隅置かれるばかり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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唐突に入れてみました菊丸視点。

・・・・・・いや、夢を見たので。36の。ネタとして凪の1と4としてお目見えを。

最初と最後の詩もどきが気に食わないので後に直すかも。特に最初。

折り紙とか上手い人のを見てると不思議な気持ちになれます。だってただの一枚の紙がいろんな物になるんですよ?←外国人か私は。

 私は中学以降折ってないのできっともう忘れてるだろうから余計に。日本の愛すべき文化。

 

2は越前です。3が不二で4がまた菊丸。