君の言葉 1 

 ジョージは店の表に張り紙を張ると、糊付けの魔法をかけて、小さな鞄一つを持って魔法省へ向かった。
 公衆電話のボックスに入り、所定の番号を押す。
 一時期はここからの入り口は閉鎖されていたが、今はまた昔のように、部外者も普通に魔法省に入っていける。
 むしろ昔より、その一時期の前の時代より、今のほうが外部に対して開放的になっている。なるべく多くの人の目に触れるようにすることによって、そして情報をできるだけ開示することによって、逆に闇の勢力がいつのまにか入り込んで魔法省を牛耳ってしまうことのないようにという、現魔法省大臣の方針だということだった。
 もっとも、ジョージが魔法省を訪れる時はほとんど商売絡みの用事だから、そんなことはどうでも良かった。
 さらに今回は商売上の用事ですらなかった。
 ボックスが下降して魔法省の入り口に着き、受け付けに向かう。
 受け付けにいた若い魔女は、何度かここで顔を合わせていてすでにそこそこ馴染みの顔だった。
「また真面目グッズの売り込み? それともお父様に御用事かしら?」
「どっちも外れ。最新型糞爆弾の威力を試させてもらってる隙に、魔法省の最高機密を盗み出すつもりなんだ」
「それならその鞄の中身を改めさせていただきますけれど」
 受け付けの魔女は笑いながらも杖をジョージの手にある鞄に向けた。
「嘘だよ。ちょっとハリー・ポッターに相談があってね。ちょうど昼休みだろ?」
「ええ。ではお呼び出ししましょうか?」
「いや、いいよ。あんまり大っぴらにしたくないんでね」
 軽口を叩きながら、一応杖の登録をして、それで入っていくことができる。もちろんハリーとは何の約束もしていないが、はっきり固有名詞を出してしまったほうがかって疑われないものだ。それに、ハリーがウィーズリー家の人間と親しいことは魔法省の人間なら知っている。
 昼休み、大勢の職員が行き来しているのに紛れ、エレベーターに乗る。幸いにして、地下6階で乗っていた人間は誰もいなくなり、ジョージは「9」のボタンを押した。
 神秘部。
 ためらいなくドアを開ける。
 円形の暗い部屋。蝋燭の青い光。黒い天井、黒い壁。ぐるりと周囲にある幾つもの扉。
 ロンやハーマイオニーたちから何度も話は聴いている。
 おそらく、どこのドアがどこに通じているかはランダムだろう。片っ端から行くしかない。
 ジョージは、入ってきた扉にまず目印を付けてから閉めた。部屋の壁がぐるぐると回った。
 壁が止まるとジョージは、かつてハリーがそうしたように、正面の扉に向かって進んだ。
 扉を開ける。
 その扉に印を付けてから迷わず開ける。
 中には、巨大な木が生えていた。床は地面で、そこにしっかり根を張っていて、ずっと上のほうに枝と緑の葉があったが、天井が見えなかった。
 部屋がどういう構造になっているのか分からなかったが、ジョージは中に入ることもせず、扉を閉めた。
 途端に壁がぐるぐると回って、止まった。
 新たに正面に来た扉にも印を付けて開ける。
   部屋の中央には大きな水槽があり、脳みそがちゃぷちゃぷと浮いている。
 何度もロンから聞かされたものだ。
 ジョージはそこもすぐに閉めた。
 扉を開け、中を確認して閉め、印を付ける。この動作を5回繰り返した後、ジョージはやっと、その部屋の中に足を踏み入れた。
 長方形のその部屋の中央には円形の窪みがあり、穴の中心に向かって階段が刻まれている。
 そしてその穴の中心に、ぼろぼろの石のアーチがあった。



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