君の言葉 6 

 なぜ、あの時、その場にいなかったんだろう。

 その後悔を、ジョージは何度繰り返したか数え切れない。
 なぜ、あの時別々に行動していたんだろう。
 昔からそうだったじゃないか。知っていたじゃないか。なぜだか自分たちは別々に行動しているとろくな結果にならない。
 自分が大けがした時だってそうだったじゃないか。
 わかっていたのに。
 せめて、なぜ、最期の時に自分がその場に居てやれなかったのだろう。
 なぜ自分ではなかったのだろう。ロンやパーシーだったのだろう。
 居たからと言ってどうにもならなかった。それはわかっている。
 もしかしたら二人とも死んでいただけのことだったかもしれない。
 何も変わらなかったかもしれない。
 そもそもフレッドは最後の言葉を遺す間もなかったというのだから。
 頭ではわかっている。理屈ではわかっている。でも納得はできない。
 悔しくて、諦めきれなくて、フレッドに対してまで腹を立てたりもした。
 だけど、歯ぎしりするほど悔しくても、死んだ人間が戻ってくることはない。
 


   最初のヒントはロンの話だった。
 ロンは、ハリーとハーマイオニーと共に経験したことを、あまりこと細かくは語らなかった。
 つらすぎて話したくないのか、人に話してはいけないことがあるのか、ただ単に本人の説明能力の不足なのかは知らないが。
 家族も無理に聞き出そうとはしなかったが、やはり最低限のことは両親がロンに問いただした。
 ジョージは口も出さず、ソファに寝そべってぼんやりと聞いていたが、とりあえず『吟遊詩人ビードルの物語』に収められている話は、ただの作り話ではなかったらしいということはわかった。その杖が、ヴォルデモートを倒したということらしい。
 ならば……。
 ジョージは、「蘇りの石」を探そうとは思わなかった。ただ、死者を呼び戻すのではなく、逆にこちらがあちら側に行くことが可能なのではないかという考えが、その後しばらくたってから頭に浮かんだのだ。
 その手の話は、魔法界にもマグルの世界にも、古今東西山ほど残っている。ビードルの物語が百パーセント本当のことでないにしても、もし、実際にあった何らかの事実を反映したものだとしたら、そのほかの幾多の物語の中にも、そういう部分があるのではないだろうか。
 馬鹿げた考えだとは思ったし、だからといって何をどうすればいいのか見当もつかなかったが、店の経営もすっかり軌道に乗り、すべてを自分がやらなくてもある程度スタッフに任せられるようになった1年ほど前から、ジョージはあれこれと調べ始めた。
 書物になっているものもいないものも含め、各地の伝承や歴史を調べた。調べるうちに、伝え聞いたシリウスの最期の状況が、もう一つの大きなヒントとなった。マグルの図書館やホグワーツにも足を運んだ。フリットウィックから呪文を教えてもらうことはできなかったが、図書室の禁書の棚に入り込むことぐらい造作もないことだった。
 行ける。そしてきっと戻ってこられる。
 そう確信したら、実行せずにはいられなかった。


「言い遺したかったことか……」
 フレッドは何か考え込むような表情を見せたが、それはほんの数瞬のことだった。
「べつにないな」
「ない?」
 ジョージは思わず眉間にしわを寄せた。
「俺は言いたいことを我慢したことなんてないからな。改めて特に何かってことはないよ」
 言われてみれば、そうかと思わなくもない。
「じゃあ、今、誰かに何か伝えたいことは?」
「そうだな……」
 フレッドはまた少し考え込んだ。
「やりたいことをやって、楽しく生きてほしいってことかな。誰かにってことじゃなくて、みんな」。
 フレッドの言葉を一文字も漏らさず記憶に刻みつけようと、ジョージは黙って耳を傾けた。
「何かのためだとか、義務とか使命感とか、そんな理屈はどうでもよくてさ、自分がただやりたいと思えることをやればいいじゃないか。だからおまえも……」
 フレッドはジョージの目を覗き込むように見た。
「無理にW.W.W.を続けることはない。店を閉じたって、全然違うことを始めたって構わないんだ。もちろん、W.W.W.のジョークグッズで世界を征服するのもいい。好きなようにやれよ。俺はそれだけを望んでる」。
 その時、アーチの光が急に大きくなったのが目の端に入った。







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