一日、一月、一年・・・。

時間は止まることなく未来へと進み続けている。

その永遠とも言える時の中で、『ヒト』は生まれ、そして死ぬ。

何千、何万、何億と言う月日を経て、ヒトは今の姿を形成した。


この星に生きる『ヒト』は、二つに分けられている。

ガラの人間とラキの人間、その二種類である。

ガラとラキ、その両極に別れた大陸に生きる人間を特徴付ける物。

それは瞳の色である。

赤く輝く瞳はガラの人間。

青く輝く瞳はラキの人間。

それ以外に例外は無く、それだけであると信じられてきた。


しかし・・・。


大きな憎しみと悲しみを残した、ガラとラキの大陸間戦争。

その終結と共に、徐々にではあるが両大陸への行き来が盛んになった。

それまで憧れるだけの存在であった互いの大陸には、その地でしか見られない物がある。

数少ない商人を通してしか手に入らなかった物が、自分で手に入れられる。

そして、『太陽と日光』『月と闇』の存在を知る事が出来たのだ。


時間の経過は、更なる未来を作り出した。

大陸間の行き来が盛んになれば、それだけ出会いも生まれる。

ガラの人間と、ラキの人間の間に恋が芽生え、そして愛が生まれた。

その愛の形の結晶として生まれた物。

それは新たな歴史を作る、かけがえの無い存在のはずだった。

だが。

ガラとラキの人間の間に生まれた赤子。

その赤子は、奇妙な物を持って生まれてくる。


『紫色の瞳』


ガラの赤、ラキの青が混ざり合って出来た結果だろうか?

今まで見た事の無い色のその瞳は、優しく、美しく、そして、不思議な光を灯していた。

紫の瞳を持った赤子は、他に変わった所も無く順調に育っていった。

その姿、その紫の瞳は、新たな平和の象徴であると誰もが疑わなかった。

そう、その力を見るまでは・・・。


周りの人間と違う部分を持った、その新たな『ヒト』。

誰もがその姿を簡単に受け入れたわけではない。

大人は特に気にする事が無かった。

瞳の色が違う事ぐらいでは、特に騒ぎもしなかった。

だが、幼い子供は違う。

まだ善悪の区別がつかない少年少女達は、幼い子供の心に侵入した。


いじめ、いたずら、仲間はずれ・・・。

自分達とは違う存在を、からかいの対象にしていった。


人類の更なる未来を担う存在として生まれた、新しいヒト。

ガラとラキの人間の愛の結晶として生まれた、新しきヒト。

誰しもが疑わなかった新しい歴史は・・・壊れた。


心を傷付けられたそれらの子供は、溜め続けた不満や恐怖、恨み、憎しみを爆発させる。

爪は長く伸び、歯は鋭く獣の牙のように変わっていった。

そして、その年齢では信じられないほどの身体能力を開花させ、強靭な腕力、脚力で目に止まる全ての人間を殺し続けた。


紫の瞳は平和な時代への期待ではなかったのか?


人々はその事件から、疑問を持つようになった。

だがそれは、更なる悲劇の連鎖を生む。

人は結果だけを重視し、その過程にはあまり目を向けない。

突然の暴走行為をしたその幼い子達が、なぜその行動を起こしたのかに気が付いていなかった。

噂は止めどなく世界中に溢れていく。

紫の瞳を持った子は、実は危険な存在であると。

子供の中だけではなく、大人にも危険視された新しきヒト達は、再び暴走行為を行った・・・。


紫の瞳を持った新しき『ヒト』には、もう一つ別のタイプの赤子が生まれていた。

前述の、感情の暴走によって引き出される力を持ったタイプとは別。

それらの子は、生まれながらにして人間として必要な要素の内、何か一つが欠落していた。


視力や聴力といった、人間の五感。

体の一部分の筋力の不足。


そういった物を代表に、なにかしらを生まれ持ってこなかった。

だが、それ以上に大きかったのは、それらのヒトが人間の機能の一部と引き換えに持ってきた新たな力。


第六感的な力を開花させた能力と呼べる物。

超常現象と言い表す事の出来る物。


普通の『ヒト』には持ち得ない様々な力を持って生まれてきていたのだ。

これらの『ヒト』は、青か赤のどちらかの瞳を持って生まれていた。

紫の瞳を持って生まれてこなかった我が子に疑問を持つ親もいたが、成長すると子の持つ瞳の色と同じ両親側に似ていった。

その成長過程で、その子らは自分が不思議な力を持っていることに気が付く。

また、その力を使う時だけ瞳の色が紫へと変化している事実にも気が付いた。

他人には教えず自分だけの秘密にしている人間もいた。

が、多くの人間はそれを他人に見せてしまった。

商売にその力を使う人間もいたが、その力の多くがヒトを傷つける能力に長けていた為、周りから恐れられた。


結果的に、紫の瞳を持つ『ヒト』は恐怖の存在へと変わって行った。

怪物のような姿を持ったヒトと、奇妙な力を持ったヒト。

新しき時代への希望はどこに行ったのか?

人々は忘れていた。

過去の大戦で、ラキの民を救ったマリアヴェールの瞳の色が『紫』であった事。

今この時代に現れた、『紫』の瞳を持つヒトの力との関連性。

誰かがこうつぶやいた。




「紫の瞳を持つ者、それはすなわち『暴走する者(イレギュラー)』だ」と。




かくして、世界はその過ちを認めようとせず、狂った未来へと歩みだしていったのだった・・・。