君の言葉 4 


 光はまぶしくはなかったが白く輝いて、何も見えなかった。
 しかしその光に包まれていたのはほんの一瞬だった。ほんの2歩で、ジョージはアーチを通り抜けてしまった。文字通りそのアーチを物理的に通り抜ける間の時間しかかからなかったし、その間何も起こりはしなかった。
 拍子抜けしたジョージは、白い光が消えて、目の前に広がった光景にまた拍子抜けした。
 そこはただ静かな林の中だった。
 木々は豊かに緑の葉を繁らせていたが、それが何の木なのか、ジョージにはわからなかった。ホグワーツの森でも、こんな木は見たことがなかった。
 木が繁っている割には明るくはあったが、上から太陽の光が注いでいるというわけではなさそうだった。
 上を見上げても、空らしいものが見えるわけではない。かといってもちろん暗いわけではない。アーチの中のあの白い光が薄まって、全体に広がっているような感じがした。
 どこかに光源があるわけではない。その証拠に、木々には影というものがなかった。
 ぐるりと見渡してみると、幾つかの池が木々の間にあるのが見えた。
 そして遠くのほうには、高さ15インチほどの低い石垣が続いているのが見えた。
 足元には柔らかい黒い土に下草が生えていた。
 ジョージが振り返って見ると、唐突に、まるでこの場に似つかわしくなく、今通り抜けてきた石のアーチがそこに立っていた。その内側にはまだ白い光が満ちていて、向こう側は見えなかった。
 とりあえずあの石垣のところまで行って向こうを見てみようと決めて、ジョージはそっと足を踏み出した。
 静かだった。自分の足音以外なんの音もしない。
 風もない。といって空気が淀んでいるわけではない。むしろこんな清浄な空気は今までに経験がないぐらいだ。
 ただ、こんなに綺麗な場所なのに、生き物の気配がない。鳥も、リスも、虫も、それにボウトラックルも。
 それも当然か、と思い直す。ここが目的の場所であるなら。もっとも木や草も生き物には違いないわけで、もっと無味乾燥な、荒涼たる光景を覚悟していたジョージは少しほっとしていた。
 ほんの少し歩いたところで、唐突に、その人影は目に入った。
 まるでふいにそこに姿現ししたかのように。
 その人影は石垣の向こう側に立っていた。
 ジョージは息を呑んだ。
 こんな都合のいい話があるだろうか?
 自分は何か幻影を見ているのだろうか。それとも何かが自分をたぶらかしに来たのだろうか。
 頭の中で理性がそう訴える、その一方で、ジョージは確信していた。
 相手も目を見開いて、驚いた顔でこちらを見ている。
 きっと今自分も同じ表情をしている。
 ただ、きっと、少しばかり違う顔をしている。
 先に声を出したのは向こうだった。そして石垣を飛び越えて駆けてくる。
「ジョージ!」
 呼ばれてジョージも駆け出した。
「フレッド!」
 駆け寄って、そのまま互いの肩をしっかりと抱き合った。
 しっかりとその感触のあることも、フレッドの体温を感じられることも確認し、それを不思議だとは、もうジョージは感じていなかった。
「どうしてこんなとこにいるんだ」
「なんでここに来たんだ」
「どうやってここに来たんだ」
「ここにいて大丈夫なのか」
 矢継ぎ早に質問をぶつけ合って、それから互いに顔を見合わせて、二人して声をたてて笑った。
 ああ、久しぶりだ、とジョージは思った。    


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