Another True History 4


  2人は、オランダのサポーターのテントが集まっているところを、1軒1軒訪ねて回ったそうだ。
 どんな世界にも生き字引みたいな人はいるもので、クリスティアン・ディゴリーが所属するクィディッチチームの熱狂的なファンがすぐ見つかったそうだ。
「その人は選手の個人情報も異様に詳しくてね」
「クリスティアンがいるチームと、帰化したご先祖様がいたチームは違ったらしいんだけど」
「それでも選手のバックグラウンドについてはよく知ってたよ。シーカーのご先祖が来たのはやっぱり150年ぐらい前らしい」
「シーカーは1人しか出られないし、優秀な選手がいたら試合ごとに交代っていうこともまずない」
「だけどちょうど、あるオランダのチームでいいシーカーを獲得できないでいたときに」
「ホグワーツ出身の選手に目を付けて誘ったらしい」
「学校卒業してすぐ1軍で出られるなんて滅多にないからね」
「多分ディゴリーはすぐ応じたんだろうな」
「なぜ外国の選手に、それも在学中に目を付けたのかは不明だけど」
「三校対抗試合に注目してたとすれば筋が通る」
「念のためにほかのチームのサポーターにも当たってみたんだけどね」
「そのころ、イギリスからシーカーを引っ張ってきたなんて例は見つからなかった」
「その帰化したディゴリーさんのファーストネームは分からないの?」
 わたしはそう聞いてみたが、残念だがその人は覚えてはいないということだった。ただ、オランダに帰って調べれば分かると言っていたそうだ。
 それが本当に、ハリー・ポッターと三校対抗試合を闘い、最後にヴォルデモートに殺されてしまった、いや、しまったと書かれているセドリック・ディゴリーのことなのかどうか、はっきりと言いきることはできない。
 でも、オランダに行って、チームの古い資料を探せば分かるだろう。わたしはいつか大人になったらきっと行こうと決めた。
「もちろん、状況証拠しかないけどね」
「もしセドリック・ディゴリーが生きていて、卒業後すぐオランダに渡ったとするなら納得はいくよ」
「納得? 何に?」
「だって、あの話の中で自慢の息子を殺された親父さんがさ、その後全然行方不明じゃん」
 そう言われれば、そうだ。
「話によればハリー・ポッターはヴォルデモートが復活したと、すぐにダンブルドアに話したわけだろ?」
「だったら、もしセドリック・ディゴリーが死んでたら、その理由はダンブルドアから家族に知らされたはずだ」
「それを疑ったとは考えにくいね」
「なのに、その後何もせずに、魔法省の中で保身にきゅうきゅうとしてたわけかな」
「だったら息子に似合わぬ腰抜けだと思うんだよね」
 それは多分逆で、息子が父親に似合わず人格者だったということになるのだろう。
「それだけじゃない。あの七つの物語の5番目、君も読んだだろう? 覚えてる?」
もちろんだ。
「あそこで、ハリー・ポッターがみんなの不審を買うくだりがある。『日刊予言者新聞』のネガティブキャンペーンのせいでね」
「ハリーの話をみんな信じなくなってる。“例のあの人”が復活したなんてのは嘘だと思われる」
「けど、だとしたら、じゃあセドリック・ディゴリーはなぜ死んだんだ?」
「もし、セドリック・ディゴリーが本当に死んでいたとして」
「ハリー・ポッターの証言が嘘だとしたら」
「「誰がセドリックを殺したのか」」
 確かに……。
「もし、あの話に出てくる三校対抗試合の様子が真実だとしたらだよ」
「ハリーの話が嘘なら、犯人として一番怪しいのはハリー・ポッターその人じゃないか」
「だけど、そんな疑いがあったとまでは書かれてない。」
「実際、少なくともその当時のハリーにアバダ・ケダブラが使えたとは思えないしね」
「かといって、真犯人捜しが行われた形跡もない。ものすごく中途半端で不自然だ」
「息子の死の真相を隠蔽され、それどころかまるでセドリックの死がなかったかのような扱いで」
「「それでも両親は黙ってたのかな?」」
 鳥肌が立った。
 実際、死んだとされていた人が生きていて、いわばその生きた証拠が目の前にいてしゃべっているわけだから、それはものすごい説得力があった。
 なら、やっぱりセドリック・ディゴリーは……。
「ま、はっきり言って僕らクィディッチと関係ないことには興味ないしね」
「近所にオランダ人もいないからそれ以上追究はしなかったんだけど」
 なんてもったいない。知り合ったオランダ人の住所でも聞いておけばよかったのに。
 残念ながらそれも彼らはしていなかった。

 とりあえず双子の話をまとめてメモしたわたしに、双子はさらに次のような話を付け加えた。
「ついでに言うと、デラクール家にヴィーラの血が入ってるっていうのも僕らは疑ってるんだ」
「なんで?」
「だって、デラクール家の人たちは今でもみんな美男美女なんだ」
「何代も前にヴィーラが1人いたくらいでそうはならないだろ」
「ヴィーラの本当の姿なんて化け物だしね」
 なるほど。わたしはついでにそれもメモしてから、メモ帳をポケットにしまったのだった。





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