Another True History 1


   「わたし」は子供の頃から歴史に興味があった。というと少し語弊がある。子供のころは歴史そのものというより、昔話が好きだったのだ。
 ただ、昔話といっても、ロングロングアゴーで始まる作り話ではなくて、歴史に題材を採った、いわば歴史小説の類が好きだった。
 どこまでが事実でどこからが物語なのか、幼いわたしに区別はつかなかったしどうでもいいことだった。ただ、そういった物語にはただの空想にはない力があるような気がしたし、自分と同じ人間たちの息遣い感じられるような気がした。
 物語に登場する人たちと同じ空気を今の自分が吸っている。その時代から続く同じ地に自分も立っている。そんなふうに思うことは、本当にわくわくする時間だった。

 わたしは母がマグルで、父が魔法使いという混血なので、その手の話はマグルのものも魔法界のものも両方、子供の頃からなじむことができた。
 わたしはあまり外向的でなく、家で本を読んでいるのが好きな子だったが、両親ともに無理にわたしを外に出そうとはせず、 むしろ喜んで次々といろいろな本を与えてくれた。
 そしてお茶の時間などにわたしが読んだ本の感想を話したりすると、その機会を通して、両親はそれぞれの世界のことを話してくれた。
 そんなわたしのお気に入りの物語の一つが、魔法界に伝わる『ハリー・ポッターの七つの物語』だった。
 これはこういうタイトルの1冊の本ではなく、文字通り七つに分かれている物語がまとめてこう呼び慣わされている。かれこれ150年ほど前に書かれた物語だ。
 わたしは10歳のときに初めてこの物語を読み、すぐに夢中になった。ハリー・ポッターの経験することにはらはらどきどきし、その周辺の魅力的な人々の行動に笑ったり泣いたりして、何度も何度も繰り返し読んだ。
 そして、もしヴォルデモートが倒されなかったら、混血である自分は今ごろどうなっていただろう、 などと考えたりもした。

 そして11歳を過ぎた夏、わたしにもホグワーツからの入学許可が届いた。
自分に学校の級友たちとは違う力があるのは分かっていたけれど、自分ながらそれはあまり強いものではないと感じていたので、ホグワーツに入れるかどうか心配だった。それならそれでマグルとして生きていくことにも抵抗はなかったので構わなかったが、やはり入れるとなると嬉しいものだった。
 それからまもなく、入学準備のため、父が初めてダイアゴンに連れていってくれた。マグルの学校に通っていたわたしは、これだけ魔法使いだらけの場所に来たのは生まれて初めてのことだった。
 けれど、初めて本当の魔法使いの世界に足を踏み入れた喜びよりも、わたしにとっては、ハリー・ポッターの物語が御伽噺ではなく、本当にあったことなのだと実感して興奮を押さえきれない1日だった。
 ハリーと同じように店を巡る。 グリンゴッツでは父だけがゴブリンと共に入っていき、トロッコには乗れなかったが、ホールで待っている間、ハリーとロンとハーマイオニーがドラゴンに乗って飛び出してくる様を想像しながら、あちこちと見回していたので全然飽きなかった。
 マダム・マルキンの店はまだあった。何代目かのマダム・マルキンという人が経営しているそうだ。
 オリバンダーの店は残念ながらすでに存在しなかった。彼の製作した杖というものはまだ残っていて、骨董的価値があるらしい。もちろん我が家でそんなものは買えないので、ほかの店で普通の杖を買った。
 フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店はもっと古色蒼然たる本屋を想像していたが、さすがに老朽化が進み最近改装したそうで、案外すっきりしていて拍子抜けした。
 そして、わたしは上目遣いに父の顔色をうかがって、W.W.W.もまだあるのかと聞いてみた。父は笑って、人に悪さをするものでなければ買ってもいいよ、と言って連れていってくれた。
 W.W.W.に着いたとき、そこが本当に93番地であることを確認して、ほとんどそれだけで満足してしまった。
 店は思ったより大きなところで、自分と同じほどの子供たちや、もっと大きなお兄さんお姉さんたちが大勢いた。
 わたしは商品を見るよりも、そこに赤毛の人物がいないかと思ってきょろきょろ見回したが、数人の店員さんは雇われている人たちらしく、それらしき人は見当たらなかった。
 ちなみに、店員は今でも本当にマゼンタのローブを着ているので、すぐに見分けがつく。

 そして9月1日、わたしは母とキングズクロス駅の普通のホームで分かれ、父に付き添われて9と3/4番線に入った。
 驚いたことに、ホグワーツ特急は、マグルが宇宙ステーションに行って帰ってくるというこの時代に、いまだに蒸気機関車だった。わたしは蒸気機関車に乗ったことがなかったので、それ自体がもう楽しみでしょうがなかった。
 列車に乗り込むと、まず空いているコンパートメントを探した。まるまる空席になっているコンパートメンがなかなかなく、幾つめかのコンパートメントを覗いたとき、ある鮮やかな色彩が目に飛び込んできて、わたしは足と共に息までとまりかけた。
 燃えるような赤毛、そばかすいっぱいの顔をした男の子、の双子!
 1人は立って網棚に荷物を上げているようだった。もう1人はかがんで、トランクから何か出すかしまうかしている最中らしい。
 ぽかんと見つめているわたしに、立っているほうの子が向かい側の席をあごでしゃくるようにして、
「どうぞ。空いてるよ」
と言った。そういうつもりではなかったのだが、断るのもなんなので、わたしはそこに自分の席を確保した。
 それからすぐにまたホームの父のところに戻った。父から、休み中に何度も聞かされた注意事項を最後にまた繰り返され、励まされ、力づけられて、ついにわたしもホグワーツに向けて出発した。





目次に戻る  続きへ