空飛ぶ夢をみるかと

 いつだったか彼は聞いた

 

 ああでも君には必要ないねと彼が笑う

 夢であることはないのだからと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 退屈な教師の話に眠気を覚えて外を見る。

 花も葉も無い、ただ茶一色の木々は寒々しい印象を与えてくるばかりで、越前としてはますます眠くなるばかりだ。意識と共に下がる目線をするにまかせていると、

 

 

 あ

 

 枝の向こうに動くものを認める。

 ああそっか、三年はもう帰りか。

 

 同時に終わる訳ではないらしく、バラバラと疎らな人影が見える。

 

 

 ・・・・・・・・・先輩

 

 知人というのは目に止まりやすく、その上色素の薄い不二はその気が無くとも見つけ易い。

 かといって浮いているというのとも違うのが不思議なところ。

 彼はどこか、周囲に溶け込むような透明さがある。

 何とはなしに眺めていると、不意に彼が顔を上げた。

 

 目が、合った。

 

 一瞬だけど多分………いや絶対。

 あの人がオレを見ないはずないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 三学期が始まってもう一月、結局あれから一度も会っていない。

 だけど、彼はいつもオレを想っているから、

 あの局面で見ないはずが無い。

 

 

視線の先では彼が人懐こい彼のクラスメイトに抱きつかれているところ。

あれももう見慣れた光景だが。

 それでも、これからも続くというわけじゃない。

 

 

 のんびりしている暇は無い。

 あの人はもうすぐ卒業生。

 時間がくれば強制終了。

 問題は、オレの答えが出ていない事。

 

 

 考える時間が要ったのはオレの方。

 

 

 

 

 

 

(僕を、好きになるな)

 あの声が、消えない。

 

 

 無条件に与えられるものに興味は沸かなかった。

 何の未練も無かったはずなのに、

 失くすのを惜しく感じる自分がいる。

 

 チッ、無意識に舌打ちした自分に気付き、ますます腹立たしくなる。

 

 

 

 本当は、彼の見ている自分が偶像なんかじゃないって知っている。

 だから、オレがどうなろうとあの人はオレが好きだときっと心では信じてた。

 だけど、

 

 だって、どうすればよかった?

 求めればかき消えるだろうって、多分オレは知ってた。

 知っていて、それで一体何ができた?

 

 

 

 

 手の下でくしゃりとルーズリーフが皺を作った。

 広げる気にもならずに手の中で弄ぶ。

 なんとはなしに折りたたむと、ふと先日の布地を連想させた。

 

(洗って返すから)

 

 与えたハンカチを握って、汚していいかと言われた時、だから油断した。

 だけどもそれは、直接私に来るという意味ではなかった事を、ある朝机上に小さなメモとともに置かれたそれを見て知った。

 

 格好の、理由だったのに。

 

 

 

 

 雨を歩こう虹を見よう月が欠けるよ雪が降ったね風の強さを感じよう

 

 結局のところ、彼はいつでも理由を用意していた。

 会いたかったとは言った。いつも会いたいと。

 だけども、

会いたかったから来たと、それだけのために来たとは、一度たりとも言った事がない。

 

 

 借りたものを返すと、理由付けとしてうってつけの物があったのに。

 だからこれは、もう会いに来る気がないという意味だろう。

 それを、果たしてどう受け止めようか。

 

 考えなければならないのはオレの方。

 

 

 

 

 

 

 

 窓の外には桜の木。

 日本の春を代表するそれも、今は他と変わらぬただの枝。

 それでも、よく見れば人を魅せるための蕾を用意している。

 

 ・・・・・・・・・まだ、早い。

 

 

 夏の、雨を見た。虹を見た

 秋の月を、雷を。

 冬の雪の下、一緒に過ごした。

 

 

 まだ、結論を出すには早いよ、先輩。

 

 

 春を見よう?

 それからでも遅くはないから。

 

 

 

 

 

 

 

 手持ち無沙汰だった掌にはいつの間にか紙製の飛行機。

 他には何もできないけれど、簡単だからと手に残る昔の記憶。

 

 そっと、窓の隙間から送り出す。

 

 届くかもしれない、届かないかもしれない。

 届いたところで何も書いてやしないけれど。

 

 

 

 

 

 白い翼が模すのは人造物よりも一羽の鳥を思い起こさせる。

 あの日、彼が示した鳥が何を意味していたかは知らない。

 だけどもそれはどこかの宗教であるには間違いなく、だとすれば拘りたがった彼は、その中に何を見たのか。

 何故、『越前リョーマ』という信仰を求めたのか。

 

 

 

 ――――――人が、天の国を望むのは何故だったろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風も無く、その方向に一直線に向かうかと思われた白い紙は、

 どうしてか一度旋回し、高くあさってな方角へと飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、空飛ぶ夢をみない

 

 

 

 

 

 

 

 

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結論が「保留!」の越前ってどうだろう・・・・・・?問題あるかも。

しかし結論がどうあれ、やっと攻がその気になってくれたのでちょっと安心です。越前は強いのでこうなれば後の展開は早いです。何せ当初の予定では次に彼が登場する曇で最終回の筈だったくらいですから。←早すぎ

この話は去年から殆どできてたんですけど、どうにも気に喰わなくて。

まだ気に喰わないので後にこっそり改定してるかもです。

すべての解答は曇で出るので、この話自体が前ふりの塊みたいになってしまうんですよね。

 

↑で言ってる通り、案の定書き直しました。まだ書き直したい・・・・・・。

 

次は不二視点。場面はこれと同じです。そのころの不二という感じで。