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縊鬼の囀感想

これの前に読んだのが蜃だから若干甘めかもしれないけど、やっとミステリーとしてそれなりに面白く、登場人物のイメージも大きく乖離してない作品に巡り会えた。
ただ、若干総一郎さんへの思い入れが強すぎかな(笑)。
総一郎さんがやり手に実業家なのは間違いないから切れ者なんだろうけど、原作での榎さん口ぶりからすると、もう少し鷹揚なところもある感じがするんだけど。
あと、若干表現が軽すぎるところがある。
「引く」というのを今のようにドン引きという使われ方するような意味に使うのはわりと最近だと思うんだよね。もちろん元々その意味として使ってないというわけでもないんだろうけど、私の学生時代は仲間内で使ってた覚えがない。
「~かも」で終わる文とか、「○○呼び」という言い方、相手の言ったことを訂正するときの「○○な」という言い方。全部現代的で昭和10年代、20年代の匂いがしないんだよね。
でもその程度で、榎さんに何が見えているかという理解や、見たいときに都合よく見たい記憶が見えるわけじゃないという設定もきちんと踏まえられていて良かったと思う。
 あと、関くんたちがいた旧制高校、一高ということになってるけど、そうとは限らないんだよね。もしそうなら3人の中で帝大に行ってるのが榎さんだけらしいのが不自然なんだ。もちろん関くんは病気のために勉強がままならず、中禅寺は別の勉強のためにあえて帝大に行かずということもなくはないけど。でもそれだったら中禅寺は最初から一高に行かなくても良かったと思うのだけど。まあこの辺は原作の記述も曖昧なところがあってよく分からない。
 細かいところであれこれあるけれど、すでに残りの一冊も読んでしまっているので、薔薇十字叢書の中でこれが一番違和感は少なかったし、ミステリーとして読めた。