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伊佐間の続き

なぜに依願下僕かというとですね、
狂骨の記述です。
エンジニアになりたかったけれど挫折した伊佐間。

「社会に不適合な自分の性格は真実正さねばならぬものかと伊佐間は伊佐間なりに煩悶したものである。
 戦後になってその煩悶は吹っ切れた。…… 尤も軍隊生活や暗い時代それ自体が、伊佐間にとって大きく意味を持ったと云う訳ではない……
伊佐間が影響を受けたとするなら、その対象は戦争によってもたらされたひとつの出会いと、ひとつの体験にこそ集約できるだろう」

体験のほうは、臨死体験です。
そして出会いというのが榎さんとの出会いなわけで。

でも、特にそれで感化されたとか、憧れたとか書いてあるわけじゃないんですね。

「その困った男と出会ったお陰で、伊佐間もまた困った道を歩む羽目になったと、そう考えるのは若干なりとも真実である」

まるで伊佐間が釣り堀屋の親爺になたのは榎さんのせいとでも言いたげである(笑)。
べつに伊佐間は改まって榎さんに何か相談したわけはないだろうし、
榎さんが何か口を出したわけでもないだろうけど
それでも臨死体験と同じぐらいのインパクトを持って伊佐間の人生に影響を与えた訳ですよ、榎さんが(笑)。

戦争という異常な空間の中で、殴られて当然の部下の返答に5分間も笑い続けたという榎さんに出会っちゃったわけですね。

益田もまた、伊佐間ほど社会の仕組み全体でなくても、警察機構の仕組みに馴染まないものを感じていたわけですよね。
そして下界から離れた山の中、寺、僧侶の連続殺人、今までの常識が通用しない異常な空間の中で、探偵に出会ってしまったわけです。

そして伊佐間は、自分の性格を直してまで社会に馴染むことをやめ、
益田は警察を辞め、探偵事務所に転がり込んでしまったわけです。

でも2人とも、探偵のことを困った人間だと思ってるわけです(笑)。

同じ下僕でも、マチコ庵はそこまでの影響を受けてはいないように見受けられるし
かといって河原崎や大磯の駐在さんのように無条件に心酔してしまってるわけでもない。
その辺伊佐間と益田は特徴的に似通ってるような気がしたんですよね。ふと。