Another True History 6
3年生になる前の夏休み、わたしはすっかり親しくなったウィーズリー兄弟に招かれて、彼らの家に遊びに行った。わたしのほかにもジェームズの友達も来たり、ご両親の知人が来たり、来客が多いのは血筋なんだろうか。かの物語の中でも、アーサー・ウィーズリー宅のみばかりでなく、ビル・ウィーズリーの家も千客万来であったような記憶である。 しかし、「隠れ穴」と違って(と言っても実物を見たことなどなかったわけだが)エドとデイブの家はそこそこの広さのある家だったので、客室に不自由はないようだった。それなりに裕福なのだろうが、無駄に広くなく、家の外側の装飾も、中の家具調度も、きらびやかな豪華さには欠けていて、むしろ素朴な雰囲気だった。もっとも、ソファやテーブルなど、派手さはないが高いものに違いないと子供のわたしの目にも映った。 わたしはウィーズリー家に着いた翌日から、ジェームズとエドとデイブに引っ張り回されて……手紙を探した。屋根裏、地下室、書斎、物置……。ご両親の目を盗んでこそこそと。 エディから話は聞いた。あっちにあるならこっちにもあるかもしれない。そのために呼んだんだから、と3人は言うのだが、親切で気前のいいご両親に黙ってというところが、わたしは気がとがめてしょうがない。 いきさつを話して、許可をもらったらどうかと提案してみたら、そんなことをしてもし駄目だと言われたらどうする、と言われてしまった。そのときは諦めるしかないじゃないかと思うのだが、どうやらこの兄弟は、駄目だと言われそうなことは言われる前にやってしまえという主義らしい。 数日かけてこそこそごそごそ探し回ったかいもなく、残念ながら何も見つからなかった。 すると、ジェームズはある日の夕食中堂々と、唐突に、うちに昔の人の手紙や日記は残っていないかとご両親に訊いた。だったら最初から許可を取ればいいのに。ご両親は少し考えて、家中探してみればどうか分からないが、自分たちの知る限り、そんなものはないと答えてくださった。 兄弟の祖父母に当たる人たちはご健在で、この家を長男に譲って今は隠居暮らしだそうで、そちらへ行けばもしかしたら何かあるかもしれないが、せいぜいばあさんの若いころのものぐらいしかないと思う、と。 ジェームズは、「そう。ならいいや」と答えてそれで終わりだった。なぜそんなことを、とも、何の目的があって、ともご両親が尋ねないことにわたしは驚いた。 わたしが妙な顔をしているのを見て、デイブが小声で、「いつものことさ」と言った。ジェームズの言うことはしょっちゅう脈絡がないので誰も気にしないのだそうだ。 その後4人で話し合ったのだが、直系の家に伝わっていないなら多分ないのではないかという結論だった。向こうにはあったのにという点については、おそらくジョージとフレッドの几帳面さの差ではないかということに落ち着いた。 3人のおかげですっかり図々しくなっていたわたしは、ご両親の言葉でふと思いついたことがあった。 「ねえ、もしかしたら君たちのお祖父さんて、ぎりぎり直接フレッド・ウィーズリーから話を聞いてないかな。子どものころに」 3人は、考えつきもしなかった、という顔をした。 魔法使いは長生きなのだ。しかも長生きの割りに、こう言っては何だが早婚の傾向がある。だから、ひょっとしたらひょっとするかもしれない。 「もし良かったら、家系図見せてくれる?」 3人は二つ返事でわたしを応接室に連れていった。 そこに幾つか額がかかっていたが、そのうちの一つに、妙な幾何学模様を描き出している小さな額があった。 ジェームズがその額に近づいて絵に触れると、それがみるみる拡大して、大きなウィーズリー・ファミリー・ツリーになった。 わたしは2、3秒驚いた後、そばに寄って見渡してみた。指でなぞるようにして、ジェームズたちの祖父から上を数えていく。 「やっぱりだ。お祖父様って、フレッド・ウィーズリーのひひ孫に当たるんだね」 「……ああ、そうだね」 3人も改めて数え直していた。 「でも……ああ、駄目だ。じいさんが2歳のときにフレッドじいさんは死んでる。これじゃ顔も覚えてないだろうさ」 「駄目か……」 そうそううまくいくわけはない。それでも3人はわたしを慰めるように、今度一応お祖父さんの家に連れていってあげる、何か昔のものがあるかもしれないから、と言ってくれた。 それから、さらに気分を引き立たせるように、明後日にはフランスからデラクール家の子たちが遊びに来ると教えてくれた。 わたしは遠慮して、その前に帰ろうかと思ったが、絶対わたしに引き合わせたいからと留められた。 翌々日、フランスからウィーズリー一族と遠縁に当たるというデラクール家の人が3人やってきた。 わたしたちと同じ年の男の子と、その一つ下の妹と、いとこだかはとこのお姉さんだった。お姉さんは前年ボーバトン魔法学校を卒業していた。 3人とも見事な金髪碧眼、と言いたいところだが、お姉さんと男の子の瞳は薄い茶色で、女の子の瞳は薄い水色だった。 言葉が通じるのかと心配だったが、フランス側の3人はそこそこ英語が使え、驚いたことにウィーズリー側の3人も、片言程度のフランス語をしゃべれたのだ。 W.W.W.の跡継ぎがフランス語なんて似合わない。 わたしがジェームズにそう言うと、どういう偏見だそれはと怒られた。 デラクール家の男の子・ラウルと、わたしはすぐ仲良くなることができた。それでわたしは自分の家にフクロウ便を送り、マグルの文明の利器、電子辞書というものを送ってもらった。 わたしはある晩、兄弟たちがみんなとチェスに興じている間に、辞書を駆使して、以前双子から聞いた疑問をラウルに尋ねてみた。ウィーズリー家と初めてつながりを持ったフラー・デラクールが「七つの物語」の中で言っていたように、君たちの祖先には本当にヴィーラがいたの? と。 「もちろんさ」 ラウルは即座に答えた。 「でも、君も聞いたことがあるかもしれないけど、あの話の中には事実とは違う点がいろいろ含まれているでしょう?」 「いろいろかどうか……まあ、少なくともあれがすべて史実だったらこの家も今ないわけだし、こうして君と話してることもなかったろうね」 「史実でないのが、それ一つだって思う?」 ラウルは眉をひそめた。 「そんなことは僕には分からないよ。だけどほかの何が間違ってるとしても、フラーの祖母がヴィーラだったのは事実さ」 わたしは少し、しまったと思った。もしかしたらラウルを不快にさせてしまったかもしれない。でもせっかくのチャンス、双子たちも、きっとわたしが聞きたいことがあるだろうからと、ここへ呼んでくれて、引き留めてくれたのだろうから。 「疑ってるようなこと言ってごめんね。でもね、君も妹さんも、それにあのお姉さんもそうだし、ずっと昔にヴィーラが1人いただけで、みんなずっと綺麗でいられるものなの?」 今度はラウルはいきなり笑った。 「何それ。お世辞?」 「違うよ。前にエドとデイブも言ってたし、見たら本当にそうなんだもの」 「ありがとう」 今度は素直にそう答えてくれた。 「でも、ご先祖にヴィーラがいたって、何か証拠とかあるの?」 「う〜ん、証拠って言われたら困るけど……」 「例えば、ここと同じように、今でもヴィーラの一族とつながりがあるとか」 「あ、それはない」 言い終わるか終わらないかのうちに否定されてしまった。 「そうだけど……」 「魔法使いと巨人みたいなものさ。もしかしたらそれよりも珍しいのかもな。巨人族だって、昔ほどではなくたって、やっぱり差別的な目で見られることがなくなったわけじゃない。150年も前ならよけいさ。そんなときにヴィーラと結婚したなんて、変わった人だったんだと思うよ、そのご先祖は」 「そうだねえ……」 「でもね、ヴィーラの本性は君も知ってるだろ? 生まれてくる子がどんなふうになるかんなんて分からないわけだし、周りが全部祝福したとは僕には思えない」 わたしは、あっと思った。 「そうだね……うん。変な目で見る人もいただろうね」 「その中で、フラーって人は堂々と、自分の血筋を言ったわけだろ? 僕はそれ自体が証拠と言えば証拠なんだろうと思ってる。隠したがるならむしろ分かるけど、公表したんだから。三校対抗試合の選手が」 「そうか……新聞にだってきっと書かれる……」 「そう」 「勇敢で、本当に誇り高い人だったんだね、フラー・デラクールって」 半分溜め息と共にそう言うと、ラウルは満足そうにうなずいた。 「『七つの物語』は、フランスではそれほど有名じゃないんだ。でももちろん僕は読んだよ。君みたいに深く考えたことはないけどね。僕が思ったのは、テッド・ルーピンがどんな学生時代を過ごしたのかなってことだった。だってヴィーラとの混血も、歓迎はされてなかったんだ。父親が狼人間って、もちろんそんなの遺伝しないけど、世の中の偏見てものはそんな甘くはないだろ? 幸か不幸か父親は亡くなってたわけだし、隠して過ごしたのかな。それともフラーみたいに、堂々と言っていたのかな……」 それについては何も書かれていないまま、物語は終わっている。 わたしもしばし、テッドが経験したかもしれないいろいろなことに、思いを馳せてみたのだった。 |