ボーイ・ソプラノによるCD等紹介

 アントニオ・デ・ラ・トーレのCD「Primero」 

   アントニオ・デ・ラ・トーレ(Antonio de la Torre)は、コロナ禍の中で、ボーイ・ソプラノのピークを迎えたという面もありますが、クラシックの傑作を収録した初のアルバム『プリメロ Primero』をレコーディングしました。どれも、ボーイ・ソプラノの名曲と言ってもよい曲が並んでいますが、聖歌隊や合唱団に所属する経験がないため、かえって周りに合わせることなく、「明るい声質」という自分の持ち味を生かした曲ほど、その輝きを増すという感じがします。

 下のアドレスで、無料で何曲か、有料で全曲を聴くことができます。
https://antoniodelatorre.com.au/artist/album/

   また、実際に歌っている映像は、ここで視聴することができます。
https://www.youtube.com/@AntonioMusic/videos

1.アヴェ・マリア - シューベルト
2.アヴェ・ヴェルム・コルプス - モーツァルト
3.天使のパン - フランク
4.アヴェ・マリアバッハ・グノー
5.ピエ・イエス - フォーレ
6.主を讃美せよ - モーツァルト
7.ラウダマス・テ - ヴィヴァルディ
8.スオ・ガン - ウェールズ古謡
9.献呈 - シューマン
10.サペテの声 - モーツァルト
11.あなたを崇拝する栄光のために - ボノンチーニ
12.泣かせてください - ヘンデル
13.オンブラ・マイ・フ - ヘンデル

 リチャード クレイダーマン&シェーネベルク少年合唱団
『Deutsche Volkslieder(ドイツ民謡)』

 題名には、、リチャード クレイダーマンが大きく記載され、シェーネベルク少年合唱団の名が下に共演者のように記載されています。この『Deutsche Volkslieder(ドイツ民謡)』は 14 曲の伝統的な曲を収録したスタジオ アルバムです。このCDにおけるシェーネベルク少年合唱団の歌は、ドイツ民謡や伝承曲、子守歌などですが、明るい歌声で、何よりも親しめます。なお、日本語で題名に定訳がある作品の題名は、それを記載していますが、初めて聴く作品はドイツ語を直訳しました。
  また、リチャード クレイダーマン(Richard Clayderman, 1953~ )は、フランス出身のピアニストで、この英語風の芸名で世界的に有名になりました。「ニュー・イージーリスニング・ミュージック」と呼ばれる曲のピアニストで、本名は、フィリップ・ロベール・ルイ・パジェス。日本では、”Ballade pour Adeline”が、「渚のアデリーヌ」のようにロマンティックな題名が付けられていますが、原題とは違うようです。当時、ラジカルな音楽が流行する中、あえて普遍的なメロディの美しさを追求した曲とその演奏は、日本でも流行を見せ、毎年のように来日演奏しています。

1. 「外から入ってくるものに耳を傾ける (民謡/伝承曲 )
2.「別れ」マスト・アイ・ビコーズ、マスト・アイ・ビコーズ (民謡/伝承曲)
3. 「ローズ・マリー」 (ジョード/ロンズ)
4. 「すべての泉が流れるとき」 (民謡/伝承曲)
5. 「涼しい大地で」(グルック/アイヒェンドルフ)
6. 「ああ、それならモグリッシュはどうですか?」(ケーキ / チェジー)
7. メドレー「ブラームスの子守歌」~「あなた、あなたが私の心の中に」~「王家の子供が二人いました」(ブラームス)~(民謡/伝承曲)~(民謡/伝承曲)
8. 「プファルツ選帝侯出身の狩人」 (民謡/伝承曲)
9. 「さようなら、親愛なる故郷よ」 (民謡/伝承曲)
10. メドレー「鳥が飛んでくる」「アンヘン・フォン・タラウ」 (ミュラー/バウアーレ) - (シルヒャー/アルバート)
11.「菩提樹」(シューベルト)
12.「五月の歌」(モーツァルト)
13. メドレー「スクーナー船の陸地がない」「野ばら」 (ウェルナー)
14.「モーツァルトの子守歌」(フリース)
https://www.youtube.com/watch?v=3aDBFVh_t1U


 『YUICHI & SHOKO 童謡アルバム』

 CD「YUICHI & SHOKO 童謡アルバム」の正式タイトルは、「YUICHI 横田裕一 & SHOKO 拝田祥子 童謡アルバム」 なつかしい歌 思い出の歌 あたらしいうた という副題がついていますが、平成3(1991)年にリリースされたCDですので、当時の「あたらしいうた」も、今では一世代前の歌ということになります。童謡は、大正時代と、昭和20~30年代に名曲がたくさん誕生して今でも歌われていますが、このCDは、そのような名曲を網羅したアルバムとも言え、1曲が2分前後の曲が多いため、1枚のCDに36曲も収められています。ほとんどは、1曲を1人で歌っていますが、2人でデュエットしているものも4曲あります。しかも、ピアノ伴奏が、拝田祥子(はいだしょうこ)の声楽の師匠 中田喜直と拝田祥子の父 拝田正機ということですから、当然、ただの伴奏をしたのではなく、歌唱指導をしたものと考えられます。

 拝田祥子(はいだしょうこ)は、その後宝塚歌劇、NHK「うたのおねんさん」を経て、歌手、女優、タレント、声優として現在活躍中ですから、プロフィールは、所属するホリプロなどに記載されています。このCDでも、少女時代から表現力豊かで、曲によってはおしゃまという言葉がふさわしいような歌唱をしています。なお、二人は同学年です。

 ここでは、本ホームページの主旨から、横田裕一の歌を中心にその歌唱の特色を述べていきます。横田裕一は、このCDの録音をしたのは1991年3月29~31日と記載されているので、小学校から中学校に進学する春休みに録音したことになります。従って、小学校4年生の時の「全国童謡歌唱コンクール」のときと比べて、歌唱力も向上しています。最初に聴いた「わらいかわせみにはなすなよ」も、次第に諧謔的な歌にしていくのではなく、むしろ抑制的に歌っています。全体的には、気品のある歌に仕上げています。横田裕一は、少年時代その美しい歌声から、「天使のようなボーイ・ソプラノ」と言われていたそうですが、この表現は、あまりにも頻繁に使われ過ぎたため、ボーイ・ソプラノの歌声を例えるには、かえって平板な表現になってきています。横田裕一の歌を表す場合、「透明度の高い節度のある気品のある歌声」という表現の方が正鵠を射ています。それは、「ちいさい秋みつけた」「花かげ」「秋の子」「赤い靴」のような抒情的な歌、「びわ」のような包容力を感じる歌、「ねむの木の子守歌」のような穏やかな曲では、その特質がよく現れており、そこには、時として哀愁さえ感じることがあります。平成2(1990)年の第5回全国童謡歌唱コンクールで金賞を受賞した「おほしさま」は、有節歌曲でありながらも一番ごとに時間の経過を感じるように変化させています。従って、このCDに収められた横田裕一の歌から、将来、抒情的な歌曲や宗教曲においてよい歌を歌うだろうなという想像をしますが、童謡を中心に楽しそうに歌う「うたのおにいさん」や巨大な声をとどろかすオペラ歌手になるという感じはしません。

1.つゆにぬれてる桑のみたべた〈歌〉拝田祥子くピアノ〉中田喜直
2.レモンの木 〈歌〉拝田祥子〈ピアノ〉中田喜直
3.わらいかわせみにはなすなよ〈歌〉横田裕一くピアノ〉中田喜直
4.お月さんと坊や〈歌〉横田裕一〈ピアノ〉中田喜直
5.ぶどうのふさ〈歌〉横田裕一拝田祥子〈ピアノ〉中田喜直
6.おはよう〈歌〉横田裕一拝田祥子〈ピアノ〉中田喜直・拝田正機
7.びっくりしちゃったの〈歌〉拝田祥子〈ピアノ〉中田喜直
8.いってみようかな〈歌〉拝田祥子〈ピアノ〉中田喜直
9.ちいさい秋みつけた〈歌〉横田裕一〈ピアノ〉中田喜直
10.ろば〈歌〉拝田祥子〈ピアノ〉中田喜直
11.そくたつ〈歌〉横田裕一拝田祥子〈ピアノ〉中田喜直・拝田正機
12.びわ〈歌〉横田裕一〈ピアノ〉拝田正機
13.子鹿のバンビ〈歌〉横田裕一〈ピアノ〉拝田正機
14.どこかて寒が〈歌〉横田裕一くピアノ〉拝田正機
15.アイスクり一ムの歌〈歌〉拝田祥子〈ピアノ〉拝田正機
16.聞いててあげる〈歌〉拝田祥子〈ピアノ〉拝田正機
17.秋の子〈歌〉横田裕一〈ピアノ〉拝田正機
18.いちばんぼし〈歌〉横田裕一〈ピアノ〉拝田正機 
19.まっかな秋 く歌〉横田裕一拝田祥子〈ピアノ〉拝田正機
20.お月さま 〈歌〉拝田祥子くピアノ〉拝田正機
21.赤靖怜〈歌〉横田裕一〈ピアノ〉拝田正機
22.三日月お月さま〈歌〉横田裕一〈ピアノ〉拝田正機
23.雨の遊園地〈歌〉拝田祥子〈ピアノ〉拝田正機
24.山がすき海がすき〈歌〉拝田祥子くピアノ〉拝田正機
25.赤い風船とんだ〈歌〉横田裕一〈ピアノ〉拝田正機
26.おほしさま〈歌〉横田裕一〈ピアノ〉拝田正機
27.赤い靴〈歌〉横田裕一〈ピアノ〉拝田正機
28.小さなできごと〈歌〉拝田祥子〈ピアノ〉拝田正機
29.とんぼの思い出〈歌〉拝田祥子〈ピアノ〉拝田正機
30.花かげ〈歌〉横田裕一〈ピアノ〉拝田正機
31.ドロップスの歌 〈歌〉拝田祥子〈ピアノ〉拝田正機
32.コスモスの花〈歌〉拝田祥子〈ピアノ〉拝田正機
33.リスリス小リスはお友達〈歌〉拝田祥子〈ピアノ〉拝田正機
34.ねむの木の子守歌〈歌〉横田裕一〈ピアノ〉拝田正機
35.里の秋〈歌〉横田裕一〈ピアノ〉拝田正機
36.しゃぼんだま 〈歌〉拝田祥子〈ピアノ〉拝田正機

 『The Chorus of Angel 天使のコーラス』

 このCDは、編集をされた増山法恵先生より平成17(2005)年に送っていただいたもので、個人的には特別な想いがありますが、それは、置いておいて、このCDの意義について述べてみましょう。
 日本には、これまで数多くの少年合唱のレコードやCDが発売されてきましたが、それは、ある少年合唱団や聖歌隊のアルバムであることがほとんどでした。また、内容的にも、宗教曲、歌曲、民謡等、ジャンルごとのCDであったことがほとんどでした。そのような意味では、このCDは、1枚の中にいろいろなジャンルの曲が入ったいわゆるオムニバスCDです。ポップスをあえて採り上げたのは、これからの時代を予測して新ジャンルとして採り上げたと思っています。これが、増山先生の先見性だと思います。いつまでも20世紀までのことにこだわっていたら、少年合唱は衰退するかもしれません。事実、日本はもとより、少年合唱の本場のヨーロッパでもそのような兆候を見ることができます。
 ウィーン少年合唱団、パリ木の十字架少年合唱団、セント・ポール大聖堂聖歌隊、リベラなどの少年合唱団や聖歌隊から選りすぐりの録音が集められています。このCDの鑑賞は、とりわけ、ボーイ・ソプラノや少年合唱の初心者の方に、カタログ的な役割を果たすと考えられます。時代的には、ボーイズ・エアー・クワイアがメンバーを変えながら、毎年のように来日していたころの後ぐらいですから、そのような演奏を聴くことができます。ところで、後になってわかったことですが、ボーイズ・エアー・クアイアは、日本の観客向けに結成され、何度か来日公演しましたが、そのころのホームページを作っていたファンは、今、どうしているのでしょうね。なお、ジャケットは、竹宮惠子によるもので、ご自身が理想とする少年合唱団・聖歌隊のイメージですから、好き嫌いは分かれる可能性があります。


1 (聖歌)ピエ・イエズ ~「レクイエム」 より
2 (聖歌)イン・パラディスム (天国にて) ~「レクイエム」 より
3 (聖歌)ラルゴ (オンブラ・マイ・フ)
4 (聖歌)子守歌 ~「キャロルの祭典」 より
5 (聖歌)ライク・ア・マイティ・リヴァー・フローイング
6 (聖歌)クリスマスの楽しい歌
7 (聖歌)アヴェ・マリア
8 (聖歌)来たれ、キリストの花嫁
9 (聖歌)夜
10 (歌曲・民謡)セレナード
11 (歌曲・民謡)さすらい 
12 (歌曲・民謡)野ばら
13 (歌曲・民謡)王様の行進
14 (歌曲・民謡)歌わずにはいられない
15 (歌曲・民謡)トネリコの木立
16 (オペラ)アリア ~「バスティエンとバスティエンヌ」 より K.50 (466)
17 (オペラ)三人の童子の歌 ~ 歌劇 「魔笛」 K.620より
18 (オペラ)彼はけがをしているの? ~子供オペラ 「小さな煙突掃除屋さん」 第1幕より
19 (ポップス)美しい大地よ
20 (ポップス)マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン (映画 『タイタニック』 のテーマ)
21 (ポップス)オンリー・タイム
22 (ポップス)ステイ・ウィズ・ミー 

 ヘルドゥール・ハリー・ポルダにとって最初のCD“Terra Mariana”

 このCDがリリースされたのが、2010年ということですから、ヘルドゥール・ハリー・ポルダ13歳ぐらいときの演奏です。翌年に録音したCDを先に聴いているので、どこまで伸びしろのある少年だろうと感心してしまいます。〇で数字を囲んでいる曲が、ヘルドゥール・ハリー・ポルダが歌っている曲で、数字だけの曲は、ハンドベルの演奏です。ハンドベルの演奏が決して悪いわけではありませんが、伴奏として演奏する場合は、独唱者を引き立てるためにもう少し控えめな音で録音してほしいものです。
 ボーイ・ソプラノと言えば、繊細な歌声と思っている人にとっては、このような線の太い歌声に好き嫌いはあるでしょうが、この歌声だからこそ、ハンドベルの音響を貫いて聴こえてきたのだと思います。ヘルドゥール・ハリー・ポルダの歌だけが聴きたい方は、〇で囲んだ6曲だけをお聴きください。

① バッハ=グノーのアヴェ・マリア (A. ハートリー編曲)
② カッチーニのアヴェ・マリア (V. スーンベリ編)
③ 天使のパン (J. メレディス編曲)
4 心と口と行いと人生、BWV 147: イエスは私の喜びであり続けます (V. スーンベルグ編曲)
5 アダージョ ト短調 (K. マクチェズニー編曲)
6 ペール・ギュント組曲No. 1、Op. 46:I.朝の(A.B.シャーマン編曲)
7 ペールギュント組曲No. 1、Op. 46: Ⅲ. アニトラのダンス (F.A. メレット編曲)
8 不気味なダンス Op. 40 (M.ケラー編曲)
9 子どもコーナー:Ⅵ. ゴリウォッグのケーキウォーク (R. アイヴィー編曲)
10 子ども向けゲーム: No. 5. ザ・ボール: ギャロップ (B. ガリー編曲)
⑪ シューベルトのアヴェ・マリア!) Op. 52、いいえ。 6、D. 839、「ユングフラの賛美歌」(W. H. グリフィン編曲)
⑫ オー・ホーリー・ナイト (V. スーンバーグ編曲)
⑬ きよしこの夜(F.L.キャラハン編曲)
14 フェスティバル・ダンス (K. マクチェズニー編曲)

https://www.youtube.com/watch?v=YmK84YLoV4o&list=OLAK5uy_mrn-ZXiPmvhQRe8Z5CfhDHlqwcNEkOzig 

ヘルドゥール・ハリー・ポルダのCD「Cuntus angericus」
 
 ヘルドゥール・ハリー・ポルダ(Heldur Harry Põlda)は、1996年生まれのエストニアのボーイ・ソプラノですが、15歳ぐらいまでボーイ・ソプラノを維持した時に3枚のCD(うち1枚はシングル)を録音しています。
 今回ご紹介するのは、CD「Cuntus angericus」ですが、しっかりとした明瞭な歌声で、ボーイ・ソプラノによってよく歌われるクラシックの名曲からミュージカルでも、『オリバー!』の「愛はどこに」から『マイ・フェア・レディ』より「君住む街で」のようなテノールのナンバーまで、器楽曲が原曲であるもの(バッハの「管弦楽組曲」やショパンの「別れの曲」)までいろんなジャンルの歌に挑んでいます。エストニア語で歌われているものもありますが、聴いていて全く違和感を感じません。それだけでなく、その歌の神髄に迫る歌をしているところが高く評価されます。

1 Orfeo ed Euridice, Act I: Amor's Aria (歌劇『オルフェオとエウリディーチェ』より「愛のアリア」
2 Ave Maria (attrib. to D. Caccini)   (カッチーニの「アヴェ・マリア」)
3 Ave Maria                (バッハ=グノー「アヴェ・マリア」)
4 Requiem, Op. 48: Pie Jesu       (フォーレの「レクイエム」より
5 12 Etudes, Op. 10: No. 3 in E Major  (ショパンの練習曲より「別れの曲」
6 Ave Maria, Op. 52 No. 6, D. 839 "Hymne an die Jungfrau": Ellens Gesang III (Ave Maria!) (シューベルト「アヴェ・マリア」)
7 Panis angelicus             (フランク「天使のパン」
8 Cantique de Noel (O Holy Night)     (「オーホーリーナイト」
9 Orchestral Suite No. 3 in D Major, BWV 1068: Overture (Suite) (バッハ「管弦楽組曲No. 3 in D Major, BWV 1068)
10 Funiculi, funicula (デンツァ「フニクリ フニクラ」
11 Oliver!: Where is Love?         (ミュージカル『オリバー!』より「愛はどこに」)
12 My Fair Lady: On the Street Where You Live(ミュージカル『マイ・フェア・レディ』より「君住む街で」
13 Caruso                   (「カルーソー」)

CD「Cuntus angericus」  
 https://www.youtube.com/watch?v=0o-7KNDb2gk&list=OLAK5uy_ltd1_8H4VAEiE-E6Kkqe5YCsZGTWV_JK8

 アラン・ベルギウスの『詩人の恋』

 『詩人の恋』(Dichterliebe)作品48は、シューマンの「歌曲の年」と呼ばれる1840年の作品で、ハインリヒ・ハイネの詩による連作歌曲です。この作品は、16曲からなり、第1曲から第6曲までは愛の喜びを、第7曲から第14曲までは失恋の悲しみを、最後の2曲はその苦しみを振り返って歌っています。
 この曲は、テノール(フリッツ・ヴンダーリヒ、イアン・ボストリッジ)によって歌われるものとバリトン(ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ、ヘルマン・プライ、ジェラール・スゼー、ウォルフガング・ホルツマイアー)らによって歌われるものがほとんどですが、ソプラノのバーバラ・ボニーによって歌われたものや、合唱曲に編曲されたものもあります。私の好みとしては、フリッツ・ヴンダーリヒが筆頭ですが、ボーイ・ソプラノが歌ったものとしては、アラン・ベルギウスしか聴いたことがありません。
 従って、ボーイ・ソプラノでこの曲を歌うということ自体が奇跡的なことなのですが、アラン・ベルギウスは、この時期、変声が近くなったこともあって高音に少し陰りが感じられ、それは、“ Ich grolle nicht (恨まじ)”の最高音に現れるのですが、全体にゆったりしたテンポの演奏です。1曲目の“Im wunderschönen Monat Mai(美しき五月に)”など特にそう感じます。そして、大きく3つに分かれたこの歌曲集を大きくとらえて、全体を構成しています。

 パリ木の十字架少年合唱団のベストCD「最も美しい曲たち」

 「BEST OF」という英語がわざわざフランス語のCDジャケットの題名の中に刻まれていますが、録音がいつのものかは書かれていません。海外旅行用のトランクを担いだ4人の団員の少年の制服を見ても、半ズボンの丈の長さ(この合唱団だけでなくヨーロッパの多くの少年合唱団の制服は、1980年代半ばを境にハーフパンツ化している)から時代を推定することもできません。
(日本では、この服装の傾向が約10年遅れて入ってきました。)
 この2枚組のCDは、まさに、古今東西の名曲集と言ってもよいもので、クラシックから、ポップスに近い曲、日本の「五木の子守歌」を含む世界の民謡、クリスマスソングまで、パリ木の十字架少年合唱団が各国の公演で歌ってきたと思われる曲が集められています。
 このCD集では、1曲ごとの丁寧な鑑賞よりも、次は何を聴かせてくれるのだろうという期待感をもって聴くことが、楽しめるポイントになるかと思います。そして、彼らの個性的な芸達者ぶりを楽しむことがよいのではないでしょうか。


CD1 CD2 
1 サン・マロの鐘楼
2 赤いバラ
3 アドラムス
4 五木の子守歌
5 グーテンアベンド
6 ヘイル・マリー
7 ブオン シニョーレ
8 アベニュー ヴェラム ボディ
9 デッキ・ザ・ホール
10 病気の子供のための子守唄
11 不適切な聖金曜日
12 久保バハイ
13 猫の二重唱
14 ブルガリアの歌
15 別れの歌
16 ディリ、ディリ
17 子供はすぐに眠る
18 きよしこの夜 
1 甘いフランス
2 ゼブちゃんの子守唄
3 ハイチチェリー
4 夜
5 ポジュデムスポレム
6 ホワイト・クリスマス
7 カリンカ
8 ミステリー満載
9 ソルヴェイグの歌
10 時代は来るだろう
11 フレンチガーデン
12 私たちは羊飼いです
13 ジョイ・トゥ・ザ・ワールド
14 コロニーのはじまりからの小さな子守唄
15 アヴェ・マリア
16 サンタクロース
17 ジングルベル
18 クリスマスを歌おう

 ウィーンの森少年合唱団 ウィーンの森の物語

   ウィーンの森少年合唱団のCDは、2枚持っていますが、ここでは、18曲入った1996年録音のビクター盤を採り上げます。選曲は、ウィーン少年合唱団と似た選曲もありますが、最近のウィーン少年合唱団は、シュトラウス家の音楽については、むしろポルカが中心ではないかと感じることがあります。その点、このCDは、ウィンナ・ワルツを中心にウィーンとかかわりのある作曲家の作品が採り上げられており、特に、ワルツは、オーケストラ伴奏による合唱は、ピアノ伴奏よりも奥行きが深いという第一印象があります。一方、歌声は、清澄で厳格というよりも明るく伸びやかな可愛らしさを感じることもあり、この辺りが、この合唱団の特色とも言えます。「ウィーン情緒」というキーワードで表されるような曲が選曲されており、それがこの合唱団の個性に合致しているように感じます。
   また、特筆すべきことは、ソリストが「歌声の図鑑」という言葉が当てはまるような、一人一人が個性的な魅力のある歌声を聴かせてくれます。とりわけ、ボーイ・アルトに逸材が多くいることが嬉しい発見でした。


1 天体の音楽 Op.235
2 まもなく夜明けを告げる太陽が (「魔笛」 K620より)
3 金と銀
4 ます D.550
5 円舞曲 ウイーンのボンボン Op.307
6 ドイツ舞曲
7 円舞曲 ウイーンの森の物語 Op.325
8 私のママはウィーン生まれ
9 歌い、笑い、踊り Op.486
10 円舞曲 シェーンブルンの人々
11 ウィーンの森の歌
12 円舞曲 南国のばら Op.388
13 母の歌
14 円舞曲 ウィーンかたぎ Op.354
15 いとしい弟
16 鳩の合唱 (喜歌劇 「ベネチアの一夜」 より)
17 トリッチ・トラッチ・ポルカ Op.214
18 円舞曲 芸術家の生涯 Op.316

https://www.youtube.com/watch?v=nUr-sJhAXII&list=OLAK5uy_lYJdXFF6A5IAP_-WRAczg06mXsyusRack

 パリ木の十字架少年合唱団のCD「音楽の世界」

 以前、このコーナーで、1967年と1971年の来日時に録音されたCDをご紹介したことがありましたが、このCDは、よく来日していたころの1981年の録音ですから、時代的には、LPをCD化したものと言えます。パリ木の十字架少年合唱団の演奏は、その時期によってというか、中心的な指導者が誰であるかによって、かなり歌声に違いがあります。 
 しかし、フランス語の発音故の鼻にかかった独特の声の音色や、明るい母音発声は、以前と変わらないことの一つではないでしょうか。また、合唱と同じぐらいにソロの比重が高いのもこの合唱団の特質です。だから、このCDを聴くと、最初は甲高いソプラノの響きがよく聞こえるのですが、繰り返し聴くと、低音部の音域が広く、深みのある響きを味わうことができます。また、この合唱団のソリストは、いわゆる「少年合唱団のソリスト」というよりも、一人一人の個性がはっきりと前面に出て、表現力が豊かで歌声に「華」があり、むしろ、シャンソンを歌う少年歌手と呼んだほうがよいのではないかと思うほどです。
 なお、このアルバムでは、「夜」のようなこの合唱団の定番曲に加え、古くはルネッサンスのビクトリアから、20世紀では、コダーイ、プーランクまで幅広い年代の歌を選曲しています。

1. チェリータイム
2. オン・ザ・ノース・ブリッジ
3. 夜
4. 宮殿の階段で
5. ここは5月です
6. きよしこの夜
7. 友達に行って
8. イースター・イン・ザ・ウッズ
9. バラ万歳
10. ザ・ラブ・オブ・ミー
 
11. アヴェ・ヴェルム・コルプス
12. ブレイブマリン
13. 5月の今月
14. それは私のボーイフレンドでした
15. アルファベット
16. ナントの刑務所で
17. 王様は太鼓をたたきました
18. アヴェ・マリア
19. マウンテンナイト
20. ゴー・ヤン・ユボーン

https://www.youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_nAcbX3A9s3p1GZrV27_yPgKCVoo5Bq0_8


 マラカイ・バヨーの『Golden』

 イギリスの民放テレビ局ITVのオーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』は、いろんなジャンルのアーチストが出演する番組で、2023年は、日本から出場したお笑いタレントの「とにかく明るい安村」が、「TONIKAKU」の名で出演し、決勝進出したことだけが報道されましたが、ボーイ・ソプラノの愛好家にとっては、13歳のマラカイ・バヨーが審査員と視聴者の心を掴んだことの方が、大きなできごとだったと思います。そのマラカイ・バヨーが、7月7日にデビュー・アルバムをリリースしました。 『Golden(金)』と題されたこのアルバムは、クラシックとミュージカルやポップスの両方から8曲が選曲されています。
 「天使の歌声」というボーイ・ソプラノを表現するときによく使われる言葉は、頻繁に使われることによってかえって陳腐化する傾向がありますが、マラカイ・バヨーの歌声には、安らぎを与える包容力があり、時に瞑想的で、時に情緒豊かであると同時に、根源的な生命力さえ感じることがあります。ここまで書いたら、1曲ごとの解説はむしろ不必要でさえあります。実際に聴き、また歌っている映像を視聴することで、おかわりいただけるでしょう。

1.ベネディクトス Benedictus (From Armed Man: A Mass for Peace)
2.涙を流してください Lascia Ch'io Pianga (From Rinaldo) 
3.オンブラ・マイ・フ Ombra Mai Fu (From Serse)  
4.ピエ・イエズPei Jesu (From Requiem) 
5.私のお父さん O Mio Babbino Caro (From Gianni Schicchi) 
6.どこかに Somewhere (From West Side Story) 
7.アメイジング・グレースAmazing Grace 
8.カルーソー Caruso 

ピエ・イエズPei Jesu (From Requiem) https://www.youtube.com/watch?v=gqVRAE9xFLc&list=OLAK5uy_mybAeF0n8yn-pxnpIMmH3zFl1TIz2QgjQ&index=1


 フィラデルフィア少年合唱団

 このレコードを聴いた第一印象は、昭和50(1975)年の来日時に録音されたレコードでありながら、現代の同少年合唱団の歌声ともつながっており、録音された時代による古さを感じさせない歌声でした。また、ライブ録音ではなく、スタジオ録音であり、この録音に携わったのは、A面は、変声前の少年であり、B面は、男声が入って混声合唱が多いです。当然のことながら、映画音楽を含むのポップス、黒人霊歌、ジャズなどを中心にしたレパートリーを中心に録音されていることから、ヨーロッパの聖歌隊の中でも、特に繊細な歌声のイギリスの少年聖歌隊の演奏とはかなり違う歌声です。
 逆に言えば、歌声と言うよりも、このアメリカらしい選曲を楽しめるかどうかで、このレコードの評価も変わってくるでしょう。有名なバッハ=グノーの「アヴェ・マリア」は、2人のソリストによって歌われているところが珍しいです。また、「不思議の国のアリス」から三つの合唱曲という選曲は、初めて聴く曲ですが、意外性があって楽しめます。なお、B面の黒人霊歌になると、男声が入って重厚感が出てきます。また、1960年代に日本にも入ってきて流行したピーター、ポール&マリーによって歌われたフォークソングの「500マイル」もレパートリーに採り入れられており、ここでは、男声ソロを聴くことができます。
 なお、「さくら」「若葉」「お江戸日本橋」の3曲は、来日用の選曲で、しかも、最後の2曲は、東京少年少女合唱隊との合同演奏ですから、フィラデルフィア少年合唱団の演奏とは言えません。しかし、この当時、日本では児童合唱が盛んであり、海外の児童合唱団が来日公演をした時には、2~3曲合同演奏をして、それが、日本の団員にとっては、実力をつけることにもつながり、また、よい思い出になったというのも事実です。

SIDE 1:
1.メドレー”アメリカ” MEDLEY AMERICA          
2.ジャズ・アレルヤ A JAZZ ALLELUIA         
3.眠れいとし児ら SLUMBER NOW BELOVED CHILD     
4.すばらしき汝の名 HOW EXCELLENT THY NAME     
5.アヴェ・マリア AVE MARIA Solo:Ronald Lyles/Spencer Harrison
「不思議の国のアリス」から三つの合唱曲 THREE CHCRUSES FROM ALICE IN WONDERLAND
6.大エビのカドリール THE LOBSTER QUADRILLE      
7.白い騎士の歌 THE WHITE KNIGHT'S SONG Solo:Poul Delorenzo/Thomas Bradford          
8.美しいスープ BEAUTIFUL SOUP

SIDE 2:
三つのアメリカ・二グロ・スピリチュアルスTHREE AMERICAN NEGRO SPIRITUALS
1.同じ汽車 SAME TRAIN          
2.神よ、この悩みを MY LORD, WHAT A MOURNING     
3.イズキル・ソーの車輪 EZEKIEL SAW DE WHEEL
三つの古いアメリカの歌THREE OLD AMERICAN SONGS
4.チンガ・リング・ショウ CHING-A-RING CHAW      
5.500マイル FIVE HUNDRED MILES Solo:Fred Wood  
6.足をとめて(オペラ「テンダーランド」より) STOP YOUR FOOT!<From "The Tender Land"> Solo:Fred Wood
7.さくら SAKURA          
8.若葉 WAKABA          
9.お江戸日本橋 OEDO NIHONBASHI


 「絆〜Forever」

   リベラを創設・主宰したロバート・プライズマンが逝去された後、元リベラメンバーで現プロデューサーのサム・コーツが今作の作詞を手掛けたとのことですが、100%同じ質の演奏を期待してはいけないが、CDを通して聴くと、よく引き継いでいると感じる曲と、そう思えない曲があるのも事実です。しかし、これはむしろ当然のことであり、あらゆる聖歌隊・合唱団が指導者の交代によってその響きを変えているのは間違いのない事実です。また、日本盤では、村松崇継を前面に立てた曲もあります。

 ソリストで言えば、今がまさに旬とも言えるルカ・ブルニョーリ(Luca Brugnoli)とフレデリック・ムシュラフィ(Frederick Mushrafi)は、双璧とも言える資質の少年であり、魂の浄化をしてくれるような歌唱を聴かせてくれます。

 リベラは、今年5月末~6月初めにもその選抜メンバーが、「日比谷音楽祭 2023」に出演するために来日しましたが、10月下旬にも、リベラ10回目となる日本ツアー「Angel Voices Tour 2023」を全国3か所で行います。ところで、リベラの来日コンサートは、いつも短期間に大都市で2~5回ということですが、ウィーン少年合唱団のように2か月ぐらいかけて全国を回ってくれないものかと思ったりもします。しかし、このような公演は、学力保障という問題も絡んでくるでしょうから、欲は言えません。
 
1.永遠の絆(村松崇継/サム・コーツ)【日本盤のみ収録】
2.祝福はすべての人に(ラウル・ニューマン)
3.神のみぞ知る(ザ・ビーチ・ボーイズ)
4.彼方の光 2023(村松崇継/ロバート・プライズマン)
5.アヴェ・ヴェルム(アルビノーニのアダージョ)(アルビノーニ/レモ・ジャゾット/トラディショナル)
6.ライトハウス(ジョシュア・マディーン)
7.トリニティ (ロバート・プライズマン)
8.アニマ・クリスティ(マルコ・フリジーナ)
9.カム・マイ・ウェイ(ロバート・プライズマン/ジョージ・ハーバート)
10.海の導き(ジョシュア・マディーン)
11.シング・フォー・エヴァー(ロバート・プライズマン)
12.ビー・スティル・マイ・ソウル(シベリウス「フィンランディア」)/ヤン・シベリウス/カタリーナ・フォン・シュレーゲル)
13.感謝する心(メアリー・プラムステッド/ジョージ・ハーバート)
14.ラヴ・シャイン・ア・ライト(キンバリー・リュー)
15.永遠の絆ピアノ・ソロ・ヴァージョン(作曲・演奏:村松崇継)


 ルカ・ブリュグノーリのソロCD「Rise Up」

  ルカ・ブリュグノーリ(Luca Brugnoli)のプロフィールについては、既に「世界のソリスト」において紹介していますので、それを参照していただきたいと思いますが、リベラの一員として9歳ぐらいから活躍しています。このCDは、クラウドファンディングによって世界の多くの支援者の協力によって完成したものです。なお、彼は、Twitter等のソーシャルメディアで多くのフォロワーを獲得しており、そのようなことも、多くのファンがこのCD作成に寄与していると考えられます。2023年には、5月末から6月上旬にかけて日比谷音楽祭のため、その一員として来日し、11月にもソロでの再来日が予定されています。
 ルカ・ブリュグノーリは、「神から与えられた声の持ち主」であると主張するメゾ・ソプラノ歌手のキャサリン・ジェンキンス等、業界の専門家からも高い評価を得ています。 ヘネシー ブラウン ミュージック コレクティブとロバート ルイスが監督したこのデビュー アルバムには、古今のボーイ・ソプラノによって歌われてきたかなり広い年代の曲が並べられているだけでなく、表題ともなっている「Rise Up(立ち上がる)」のような新しい曲も含まれており、かなり新鮮な編曲であることが大きな特色です。なお、ルカの高音域は、特に非常に美しく、曲の背景にある音楽の本質や、そこに流れる感情を理解して歌っていることが伝わってきます。

1.翼を持ち上げる (ビル・ウィーラン)
2.オー・クアム・トリスティス(クライブ・オズグッド)
3.キラキラ輝く太陽(トーマス・アーン)
4.アヴェ・マリア(ミハル・ロレンツ)
5.立ち上がる(カサンドラ・バティ)
6.アイルランドの祝福(ボブ・チルコット)
7.フィールズ・オブ・ゴールド(ゴードン・サムナー)
8.主の臨在のためにじっとしていなさい(デビッド・J・エヴァンス)
 9.聖霊への連祷(ピーター・ハーフォード)
10.ピエ・イエス(アンドリュー・ロイド・ウェッバー)
11.ヴィンセント (星月夜)(ドン・マクリーン)
12.天使のパン(セザール・フランク)
13.主はあなたを祝福し、あなたを守ってくださいます(ジョン・ラター)
14.今は両側とも(ジョニ・ミッチェル)
15.アヴェ・ヴェルム・コルプス(ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト)
16.バラ(アマンダ・マクブルーム)
https://www.youtube.com/watch?v=x5Pf3Gpw-FE&list=OLAK5uy_naEhuRBOcP3Wq-89_iQSvh9GZF976VRT8

 ポズナン・ナイチンゲール少年合唱団(ポーランド少年大合唱団)

   ポーランドの音楽には、独自の特徴があります。その特徴の1つは、ポーランドの民族音楽やクラシック音楽の伝統を反映していることです。ポーランドの伝統的な音楽は、ポーランドの民俗音楽に由来します。これらの曲は、歴史的には、田園地帯での祭りや儀式、そして農作業中に歌われていました。ポーランドの民俗音楽は、しばしばパフォーマンスにダンスを組み合わせ、特別な衣装を着て演奏されます。
   日本において、ポーランド民謡系の音楽が入ってきたのは、「みんなのうた」の影響が大きいと考えられます。「森へ行きましょう」「逃げた小鳥」「春が呼んでるよ」「歌うよカッコウ」「踊ろう楽しいポーレチケ」など、この番組を通して日本に広がりました。
   一方、ポーランドのクラシック音楽は、フレデリック・ショパンの作品は、ポーランドの音楽において最も重要な位置を占めています。「ポーランド少年大合唱団」の名前で、日本に紹介されたポズナン・ナイチンゲール少年合唱団は、これらを主たるレパートリーとしています。
   昭和44(1969)年の来日記念に録音されたLPレコードでも、それらの曲が主たる位置づけとなっていますが、それと共に、3人のボーイ・ソプラノの独唱(4曲)が入っていることもこのレコードの特色と言えます。このとき録音された15曲のうち下線を引いた9曲をYouTubeで聴くことができます。
 (第1面)
1.騎士の歌    
2.紡ぎ娘     
3.乙女の願い (独唱)デトロフ・アンジェイ(1958年生)    
4.軍隊ポロネーズ イ長調     
5.シュワ・ジェベチカ(森へ行きましょう)     
6.小鳥の歌(逃げた小鳥)    
7.かっこう   
8.マリーの結婚
 (第2面)
1.エクスルターテ・デオ    
2.こだま     
3.夜  (独唱)カミエニスキ・ヤツェック(1955年生)  
4.子守歌  (独唱)ゲスネル・ロムアルド(1957年生) 
5.アベ・マリア  (独唱)カミエニスキ・ヤツェック(1955年生)    
6.エリ    
7.ハレルヤ オラトリオ「メサイア」より
https://www.youtube.com/watch?v=uWPLwOfhcpw&t=484s

「月寒の少年」をめぐって

 音楽鑑賞には、聴き手の好みや想像が入ります。それ故に、いろいろな感想や批評があってよいはずです。
 しかし、ある曲が作られた背景を語るとなると、想像ではなく、事実をもとに語られるべきです。
 「月寒(つきさっぷ)の少年」という愛すべき曲があります。この曲について学校が委嘱したものなのかという疑問もあるようで、これについて調べてみました。この曲は昭和35(1960)年に、この地を訪れた星野哲郎が秋の夕焼けの景色に感動して作詞し、それに船村徹が作曲した叙情歌です。
 まず、歌の舞台となった地域は、星野氏が訪れた頃は札幌郡豊平町字月寒で、翌昭和36(1961)年5月1日に豊平町は札幌市に編入しました。現在は札幌市豊平区月寒です。1番の歌詞に「牧場の柵をおしあけて、牛を追い込む少年の」とあるように当時は牧場もあったのどかな地域とうかがえますが、今では、昔の歩兵連隊の演習場も広い月寒公園となっており、住宅地になって、地下鉄東豊線も走っております(最寄りの月寒中央駅から市の中心部まで10分で行けます。)。 
 この曲はコロムビア少年合唱隊(上高田少年合唱団からの6人の選抜メンバー)によりレコーディングされました。最初はEP盤「貝がら小径」が出て、この曲のB面に「月寒の少年」(写真左上)が収められ、後に(昭和36(1961)年3月)10インチLP「貝がら小径」にも所収されました。
 星野氏は、それから約20 年後の「限定版 遠歌縁歌援歌星野哲郎作品集」(昭和54(1979)年7月10日発行)の中に、数ある作品の中に「月寒の少年」も選び、歌詞及び楽譜が所収されていることから、個人的にも思い入れのある曲であったと思われます。
 さて、学校がその学校にちなんだ曲を委嘱するのなら、地縁のない歌謡曲の作曲家(船村徹は、栃木県出身 神奈川県在住)に依頼することはないと思われますし、抒情歌として作られたこの曲には、こぶしをつけているところがあり(麦笛すーず~し、ペチカをもーや~せ、南へいーそ~ぐ)、この曲が作られた昭和35(1960)年当時の小学校の音楽授業を考えれば、この歌が小学生の愛唱歌として作られたとは考えにくいです。
 やがて、年の流れと共に、この曲は次第に忘れ去られていきますが、平成6(1994)年に月寒地区町内会連合会の役員の方々がこのレコードを探したところ、小樽市のレコード収集家の方がもっておられることがわかりました。市民団体「『月寒の少年』市民会議」でこの曲を地域で活用しようということで、平成8(1996)年から月寒小学校の塔屋から午後5時に(冬期間は午後4時に)この曲を流しています。(現在、多くの地域では、この時間帯「夕焼け小焼け」等のメロディが流されています。)なお、同校では、朝8時15分に校歌を流しているようです。

 以上は、札幌市豊平区市民部月寒まちづくりセンター小林氏、及び札幌市立月寒小学校校長 小松靖一氏に情報提供をいただきました。ここに衷心よりお礼申し上げます。

「月寒地区町内会連合会50年のあゆみ」のバックミュージックとして「月寒の少年」が流れています。
https://youtu.be/o8Jwrc63GmA

  
 「貝がら小径」をめぐって 

 「貝がら小径」は、「月寒の少年」のA面として、昭和35(1960)年10月に世に出た曲です。作詞の野村俊夫、作曲の古関裕而は、コロナ禍の始まった令和2(2020)年度上半期NHK連続テレビ小説で、主役の古山裕一(古関裕而がモデル)の幼なじみとして、野村をモデルとした村野鉄男として登場していますが、実際には、古関裕而の同級生ではなく、5歳年上の野村は兄貴分であり、近隣に住む遊び仲間です。なお、劇中では野村俊夫・古関裕而・伊藤久男の「コロムビア三羽ガラス」は「福島三羽ガラス」という名で設定されていますが、伊東久男は、同じ福島県でも本宮出身で、学年も古関より1学年下で幼なじみではありません。
 「貝がら小径」の歌詞を読んだだけでは、どの地方の風景を歌ったものかはわかりませんが、逆に日本中、貝がらが転がっている海辺の道ならどこでも通じる歌詞です。「小径」と「小道」は表記違いの同義語になりますが、「小径」を使うことで、より自然が残っている風景を感じさせます。貝がらを踏みながら歩くと、波が鳴るよな、あるいは涙ふくよな音がし、松葉を踏みながら歩くと、空で鷗が笛吹いたといった素朴な歌で、少年の歌声にも合ってきます。
 なお、翌年3月に、「貝がら小径」の表題で、作詞・作曲者はいろいろの8曲(「貝がら小径」「どじょっこふなっこ」「古城の鷹」「月寒の少年」「村の娘」「あま柿しぶ柿」「リラの花咲く丘」「山小屋の灯」)が、コロムビア少年合唱隊の歌唱によるのオムニバス10インチ(25㎝)レコード(写真左上)として発売されています。


 小林佑玖 変声前最後の歌声を収録

  令和 5(2023)年2月8日、CD『いっしょにうたお!おやこでホッと♡こどもうた~保育園・幼稚園・こども園で人気のメッセージ・ソング~』が発売されました。この中には、映画『天空の城ラピュタ』より「君をのせて」NHK番組「生きもの地球紀行」の3代目エンディングテーマ「ビリーブ BELIEVE」ミュージカル『人間になりたがった猫』より「すてきな友達」の3曲小林佑玖の歌が入っています。前年6月にCD「GO!GO!令和キッズ こどもヒット・ソング~のりもの*ドライブ*おでかけパラダイス♪」が発売されましたが、そのときは、「君をのせて」だけが収録されていましたが、実際には、同年3月に3曲録音していたことがわかりました。

 小林佑玖の歌唱法は、どの曲においても劇的で、曲想を大きくつかみ、大きな山場を作っています。例えば、「ビリーブ BELIEVE」は、星朋樹が創唱した清純で素朴な歌唱とかなり違いますが、Twitterを始めたとき、最初に歌唱を紹介した曲でもあり、そこに小林佑玖の歌の本質を感じます。「すてきな友達」も、友達がいるからこそこんなに素晴らしいということが伝わってくる劇唱です。小林佑玖は、ソプラノ♪7ボーイズに入っている間、『レ・ミゼラブル』のガブローシュ役、『フランケンシュタイン』のリトルビクター役、『オリバー!』のオリバー役、『奇跡の人』の少年ジミー役、『キンキーブーツ』のヤングチャーリー役など多くの舞台で演じてきましたが、録音としては、小学生最後であり、また変声前最後ということになります。

 このCDは、2枚組全50曲で、しかも、~保育園・幼稚園・こども園で人気のメッセージ・ソング~という副題がついているために、幼児のための曲が収録されていると思われがちですが、全体を通して聴くと、小学生向きの愛唱歌もカバーしており、家族でこのCDに合わせて歌えるように作られています。

小林佑玖「ビリーブ BELIEVE」 https://www.youtube.com/watch?v=SxkH6G7ZBmE」   
小林佑玖「すてきな友達」  https://www.youtube.com/watch?v=ozFchpPIiow

小林佑玖 「君をのせて」 https://www.youtube.com/watch?v=pzwdYOLqV7o

       
  「ブラームスのワルツ」

  10代の頃、ラジオから聞こえてくるウィーン少年合唱団のブラームスのワルツに、夢のような憧れを抱いたことを思い出します。これは、もともと、この曲の原曲は、ブラームスのワルツ 変イ長調 op.39-15というピアノ曲であり、当時ワルツは、舞踏会で踊るための娯楽音楽という位置づけで、絶対音楽の推進者と思われていたブラームスがこのような曲を書くことは、この曲を捧げられた畏友の音楽評論家 ハンスクリックから驚きのまなざしで見られていたようです。しかし、ブラームスとヨハン・シュトラウスが仲良く並んでいる写真が遺されているように、人は、考えが違っても、意外と自分がもっていないものにあこがれるのかもしれません。このブラームスのワルツは16曲から構成され、最初は、4手の連弾用に作曲されました。後に、ブラームス本人により独奏用に編曲され今日に至ります。中でも第15番は一番有名な曲であり、その美しいメロディーから「愛のワルツ」とも呼ばれて、歌詞が付けられています。
 ウィーン少年合唱団のソリストたちは、歌詞をつけたこの曲を歌っていたわけですが、当時は、ドイツ語の歌詞もわからず、誰が歌っていたなど全く知りませんでしたし、それを調べる手段もありませんでした。ところが、最近になってこの歌声は、1955年にLPレコードに録音されたものであり、歌っている団員は、フーベルト・ヴァルナー(Hubert Wallner ソプラノ)、ヘルベルト・グレーガー(Herbert Gröger ソプラノ)、ジークフリート・ヘルマン(Siegfried Hermann アルト)の3重唱であることがわかってきました。しかし、何と夢見心地のする清澄な歌声でしょう。3人は、今ご存命ならば、80代になっておられると思います。

https://www.youtube.com/watch?v=dI3CWI0GF68

 『ⅮENNIS』(デニス)

  『DENNIS』というファーストネームをCDの表題としたのは、『AKSEL!』というCDを出したアクセル・レクヴィン以前の2009年のことです。デニス・チメレンスキーは、ドイツの少年。このCDのジャケットをネットで見つけながらどうして今まで手に入れなかったのだろうという反省さえするような素晴らしいクラシック曲とポップス曲をミックスしたCDです。2004年、フランスで公開時に観客動員数1位を記録した映画『コーラス』から心に残る3曲を挟みながら、本格的なクラシック曲を正確な発声としっかりした音程で大きな山場を作って歌いあげていきます。透明度の高い歌声でありながら、決して線の細い声ではなく、むしろ成人の女声を感じさせる歌声で、どの曲も大きな盛り上がりを見せてくれます。また、メランコリックな雰囲気をたたえた曲もあります。
   ヘンデルの歌劇「リナルド」から、「私を泣かせてください」「モーツァルトの「ラウダーテ・ドミヌム」などの古典的な曲から、シューベルトの「アヴェ・マリア」などもよい出来栄えで、多くのボーイ・ソプラノが採り上げる宗教曲も質の高い出来栄えですが、ロイド・ウェッバーの「ピエ・イエズ」は、一人で二重唱しています。とりわけ「ユー・レイズ・ミー・アップ」には、心を震わすような根源的な力があります。多くのボーイ・ソプラノのCDは、無名のレーベルから発売されることも多いのですが、このCDはSONYというレーベルから発売されています。それだけ、世界的に通用する歌であることの証ではないでしょうか。

1 Cerf volant(映画「コーラス」より「凧」)
2 Lascia ch'io pianga(「私を泣かせてください」)
3 Abendsegen(「夕べの祝福」)
4 Panis Angelicus(「天使のパン」)
5 Vois sur ton chemin(映画「コーラス」より「亡き人への想い」)
6 Schlafe, mein Prinzchen(「モーツァルトの子守歌」)
7 Laudate Dominum(「ラウダーテ・ドミヌム」)
8 Caresse sur l'ocean(映画「コーラス」より「海への想い」)
9 Ave Maria(シューベルトのの「アヴェ・マリア」)
10 Bist du bei mir(「私と一緒にいますか」)
11 Pie Jesu from "Requiem"(ロイド・ウェッバー レクイエムより「ピエ・イエズ」)
12 You Raise Me Up(「ユー・レイズ・ミー・アップ」)
13 Once In Every Lifetime(「一生に一度」)
14 The Last Unicorn(「最後のユニコーン」)
15 Moon River(「ムーン・リバー」)
16 The Last Unicorn(「最後のユニコーン」)


https://www.youtube.com/watch?v=AdlUp6ZOLDY&list=OLAK5uy_mwuVUoJ19SStTrbaKu84MrWluMQSCAy3k

 CD『Homeward Bound(帰り道の境 「蛍の光」)

  アンガス・ベントン(Angas Benton)は、12歳であった2016年に、BBC Young Chorister of the Yearで優勝し、ソロアルバムCD
『Homeward Bound』を録音しました。アンガス・ベントンの歌声は、本質的には繊細なやさしい声ですが、それを絞り出すような歌い方をします。ソロアルバム『Homeward Bound』は、日本では「蛍の光」として知られていますが、子守歌の「スオ・ガン」など、イギリスの伝統的な曲を集めています。初めて聴く曲も多いのですが、しみじみとしたもの悲しさを感じさせることもあります。そういう意味で、歌声にあった選曲をしています。

1.Sweet Chance that led my steps (Head) 「私の歩みを導いてくれた優しいチャンス」
2.Where'er you walk (Handel) オラトリオ「セメレ」 HWV 58 - 第2幕 アリア「そなたの赴くところ、何処にも」
3.The Lark in the Clear Air (Tate) 「澄みきった空に歌うヒバリ」
4.The Skye Boat Song           「スカイ・ボート・ソング」
5.Silent Worship (Vaughan Williams)   「沈黙の礼拝」
6.The Ships of Arcady (Head)           「アーカディの船」
7.The Song of Wandering Aengus (Archer) 「彷徨うアエンガスの歌」
8.Linden Lea (Vaughan Williams)    「リンデン・リー]
9.Sleep my baby <Suo Gan>             「子守歌 スオ ガン」
10.The Coasts of High Barbary          「ハイバーバリーの海岸」
11.The Ash Grove (Britten)       「灰の木立」
12.Molly Malone               「モーリーバローン」
13.The Sally Gardens (Britten)     「サリーガーデンズ」
14.Amazing Grace             「すばらしき主の恵み(アメージング グレース)」
15.The Little Road to Bethlehem (Head)「ベツレヘムへの小さな道」
16.Auld Lang Syne                         「オールド・ラング・サイン」
17.Homeward Bound            「ホームワードバウンド(蛍の光)」


 『世界の国からこんにちは~世界の児童合唱団 来日名演唱』
         (パリ木の十字架少年合唱団編)(少年の町合唱団編)

   パリ木の十字架少年合唱団は、昭和32(1957)年初来日して以来、しばしば来日して日本ではなじみ深い少年合唱団です。この当時のこの合唱団の特色は、少年だけでなく、男声が加わった混声合唱団であったため、当時、変声期にかかってファルセットで歌っていた団員はあったと考えられますが、少年だけのウィーン少年合唱団とは違ったタイプの少年合唱団と受け止められていました。
 このCDに収められている20曲は、1967年と1971年に録音・発売されたものですが、日本公演を意識して、万国博覧会を前にして作られた「世界の国からこんにちは」や服部良一が合唱曲に編曲した「山寺の和尚さん」のような日本の曲や和楽器を盛んに取り入れた演奏が多く採り入れられています。また、各地の日本民謡を合唱曲にアレンジしています。このような試みは、それから数年後に録音されたビクター少年合唱隊の「天使のハーモニーシリーズ」にも影響を与えているのではないかと考えられます。しかし、半世紀以上前の録音なのに、音質の古さを感じません。
 従って、この当時の本来のパリ木の十字架少年合唱団の歌唱は、別のLPやCDを鑑賞することが大切です。この当時のパリ木の十字架少年合唱団の変声前の少年の歌声は、甲高い金属的な歌声がその特徴と言えます。また、変声期も現在よりは遅かったので、ボーイ・ソプラノとして歌える期間も長く、円熟した歌声を聴くことができます。なお、指揮をしたロシェ・デルシーヌ神父は、1978年9月に他界されました。その後指導者が変わるごとに、歌声も変わってきております。パリ木の十字架少年合唱団は、長年にわたってその歌声を録音してきていますので、時代と共に、あるいは指導者と共に、その歌声がどう変化してきているかを追いかけて行っても面白いかもしれません。
 しかし、何といってもその本領は、宗教曲にあり、ビクトリアの「おお、おおいなる神秘」や、「アヴェ・マリア」などは、合唱曲であるからこそ表現できる独自の味わいを感じます。「たまごとにわとり」と日本語訳(翻案)された曲は、フランス民謡として「みんなのうた」で紹介されましたが、『悲しみの天使(寄宿舎)』の汽車の中では、少年合唱合唱で歌われていますので、長くフランスの子どもに親しまれてきた曲であることがわかります。また、「ダニー・ボーイ」は、ダン神父の非行少年更生施設建設を描いたアメリカ映画『少年の家(Fighting Father Dunne)』の中でも、採り上げられています。

1.世界の国からこんにちは          
2.さくら さくら
3.山寺の和尚さん
4.たまごとにわとり
5.ダニー・ボーイ
6.サルベ・レジーナ
7.山の乙女
8.おお、おおいなる神秘
9.コルヌワーヌの子守唄
10.小さな部屋
11.越天楽
12.佐渡おけさ(新潟県民謡)
13.金毘羅船々(香川県民謡)          
14.田原坂(熊本県民謡)
15.ソーラン節(北海道民謡)
16.五木の子守唄
17.アヴェ・マリア
18.我が選びしぶどうの木
19.おお,イエス・キリスト
20.聖夜(SILENT NIGHT)
 

 少年の町合唱団は、フラナガン神父の宗教、国籍、人種の別なく、家族の死や離婚などで家もなく恵まれていない子どもたちを温かく迎えて、立派な社会人としての知性と教養を身につけて送り出す寄宿と教育のために設けられたアメリカ合衆国の児童自立支援施設ですが、少年合唱団も、そのような理念の下にその一環として作られた合唱団ですが、昭和43(1968)年5月~6月にかけて指揮者のフランシス・P・シュミット神父以下21名の少年たちがボーイズ・タウン創立50周年の記念行事として日本公演しています。
 そのレパートリーは古典からロマン派、近代から現代音楽と幅広く、アメリカ歌曲や黒人霊歌、ミュージカル・ナンバーにも及びました。変声期前の少年ばかりでなく、ボーイズ・タウンに住んでいる青少年からバスを加えている混声合唱団です。
 第1曲目の「懐しきケンタッキーの我が家」は、男声が主旋律を歌い、少年合唱がそれに加わっていくという構成で、ボーイ・ソプラノがメインの少年合唱という感じがしませんが、どの曲もそのような編曲ではなく、曲によって特に有節歌曲や「サマータイム」などでは、一番ごとに主旋律を歌うパートは変わっていくなど、編曲の妙を楽しむことができます。 

1.懐しきケンタッキーの我が家
2.ダニー・ボーイ
3.深い河
4.ホ・ラ・リ
5.ヴィデラ
6.オールド・スモーキーの頂上で
7.ハープを弾け、幼いダビデ
8.あたらしきみどり児
9.サマータイム
 
10.手をたたいて
11.飾りのついた四輪馬車~いきな噂をたてられて
12.そうなったらすてき
13.夜の歌
14.かえるのように
15.Make Believe
16.こいのぼり
17.夕やけ小やけ
 

 『キャロルの祭典』

   『キャロルの祭典(A Ceremony of Carols)』は、ベンジャミン・ブリテン(Edward Benjamin Britten)が第2次世界大戦中の1942~1943年にウェストミンスター大聖堂少年合唱団のために作曲されたコンサート用の教会音楽ですが、そのような時代背景もあって、平和を願うイエスの降誕祭という雰囲気を醸し出しています。また、歌詞はラテン語の歌詞以外に、14世紀と15世紀の中世の英語で書かれた歌詞が多く使われていることから、現代の言葉ではないことを押さえておく必要があります。
  ところが、この曲の初演は、1942年12月に、ウェストミンスター大聖堂少年合唱団ではなく、女声のフリート・ストリート合唱団で初演され、翌年の1943年12月4日ロンドンのウィグモアホールで、作曲者であるブリテンの指揮、ウェールズにあるモリストン少年合唱団、(ハープ)マリア・コーチンスカで演奏され、成功を収めました。そこで、ブリテンはデッカに依頼し、1944年にレコード録音されましたが、(DECCA 1155~1157)。なお、この時の指揮者はイヴォール・シムズでした。
 このCDの原曲であるLPの録音は、1959年に行われていますが、故国イギリスのウェストミンスター大聖堂少年合唱団などの聖歌隊ではなく、コペンハーゲン少年合唱団が抜擢された理由は何だろうと考えてみました。当時のコペンハーゲン少年合唱団は、一般的に「繊細な」という言葉で表されることの多いイギリスの聖歌隊と比べて、声質は明るく、のびのびとしており、発音も力強さを感じます。この曲に求められるのは、そのような明るい力強さと繊細さの対比ではないでしょうか。私は、この曲をTOKYO FM少年合唱団や、暁星小学校聖歌隊の生演奏で聴いていますが、それとはまた違ったものを感じました。
 なお、このCDは、ブリテン作曲の「みどり児はお生まれになった(A Boy was Born)」と「金曜日の午後より」も収められています。「みどり児はお生まれになった」は、ブリテン19歳の作品ですが、現代的な曲想の曲で、混声合唱に少年合唱が加わった曲で、少年合唱も、いわゆる聖歌隊的な歌声ではありません。「金曜日の午後より」は、ピアノ伴奏による少年合唱曲ですが、むしろ素朴さが際立つ曲です。ブリテンが少年の声そのものを愛していたことが伝わってくる曲集です。
1. 入堂 Procession
2. 主の降誕を歓迎! Wolcum Yole!
3. そのようなバラはない There is no Rose
4a. あの幼児が That yonge child
4b. 子守り歌 Balulalow
5. 四月の露のように As dew in Aprile
6. この赤子が This little Babe - 聖Robert Southwell, 1595
7. 間奏曲 Interlude - ハープ独奏
8. 凍りつく冬の夜に In Freezing Winter Night - 聖Robert Southwell, 1595
9. 春のキャロル Spring Carol
10. 神に感謝 Deo Gracias
11. 退堂 Recession


 ハノーヴァー少年合唱団の宗教曲を集めて

   ハノーヴァー少年合唱団は、1950年に設立されたドイツの比較的新しい少年合唱団で、聖歌隊ではなく、コンサート活動が中心の少年合唱団ですが、宗教曲をメインとし、1981年には来日しています。2002年1月にこの合唱団を創設したハインツ・ヘニッヒ(Heinz Hennig)が亡くなり、方向性が危ぶまれたのですが、指導を引き継いだイェルク・ブライディング(Jörg Breiding)は、合唱団の良さを生かしながら、レパートリーを広め、一層の発展を遂げていると評価されています。このアルバムには、そんな彼らの2006年からの演奏が収録されています。既発リリースからの曲もありますが、いくつかは、このCDが初収録であり、メンデルスゾーン作曲の詩篇43番「神よ、私を審き」Op.78-2は、2012年3月のライブでもあり、もう現在(2022年)では10年前の演奏にはなりますが、最近の姿を捉えています。ヴィヴァルディからジョン・ラッターまでのおよそ400年に渡る宗教曲における合唱作品の変遷を楽しむことができます。

1  ヴィヴァルディ(1678-1741):グローリア ニ長調 RV589より
2  J.S.バッハ(1685-1750):カンタータ第106番「神の時こそ最善の時」BWV106より
3  ミヒャエル・プレトリウス(1571-1621):讃歌第98番より「地上のすべての者よ、主に歓呼せよ! 」
4  ミヒャエル・プレトリウス: Venite, cantate in cythara Deo
5  モンテヴェルディ(1567-1643):主はわが主に仰せられる
6  メンデルスゾーン(1809-1847):詩篇43番「神よ、私を審き」Op.78-2
7  シュッツ(1585-1672):わが心は主をあがめ SWV426
8  ブクステフーデ(1637-1707頃):来たれと天使に告げて言え
9  ハンマーシュミット(1610/11-1675):主よ,我らに平安を与えたまえ
10  メンデルスゾーン:主よ,我らに平安を与えたまえ
11  アルフレード・ケルッペン(1926-):主よ,我らに平安を与えたまえ
12  ハラルド・ヴァイス(1949-):レクイエムより「楽園にて」
13  シュッツ:主に向かって新しい歌を歌え SWV35
14  J.S.バッハ:マニフィカト ニ長調より BWV243
15  ジークフリート・シュトローバッハ(1929-):汝らキリスト者よ、こぞりて主をたたえよ
16  ジョン・ラッター(1945-):マニフィカトより「父と子と聖霊に栄光あれ」


 小林佑玖 小学生最後の録音

 このCD「GO!GO!令和キッズ こどもヒット・ソング~のりもの*ドライブ*おでかけパラダイス♪」が発売されたのは、令和4(2022)年6月で、幼児向けの曲が多いCDなのですが、このCDには、小林佑玖によって「君をのせて」~『天空の城ラピュタ』が入っています。録音されたのは、前年度ということですが、小学生最後の録音ということになります。曲想を大きくつかみ、大きな山場を作っています。小林佑玖は、小学3年生よりミュージカル『レ・ミゼラブル』のガブローシュ役で出演していますし、それ以後も、ソプラノ♪7ボーイズとして活躍し、小学6年生の時には、ミュージカル『オリバー!』のタイトルロールを演じています。このCDは、全部で30曲ですが、小林佑玖だけで1枚CDを作ってもよいのではないかと思います。

小林佑玖 「君をのせて」 https://www.youtube.com/watch?v=pzwdYOLqV7o


 越永健太郎の歌声を聴くことのできるCD

  この歌が越永健太郎の代表作とは言えないかもしれませんが、令和4(2022)年6月に発売されたCD「こどもがうたううたをあつめました」で、「にじ」「さよならぼくたちのこどもえん」といった幼児向きの歌も歌っていますが、しっかりした歌声で、これらの歌に大きな山場を作って歌いあげています。表現力の高さを伺うことができます。

越永健太郎「さよならぼくたちのこどもえん」 https://www.youtube.com/watch?v=PVxh9B_1MCg
越永健太郎「にじ」                   
https://www.youtube.com/watch?v=QZBL2pn0cKI





 河野ヨシユキの変声前の歌を聴くことのできる「米山正夫大全集 上」

  河野ヨシユキが昭和29(1954)年の紅白歌合戦でで歌った「キツツキの赤いトランク」と、映画『緑はるかに』の主題歌 「緑はるかに」の2曲を含む「米山正夫大全集 上」を入手しました。「キツツキの赤いトランク」は、これまでの童謡というジャンルにくくられる歌よりもむしろヨーデルをアレンジした歌謡曲ではないかと思います。歌声は、当時流行のわざと可愛らしさを強調したいわゆる「童謡声」ではなく、基調になる歌声はアルトに近い落ち着いた歌声で洋楽の要素をもった歌謡調の歌唱とファルセットを駆使したヨーデル歌唱を組み合わせた歌で、聞かせてくれる歌に仕上がっています。一方、この歌唱法は、声帯に負担をかけるのではないかとも感じます。『緑はるかに』の主題歌 「緑はるかに」 では、河野ヨシユキは、安田祥子と共に主題歌を歌っています。映画ではこの歌はユニゾンで歌われ、むしろ二人の持ち味や男女差をあまり感じない歌唱でしたが、独唱した「緑はるかに」は、安田祥子の歌声とは違って、童謡とはまた違った独自の歌唱を聴くことができます。

 聖フローリアン少年合唱団の「LITTLE CHRISTMAS」

 聖フローリアン少年合唱団は、最近CDを積極的に出していますが、「LITTLE CHRISTMAS」は、その中でも最新のものです。このCDは、先日紹介したウィーン少年合唱団のニューアルバム『Together』と同時に購入しましたが、同じオーストリアの少年合唱団でありながら、かなり違った印象を強く受けました。
   クリスマスアルバムを時期的には半年違う時期に聴くと雰囲気は変わるかもしれませんが、イエス・キリストが誕生した砂漠の地ベツレヘムと森林の多く雪が降るヨーロッパの同じ季節は、いろいろな意味で違うのではないかと思います。
   このアルバムに収められた26曲の中には、ソロ、少年合唱、男声も交えた混声合唱など、いろいろな歌の形態が含まれており、ア・カペラで歌われることも多いので、歌声に集中できます。また、編曲もオーソドックスなものから、ジャズっぽい編曲のものまでいろいろあって、クリスマスに事寄せた「歌の宝石箱」のようです。
   例えば、1曲目は、ラテン語によって歌われる「Veni, redemptor gentium」によって厳かに始まりますが、少年合唱と男声合唱が交互に歌われたり、混声で歌われたりして、聖なる雰囲気を高めてくれます。ところが、次は、「God rest you, merry Gentlemen」のボーイ・ソプラノソロと男声合唱が掛け合うような編曲で、クリスマスの楽しさを感じさせます。・・・というように、同じタイプの曲を固めて演奏するのではなく、1曲ごとに違った味わいの曲を聴くことができます。特筆されるのは、少年合唱やボーイ・ソプラノソロの歌声が大変可愛らしく聞こえることです。特に“Have Yourself a merry little Christmas,”を歌うソリストの歌声に心惹かれました。
    ウィーン少年合唱団の『Together』が世界の曲を集めてインターナショナルな各国の少年によって歌われるのに対し、聖フローリアン少年合唱団は、オーストリアの伝統にもとづいた歌声で歌っています。指導者ののフランツ・ファンベルガー先生は、今から40年ぐらい前、ウィーン少年合唱団で7年間指導したこともあり、その頃の伝統的な歌声を今に伝えているところがあります。指導者によって、合唱団の歌声は変わることは、これまでにも、国内外の合唱団の歌声を聴いて感じたことですが、今回もそのような気がしました。

1.Veni, redemptor gentium              さあ、国々の贖い主
2.God rest you, merry Gentlemen*         神はあなたを休ませます、陽気な紳士*
3.Amid the cold of winter               冬の寒さの中
4.Im Wald is so stad                  森の中は街です
5.Ach mein Seel, fang an zu singen         ああ、私の魂、歌い始めます
6.Auf, auf ihr Hirten                  彼女の羊飼いに
7.Kommet ihr Hirten                  羊飼いに来て
8.Ein groBe Freud verkund ich euch        私はあなたに大きな喜びを発表します
9.Die Engel und die Hirten              天使と羊飼い
10.Unser lieben Frauen Traum            私たちの愛する女の夢
11.Es ist ein Ros entsprungen*           バラが湧きました*
12.Morgen, Kinder, wird's was geben        明日、子供たち、何かがあるでしょう
13.O Tannenbaum                    樅の木
14.Morgen kommt der Weihnachtsmann      明日サンタクロースがやってくる
15.Frohliche Weihnacht uberall            どこでもメリークリスマス
16.Zu Bethlehem geboren               ベツレヘム生まれ
17.Jesus Christ geboren ward (A la minuit de Nool)イエス・キリストが生まれました
18.Es bluhen die Maien                 メイズが咲いています
19.Schlaf, mein Kindelein                眠れ、私の小さな子供
20.O Jesulein suB                   おお、ジェスレインスウィート
21.Zwischen Ochs und Eselein*           牛とロバの間*
22.Gaudete, Christus est natus*          喜んで、キリストは生まれました*
23.Born on a New Day                 新しい日に生まれた
24.Have yourself a merry little Christmas     良きクリスマスを
25.Jingle Bells*                     ジングルベル*
26.Aiblinger Weihnachtsweis & Adeste fideles  アイブリンガークリスマス&すべてのあなたがた忠実*


       
   ミッチェル少年合唱団のCD『Essential Oldies』

 ミッチェル少年合唱団の1950年代の演奏は、エンターテイメントの要素が強いというイメージを受けました。しかし、「帰れ、ソレントへ」で始まり、「ゆかいに歩けば」と続く選曲や、全員で歌う部分と山場で一節ずついろんな声質の少年のソロを交代で入れるという編曲も、それが当時の聴衆に喜ばれ、当時のアメリカ文化の一翼を担っていたと考えると、そういう視点で鑑賞することが大切です。
 ヨーロッパの少年合唱団では、たとえ部分ソロは入れたとしても、決してバッハ=グノーの「アヴェ・マリア」にこのような編曲はしなかったでしょう。この12曲にの中には、題名を知らなかった曲もありますが、どこかで聴いたことがあるような懐かしさを感じました。とりわけ、「アイルランドの子守歌」は、映画『我が道を往く』のテーマ曲で、映画のシーンが頭に甦ってきて、第二次世界大戦の最中でも、このような良心的な映画が作られたことにある種の感動を覚えます。新たな発見としては、「アイルランドの子守歌」には、前歌の部分があり、おなじみの「トゥーラルーラルーラ」で始まるのではないということです。映画『続・菩提樹』において、アメリカ人がフォスターの曲をはじめ母国の音楽を嗜好していると感じさせるところが描かれていますが、ここには、フォスターの曲はありません。この曲集の中で音楽的に一番聴かせてくれるのは、ディズニーのアニメ映画『ピノキオ』の中でコオロギが歌う「星に願いを」です。当時のアメリカのコーラスグループに、ファルセットを売りにした「レターメン」(代表曲は「ミスター・ロンリー」)や「ラ・プラターズ」(代表曲は「オンリー・ユー」「煙が目に染みる」)があることを考えると、ボーイ・ソプラノの延長線上にそれらのグループや歌があるように感じました。

1.Come Back To Sorrento       帰れ、ソレントへ
2.The Happy Wanderer         ゆかいに歩けば
3.Oh, What A Beautiful Mornin'    ああ、なんて美しい朝
4.That's An Irish Lullaby       アイルランドの子守唄
5.El Rancho Grande           大きな牧場
6.I Believe                 私は信じています
7.That Wonderful Mother Of Mine  あの素晴らしい私の母
8.Because                 なぜなら
9.Beyond The Blue Horizon      青い地平線を超えて
10.When You Wish Upon A Star   星に願いを
11.Ave Maria               アヴェ・マリア
12.The Pledge Of Allegiance      忠誠の誓い


 ウィーン少年合唱団のニュー・アルバム『Together』

 ウィーン少年合唱団は、海外の演奏旅行に行くとき、訪問国の歌をそのプログラムに入れて演奏し、それを各コアのレパートリーにしています。それを集めたLPやCDが発売されたこともあります。
 さて、ウィーン少年合唱団は、2021年12月10日(金)に新作『Together』をデジタル・リリースしました。 コロナ禍でのパンデミックにより、2020年3月以降の公演がすべて中止となったことから財政難に陥り、存続の危機に立たされていました。2020年3月以降のすべての公演はキャンセルされ、公演収入は100万ユーロ(約1億2000万円)減となって存続の危機に立たされました。現在は政府の支援を受けて活動も正常化しつつあり、「Together」というタイトルのアルバムも「ドイツ・グラモフォン」レーベルからリリースされましたが、今回制作されたCDは、時節柄、連帯感を求める気持ちに寄り添う19曲が選曲されています。
   アルバムには「ドナ・ドナ」「ウェラーマン」「家と母を夢見て / 旅愁 / 送別 」「荒城の月」など日本でも良く知られる曲がラインナップされており、「荒城の月」「旅愁」は日本語で歌唱。合唱団の芸術監督で団長であるゲラルト・ヴィルトは、
「これらの曲にはそれぞれに素晴らしいストーリーがあります。全員がレコーディングに参加しましたが、このようなレパートリーを再び歌えることを、誰もが心から喜んでいます。そして、これらを作品を聴いてくださる皆様と共有できることを願っています。」
とコメントしています。ただ、長年ウィーン少年合唱団を聴き続けてきた視点から聴くと、これらの曲は、インターナショナル化した団員による各国の歌であるため、優雅さといったウィーン情緒が乏しくなってきたという感も否めません。
   なお、アルバムから「デイダー・ライト(バナナ・ボート・ソング)」、「ウェラーマン」のMVが公開されていますので、YouTubeのコーナーをご覧ください。

収録曲
01 デイダー・ライト(バナナ・ボート・ソング)(ジャマイカの労働歌)
02 ラ・パロマ(セバスティアン・デ・イラディエル)
03 ドナ・ドナ(ハーゲイル・ヴァージョン)(ショロム・セクンダ、他)
04 クワイア(ゲラルト・ヴィルト、ティナ・ブレックウォルト)
05 しばし楽の音に(劇音楽《オイディプス》から)(ヘンリー・パーセル、ジョン・ドライデン)
06 ミュージック・ダウン・イン・マイ・ソウル(黒人霊歌)
07 ヴェム・カン・セグラ・フォルタン・ヴィンド(誰が風なしで航海できるだろう)(オーランド諸島民謡)
08 長い道(悲しき天使)(ボリス・フォーミン、コンスタンティン・ポドレフスキー)
09 おお、楽しいこだま(オルランド・ディ・ラッソ)
10 希望(《3つの聖歌》から)(ジョアキーノ・ロッシーニ、イポリット・ルーカス)
11 ニスカ・バニャ(セルビア民謡)
12 セシヴマ・シギヤ(歌い、喜ぶ)(南アフリカ/コーサ族の歌)
13 家と母を夢見て / 旅愁 / 送別(ジョン・ポンド・オードウェイ、犬童球渓、李叔同)
14 荒城の月(瀧廉太郎、土井晩翠)
15 ラグパティ・ラーガヴ・ラジャ・ラム(インドのバジャン(献身歌)。ヴィシュヌ・ディガムバル・パルスカル、マハトマ・ガンディー)
16 マン・クント・モーラー(われを師と仰ぐものは)(アミール・ホスロー)
17 ウスクダラ(ヌリ・ハリル・ポイラズ、ムザファー・サリソゼン)
18 オン・ザ・ロード・アゲイン(ウィリー・ネルソン)
19 ウェラーマン(ニュージーランド捕鯨船のシーシャンティ)



イフ~もし、私の願いが叶うなら~

   これまで、どういうわけかリベラのCDをこのコーナーで紹介したことはありませんでした。しかし、そのCD(DVD)は買い貯めており、このユニットについて語ることも必要だと考えました。このCDが録音されたときは、コロナの世界的な大流行の中であり、このユニットを創設・主宰した故ロバート・プライズマン指揮による最後の作品になったという点でも、記念碑的な作品になっています。

 リベラを単に「ヒーリングミュージック」と捉えるのは、一面的な見方であり、クラシックと言っても声楽曲だけでなく、器楽曲が原曲である曲などいろいろなジャンルの原曲を少年合唱曲にアレンジしている折衷的なところにその特質があります。しかし、リベラの演奏は、そのアレンジにこそその特質があり、繊細な美しさを聴かせる曲から、力強い曲までいろいろな側面を多声化された豊麗な歌声で聴くことができます。

 タイトルになっている「イフ~もし、私の願いが叶うなら」は、映画『アンネの日記』をもとにしていますが、何よりも心の安らぎを与えてくれます。また、有名になった「永遠の光」はじめ4曲のロバート・プライズマン作曲の曲は今後新たなものを聴くことができなくなると思うと、よけいにその1曲、1曲が愛しくなってきます。「主よ御許に近づかん」は、いろいろな聖歌隊によって歌われていますが、よく知られているだけに、ここまで美しく歌い上げることで、この曲に新たな生命を吹き込んだように感じます。

【CD】収録曲(全15曲+日本盤のみボーナストラック1曲)
1.愛するものに眠りを与える時に(ヴィヴァルディ『ニシ・ドミヌス』より)
2.アヴェ・マリア(シューベルト)、
3.イフ~もし、私の願いが叶うなら(マイケル・ナイマン 映画『アンネの日記』より)、
4.ホーム(村松崇継)、
5.みんなの歌を歌いましょう! (インドネシアのコンテンポラリーソング)、
6.主よ、私たちを支えてください(ロバート・プライズマン)、
7.ディープ・ピース(ジョン・ラター「Gaelic Blessing」)、
8.いにしえの天使/Once an angel(ロバート・プライズマン)、
9.みんなの歌をつくりましょう! /Let me make songs(ロバート・プライズマン)、
10.トータル・プレイズ(ゴスペル)、
11.ヴェスペラ/Vespera(ロバート・プライズマン)、
12.サクリス・ソレムニス(ベートーヴェン:交響曲第7番第2楽章より)、
13.主よ御許に近づかん/Nearer my God(讃美歌)、
14.終わりのない世界/Nunc dimittis(ジェフリー・バーゴン)、
15.永遠の光/Lux aeterna(ロバート・プライズマン)
〈日本盤のみボーナストラック〉
16.ヘッドライト・テールライト(ヴォカリーズ)(TBS系日曜劇場『下町ロケット』劇中歌)

【DVD】収録内容
1.「イフ」ミュージックビデオ
2.「明日へ~for the future」ミュージックビデオ、
3.インタビュー&来日時のオフ映像など


 『ミッフィー 夢見るシネマ&ミュージカル~メルヘン&ドリーム~』

  このCDは、子どもにも親しみやすい映画やミュージカルの歌を合唱、独唱、オーケストラで演奏したオムニバス作品で、演奏した時期もかなり幅があります。日本でも半世紀以上にわたって歌い継がれてきたミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』のナンバーや、現在も繰り返し上演されているミュージカル『キャッツ』のナンバーだけでなく、子どもあるいはファミリー向けアニメや実写映画の歌の部分をオーケストラ演奏に編曲したものなど21曲が1枚のCDに収められています。

   ここでは、ソプラノ♪7ボーイズが歌った「スキンブルシャンクス(鉄道猫)」 (『キャッツ』より)と「信じてみなよ(オリバーのマーチ) 」(『オリバー!』より)を中心に述べていきます。なお、「メモリー」 (『キャッツ』より)は、ソプラノ♪7ボーイズの岡村要のソロによって歌われており、「私のお気に入り」には、合唱の12人のメンバーの中に岡村要と山口れんの名前が記載されていますが、この録音時には、まだソプラノ♪7ボーイズは誕生しておらず、CD「めざせ! ミュージカル☆キッズ」の録音がきっかけとなって誕生したと言えます。

   なお、レコーディング参加メンバーは、ソプラノ♪7ボーイズのtwitterによると、下記の7名(竹内彰良 中館翔一 中村海琉 小林佑玖(写真) 宮澤伶輔 小暮航ノ介 松浦歩夢)の名前が挙げられています。解説書に「信じてみなよ」のソロ部分が小林佑玖の歌唱であることが記載されていますが、録音時は記載されていません。

  「スキンブルシャンクス」は、劇団四季の日本各地での長期公演の成果もあって、児童合唱団だけでなく、学校の合唱部や音楽会でも採り上げられるようになってきました。ソプラノ♪7ボーイズは、ミュージカル志向の少年も多いことから、歌詞がよく伝わる明瞭な声質で、単なる合唱曲というよりも劇音楽として歌っています。学校音楽としては、歌詞が北村けいこ訳のものが使われることが多いですが、ここでは、劇団四季の総帥浅利慶太訳の歌詞が使われているので、“やくざな奴”のような歌詞もあってノリがよく、「鉄道猫」という副題がぴったりしていると感じます。

   「信じてみなよ」は、訳詞が昨年(2021年)上演されたミュージカル『オリバー!』の高橋亜子によるものであり、新鮮さを感じました。「金がなくて マジで辛くて」のマジという歌詞も、30年前なら日本の社会一般で使われていなかったのではないでしょうか。「マジ」という言葉がこの30年間で日本に定着したなと思ったものです。本来は、この歌のソロ部分は、ドジャーによって歌われるのですが、オリバー役を演じた小林佑玖の劇的な歌い方が似つかわしく感じます。小林佑玖は、「一人ミュージカル」が特技ということですから、オリバーとドジャーを歌い分けることもできるのではないかと思いますが、この歌唱は、上品なドジャーという感じがしました。この録音が小林佑玖はじめミュージカル『オリバー!』出演者の歌唱によってされたことにも大きな意味を感じます。

   また、このCDには、「チキ・チキ・バン・バン」のソロに鈴木大翔の名が挙げられています。この少年についての情報は知りませんが、この歌に似つかわしい元気で明るくてよく伸びる声が特色です。少女の合唱も多く録音されていますが、少年の歌声と少女の歌声の違いを知ることもできます。

1.ドレミの歌 (『サウンド・オブ・ミュージック』より)
2.私のお気に入り (『サウンド・オブ・ミュージック』より)
3.ひとりぼっちの羊飼い (『サウンド・オブ・ミュージック』より)
4.エーデルワイス (『サウンド・オブ・ミュージック』より)
5.トゥモロー (『アニー』より)
6.メモリー (『キャッツ』より)
7.スキンブルシャンクス(鉄道猫) (『キャッツ』より)
8.信じてみなよ(オリバーのマーチ) (『オリバー!』より)
9.友だちはいいもんだ (『ユタと不思議な仲間たち』より)
10.チキ・チキ・バン・バン (『チキ・チキ・バン・バン』より)
11.スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス (『メリー・ポピンズ』より)
12.チム・チム・チェリー (『メリー・ポピンズ』より)
13.ビビディ・バビディ・ブー (『シンデレラ』より)
14.ハイ・ホー (『白雪姫』より)
15.きみもとべるよ! (『ピーター・パン』より)
16.序曲 (『オペラ座の怪人』より) (オーケストラ・ファンタジー)
17.一晩中踊れたら (『マイ・フェア・レディ』より) (オーケストラ・ファンタジー)
18.虹の彼方に (『オズの魔法使』より) (オーケストラ・ファンタジー)
19.星に願いを (『ピノキオ』より) (オーケストラ・ファンタジー)
20.メイン・テーマ (『ニュー・シネマ・パラダイス』より) (オーケストラ・ファンタジー)
21.サムホエア・イン・マイ・メモリー (『ホーム・アローン』より) (オーケストラ・ファンタジー)

演奏
ソプラノ♪7ボーイズ(竹内彰良 中館翔一 中村海琉 小林佑玖 宮澤伶輔 小暮航ノ介 松浦歩夢)
ことのみ児童合唱団 音のかけはしこども合唱団 杉並児童合唱団 すずかけ児童合唱団 えびな少年少女合唱団(ソロ:鈴木大翔)
坂本博士 ボニー・ジャックス 日本フィルハーモニー交響楽団 他


 Oliver Bartonの“A Treble's Voice"

 ニューポート大聖堂聖歌隊に所属していたオリバー・バートン(Oliver Barton 2001~  )のCD“A Treble's Voice" は、13歳ぐらいのときの歌唱でしょうか。それぞれの歌をかなり歌を歌い込んでいる感じもしました。合唱とともに歌う歌も、ソロの歌声が浮かび上がってくるような感じがして、ソリストはこうでなければと思わせます。ミュージカルのナンバーとともに、シューベルトの歌曲が3曲入っていますが、こちらの方が聞きなれているので、親しみがもてました。

  1.A New Year Carol 「新年のキャロル」(ブリテン)
  2.Rune of Hospitality 「おもてなしのルーン」(ラッブラ)
  3.Corpus Christi Carol 「コーパスクリスティキャロル」(ブリテン)
4.A Summer Day 「夏の日」 (サイモン モールド)
5.Merciless Day 「無慈悲な日」 (サイモン モールド)
6.My House - from "Peter Pan" ミュージカル『ピーターパン』から「私の家」(バーンスタイン)
7.Oh what a beautiful morning 「なんて美しい朝」(ロジャース)
8.Where is Love? - from "Oliver" ミュージカル『オリバー!』より「愛はどこなの?」(バート)
9.Long John Silver's Song ミュージカル『ベンジャミンガンの島』から「ロングジョンシルバーの歌」(サイモン スレイター)
10.Deck the Halls* & Scrooge's Song - from "Scroge" ミュージカル『スクルージ(クリスマス・キャロル)』から「ホールを飾れ」
(サイモン スレイター)
11.Old Mister Noah「オールド ミスター ノア」(ニーナ ペリー)
12.Cuando se quiere「必要なときに」(ロイグ)
13.A selection of songs from "Tales of London Town" ミュージカル『ロンドンタウンの物語』からの曲のセレクション(バーチ)
14.An die Musik 「音楽に寄せて」(シューベルト)
15.Der blinde Knabe 「盲目の少年」(シューベルト)
16.Ständchen 「セレナーデ」(シューベルト)



 Micheal Crossmaの“Sing”

 マイケル・クロスマン(Micheal Crossman1955or1956~ )が10歳の時に残したLP“Sing歌う”(後日CD化されました)の歌声は、何よりも声質の愛らしさによって特徴づけられます。聴く人は、きっとこの甘く可愛い歌声に癒されることしょう。このLPには、13曲の歌が入っていますが、そのうち英語の歌は、おそらく、当時のカナダの子どもたちによく知られた子どものための歌でしょう。
 かえって、ナポリ民謡の「サンタ ルチア」とドイツ民謡の「別れ」は、日本でも、音楽の教科書でも採り上げられて、よく知られています。

1.Island in the sun(「太陽の下の島」)
2.The Castle of Dramore(「ドロモア城」)
3.The road to the isles(「島への道」)
4.Dear old Donegal(「親愛なる老いたるドネガル」)
5.The old pigsty(「古い豚舎」)
6.Grandma(「おばあちゃん」)
7.Farewell to Nova Scotia(「ノバスコシアへの別れ」)
8.When over sunlit paths(「太陽に照らされた道を越えたとき」)
9.Lovely lady dessed in blue(「青い服を着た素敵な女性」)
10.Santa Lucia!(「サンタ ルチア」)
11.Good-night mister moon(「おやすみミスタームーン」)
12.The green glens of Antrim(「アントリムの緑のグレン」)
13.Mussiden(「別れ」)


林牧人の絶唱で聴く映画『誘拐報道』の主題歌「風が息をしている」

   映画『誘拐報道』(1982) の主題歌「風が息をしている」を、林牧人の歌声だけ取り出して聴きたいために、Yahooオークションのお世話をいただいて、今では、めったに入手できない映画『誘拐報道』のEPレコードを購入しました。これまで、パトカーや報道機関の車が行き交う雑然としたドラマのラストシーン中で、DVDを鑑賞しながら、この歌を歌だけを取り出して清聴することはできませんでした。

   たとえ、この映画の主題が、人間の弱さや醜さであったとしても、主題歌「風が息をしている」は、孤高の域に達しています。この映画は、本来決して悪人ではない人間が借金地獄に陥り、その地獄から逃れるため、児童誘拐という犯罪によって、かえって多くの人を地獄の苦しみに追い詰めるドラマであることを知り、そこに描かれた人間の弱さ・醜さを想うとき、この歌は、こんなに美しい声で歌われてよいのだろうかとさえ思ってしまいます。

   翻って考えれば、このような人間の弱さ・醜さの部分をかき消すためにも、このような林牧人の清純な声でこの映画のラストを閉じる必要があったのだと思います。このEPレコードは、ドラマの葛藤を忘れさせるような人間の美しさを届けてくれます。


 アニメ『星の王子さま』のテーマ曲 「プチ・プランス」のCD化

 これまでに多くの日本の少年による独唱を生であるいは録音で聴いてきました。それは、ほとんどが童謡・唱歌や宗教曲をボーイ・ソプラノの声で歌うというものでした。そして、「荒城の月」やバッハ=グノーの「アヴェ・・マリア」などには、名唱と呼ばれるものが残っています。ところが、日本のオリジナルの少年のための独唱曲と言えば数少なくなってきます。例えば、戦前なら「昭和の子」、戦後なら「少年ジェット」等のテレビ番組のテーマ曲などを挙げることができましょうが、これらは、時代を反映した凛々しいあるいは正義を体現した歌です。ところが、日本のボーイ・ソプラノの歌唱史に独自で孤高の位置を占める名曲があります。それは、鈴木賢三郎の「星の王子さま」のオープニング・テーマ曲「プチ・プランス」です。「星の王子様 プチ・フランス」は、昭和53(1978)7月から昭和54(1979)年3月まで、朝日放送(ABC)制作で、毎週火曜日の19時30分~20時にその系列で放送されました。サン=テクジュベリの原作から離れた創作の話が中心ですが、ストーリーは忘れても、この歌だけは忘れることができません。
 フレーベル少年合唱団に所属していた鈴木賢三郎は、録音時中学1年生。合唱団でのパートは、メゾ・ソプラノということですが、変声期直前のボーイ・ソプラノとして最高の時期の歌唱を聴くことができます。まろやかで温かく、また高貴な香りのするその歌唱は、聴く人をこの歌詞に描かれた世界へといざなってくれます。とりわけ、「だけど あるんだよ 見上げてごらん」と曲想の替わるところなど、希望に満ちた実に見事な歌唱です。
 放映当時は、EPレコードやソノシートも発売されたようですが、今では入手も難しく、その後、アニメ番組のDVD・BR化はなされましたが、歌唱は1番だけのため、長く全曲のCD化が待ち望まれていたところです。ところが、平成25(2013)年頃、阿久悠の作品集のCDが企画されながら実現せず、失意を抱いていたところ、平成も終わりを告げようとしている平成30(2018)年12月19日に、昭和を象徴する作詞家・阿久悠の手掛けた膨大な仕事の中から、アニメや特撮など、子どもたちのためにメッセージを込めて書かれた歌50曲を厳選収録した2枚組CD「誰もが勇気を忘れちゃいけない~大事なことはすべて阿久悠が教えてくれた~」が、発売されました。その内12曲が初CD化されました。


 「兵隊さんの汽車 幻の戦時童謡 1934~1942」

   こ
のCDは、「童謡誕生100周年記念企画」として、童謡の中でも、昭和6(1931)年の満洲事変以降、レコード会社によって盛んに作られるようになった「戦時童謡」を集めたCDです。軍歌や戦時歌謡は、戦後も昭和の頃には、マスコミにはほとんど登場しなくても、その時代を生きてきた人たちによって、
「兵隊さんよありがとう」が、「今夜もお酒が飲めるのも、○○さんのおかげです。」のような宴会ソングのような形で歌い継がれてきました。童謡の歴史の中でもこの時代の歌だけは、「黒歴史」的な扱いを受けてきましたが、童謡の歴史の1ページとして、歌は時代の影響を強く受けることを知ることはあってもよいことです。タイトルにもなっている「兵隊さんの汽車」は、戦後、歌詞を変えてカヴァー曲「汽車ポッポ」として蘇りました。他にも、「星月夜」が「里の秋」になったような例もあります。さらに「青葉の笛」は、GHQの検閲で、映画『無法松の一生』から削除されていますが、この曲のどこに問題があったのかわかりません。
 このCDでは、オリジナル童謡のみならず「愛馬進軍歌」「紀元二千六百年」「愛国行進曲」「月月火水木金金」など、当時の有名な戦時歌謡のカバー童謡も収録されています。斎藤達雄については、これまでにも、日本のソリストとして紹介していますが、このCDにその歌声を残している小坂勝也、山崎一郎、望月誠なども、まっすぐな歌声で声を張って、戦時童謡を歌っています。なお、これらの少年歌手は、同時に、戦時童謡ではない童謡も歌っていますので、それを聞き比べることも興味深いと思います。

 THE CHIRBOYS

 「THE CHIRBOYS」という題の下で、3人の少年が跳躍のポーズをとっているアルバムの写真から、人はどんなイメージを抱くでしょうか。少なくとも、イギリスの伝統的な聖歌隊のイメージを抱く人は少ないでしょう。しかし、このCDに収録された曲は、ボーイ・ソプラノたちが古今の宗教曲(アレグリの「ミゼレーレ」、ウェバーの「ピエ・イエズ」、フランクの「天使の糧」、フォーレの「イン・パラディスム」)などを現代的なポップクラシカルなアレンジで歌うところにその特色があります。好みは、このアレンジの好みによって分かれるかもしれません。メンデルスゾーンの「鳩のように飛べたなら」など、曲によっては、ボーイ・ソプラノを強調するが故にそれ以外の部分が希薄になっていると感じるようなアレンジもあります。とにかく清澄な少年の声が好きな人にとっては、愛すべき1枚ですが、クラシックマニアの人には、物足りないものがあるかもしれません。

 THE CHOIRBOYS

   「THE CHIRBOYS」と題は変わりませんが、~THE CAROLS ALBUM~と副題が加わり、メンバーと選曲は1枚目とは違います。1枚目のアルバムから2年経てば、最初のメンバーはもしもCD録音のときが、ボーイ・ソプラノとしてのベストフォームであったとしたら、12~14歳になって変声期の壁にぶつかっているかもしれません。そのあたりは不明ですが、メンバーを総入れ替えしてます。アルバムの雪の中、冬の防寒着や帽子をかぶったメンバーの少年たちの写真を見れば、1枚目の跳躍した写真とはかなり違う雰囲気です。このアルバムの選曲は、いわゆる「クリスマスキャロル」で、「オー・ホーリーナイト」「神のみ子は今宵しも」「きよしこの夜」「天には栄え」など、TOKYO FM 少年合唱団のクリスマスコンサートで聴かれるような親しみやすい曲が並んでいます。また、初めて聴く曲であっても、耳になじみやすい曲です。そのような意味では、1枚目のアルバムとは選曲において異なった理念のもとに制作されたところもあります。しかし、現代的なポップクラシカルなアレンジで歌うところは変わりませんし、男声も入ってきます。

  「Over The Rainbow」

 CD「Over The Rainbow(虹の彼方に)」は、ケイト・ジェームズ(Kate James 姉 Kで表記)と、ウィル・ジェームズ(Will James 弟 Wで表記)がピアニストのマルコム・アーチャーと共演した、クラシックで人気のあるお気に入りのコレクションとして、紹介されています。このCDは、伝統曲や有名な歌曲を独唱や二重唱に編曲したもので、姉弟で二重唱する曲と、それぞれが独唱する曲が組み合わされて1枚のCDに収められています。二人は姉弟ではありますが、ケイト・ジェームズは、ふくよかな柔らかさを持った声で、ウィル・ジェームズは、それと比べると金属的な鋭い輝きをもった声でそれぞれの歌を歌っています。
   初めて聴く曲とおなじみの曲が混じっていますが、「虹の彼方に」と「ユー・レイズ・ミー・アップ」は、特に、有名曲であるがゆえに、それぞれの声質を生かしたアレンジがしてあって、二重唱にすることによるよさが伝わってきます。ほとんどが、英語の歌ですが、ウィル・ジェームズの歌には、シューベルトの歌曲「君こそわが憩い」の原語歌唱が収められており、次第に高まる終末のもっていき方に才能のきらめきを感じました。

01:シンプルなギフト WK 伝統曲  編曲 ジョージ・アーサー
02:コーパスクリスティキャロル K 作曲 ベンジャミン・ブリテン
03:ピエ・イエズ WK ジョン・ブラニング 編曲 ジョージ・アーサー
04:睡眠 W  アイヴァー・ガーニー
05:エンジェルス WH ガイチェンバーズ&ロバートピーターウィリアムズ、編曲 ジョージ・アーサー
06:君こそわが憩い W フランツ・シューベルト作曲
07:そこにいましたか? WK 伝統曲 編曲 ジョージ・アーサー
08:クリスマスの子守唄 WK ジョン・ラター
09:虹の彼方に WK ハロルド・アーレン&E.Y。 ハーバーグ、編曲 ジョージ・アーサー
10:流れよ、わが涙 W ジョン・ダウランド
11:ベツレヘムの小さな町 WK 伝統曲  編曲 ボブ・チルコット
12:タートルダブ K 伝統曲 編曲 ラルフヴォーンウィリアムズ
13:ユー・レイズ・ミー・アップ WK ロルフ・ラヴランド&ブレンダン・グラハム、編曲 シモン・ローレ
14:この輝く夜に確かに WK モートン・ローリゼン作曲
15:彼女が私を愛したとき K ランディ・ニューマン作曲
16:すべての希望の主 WK 伝統曲  編曲 ジョージ・アーサー


 Cormac “Hear My Voice”

 “Cormac”と、コーマック・トンプソンのファーストネームを前面に出したジャケットは、まだ幼い感じの少年の顔写真が描かれています。ふと、“AKSEL!”と題されたアクセル・リクヴィンのファーストアルバムの題名を思い出しました。このCDには、15曲の歌が収められていますが、選曲としては、クラシックとポップスの両方あるいはその中間ともいえる曲が選ばれているために、何よりも親しみを感じます。歌声もまた、とろけるような甘い声で、むしろ年齢よりも幼い感じさえ受けることもありますが、音程もしっかりしており、これから、本格的に声楽を学べば、また新たな可能性が生まれてくるのではないかと感じさせます。ボーイ・ソプラノは、変声期の直前に最高の輝きを見せます。例えば、年齢的に近いカイ・トーマスのCDを聴けば、まさにそのような時期の歌声を聴くことができますが、コーマック・トンプソンの場合は、まだこれから伸びしろが大きいのではないかということを感じさせます。コーマック・トンプソンにあとどれだけの「ボーイ・ソプラノの時間」が与えられているかは神のみぞ知ることでしょうが、2枚目のCDがリリースされることを期待しています。この歌の背景としては、2020年のコロナ禍によるロックダウンの下、インターネットを介してしか会うことのできなくなった北アイルランドに住んでいる祖母に歌ったというところが、まさにこのCDの特質です。「歌う」の語源は、「訴う(うったう)」であると言われていますが、この語源を知ってこの歌を聴くことでまた新たな発見もできるのではないでしょうか。

1. Pie Jesu (Andrew Lloyd Webber) ピエ・イエス(アンドリュー・ロイド・ウェバー)
2. Run (Snow Patrol) 実行(スノーパトロール)
3. How Can I Keep from Singing? どうすれば歌わないようにできますか?
4. Fields of Gold ゴールドのフィールド
5. Walking in the Air 空中を歩く
6. You Raise Me Up feat. Secret Garden ユー・レイズ・ミー・アップ (シークレットガーデン)
7. Shenandoah シェナンドア
8. Tomorrow (from Annie) 明日(ミュージカル『アニー』から)
9. Be Thou My Vision あなたは私のビジョンになります
10. Danny Boy ダニー・ボーイ
11. I Have a Dream (Abba) 私には夢がある(アバ)
12. Wexford Carol ウェックスフォードキャロル
13. A Gaelic Blessing (Rutter) ゲーリックの祝福(ラター)
14. O Waly Waly 広い河の岸辺
15. O Holy Night おお、 聖夜よ


 「美の真実」

 ミュージカル歌手で俳優の石丸幹二が、デビュー30周年記念として2枚のCDを発売しましたが、『ザ・ベスト』という題のCDには、ボーナストラックとして、アンドリュー・ロイド・ウェバー作曲、ミュージカル『ラブ・ネバー・ダイ』より「美の真実」が、収められています。私は、このミュージカルそのものをまだ観ていないのですが、ミュージカル『オペラ座の怪人』の続編として製作したミュージカルです。原作とされるフレデリック・フォーサイス作の小説『マンハッタンの怪人』は、本作の製作のためにロイド・ウェバーがフォーサイスに執筆を依頼したものです。なお、アンドリュー・ロイド・ウェバーは、「私はこれを続編とは考えていない。単独の作品である」と語っています。
 さて、このミュージカルは、イギリス・ロンドン公演は、2010年にアデルフィー劇場で行われていますが、日本では、2014年と2019年に東京・日生劇場で行われています。石丸幹二は、2019年のファントム役出演でしたが、そのときの息子のグスタフ役は、大前優樹 加藤憲史郎 熊谷俊輝がトリプルキャストで出演していますが、このCD(写真左)では、熊谷俊輝が演じています。この「美の真実」は、マイクがあるとはいえかなり肺活量・声量がいる曲で、熊谷俊輝は、ただ可愛いだけでなく、透明度の高い声の奇麗さだけでなく妖しさを含み持つ歌を歌っており、その歌唱力には驚きさえ感じます。


 ロックダウン・ボーイソプラノプロジェクトの成果

 相互リンク先のサキ・ルイスさんが、本年6~7月に「ロックダウン・ボーイソプラノプロジェクト」を企画されました。この企画は、コロナ禍のために教会で歌ったり、コンサートが出来ず自由に歌えない世界のボーイソプラノの子のために、変声期前にそれぞれ一曲録音してもらい、まとめて音声動画を作るという企画です。この度、3か国から4名の参加者があり、YouTubeでその歌声を公開することになりました。声は世界に一つしかない楽器であり、ましてや、ボーイソプラノは限られた少年だけに数年間だけ与えられた声です。先ずは、その歌声をお聴きください。
https://youtu.be/P_yT9rNHqb8

名前 年齢 曲名   録音  一 口 感 想
Sho 日本   11 小さな木の実 2020.7.5   ボーイソプラノソロでこの歌を聴くのは初めてです。歌詞内容からも少年が歌ってこそという側面があります。Sho君は、悲しみを抱きながらも、それを克服しようという芯の強さを感じさせる歌唱を聴かせてくれます。 
Ren 日本   11  Pie Jesu
(Webber)
2020.7.20  この曲の初演はソプラノとボーイソプラノのデュエット曲ですが、ボーイソプラノ独唱で歌われることもあります。Ren君は、明るい声質の持ち味を生かした歌を歌っています。 
Etan Hall
(イーサン・ホール)
オーストラリア   12 You Raise Me Up  2020.7   この曲の原曲は「ロンドンデリーの歌」なので、イーサン君は、哀愁に満ちたこの曲を透明度の高い声で歌っています。よく伸びる高音を生かした独特の山場の作り方のうまさも感じます。
Cai Thomas
(カイ・
トーマス)
イギリス  13  Arvo Pärt’s Vater Unser  2020.4.28    カイ・トーマス君にとっては、13歳になってからの録音(そして、トレブルとしても最後の録音)となりましたが、CDに刻まれた歌と比べて、歌そのものに陰影が出てきて、歌にさらに深みが生まれています。

 WELSH BOY TREBLE (ウェールズのトレブルたち)

  イギリスは、聖歌隊の伝統文化のある国でありますが、最近では、男女平等の考えから少年聖歌 隊に少女を入れようとする運きがあったり、コロナ禍による財政難によってその存続が危ぶまれている聖歌隊もあると聞いています。さて、イギリスは、連合王国を形成する4つの「国(カントリー)」では、それぞれ、独特の民謡があります。
イングランド民謡「グリーン・スリーブス」「埴生の宿」「スカボローフェア」等
スコットランド民謡「アニーローリー」「蛍の光」「ロッホ・ローモンド」等
アイルランド民謡「ダニーボーイ」「サリーガーデン」「ミンストレル・ボーイ」等
ウェールズ民謡「スオ・ガン」「夜もすがら」「とねりこの木立」等

 それならば、4つの国(カントリー)の少年の歌声にも、独自性があるのではないでしょうか。このCDは、ウェールズに特化したトレブル(独唱者)の歌声を集めたものです。アレッド・ジョーンズは、あまりにも有名ですが、このCDには収録されていないカイ・トーマスなど現在につながるトレブルを集めた歌集は、一人一人の個性はありながらも全体としての統一感も感じます。また、題名(歌詞)は、「アヴェ・マリア」や「ピエ・イエズ」のように各国共通のものや「オー ホーリーナイト」のような英語のものもありますが、本来イタリア語の歌曲やドイツ語のシュ-ベルトの歌曲をウェールズ語で表記しているものもあるため、私には日本語における曲名はわかっても翻訳できないものもあり、あえて原語で表記します。また、1980年代から2010年代までいろいろな世代に活躍した11人のトレブルたちが、1~2曲ずつ歌っているところもこのCDの特徴と言えましょう。ここでは、それぞれのトレブルの歌のうち1曲を紹介します。

 冒頭の2曲は、アレッド・ジョーンズの宗教曲ですが、とりわけ、「オー ホーリーナイト」の歌唱の高貴な響きは、30年以上の時を経ても変わりません。フィリップ・ワトキンズの「カロ・ミオ・ベン (F'ANNWYL WYT TI )」は、明るい声質と緩急の差を生かした歌唱は、魅力的です。オリヴァー・サモンズのシューベルトの「アヴェ・マリア」は、透明度の高いやさしい声質で、聴く人を癒してくれます。フゥ・エドワード・ジョーンズは、まだ年齢的に幼いかもしれませんが、可愛い美しさにあふれた歌を歌います。ディラン・エイルグの「きよしこの夜」は、素朴な中にもいのり心を感じる歌です。カーウィン・ライアーの「歌の翼に」を聴いたとき、栗原一朗の同曲と同質の透き通ったものを感じました。リチャード・デイヴィスの「シルヴィアに寄す」は、明るく屈託のない曲で、ちょっと背伸びしているところがかえってかわいいです。ダーレン・ロバーツの「天使のパン」は、低音はややこもった声ですが、高音になると明るさを増し、それが深みにもつながっています。エミール・ウィンの「Y DARLUN」は、素朴な中に可憐な歌唱を感じます。ステファン・ライズ・フーゲスの「主は私の羊飼い」は、明るい声質でどこか懐かしさを感じる曲を、盛り上がりを巧みに形づくった歌唱です。ライス・メイラーは、まだ年齢的に幼いのかもしれませんが、「イエスは」は、次第に歌い上げる歌を歌っていて、そのときには幼さを感じません。歌声そのものは、一人一人の個性があってみんな違いますが、全体として、ウェールズのトレブルたちは、祈り心が底流にあって、それがやさしい声質とあいまって、美しい世界を描きあげています。

1. Ave Maria - Aled Jones - Aled Jones
2. OH HOLY NIGHT - Aled Jones - Aled Jones
3. F'ANNWYL WYT TI - Philip Watkins - Philip Watkins
4. DOD AR FY MHEN - Philip Watkins - Philip Watkins
5. THE CHRIST CHILD - Oliver Sammons - Oliver Sammons
6. AVE MARIA - Oliver Sammons - Oliver Sammons
7. BUGEILIO'R GWENITH GWYN - Huw Edward Jones - Huw Edward Jones
8. TAWEL NOS - Dylan Eirug - Dylan Eurig
9. ON WINGS OF SONG - Carwyn Llyr - Carwyn Llyr
10. MORNING HAS BROKEN - Carwyn Llyr
11. PWY YW SYLFIA - Richard Davies - Richard Davies
12. HUNA HUNA - Richard Davies - Richard Davies
13. PANIS ANGELICUS - Darren Roberts - Darren Roberts
14. PIE JESU - Darren Roberts - Darren Roberts
15. MI GLYWAF DYNER LAIS - Emyr Wyn - Emyr Wyn
16. Y DARLUN - Emyr Wyn - Emyr Wyn
17. THE LORD IS MY SHEPHERD - Steffan Rhys Hughes - Steffan Hughes
18. I TI DYMUNWN FYW - Steffan Rhys Hughes - Steffan Hughes
19. IESU YW - Rhys Meilyr - Rhys Meilyr
20. RHO FORY I MINNAU - Rhys Meilyr - Rhys Meilyr


 ルネ・シマール ゴールデン☆ベスト リミテッド

  題名からしてもおわかりのように、日本で制作されたルネ・シマールの限定 ベスト盤CDです。しかも、とりわけこの中に含まれているライブ録音は日本のステージで行われたものですから、日本の観客を意識して選曲されているところがあります。なお、1974年から1975年という2年間の録音ですから、13~14歳という短い期間の歌声で、しかも、その中に甲高いソプラノヴォイスを輝かせる歌から、変声期に入りかけて高音がやや落ち着きを見せた曲までが混じっていますので、その時間軸による歌の変化を聴き分けるのも、このCDの楽しみ方のポイントかもしれません。
 もちろん、デビュー曲の「鳥」から、ルネの名を日本に知らせた「ミドリ色の屋根」などは、スタジオ録音とライブを聴き比べることができます。この二つでは、同じ曲を聴いてもかなり印象が違います。また、クリスマスソングなどもあり、日本のファンのために創られたCDと言えそうです。日本語で歌われる恋の歌も多く、大意はつかんでいたでしょうが、どこまで日本語の歌詞を深く理解して歌っていたのかはわかりませんが、これぐらい声が出たら声を出すことに喜びを感じるだろうなあと思わせるほど声を張って歌うルネらしい歌唱表現を楽しむことができます。
 しかし、何といっても、ルネの魅力は、「ミドリ色の屋根」や「小さな生命」のような悲しんでいる人・苦しんでいる人を想って歌う歌と、その歌に添えられた心がストレートに伝わってくるところです。スタジオ録音では、繊細な編曲の伴奏に支えられてそれがよく伝わってきました。一方、ライブでは、観客のうちティーンエイジャー女子の「キー」「キャー」「ヒュー」といった叫び声が、伴奏だけでなく歌の中にも入ってくるので、それが気になる私は、正直言って歌の世界に入り込めませんでした。


[DISC:1]
1. ミドリ色の屋根
2. 雨上りのデイト
3. 水色の天使
4. 青空の向うへ
5. 僕の国へおいで
6. 小さな生命
7. 鳥(7~12 フランス語)
8. 美しい星
9. 日曜日の午後
10. アン・アンファン・コム・レ・ゾートル 
     普通の子供

11. 島の少年
12. 僕のママは天使
13. 君のすべてがほしい
14. 愛の翼をひろげて
15. 虹をあげよう 
16. 純白の花嫁
17. 涙のプレリュード
18. サヨナラ 少年時代
19. 朝露のきらめき
20. この旗の下で
21. 内気なマリー
22. ピアノの聴こえる道
23. クリスマス・トゥリー
24. 君にあげる子守唄 
[DISC:2]
1. 去年の夏
2. みんなあなたに
3. モントリオール讃歌(3~15 フランス語)
4. アヴェ・マリア
5. きよしこの夜
6. ジングル・ベル
7. ホワイト・クリスマス
8. オーヴァチュア
9. 僕の国へおいで (ライヴバージョン)
10. 雨にぬれても TOUTE LA PLUIE (ライヴバージョン)
11. 鳥 (ライヴバージョン)
12. ラ・メール (ライヴバージョン)
13. バラを切らないで (ライヴバージョン)
14. ヨー・ヨー (ライヴバージョン)
15. アン・アンファン・コム・レ・ゾートル 普通の子供 (ライヴバージョン)
16. 廃墟の鳩 (ライヴバージョン)
17. 小さな生命 (ライヴバージョン)
18. ミドリ色の屋根 (ライヴバージョン) 







 「セレンSEREN(星)」  カイ・トーマス

  注文してから3か月近くかかって入手した噂のCD「セレンSEREN(星)」(国内流通仕様)は、二つの意味でこれまでにないCDでした。
 その一つは、クラウドファンディングなどによって支援が集まり、デビュー・アルバム「SEREN(星)」の製作が実現したことです。イギリスにおいては、「トレブル」と呼ばれるような名ボーイ・ソプラノは、アーネスト・ロフ以来、その歌声を録音して後世に残していますが、それは、決して誰でもできるというものではなく、かなりの経済的な負担を伴うものであるということがわかってきました。しかも、このクラウドファンディングに対しては、世界中から支援が集まり、とりわけ、最近までボーイ・ソプラノであった(現在はバリトン)ノルウェーのアクセル・リクヴィンがこの企画に賛同して、CDでも共演しています。しかも、「SEREN(星)」という題名の曲は、このCDにありません。このCD全体を包括する題名として、この「SEREN(星)」という題名が選ばれたのでしょう。ウェールズ語で、「SEREN(星)」は、自ら光を発する天体という意味を持っているようです。カイ・トーマスは、自分の歌集に自らが発光体となって世を照らすという意味を持たせたかったのかもしれません。
 もう一つは、ライナー・ノートをカイ・トーマス自身が書いていることです。幸い私が購入したCDには、生塩明彦訳の日本語訳のライナーノートがついていました。それは、ただ、その曲の概略を解説するだけでなく、なぜこの曲をこのCDの1番最初に持ってきた理由とか、この曲は、もともとバリトンのための曲であるとかいった、自分とのかかわりにおいてその曲の位置づけや解説をしていることが大きな特色になっています。
 選曲は、いわゆるボーイ・ソプラノの定番曲と呼ばれる宗教曲から、ミュージカル「レ・ミゼラブル」よりバリケードの中で眠るマリウスを見ながら、コゼットのためにもマリウスを生きて帰らせたいと願ってジャン・バル・ジャン(バリトン)が歌う「彼を帰して」や、郷土のウェールズの民謡「スオ・ガン」「とねりこの木立」のような曲までがちりばめられています。また、その歌声は、ただ透明度の高い高音がどこまでもよく伸びるというだけでなく、そこに柔らかな温かみを感じます。歌声としてのボーイ・ソプラノの成長を考えるとき、ただ高い声が出るというだけでなく、そこに柔らかな温かみが加わって、聴いていて包み込まれるような感覚にとらわれます。また、特別出演のような形で参画したアクセル・リクヴィンのバリトンは、変声してからまだ2年ぐらいですが、芳醇な響きを感じさせます。むしろ、少年時代のバロックの演奏に見られた技巧とは違う側面を感じさせてくれます。


【曲目】
(1)エセンヴァルズ:オンリー・イン・スリープ
(2)ウェールズ民謡:スオ・ガン
(3)ヴォーン・ウィリアムズ:サイレント・ヌーン
(4)ヘンデル:オンブラ・マイ・フ
(5)クロード=ミシェル・シェーンベルク:彼を帰して
  (「レ・ミゼラブル」より)
(6)モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス
(7)モーツァルト:主を褒め称えよ
(8)ヘンデル:私を泣かせてください(「リナルド」より)
(9)フォーレ:慈愛深いイエスよ(「レクイエム」より)
(10)ジョン・ブランニング:主は私の羊飼い)
(11)スタンフォード:青い鳥
(12)ウェールズ民謡:とねりこの木立
(13)ヤイロ:ザ・グラウンド 


 【演奏】
カイ・トーマス(ボーイ・ソプラノ)
アクセル・リクヴィン(バリトン 6)
ロバート・ルイス(ディレクター)、
ロンドン・モーツァルト・プレーヤーズ 3.5.6.7.10)
ペガサス室内合唱団 1.7.11)
ボーン聖トーマス教会聖歌隊 2.13)
ボーン・アンサンブル 2.4.8.9.12.13)
ジュリアン・クーパー(オルガン 9)

【録音】
2019年7月1日、10月3日-4日、ボーン聖トーマス教会
(ファーナム、イギリス)
2019年9月23日、セント・ジョン・ザ・エヴァンゲリスト教会
(アッパー・ノーウッド、ロンドン)
2019年11月28日、ソフィエンベルグ教会(オスロ、ノルウェー)



 EDELweiss?   エーデルワイスかしら?

   この“EDELweiss? ”という2枚組のCDの題は、EDELを大文字で書き、weissを小文字で書いて?を付け、一瞬ギャグではないかと思わせます。しかし、聴いてみると、1枚目は、録音時(2016年)における聖フロリアン少年合唱団のトップソリスト サイモン・ベルンハルトのソロによる「エーデルワイス」の清純な歌声が聴こえてきて、その後も、ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」からおなじみのナンバーが英語で歌われます。何じゃこれは?と思っていると、宗教音楽、オペラ、オペレッタとソロやデュエットを交えた少年合唱が続き、男声アンサンブル、民謡、ヨハンシュトラウス一家のワルツ・ポルカ・マーチと異質な曲が次々とつながっていくことで、この聖フロリアン少年合唱団のレパートリーがいかに広いかを知らされることになります。2枚目は、OBで、カウンター・テナーのアロイス・ミュールバッハーのソロで古典派からロマン派の歌曲やオペラのアリアが披露され、二重唱、サイモン・ベルンハルトのソロ、独唱と男声四重唱、最後は再びアロイス・ミュールバッハーのボーイ・ソプラノ ソロで締めくくるというこのCD集は、聖フロリアン少年合唱団が、かつてのいわゆる地味な少年合唱団から、華のある少年合唱団へと変身したことを物語っています。当然のことながら、その仕掛け人は、音楽監督で、指揮、ピアノ伴奏も自ら行っているフランツ・ファルンベルガーです。フランツ・ファルンベルガーが音楽監督になることで、アロイス・ミュールバッハーはソリストとして見い出され、歌声や技術と共に、人間的な感化も受けているように感じます。そして、このCDでは、従来の聖歌隊や少年合唱団が扱わなかったような曲まで積極的にレパートリーに採り入れています。音楽の世界でも、当然のことながら、時代の感覚を読んで行かなければ、人の心は離れていきます。そういう意味でも、フランツ・ファーンベルガーは、資質の高い団員をソリストとして抜擢することで、新たな道を切り開いているように思えるのです。さて、YouTubeに公開された最近の演奏を観ると、ステージ効果を考えた数々の演出がなされています。その演奏は、気取ったところがなく、しかしながら一定の気品を保っていて、聴き手を楽しませてくれます。

 [CD1]
≪ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」より≫
1. エーデルワイス(ソロ)
2. ドレミの歌
3. ひとりぼっちの羊飼い
4. エーデルワイス(合唱)
≪宗教音楽≫
5. メンデルスゾーン:詩篇第100篇
6. ブルックナー:アヴェ・マリア
7. モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス
8. ウィリアム・ゴメス:アヴェ・マリア
9. マーク・ヘイズ:私のちいさな光
≪オペラ、オペレッタ≫
10. ビゼー:ハバネラ(オペラ「カルメン」より)
11. レハール:ヴォルガの歌(オペレッタ「ロシアの皇太子」より)
12. オッフェンバック:舟歌(オペラ「ホフマン物語」より)
13. ロッシーニ:猫の二重唱
≪男声アンサンブル≫
14. スコットランド民謡:ロッホ・ローモンド
15. バート・ライスフェルド:私の小さな緑のサボテン
16. ゲイリー・ジュールズ:狂った世界
≪民謡≫
17. 森の中と荒野の上
18. Heissa, Kathreinerle
19. 元気で、一緒にいて
≪ワルツ、ポルカ、マーチ≫
20. J.シュトラウス2 世:ウィーンの森の物語
21. J.シュトラウス2 世:美しく青きドナウ
22. J.シュトラウス2 世:トリッチ・トラッチ・ポルカ
23. J.シュトラウス1 世:ラデツキー行進曲
 [CD2]
≪アロイス・ミュールバッハーのソロ≫
1. モーツァルト:夕べの想い KV 523
2. モーツァルト:すみれ KV 476
3. シューベルト:音楽に寄せて Op.88-4
4. シューベルト:アヴェ・マリア Op.52-6
5. R.シュトラウス:あなたは私の心の王冠 Op.21-2
6. R.シュトラウス:黄昏の夢 Op.29-1
7. R.シュトラウス:夜 Op.10-3
8. R.シュトラウス:明日! Op.27-4
9. R.シュトラウス:献呈 Op.10-1
10. ブルックナー:アヴェ・マリア
11. ヘンデル:オンブラ・マイ・フ
12. ヘンデル:私を泣かせてください
≪二重唱≫
13. ドリーブ:アヴェ・マリス・ステッラ
14. ロイド=ウェッバー:ピエ・イエズ
≪サイモン・ベルンハルトのソロ≫
15. シューベルト:野ばら
16. シューベルト:ます
17. モーツァルト:春への憧れ
18. ベルンハルト・フリース:子守歌
≪独唱と男声四重唱≫
19. シューベルト:セレナード D920
≪アロイス・ミュールバッハーの名録音≫
20. プッチーニ:誰も寝てはならぬ

フランツ・ファルンベルガー(指揮、ピアノ)
サイモン・ベルンハルト(ボーイ・ソプラノ)
アロイス・ミュールバッハー(カウンター・テナー)

 Heintje (ハインチェ)  Seine Grossen Erfolge 「彼の偉大な業績」

   少年時代に受けた栄光は、その人の人生にとって幸か不幸かはわかりませんが、「彼の偉大な業績」と題された3枚組のCD集は、ハインチェの少年時代の歌の集大成と言えるものでしょう。ビキシオ作曲の「マンマ」は、同名の映画の主題歌としてベニアミーノ・ジーリの歌唱によって世界に広まりましたが、第二次世界大戦中はイタリアの兵士達は軍歌のようにこの歌を歌って、故郷の母を恋い慕ったそうです。この歌は、戦後はロベルティーノによって新たな命を与えられました。それから数年後に歌われたハインチェの歌「Mama」は、CDの1曲目ですが、健康的で声量ある力強いアルトの声で朗々と歌い上げられます。また、声質はアルトでありながら、高音もそのままの音色で歌い上げるところに特色があります。ところが、全部通して聴くと、2曲目のロマンティックな雰囲気の「Ich bau dir ein Schioss(城を建てます)は、その雰囲気を感じさせますが、日本では「庭の千草」として紹介されたアイルランド民謡が原曲の「Letzte Rose in Unser'm Galten」は、哀愁を感じるよりも、むしろ健康的な歌で、3枚39曲全体がほぼ同じ雰囲気の歌に聞こえてきます。これは、戦後の復興が軌道に乗ってきたその時代の西ドイツが求めていた少年像をそのまま歌に表したような曲という言うこともできます。そのような意味では、恋の歌でも色気に欠けるところもあります。「歌は世につれ、世は歌につれ」という言葉があるように、歌は世相を表しています。

 ROBERTINO(ロベルティーノ)

  芸名のファーストネームを題名とした24曲入りのCDは、海外から購入したものです。残念なことに、このCDのカバー写真はどう見ても青年時代のもので、この歌が歌われた頃の10代前半の少年時代の写真ではありません。しかし、70代になった現在も現役のカンツォーネ歌手であるロベルティーノにとっては、人生のある時期の写真であることに間違いありません。
 このCD集は、10代前半に歌われたもので、「オー・ソレ・ミオ」や「サンタ・ルチア」のような古典的なカンツォーネ・ナポリターナをはじめ、「ルナ・ロッサ」や「ロマンティカ」のような第二次世界大戦後の比較的新しいカンツォーネ、シューベルトの歌曲の「セレナーデ」「アヴェ・マリア」、ブラームスの「子守唄」、歌謡曲といってもよい「ジャマイカ」まで幅広い曲が収められています。しかも、これらは約3年間の間に歌われたものです。
 さて、24曲通して聴くと、カンツォーネ・ナポリターナを中心とした25センチLPとは違った感想をもつことができました。カンツォーネ・ナポリターナは、恋の歌でもかなり子どもらしさを前面に出していましたが、大人の恋の歌では、それとは違うものが聞こえてきました。つまり、声のトーンは、ボーイ・ソプラノそのものなのですが聖歌隊的な清純な響きではなく、わざと崩した歌い方をして、大人のセクシーさとも言えるものを感じさせるというギャップがこの少年歌手の本質的な魅力ではないでしょうか。
 新たな発見としては、この中で歌われている「マンマ」「ガリオーネ」「シューベルトのセレナーデ」「ピノキオへの手紙」という曲におけるロベルティーノの歌いっぷりが、竹宮恵子編のLP「過ぎゆく時と友だち」で歌ったビクター少年合唱隊員 久世基弘や日向理(ひなたおさむ)の歌の節回しや伴奏のオーケストラの編曲にも大きな影響を与えているということです。そのような意味では、ロベルティーノは、このような形で日本にも影響を与えたと言うことができるでしょう。


 『Let’s Go! 令和(れいわ)キッズ こどもヒット・ソング』より
岡村要の「リメンバー・ミー」

  少年は1年ぐらいの間に歌においてどれぐらい成長するのだろうか。そんなことを考えさせる岡村要の「リメンバー・ミー」の歌唱です。最近は、CDのうちの1曲だけを購入することもできるようになってきましたが、この1曲聴きたさにCD『Let’s Go! 令和(れいわ)キッズ こどもヒット・ソング』 を買いました。昨年録音した「めざせ! ミュージカル☆キッズ」の中の「メモリー」にみられたような劇的であってもあくの強さを排した清純な歌になっています。
  もしかしたら、「メモリー」は舞台上で歌う歌として劇的に歌い、「リメンバー・ミー」は、清純に歌って歌い分けているのかもしれません。日本においては石橋陽彩によって創唱されましたが、明るい声質を生かしてラテン的な雰囲気を醸し出している石橋陽彩の「リメンバー・ミー」と比べ、岡村要の歌は、高音はややファルセット気味ですが、全体的には清純さを前面に出した透明度の高い歌唱です。このCD発売時に中学2年生である岡村要にとって、ボーイ・ソプラノの一番美しい時期にその歌声をレコーディングすることができ、また、それを聴くことができるのは至福という言葉がふさわしいと思います。


 「あなたに会いたい」「Time To Say Goodbye」 比嘉いつき

  令和元(2019)年6月に発売された比嘉いつきのCDは、シングルの2曲ではありますが、日本のボーイ・ソプラノのCDとして特筆できるものです。声質は優しく柔らかいソプラノですがドラマティックな表現力もあります。メイン曲の「あなたに会いたい」は、曲そのものは昭和の歌謡曲風ですが、折り目正しい歌い方で、懐かしさ以上の温かい情愛を感じる歌になっています。「Time To Say Goodbye」は、アンドレア・ボチェッリによって「Con Te Partirò」として創唱され、サラ・ブライトマンとのデュエットや表題にもなっている英語の歌詞によって世界的に広がりました。比嘉いつきは、この歌をイタリア語でオペラティックに歌い上げ、むしろこの曲の方がメイン曲(EPレコードの時代ならA面)ではないかとさえ思わせます。このCD発売時は小学4年生ということですから、これからボーイ・ソプラノの更なる高みに向かって伸びていくことが期待されます。

 Soli Deo Gloria - Gud Alene Har Aren - 神のみが名誉を持てり-
ベンヤミン・イーサクセン

 ベンヤミン・イーサクセン(あるいはイサッツシェン Benjamin Isachsen)が2010年3月15日にリリースしたCDは、前作と同傾向の歌が集められており、バロックのヘンリー・パーセルから古典派・ロマン派の作曲家はもとより、ノルウェーのロマン派の作曲家 シンディング、アメリカの讃美歌の作曲家 ローウェル・メイスン作曲の「主よ、御許に近づかん」までの作品が集められています。曲は前作と比べて知られていない曲が多いように感じます。おそらく、前作の1年後ぐらいに録音されたのでしょう。歌声そのものは前作よりも母性的で成熟した感じがします。録音時が前作の1年後なら、15歳か16歳ということになり、現代のボーイ・ソプラノとしては驚異的な年齢です。1枚目と選曲の理念はほぼ同じではないかと思います。

1.ノールウェー民謡 & マティアス スカード 「日光浴」
2.ルードイッヒ イルゲンス イエンセン & ハルディス モーレン ヴァ―サス 「祭壇」
3.ヨーゼフ・ラインベルガー「パストラーレ」
4.ノールウェー民謡 & バーント ストリーレン「イム・イット・イット・ヒムメリック・エイ・ボルグ」
5.バッハ 「イエスは私の喜びのまま」
6.メンデルスゾーン  「ポール」より「アリア」
7.バッハ 「おお、イエス様、おお、やさしいイエス様」
8.モーツァルト 「ラウダーテ ドミヌム」
9.ヨハン・ゴットフリード・ヴァルター 「トマソ アルビノーニの協奏曲 I F-Dur: I. アレグロ 」
10.ヨハン・ゴットフリード・ヴァルター 「トマソ アルビノーニの協奏曲 I F-Dur: II. アダージョ」
11.ヨハン・ゴットフリード・ヴァルター 「トマソ アルビノーニの協奏曲 I F-Dur: III. アレグレット」
12.C.シンディング「主の母」
13.バッハ「あなた、あなた、エホバ、私は歌いたいのです」
14.ドイツの曲「誰もそれほど安全ではない 」
15.ローウェル・メイソン「主よ、御許に近づかん」
16.ヨーゼフ・ラインベルガー 「夜の歌」
17.ノールウェー民謡「私はイエスの名の下に眠ることを知っています」
18.ヘンリー・パーセル「夜」


 Canto Ergo Sum - われ歌う、ゆえにわれあり‐ ベンヤミン・イーサクセン

  ベンヤミン・イーサクセン(あるいはイサッツシェン Benjamin Isachsen)が2008年6月~8月に録音し、2009年5月18日にリリースされたCDは、バッハ・ヘンデル等の古典派から、シューベルトやメンデルスゾーン等のロマン派までの著名な宗教曲を中心にしながらも、日本ではあまり知られていないノルウェーの宗教曲も歌っており、典型的なクラシック系のボーイ・ソプラノです。ベンヤミン・イーサクセンが1993年生まれであるところから、15歳ぐらいではないかと思われます。これは、少年の変声期が前掲化している現代においては、長くボーイ・ソプラノを維持できた例と言えましょう。その歌声の特色は、ボーイ・ソプラノの特徴でもある金属的で透明度の高い聖堂に響き渡るような響きではなく、むしろ女声的あるいは、母性的な温かさを感じる歌声です。それは、シューベルトの「アヴェ・マリア」を聴くと特に感じます。

1.ヘンデル オラトリオ「メサイア」よりアリア 「美しきかな喜びの音信を告ぐるものの足よ」
2.バッハ 「われは忠実に静寂を守り 」
3.バッハ/グノー 「アヴェ・マリア」
4.ガブリエル・フォーレ 「レクイエム」より「ピエ・イエズ」
5.トロン・クヴェルノ 「エレミア - カンティーレナ」
6.ハイドン 「神なる聖ヨハネのミサ・ブレヴィス」
7.シューベルト 「アヴェ・マリア」
8.シェル・モルク・カールセン 「夜の訪れは船足速く」
9.ジェフリー・バーゴン 「ヌンク・ディミティス」
10.メンデルスゾーン 「鳩のように飛べたなら」
11.バッハ 「御身が共にいるならば」
12.トラディショナル「天つみ国に 」
13.ジークフリート・カルク=エーレルト「今すべての森、静かなり」


 Moray West Scotland Boy (モーレイ・ウェスト スコットランドの少年)

  サブタイトルにもあるようにスコットランドの民族楽器バグパイプの伴奏で始まる民謡風の歌が2曲続き、モーレイ・ウェストの歌声もイギリスの伝統的な歌声の少年で、そういう系統の素朴な歌を歌う少年なのかと思って聴いていたら、3曲目は、いきなりモーツァルトの歌劇「魔笛」の「夜の女王のアリア」です。しかし、このアリアも華麗で金属的な技巧を聴かせるというよりも、そこにそこはかとない自然さを感じてしまいます。また、初めて聴く曲もありましたが、古楽・宗教曲・民謡・現代曲といろいろなジャンルの歌をそれぞれの雰囲気に合うように歌い分けているところが心に残ります。自己主張の強い歌ではなく、それぞれの曲に合わせた歌い方ができる少年だと感じました。また、バックコーラスの少年たちの歌声は、やや幼く聞こえますが、決して不調和にはなっていません。なお、モーレイ・ウェストは、1995年、英国スコットランドのグラスゴーに生まれました。スコットランド国立少年合唱団とスコットランド王立交響楽団付属ジュニアコーラスで訓練を積んでいます。このCDは、そんなモーレイ・ウェストの多様な側面を収めています。

1. Highland Cathedral
2. Miss You
3. Queen Of The Night
4. Music For A While
5. Iona Boat Song
6. The Lord Is My Shepherd
7. You Raise Me Up
8. Down In The Glen
9. Refuge
10.Bist Du Bei Mir, BWV 508
11. In Dreams
12. Hear Ye Israel
13. Laudate Dominum
14. Ombra Mai Fu
15. Believe
16. Will Ye No Come Back Again



 DIE CHORJUNGEN

 アウクスブルク大聖堂聖歌隊のトップソリストを務めるヤン(Jan Enderle 13歳)、ゲオルグ(Georg Star 14歳)、ニコラス(Nicolas Schwandner 13歳)の3人でユニットを組んで、クロスオーバーに近いクラシック曲を演奏させたらどうだろうという企画のもと、2014年にディ コールユンゲン(Die Chorjungen)は誕生しました。そのような企画ゆえに、選曲も、彼らにとっての母語である"An Der Schonen, Blaunen Donau" や、"konnt ich fliegen wie Tauben dahin"のようなドイツ・オーストリア系の曲よりも、"Tears In Heaven"、"Amazing Grace"、 "You Raise Me Up"等イギリス系の曲が多く、しかも、 "Ave Maria"や"Miserere"のような宗教音楽が多いこともあって、歌声もまたそれらの曲に似つかわしく硬質で金属的な響きと言うよりは、全体的に柔らかで包み込むような感じを受けます。

1.エリック・クラプトン「ティアーズ・イン・ヘヴン」
2.ヨハン・シュトラウスⅡ「美しく青きドナウ」
3.バッハ/グノー「アヴェ・マリア」
4.ハワード・グッドール「この人を見よ」
5.フェリックス・メンデルスゾーン「鳩のように飛べたら」
6.アンドリュー・ロイド・ウェバー「ピエ・イエズ」
7.トラディショナル「アメイジング・グレイス」
8.ガブリエル・フォーレ「レクイエム」より「楽園にて」
9.トラディショナル「朝の光は輝けり」
10.ラインハルト・メイ「雲の上」
11.ヨハン・アブラハム・ペーター・シュルツ「月は昇りぬ」
12.トラディショナル「オールド・ラング・サイン 」
13.グレゴリオ・アレグリ「ミゼレレ」
14.ロルフ・ラヴランド「ユー・レイズ・ミー・アップ」


 めざせ! ミュージカル☆キッズ
~歌ってみたい憧れの名曲&オーディションに役立つカラオケ集

 最近の日本において、ミュージカルは、お稽古事としても注目されつつあり、その中には、プロの子役を目指す子どもも増えてきています。日本の少年合唱団の中で、創立以来長年ミュージカルに力を入れてきたのは、北九州少年合唱隊です。また、TOKYO FM 少年合唱団も、年によってはオペラや、合唱ミュージカルにも挑むこともあり、最近では広島少年合唱隊も毎年のように合唱ミュージカルに挑んでいます。ところで、合唱団員を育てるのと、ミュージカル劇団員を育てるのでは、育成の理念や方法にかなり違いがあると考えられます。
 さて、子役が主演を務めるミュージカルにおいて、少女の場合は「アニー」が有名です。少年の場合は、「ライオンキング」においてヤング・シンバが重要な役です。とりわけ、2017年に上演された「ビリー・エリオット」は、日本の少年にこの役を演じることができるかと危惧されましたが、ビリーは5人(マイケルは4人)の子役によって見事に演じられ、2020年には再演が決定しています。また、主役ではありませんが、東宝の「レ・ミゼラブル」でガブロージュ役を演じた子役は、長じて有名な俳優やミュージカル俳優になっています。ところで、これらのミュージカルのオーディションは、たいへんな狭き門と言われています。ミュージカルを目指すには、歌・ダンス・芝居の3つの技術が必要となります。
 このうち、歌に特化したCD「めざせ! ミュージカル☆キッズ~歌ってみたい憧れの名曲&オーディションに役立つカラオケ集」が、発売されました。女優、声優、歌手であり、ディズニー映画で、歌の部分の吹き替えを担当することが多い伊東えりの指導の下、100名を超えるオーディションで選ばれた子どもたちと、テレビや舞台で活躍する合唱団の子どもたちが歌う、ミュージカル&映画の名曲・人気のこどもの歌が、全曲カラオケつきで発売されました。収録曲は、次のようです。

(Disc1) 歌入り (Disc2) カラオケ
●憧れのミュージカル&映画ナンバー
01. ビビディ・バビディ・ブー~「シンデレラ」より
02. チキ・チキ・バン・バン~「チキ・チキ・バン・バン」より
03.雲の上のお城~「レ・ミゼラブル」より
04.私のお気に入り~「サウンド・オブ・ミュージック」より
05.トゥモロー~「アニー」より
06.パート・オブ・ユア・ワールド~「リトル・マーメイド」より
07.どこまでも~How Far I'll Go~ ~「モアナと伝説の海」より
08.友だちはいいもんだ~「ユタと不思議な仲間たち」より
09.スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス~「メリー・ポピンズ」より
10.ドレミの歌~「サウンド・オブ・ミュージック」より
11.ジッパ・ディー・ドゥ・ダー~「南部の唄」より
12.メモリー~「キャッツ」より

●人気のこどものうた
13.手のひらを太陽に
14.にんげんっていいな
15.あめふりくまのこ
16.アイスクリームのうた
17.ドロップスのうた
18.上を向いて歩こう
19.さんぽ~「となりのトトロ」より
20.君をのせて~「天空の城ラピュタ」より
21.〈ボーナス・トラック〉民衆の歌~「レ・ミゼラブル」より (カラオケのみ)

 ここでは、本ホームページの趣旨に従って、少年(少女と交互)によって歌われているものを紹介します。
 「ジッパ・ディー・ドゥ・ダー」は、1946年公開のディズニー映画『南部の唄』の挿入歌で、1947年のアカデミー歌曲賞を受賞している曲です。10人の少年の合唱(一部ソロ)によって歌われていますが、明るい爽やかな声で曲想にあった歌が歌われています。「メモリー」は、ボーイ・ソプラノとして一世を風靡したアレッド・ジョーンズによっても歌われましたが、その歌は歌曲の延長線上にありました。岡村要は、曲の流れによって声を使い分けながら大きな山場をつくり、劇的な表現をしています。たいへんうまみのある歌ですが、このうまみは一歩間違うと臭みにもつながるとも感じました。舞台においては、このような表現力が必要になってくるのでしょう。「あめふりくまのこ」では、男女4人(竹内彰良・東條莞典)で1番ずつ歌われていますが、物語歌という意識をもって表情豊かに歌われています。「アイスクリームのうた」では、「ビリー・エリオット」で、マイケル役を演じた山口れんの歌を聴くことができます。山口れんの歌は、童謡ということもあって大げさな表現をせず、綺麗な歌声で、「ぼくは王子ではないけれど」と歌いながら、王子様のような気品のある歌を歌っています。「ドロップスのうた」は、吉浦陽によって通して歌われていますが、ここでも、有節の童謡を一番ごとに違う歌を歌って、一編の物語を作っています。


藤木大地 ニューアルバム「愛のよろこびは」(込山直樹協演)

 日本が誇るカウンターテナー 藤木大地は、2017年4月にオペラの殿堂ウィーン国立歌劇場でのデビューしましたが、同年4月には武満徹の「死んだ男の残したものは」をはじめとする日本歌曲や英国の民謡等カウンターテナーで歌うことによってそのよさが浮かび上がる名曲集でCDデビューしました。さらに、2018年10月ワーナーからメジャー・デビュー・アルバムを発売しました。バロックから現代曲まで幅広い曲を集めたアルバムですが、フランクの「天使のパン」では、2017年7月にバーンスタイン「ミサ」で共演し、それ以後も、自らのコンサートにゲスト出演させたりして可愛がっているボーイ・ソプラノの込山直樹がデュエットで共演しています。カウンターテナーとボーイ・ソプラノの共演は、ヨーロッパでは、ペルゴレージの「スターバト・マーテル」など前例がありますが、日本においては、おそらく初めてではないでしょうか。そのような珍しさだけではなく、藤木大地の歌は言葉がよく聴き取れ、情景が浮かんでくるような歌で、込山直樹の歌は、それに清純な響きで呼応しています。

【曲目】
1 アヴェ・ヴェルム・コルプス (モーツァルト)
2 アヴェ・マリア (カッチーニ )
3 愛のよろこびは(マルティーニ ) 映画「ハナレイ・ベイ」主題歌 Original Version
4 献呈 (シューマン )
5 アヴェ・マリア (シューベルト)
6 はすの花 (シューマン)
7 それはすばらしい (リスト)
8 原光~「交響曲第2番 “復活"」 (マーラー)
9 リュートを弾くオルフェウス (ヴォーン・ウィリアムズ )
10 静かな真昼「生命の家」(ヴォーン・ウィリアムズ)
11 シンプル・ソング~「ミサ」(バーンスタイン )*
12 アヴェ・マリア (バッハ/グノー )
13 クロリスに (アーン)
14 ピエ・イエズ~「レクイエム」 (フォーレ)
15 天使のパン (フランク ) **
16 アメイジング・グレイス (賛美歌) アカペラ

【演奏】
:藤木大地(カウンターテナー)
マーティン・カッツ(ピアノ)
*上野星矢(フルート)
**込山直樹(ボーイ・ソプラノ)


 ウィーン少年合唱団 ニューアルバム ”Strauss For Ever”

 ウィーン少年合唱団が、オーケストラの伴奏によるシュトラウス家のワルツやポルカのニューアルバム ”Strauss For Ever”(「シュトラウスよ永遠に」と訳すべきでしょうか)を出しました。ウィーン少年合唱団は、最近では、毎年来日していますが、カぺルマイスターの先生のピアノ伴奏が基調で、ところどころに、団員の楽器演奏が入るというのが普通になっています。かつて1960年代ぐらいのLP(後にCD化されたものもあります。)に、オーケストラの伴奏によるシュトラウス家のワルツやポルカの演奏はありますが、音響の古さはあっても、ゆったりとした優雅なウィーン情緒を楽しむことができます。最近ではウィーンフィルのニューイヤーコンサートで、2曲ぐらいを歌うことはありますが、まとめて14曲も聴けるCDが発売されたことは、快事であります。

 音響もクリアーであるとともに華やかで、来日した団員も歌っていると思うと、身近に感じます。ソリストとして名前が記載されているRobert君は、ボーイ・ソプラノの美質というべきビブラートがなく、気品のある歌い方で好感が持てます。しかし、ソリストが、Robert君一人だけかどうかは不明です。選曲も、「美しく青きドナウ」「ウィーンの森の物語」「皇帝円舞曲」のような定番のワルツ、「トリッチ・トラッチ・ポルカ」「鍛冶屋のポルカ」のような定番のポルカに加え、この数年の間にウィーン少年合唱団の演奏によって知られるようになってきた埋もれていた名曲の「水兵のポルカ」や「永遠に」が加えられていることに新味を感じます。アンサンブルとして面白かったのは「春の声」で、声部の絡み合いは聴き応えがありました。一方、優雅なウィーン情緒を代表する「南国のばら」や「芸術家の生涯」が最近のコンサートでもこのCDにもないのが、少しさびしく感じます。これらは、最近のコンサートでも歌われておりません。また、一度でも聴いてみたいのは「宝のワルツ」です。シュトラウス家の曲にも流行というものがあるのでしょうか。

【曲目】

1. 休暇旅行で Op.133
2. 水兵のポルカ Op.52
3. 皇帝円舞曲 Op.437
4. 山賊のギャロップ Op.378
5. ウィーンの森の物語 Op.325
6. 浮気心 Op.319
7. 春の声 Op.410
8. トリッチ・トラッチ・ポルカ Op.214
9. 千夜一夜物語 Op.346
10. 鍛冶屋のポルカ Op.269
11. ハンガリー万歳 Op.332
12. 美しく青きドナウ Op.314
13. ラデツキー行進曲 Op.228
14. 永遠に Op.193

【演奏】
ウィーン少年合唱団、
ジェラルド・ワース(指揮)
ウィーン・サロン・オーケストラ

【録音】
2018年3月-4月、オーストリア


 ライト・ディヴァイン ~ トレブルとアンサンブルのためのバロック音楽』

   2003年生まれのノルウェーのボーイ・ソプラノ、アクセル・リクヴィン待望の第2弾は、ノルウェ  ーのプロ室内楽団の一つ、MINアンサンブルと共演したバロック音楽集。美しいボーイ・ソプラ ノの歌声で贈るヘンデルやラモーを中心としたトレブルと古楽のアンサンブルのための音楽は 、ボーイ・ソプラノファンにも古楽ファンにもお薦めです。ただ、この中でアクセル・リクヴィンが 歌っているのは、14曲中(ヘンデル:神の光の永遠の泉、ヘンデル(ベネット編):狩りにて(女猟 師ディアナ)、アルビノーニ:新たな恐ろしい戦争が起こる(《ラ・スタティーラ》より)、ラモー:アバリ スのエントリー(《レ・ボレアド》より)、ラモー:何が私を抑えているのか私は知らない(《ナイス》よ り)/の5曲だけで、後はトランペットを中心とした器楽曲なので、このような曲になじんでいない クラシックファンの中でもロマン派以降の曲がお好きな方には、ややワンパターンの退屈な曲 に聞こえるかもしれません。この中での代表曲は、何と言っても、ヘンデルの「神の光の永遠の泉」でしょう。装飾音が実に美しく滑らかに歌われており、おそらく、これらの歌は、初演当時はカストラートによって歌われていた可能性が高く、当時の人々を熱狂させたのではないかということが伺えます。このような曲に21世紀の今、改めて光を当てたアクセル・リクヴィンの感性や着眼点に驚きさえ感じます。しかし、師事した先生の示唆はあったとは思いますが、自分の持ち味を生かすという視点から観ると、自分をよく知っていると言えます。また、フランスのバロック・オペラの頂点を極めたラモーのオペラアリアは、前奏が長く、歌に入ると、独得の装飾音を入れながら高音を長く響かせる、様式美を重んじる作風であり、また、アクセル・リクヴィンは、それに応える演奏をしています。このCDの題名には、「トレブル」という言葉が使われていますが、それは“独唱者”という位置づけを強調したものでありましょう。
 なお、アクセル・リクヴィンは2017年の秋には変声期を迎え、2018年の現在はバリトンのオペラ歌手として新たなキャリアを歩んでおり、このアルバムはボーイ・ソプラノとしてのアクセルの無垢な歌声を記録した貴重な録音となります。変声期前に2枚のCDを出すことができたというだけでも、このボーイ・ソプラノがいかにその実力を評価されていたかということが伺えます。

【曲目】
ヘンデル(ベネット編):協奏曲ヘ長調 HWV.331/
ヘンデル:神の光の永遠の泉 HWV.74/
ヘンデル(ベネット編):トリオ・ソナタ第4番ト長調Op.5-4, HWV.399より パッサカリア/
ヘンデル:どんな情熱が音楽を盛り上げたり静めたりできないだろうか HWV.76/
ヘンデル(ベネット編):狩りにて(女猟師ディアナ) HWV.79/
アルビノーニ:新たな恐ろしい戦争が起こる(《ラ・スタティーラ》より)/
フィリップ・ヤコプ・リットラー:7声のチャッコーナ/
ラモー(オーレスキョル/
ベネット編):リトルネッロ(《イポリートとアリシ》より/
ラモー:アバリスのエントリー(《レ・ボレアド》より)/
ラモー(オーレスキョル/
ベネット編):悲しみの支度(《カストールとポリュックス》より)/
ラモー(ベネット編):バレエ・フィギュアとエール(《ゾロアストル》より)/
ラモー(オーレスキョル/
ベネット編):嵐(《プラテー》より)/
ラモー:何が私を抑えているのか私は知らない(《ナイス》より)/
ラモー(ベネット編):シャコンヌ(《優雅なインドの国々》より)

【演奏】
アクセル・リクヴィン(トレブル)、
MINアンサンブル、
マーク・ベネット(トランペット&芸術監督)、
ラザール・ミレティッチ(アンサンブル・ディレクター)

【録音】
2017年7月4日-7日、ヤール教会(ノルウェー)



 少年たちだけによって歌われたペルゴレージの「スターバト・マーテル」


  ヨナ・シェンケル(ボーイ・ソプラノ)が歌ったペルゴレージの「スターバト・マーテル」の中で、私は、この曲の演奏には、①ボーイ・ソプラノ+カウンター・テナー ②ソプラノ+カウンター・テナー ③ソプラノ+アルト(メゾ・ソプラノ)の3種類の演奏があると述べましたが、これを加筆訂正する必要が出てきました。④として、ボーイ・ソプラノ+ボーイ・アルトのCDが登場したからです。ヨスト・ザルムが率いるドルトムント・アカデミー少年合唱団のソリストたちは、このCD作成のために選ばれて、猛特訓を受けたのはないかと想像されます。このCDには、ペルゴレージの  「スターバト・マーテル」だけでなく、ペルゴレージと同時代を生きたヨハン・ヴァレンティン・ラートゲーバー(1682-1750)のミサ・ブレヴィスや、ディートリヒ・ブクステフーデ(1637-1707)の悲歌「それでもなお死は逃れられないのか」が、その前後に演奏されているのも、このCDの特色と言えます。さて、「スターバト・マーテル」に絞っていえば、ボーイ・ソプラノのティツィアン・ガイヤーとボーイ・アルトのスヴェン・ヴァーグナーの歌声のバランスがよく、比較的ゆったりとしたテンポで歌っており、ティツィアン・ガイヤーは、ボーイ・ソプラノ特有の金属的でない温かい響きで歌ってます。また、高音になっても決してファルセット系の声にならずに歌い切ったところがすばらしいと思います。一方、ボーイ・アルトのスヴェン・ヴァーグナーは、これまでボーイ・ソプラノと比べて録音も少なかったため、その魅力が伝わりにくかったボーイ・アルトの包容力のある歌声の魅力を伝えることができました。2015年6月の録音ということで、これを執筆する3年後の今、このソリストたちも既に今では、この歌声を失っている可能性が高いでしょうが、それだけにかけがえのない美しいものを後世に残してくれたと思います。
  なお、調査を進めていきますと、ヌイイ聖十字架パリ少年合唱団(Petits Chanteurs de Sainte-Croix de Neuilly )のメンバー ピエール・ムザール (12歳)と、ハドリアヌス・ルフェーブル(11歳)がソロを歌っているCDが、2001年に録音されていることがわかりました。


 ヨナ・シェンケルの歌声を残すために?

バッハ/ヘンデル/モーツァルト/シューベルト/メンデススゾーン/フランク:歌曲集

 少年合唱団が合唱曲を録音することはありますが、このCDは、その前年に録音された「スターバト・マーテル」同様、いやそれ以上にチューリッヒ少年合唱団にとって不世出のソリスト ヨナ・シェンケルにスポットを当てたアルバムと言えます。なぜなら、番号に〇印をつけた12曲中8曲がヨナ・シェンケルの独唱だからです。しかも、ヘンデルの「ハレルヤ」以外は、オーケストラ曲ですから、事実上のヨナ・シェンケルのソロ・アルバムと言ってよいでしょう。年齢的には14歳ぐらいの頃の演奏で、前作よりもさらにボリューム感と伸びのある歌声を堪能することができます。いわゆるボーイ・ソプラノソロの定番曲となっている曲も多くありますが、とりわけ、ヘルベックの「しもべらよ、ともに歌え」の神々しさには、心を奪われてしまいます。また、バッハ/グノーの「アヴェ・マリア」は、むしろ楚々とした歌い方を基調にしていますし、シューベルトの「アヴェ・マリア」は、濃密な情感に満ちた歌い方で対比的に聴くことができます。

1、G線上のアリア
②、オンブラ・マイ・フ
③、ヘンデルのオラトリオ・メサイアより 「シオンの娘よ大いに喜べ」
4、ヘンデルのオラトリオ・メサイアより「ハレルヤ」
5、アルビノーニのアダージョ ト短調
⑥、主をほめ讃えよ(Laudate Dominum モーツァルト)
⑦、アヴェ・マリア(バッハ/グノー)
⑧、しもべらよ、ともに歌え(Pueri Concinite ヘルベック)
⑨、天使のパン
10、パッヘルベルのカノン
⑪、アヴェ・マリア(シューベルト)
⑫、わが祈りを聞きたまえ(Hear my Prayer メンデルスゾーン)

ヨナ・シェンケル - Jonah Schenkel (ボーイ・ソプラノ)
チューリッヒ少年合唱団 - Zürcher Sängerknaben
北谷直樹 - Naoki Kitaya (オルガン)
アルフォンス・フォン・アールブルク - Alphons von Aarburg (指揮)


 ヨナ・シェンケル(ボーイ・ソプラノ)が歌ったスターバト・マーテル

 わずか26歳という短い生涯の死の直前、最後の力をふりしぼるかのように作曲されたペルゴレージ(Giovanni Battista Pergolesi, 1710~1736)の「スターバト・マーテル」は、近年バロック音楽に新たな光があてられるようになってくる中で、演奏・録音される機会が増えてきました。我が子が付けられた十字架のもとに佇む聖母の気持ちを歌ったこの曲の演奏は、ソプラノとアルトのパートに次の3種類があります。①ボーイ・ソプラノ + カウンター・テナー ②ソプラノ + カウンター・テナー ③ ソプラノ + アルト(メゾ・ソプラノ)しかし、作曲された時代的にも本来の姿は①であると思います。この演奏の代表盤としては、カウンター・テナーの第一人者ルネ・ヤーコプスがセバスチャン・ヘニッヒの清澄なボーイ・ソプラノを従えた名盤がありますが、あくまでも主役はルネ・ヤーコプスです。このCDは、むしろ、チューリヒ少年合唱団の名ソリスト ヨナ・シェンケル(ボーイ・ソプラノ)のやがて消え去る歌声を残そうと企画されたものかと思います。聴いていても、ヨナ・シェンケルとアレックス・ポッター(カウンター・テナー)とは対等な感じがします。録音は、2013年1月24-27日 チューリヒ・ノイミュンスター教会ということですから、ヨナ・シェンケル12歳ぐらいの時の歌声ということができます。その声は、明るい清澄さを基調としながらも、曲によっては陰影を感じさせるところが魅力的です。

【曲目】
(1)ペルゴレージ: スターバト・マーテル(35:17)
(2)グレゴリ: 合奏協奏曲Op.2-9(3:38)
(3)グレゴリ: 合奏協奏曲Op.2-10(5:05)

【演奏】
カプリッチョ・バロック・オーケストラ(リーダー:ドミニク・キーファー)
(1)チューリヒ少年合唱団(アルフォンス・フォン・アールブルグ:合唱指揮)
ヨナ・シェンケル(ボーイ・ソプラノ)
アレックス・ポッター(カウンター・テナー)

【録音】
2013年1月24-27日 チューリヒ・ノイミュンスター教会


 未来和樹のデビュー盤「たまねぎたまちゃん」

 写真左CD 写真右 未来和樹デビューコンサートちらし

  平成29(2017)年、日本人キャストによるミュージカル「ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~」において、主演のビリー役を演じた未来和樹は、その2年前に童謡でCDデビューしていることがわかりました。曲は赤塚不二夫作詞・筒井広志作曲の「たまちゃんなみだがめにしみて」とやなせたかし作曲・小森昭宏作曲の「おんぶマン」の2曲です。前者は、たまちゃんを泣かしたり、笑わせたり、怒らせたら、涙が目にしみるからだめよというあたたかいメッセージが伝わるような歌です。むしろ、注目すべきは後者で、張りのある明るい声の弾むような歌で、基礎のしっかりした歌を歌っています。なお、NPO日本国際童謡館かながわ主催で、 平成28(2016)年3月28日(月)新宿文化センター小ホールで、「童謡を未来の風にのせて 未来和樹デビューコンサート」が行われ、この2曲以外にも「かわいい魚屋さん」「小さな木の実」「富士の山」「夕焼小焼」「黒ネコのタンゴ」ほかが歌われたようです。未来和樹の持ち味からして、「小さな木の実」など、情愛あふれる歌に仕上がっていたのではないかと思われます。

 MIKEY ROBINSON Boy Soprano
マイキー・ロビンソン  ボーイ・ソプラノ

  マイキー・ロビンソンがCDを出してから約3か月。偶然なことに本ホームページ開設の記念日に入手することができたので、急遽文章化して掲載します。CDは全16曲ですが、そのうちピアノの師であり伴奏者のバートランド・リーのピアノソロが2曲入っていますので、マイキー・ロビンソンが歌っているのは14曲です。宗教曲からオペラのアリア、歌曲からクラシカル・クロスオーバークロスオーバー・ミュージカルナンバー日本の唱歌まで多様な歌を聴くことができます。曲ごとに求められるものは異なりますが、カッチーニやバッハ=グノーの「アヴェ・マリア」や「アヴェ・ヴェルム・コルプス」「天使のパン」のような宗教曲では清澄さや様式美を大切にしながらも、多くの曲では濃密な情感を味わうことができるアルバムになっています。昨年の10月に名古屋で実際の演奏に接していますので、その時聴いた曲は、一層緻密な歌になっています。「ブライト・アイズ」や「ダニーボーイ」のような曲にこそマイキー・ロビンソンの濃密な情感という歌の本領が発揮されていると感じます。明るい声質は、ともすれば軽く感じられるものですが、マイキー・ロビンソンの情感豊かな歌は、むしろ濃密さを感じさせます。


1 「アヴェ・マリア」(カッチーニ)
 カッチーニの「アヴェ・マリア」は、ソ連のウラディーミル・ヴァヴィロフの作曲であることが最近では明らかになっています。マイキー・ロビンソンの歌唱は、ただ流麗に声を響かせるだけでなく、高音域になるにつれて透明度が高くなり、清澄な旋律の美しさを浮き彫りにするように仕上がっています。

2 「アヴェ・ヴェルム・コルプス」(モーツァルト)
 マイキー・ロビンソンは、モーツァルトのこの曲がもっている深い祈り心を浮き彫りにするだけでなく、転調による曲想の微妙な変化や陰影の部分を味わい深く歌っています。

3 「天使の糧」
 「天使のパン」という呼び名で知られるフランク作曲のこの曲に添えられたせっせつとした祈り心は、繰り返して歌われるたびに深まっていきます。

4 アヴェ・マリア(バッハ=グノー)
 ボーイ・ソプラノの定番曲になっているこの曲をマイキー・ロビンソンは、前半をやや抑え気味に歌いながら、大きな山場を創り上げるように構成美を大切に歌っています。

5 パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV825(バッハ) ピアノ:バートランド・リー

6 歌劇「フィガロの結婚」より「恋の悩みを知る君は」(モーツァルト)
 この歌唱は、コンサート・ヴァージョンでしょうが、日本のステージで歌った時よりも声が前に出ていことに気付きます。「僕はこんなに想っているんだよ。」という情感がより直接的に伝わってくるように感じます。

7 「メロディーのように」(ブラームス)
  冒頭より、ブラームスらしい濃密な情感のあるれる内面的に豊かな歌唱を聴くことができます。しかも、この曲は、詩がどのようにして生まれるかを描いた詩です。豊かな感情と共に、そこはかとない気品を感じる歌唱になっています。

8 「バラよ、かわいいバラよ」 (シューマン)
 かわいいバラに呼びかける冒頭の言葉のウムラウトを強調した表現が、素朴な歌全体を引き締めているだけでなく、曲全体に濃密な情感を感じることができました。これがこの数か月の間の歌への傾倒であるのではないでしょうか。

9 「風景」(アーン)
 ベネズエラ生まれで、フランスで活躍したレイナルド・アーンが作曲したこのサロン音楽風の小粋で美しい歌曲は、美しいメロディとピアノ伴奏が溶け合って、至福な小宇宙を創り出しています。

10 Mandoline (フォーレ)
 ヴェルレーヌの有名な詩にフォーレ作曲のピアノ伴奏の独得のリズム形が面白い曲ですが、マイキー・ロビンソンは、歌はユーモアの中に優美さををそこはかとなく漂わせています。

11 前奏曲 第8番 亜麻色の髪の乙女 (ドビュッシー)  ピアノ:バートランド・リー

12 「ブライト アイズ(輝く瞳)」 (アート・ガーファンクル)
 1978年製作のイギリス製アニメーション映画「ウォーターシップダウンのうさぎたち」が作られ、その主題歌「Bright Eyes」がマイク・バットの作詞、作曲で、アート・ガーファンクルが歌いました。1980年に畑正憲監修で日本語吹き替え版が作られ、主題歌の「Bright Eyes」は、井上陽水の訳詩で発表されました。このようなポップス系の歌でもマイキー・ロビンソンは、歌い崩すことなく端正な歌を歌っています。かつて、アレッド・ジョーンズが「明日にかける橋」を歌ったように。

13 「ダニー・ボーイ」(アイルランド民謡)
 アイルランド民謡の「ロンドンデリーの歌」に作詞された曲で、女性の立場で男性に別れを告げる歌として、また両親や祖父母が戦地に赴く息子や孫を送り出すという設定で解釈されることも多い歌です。抒情的な表現に優れているマイキー・ロビンソンにあった曲ということもできましょう。

14 ミュージカル映画「オズの魔法使い」より「虹の彼方に」(アーレン)
 1939年のミュージカル映画『オズの魔法使』でジュディ・ガーランドが歌った劇中歌で、スタンダードナンバーとして知られ、2001年に全米レコード協会等の主催で投票により選定された「20世紀の名曲」では第1位に選ばれた名曲です。前歌と本歌の対比や、本歌の冒頭でいきなり1オクターブ声が飛ぶところや、最後のロングトーンなど聴きどころの多い曲です。

15 「レクイエム」より「ピエ・イエズ」(R・ウェッバー)
 本来は、デュエットのために創られたこの曲のソプラノパートを明るい声質のマイキー・ロビンソンは、華やかさを抑え気味にして、祈り心が伝わるように慎ましやかに歌い上げています。

16 「ふるさと」(岡野貞一)
 1914年(大正3年)の尋常小学唱歌の第六学年用で発表された代表的な唱歌を日本の血を引き継いでいるマイキー・ロビンソンは、日本語の発音も確かで有節歌曲のように1番ごとに歌い分けています。

 アクセル! ~ バッハ、ヘンデルとモーツァルトのアリア集~

  カバー写真に載せられた表題が「アクセル!」というファーストネームそのものであることが印象的で、まさに「今、聴くべきはこの少年の歌声!」と言っているようです。アクセル・リクヴィンは、ノルウェー・ナショナル・オペラ&バレエの少年合唱団、オスロ大聖堂の少年聖歌隊のトップ・ソリストで、12歳の歌声と思えないほどの極めて完成度の高い歌を歌っています。
 ロマン派の旋律美に満ちた歌曲を聴き慣れた耳には、バッハやヘンデルの宗教曲やオペラアリアに多用されるメリスマが機械的に聞こえてしまうこともあるのですが、アクセルの歌は、ただメリスマの技巧を聴かせるだけでなく、そこに血の通ったドラマを創り上げています。とりわけ、ヘンデルの歌劇『アルチーナ』の「人でなし!」という冒頭の叫びに似た歌声には戦慄さえ覚えてしまいます。だからこそ、それを聴いた後の同じヘンデルの『リナルド』の「私を泣かせてください」は、心の安らぎをもたせてくれます。このような対比的な歌唱がことができることが、歌のうまさと言えるでしょう。
 また、モーツァルトの『フィガロの結婚』の「恋とはどんなものかしら」は、最近ボーイ・ソプラノによって歌われた歌を聴く機会を多くもつようになりましたが、少年ならではの秘めやかで、ときめきを感じる歌を情感豊かに歌っています。それと比べると聴くことの少ない「自分で自分がわからない」は、多感さゆえに心が落ち着かずどうしたらよいかわからない様子を歌いこなしています。「アレルヤ」では、コロラトゥーラの華やかな技巧に圧倒されながらも、技巧を聴かせるだけでない美しい歌を聴くことができます。
 なお、アクセル・リクヴィンは、アレッド2世と呼ばれているようです。声質は違いますが、歌い方はアレッド・ジョーンズによく似ています。約30年前の録音を聴くことで影響を受けているだけでなく、モデルにしているとも考えられますが、単なる模倣ではなく、自分の歌として歌いこなしています。


 フィンガー5 あきら 「ぼくの好きな歌」(LP)

 フィンガー5の玉元晃について改訂していた頃、ソロアルバムを入手することができました。日本のボーイ・ソプラノがソロのCDを出すことは、今でも珍しいことですから、ボーイ・ソプラノとして全盛期であった1974年にソロのLPを出したフィンガー5の玉元晃の「ぼくの好きな歌」は、同時期にソロアルバムを出した童謡~クラシック系の坂本秀明とは違った意味で画期的なアルバムです。選曲された10曲は、すべて当時あるいは少し前に流行ったポップスのカバー曲なのですが、歌唱力を求められる曲もあり、フィンガー5のオリジナル曲とは違った楽しみ方ができます。とりわけ、ピーノ・ドナッジオが創唱し、エルビス・プレスリーによって世界的なヒット曲となったカンツォーネ風の「この胸のときめきを」とスタンダードジャズ風の小坂明子の「あなた」は、このアルバム中双璧と言える歌唱です。この2曲の曲想の違いを歌い分けているところはさすがです。ただ、10曲通して聴くと、甲高い高音を張り上げて恋の歌を歌うことが基調で、しかもイェイ!を連発するのため、同じ色調に聞こえることもあります。これは、多くの少年歌手にありがちな傾向です。


 「やなせたかしのうた」
~アンパンマンのマーチ~

 

 東京・駒込の六義園前にあるフレーベル館の社屋の前には、アンパンマンの像が建っています。これは、「アンパンマン」シリーズが会社への貢献が大きかったというだけでなく、アンパンマンが日本の子どもの人間的な成長に果たしたよい感化に対する顕彰という意味もありましょう。平成26年の6月に発売されたCD「やなせたかしのうた」~アンパンマンのマーチ~は、前年に急逝されたやなせたかしの詩に作曲された代表曲が、やなせたかしとゆかりの深いフレーベル少年合唱団をはじめとする3つの児童合唱団によって歌われた18曲とカラオケバージョン4曲が収められたものです。ここでは、フレーベル少年合唱団によって歌われた9曲を中心に述べていきます。

 最初の4曲はアンパンマンの歌です。三木たかし、いずみたく、馬飼野康二と3人の作曲家によって作曲されていますので、組曲ではないのですが、4曲通して聴くと、「アンパンマン」のもっているいろいろな要素が描かれていて、まるで組曲のように聞こえてくるところが面白いです。「アンパンマンのマーチ」は、飛び抜けて有名な曲で、フレーベル少年合唱団の定期演奏会では毎回エンディングステージで全員合唱として採り上げられていますが、幼稚園児の団員も入ると、どうしても幼い歌に聞こえてしまいます。この録音に参加したのはおそらくフレーベル少年合唱団のセレクトと呼ばれる選抜チームでありましょう。この曲では、爽やかな活力を前面に出しながらも、およそ童謡とは思えない哲学的な深い歌詞には、あっけらかんとした正義ではない内省的な考えや無常観が浮かび上がってきます。それと比べると、「勇気りんりん」は、登場人物を順番に紹介する曲であるために、一本調子なところがある曲ですが、ひたすら明るく歌われています。この曲のあとに「勇気の花がひらく時」を聴くと、たいへん内面性豊かな曲で、助けを求める人に対するアンパンマンのやさしさが浮き彫りになってきます。「アンパンマンたいそう」は、「体操」という形をとった応援歌で、子どもたち一人ひとりの中にいるアンパンマンに目を向けさせた歌であることがわかります。アンパンマンは背中を押してくれますが、最終的には自分で問題解決しないといけないんだよと言っているようにも聞こえます。この曲は内から元気が沸いてくるような歌声で歌われています。なお、これら4曲のうち「勇気の花がひらく時」を除く3曲は、最初は横山潤子編曲のピアノ伴奏で歌われていますが、最後にはカラオケバージョンという形で、オーケストラの伴奏によって歌われています。オーケストラ伴奏になると、伴奏部分において楽器の多様性が楽しめます。

 「ぎんいろの太陽がもえる朝に」は、合唱曲ならではの声の重なりが美しい曲ですが、輝きに満ちた旅立ちの歌として爽やかに仕上がっています。「雪の街」は、しんしんと降り積もる雪と元気な子どもの対比が面白い曲です。「シドロアンドモドロ」は、生まれたばかりのカバの双子のよたよたしたしぐさが浮かび上がるような歌になっています。「老眼のおたまじゃくし」は、年をとっても「かえる」になれないというところがこの歌のミソで、逆に童心をいつまでも持ちつづけているおたまじゃくしに共感した歌です。やなせたかしの歌としては、「アンパンマンのマーチ」以上に幅広い世代によく知られている「手のひらを太陽に」は、誕生から半世紀が経つ曲ですが、力強い生命への讃歌であることを再発見する歌です。なお、これらの合唱曲は、作曲の力にもよるのですが、声が重なり合っても歌詞が非常にはっきりと聞き取れるところがよいと思います。また、このCDは、フレーベル少年合唱団が、昭和30年代以来日本の少年合唱の原点である「正義感に支えられた元気」という要素をきちんと受け継いでいることもわかる1枚です。なお、八千代少年少女合唱団とすみだ少年少女合唱団によって歌われた歌は、団員のほとんどが少女と考えられます、ふくよかな柔らかい声でありますが、金属的な声の少年合唱との違いがはっきりとわかります。


 栗原 一朗
「永遠~Engel Song~」

『悠久の時を越えて響き渡る、天使の歌声』

三枝成彰氏作曲、大友直人氏指揮によるカンタータ『天涯。』にてソロを歌い上げた「天使の歌声」を持つ栗原一朗。
その温かくも透き通った繊細なボーイソプラノを詰め込んだ、奇跡のCDが遂に誕生。
ピアノ伴奏に数々の国際音楽コンクールで受賞をした篠崎朝子氏を迎えた永久保存版!
(amazonの紹介文より)
2014年5月10日発売
「永遠~Engel Song~」ボーイソプラノ 栗原一朗 税込1500円

【収録曲】

1、神の御子は
2、Ave Maria
3、Pie Jesu
4、Panis Angelicus
5、Amazing Grace
6、Walking In The Air
7、You Raise Me Up

 なお、試聴は、下記のアドレスでできます。
http://youtube/NWfKvXn2QEs

 これら7曲は、平成25(2013)年12月23日 東京ヴィヴァルディ合奏団 第14回ファンタジックなクリスマス ~天使の秘密~ でも歌われたものですが、この日サントリーホールでこの歌に接した人は約400人。CDでは、どのように歌われているでしょうか。CDレポートは、後日聴いてから発表します。

「永遠~Engel Song~」発売を記念して、オフィシャルサイトが立ち上がりました。
Profile  Discography  Music Video  Photo Galleryから構成された情報満載のホームページです。

http://kckuriamazon.wix.com/ichiro-kurihara

 
     「永遠~Engel Song~」に寄せて


  私は時々「ボーイソプラノ」や「少年合唱」のキーワードでYoutubeを検索することがあります。それは、もう3年も前になりましょうか。「我楽多荘」という信州の庭園が美しい宿や伊那の山並みを背景にIchiroという名の9歳の少年が歌う「歌の翼に」の動画を発見しました。19世紀の初めにハインリッヒ・ハイネがまだ行ったことのないガンジス川のほとりの赤い花が咲く園に憧れて、想像して書いた詩にフェリックス・メンデルスゾーンが作曲したこの曲をあくのない清純な声で流麗に歌う日本には珍しいヨーロッパ系の歌声をもった少年は、どんな少年だろう。想像は膨らんでいきました。Youtubeの動画は、それからも不定期的に次々と更新されていきました。デュエットを歌う姿が映されたとき、Ichiro君たちは、手を後ろに組んで歌う姿からフレーベル少年合唱団の団員ではないだろうかという想像が頭に浮かびました。毎年平日に東京で行われるフレーベル少年合唱団の定期演奏会に仕事を休んでまで行くことのできなかった私は、10数年前よりビデオやDVDを購入することで定期演奏会を鑑賞していました。DVDの最後に表示される団員名から、この少年は栗原一朗君に間違いなかろうと思うようになりました。それから2年、Youtubeにアップされる歌声は、次第に美しい声で歌うだけでなく、歌のもつドラマ性を増していきました。
 それは、天啓とも言える出会いかもしれません。私に多少の時間のゆとりができた平成25年7月、六本木男声合唱団倶楽部のコンサートのカンタータ「天涯。」のボーイソプラノのソリストとして初めて栗原一朗君の生演奏に接する機会を得ることができました。さらに、10月にはフレーベル少年合唱団のリーダーとして、12月には東京ヴィヴァルディ合奏団のクリスマスコンサートのソリストとして。約半年という短い間に3回も。ボーイソプラノは、変声期の直前が最もよく響き美しいと言われています。まさに、燃え尽きる前のろうそくの輝きにも似て。もしも、12月のコンサートがボーイソプラノのソリストとして歌う最後の機会ならば、再び生演奏で栗原一朗君のボーイソプラノに直接接することはなかろうと思っていたところ、ほぼ同時期にCDとして歌声を残したということを知りました。

 7曲からなる「永遠~Engel Song~」と名付けられたCDには、東京ヴィヴァルディ合奏団のクリスマスコンサートで歌われた歌声が刻まれています。それは、3歳からフレーベル少年合唱団で学び続け、周囲と調和しながら自分を活かすように努めてきた学びの成果として、得意とする清澄で透明度の高い高音域だけでなく、低音域の充実を含め、一人の少年の歌声の成長を見ることができます。最初の5曲の宗教曲では「祈り」という歌の本質が伝わってきますが、このCDの白眉ともいえるのは「Walking In The Air」や「You Raise Me Up」といった比較的最近の曲で、そこでは、歌の主題やドラマ性が浮き彫りとなっており、ボーイソプラノとしての栗原一朗君の歌の集大成と言えるものに仕上がっています。また、ピアノ伴奏の篠崎朝子氏は、これらの曲を陰影の深いものに高めています。

 1、神の御子は(神の御子は 『賛美歌』第111番)
 たいへん古い曲で、10世紀頃フランスの僧侶によって作られたと言われています。原題はラテン語で、「来たれ神へ、忠実なる者よ」という意味です。クリスマスソングの代表の一つですが、このような聖なる曲こそ、清らかなボーイソプラノで歌われることが望ましいと言えるでしょう。一朗君は、日本語と原語で1番ずつ歌っていますが、一節一節を大切に歌っています。

 2、Ave Maria(アヴェ・マリア  バッハ=グノー)
 バッハが、1722年、「平均律クラヴィーア曲集」48曲の第1曲として作曲したハ長調前奏曲をもとにして、グノーが150年後、歌唱部分の旋律を作曲して加えたものです。バッハの曲による伴奏部と、ラテン語祈祷文との美しい調和によって、敬虔な祈りの歌になっている名曲です。一朗君は流麗なだけでなく、深い祈り心を感じる歌を歌っています。

 3、Pie Jesu(『レクイエム』からピエ・イエス ラター)
 ラターの作品は、現代音楽の作曲家でありながら、フォーレの系譜につながる古典的な香りがするのが特色とも言えましょう。「レクイエム」は1985年に発表された作品で、初演にはプラシド・ドミンゴ等も参加しており、CD化されています。第3曲の「ピエ・イエズ」は、天上的な雰囲気もった佳曲で、一朗君の歌は高音になるにつれて輝きを増しています。
 
 4、Panis Angelicus(天使の糧 荘厳ミサ イ長調から フランク)
 「Panis Angelicus」は、「天使の糧」とも「天使のパン」とも訳されますが、フランクが作曲した「荘厳ミサ」の一曲です。旋律の美しさから、この曲だけがコンサートで単独に歌唱・演奏されることが多くあります。一朗君は繰り返しの部分を丁寧に歌うことで一層温和な雰囲気を醸し出しています。

 5、Amazing Grace (アメイジング グレース 讃美歌)
 作詞者はジョン・ニュートン。作曲者は不詳。作詞者のジョン・ニュートンは家庭教育において敬虔なクリスチャンの教えを受けて育ったのにかかわらず、「奴隷貿易」に携わり富を得るようになりました。やがて、それを悔い改悛したニュートンは牧師として生まれ変わり、この曲を作詞しました。この曲は、多くの歌手によって歌われていますが、一朗君は、そのような泥にまみれた曲の背景を全く感じさせない清純な歌を歌っています。ジョン・ニュートンが達した境地とは、このような世界ではなかったでしょうか。
 
 6、Walking In The Air(ウオーキング・イン・ジ・エア「スノーマン」から ブレイク)
 アニメ「スノーマン」から「ウォーキング・イン・ジ・エア」は、雪だるまと少年が手を取り合って夜空を飛びまわりますが、翌朝目覚めたら雪だるまはとけて消えているという「スノーマン」の物語の雪だるまと、ボーイソプラノというやがて消えていく声のはかなさを重ね合わせて、一朗君の哀愁あふれる歌を聴けば、せつないものを感じてしまいます。

 7、You Raise Me Up (ユー・レイズ・ミー・アップ シークレット・ガーデン)
 この曲は、「ロンドンデリーの歌」の旋律をベースに作曲されたと言いますが、哀感に満ちた旋律と「あなたが祈ってくれるから私は強くなれる」と元気を与える歌詞が不思議な融合をして、聴く人のその時の心境によって慰めや癒しだけでなく励ましや生きる勇気を与えてくれる歌にもなるのが魅力的です。リフレインで半音上げて歌うあたりから、この歌は一層心に迫るものになってきます。 


 アロイス・ミュールバッハー
『ALOIS UNERHORT/ALOIS~The Boy and his Voice』

  「アロイス・ミュールバッハー (Alois Muhlbacher)」 その名を知ったのは、2010年のウィーン国立歌劇場でウィーン少年合唱団を卒団した中島信太郎とダブルキャストでヘンデルの幻のオペラ「アルチーナ」を上演した時です。その時は、日本人ソリストの登用ということが大きく採り上げられましたが、アロイス・ミュールバッハーのCDが輸入盤で次々と日本にも入ってくるにつれて、このたぐいまれなオペラシンガーとしての資質をもったボーイ・ソプラノに注目するようになりました。1995年、オーストリア中部のヒンターシュトーダーに生まれ、2005年に聖フローリアン少年合唱団に入団することで才能を開花させます。どちらかと言えば、地味な歌声の少年合唱団には似つかわしくない華やかな声と技巧的な歌いっぷりで驚かされます。
 初めてのソロCD『ALOIS UNERHORT/ALOIS~The Boy and his Voice』が録音されたのは2009~2010年にかけてで当時14~15歳、2011年にリリースされました。このCDは、オペラアリア集といったもので、いきなりモーツァルトの「魔笛」から「夜の女王のアリア」で超ド級の怒りに満ちた金切声で始まります。また、プッチーニの「ジャンニ・スキッキ」から「私の大好きなお父さん」や「蝶々夫人」から「ある晴れた日に」は、清純な娘というよりもはかなり成熟した女性の歌を感じさせる歌を歌います。さらに、J.シュトラウス2世の「こうもり」では、コケティッシュなキャラクターでコロラトゥーラの技巧を聴かせる歌を歌ってくれます。このように多様な歌を聴かせてくれますが、映像でその容姿を見ると、スマートな少年というよりむしろぽってりした大柄なおばちゃんタイプでこのような身体から発する声だからこそ、このような華麗な歌が歌えるのだと納得してしまいます。

(収録曲)
・モーツァルト:『魔笛』~復讐の炎は地獄のように/愛の喜びは露と消え
・ドヴォルザーク:『ルサルカ』~月に寄せる歌
・コルンゴルト:『死の都』~私に残された幸せ
・グリーグ:『ペール・ギュント』~ソルヴェイグの歌
・プッチーニ:『ジャンニ・スキッキ』~私の大好きなお父さん
・プッチーニ:『蝶々夫人』~ある晴れた日に
・カタラーニ:『ワリー』~私は遠くに行きましょう
・J.シュトラウス2世:『こうもり』~田舎娘を演じたら/侯爵様、あなたのようなお方は/チャルダーシュ
・R.シュトラウス:『ナクソス島のアリアドネ』~偉大な王女様
・ドリーブ:『ラクメ』~花の二重唱

 アロイス・ミュールバッハー(ボーイ・ソプラノ)
 フランツ・ファルンベルガー(ピアノ)

 アロイス・ミュールバッハーの「クリスマス・リート集」
Von Hirten und Engeln ~ Wagner, Wolf, etc. : Christmas

 一人のボーイ・ソプラノのソリストが、複数枚のLPやCDを世に送るということは、ごく限られた少年だけに与えられた特典、いや栄典と言ってもよいでしょう。アロイス・ミュールバッハーの超絶技巧のオペラ・アリア集のCDは、このコーナーでも紹介しましたが、それから約2年後の16~17歳でまだボーイ・ソプラノの声を維持しているということ自体が現代では奇跡的ですが、このCDは、クリスマスにちなんだドイツ・リート集です。楽劇の方があまりにも有名なワーグナーをはじめ、ヴォルフ、レーガー、コルネリウスなど19世紀のリート作曲家たちの有名・無名の作品27曲からなるこのCDは、先のオペラ・アリアのCDのように声の力やきらびやかな技巧よりも、歌そのものを聴かせるアルバムに仕上がっています。アロイス・ミュールバッハーの声そのものの華やかな明るさは、バリトンで歌われたほの暗いドイツリートを聴き慣れた私の耳には、明るすぎるように聴こえることもあります。このCDに収められた曲の中で最もよく知られているであろうレーガーの「マリアの子守歌」など、何人かのボーイ・ソプラノのソリストの歌で聴き比べてみることもできますが、やはり飛び抜けて明るい声なのです。しかし、クリスマスが1年で一番昼が短い冬至の直後にあり、これから世が明るくなっていくことを予知させるならば、こういう歌もあってもよいのではないでしょうか。

曲目リスト
1. コルネリウス : 9つの宗教歌曲集よりあなたの国が私たちへとやって来る op.2の3
2. J.ハース : 6つの子供の歌 op.49
3. ヴォルフ : スペイン歌曲集より いざ、さすらえマリア
4. ヴォルフ : 幼な子よ、私をベツレヘムへ連れていって
5. ヴォルフ : ああ、この子供の目は
6. コルネリウス : クリスマスの歌 op.8 (全6曲)
7. レーガー : 12の宗教的なリートより ひとりの御子がわれらのために生まれたもうた op.137の3
8. レーガー : 素朴の歌より マリアの子守歌 op.76の52
9. レーガー : 12の宗教的なリートより 幼な子キリストの子守歌 op.137の10
10. ワーグナー : 女声のための5つの詩より 天使
11. F.フィリップ : 猟師 それを探したい
12. J.ハッツフェルド : 私のナイチンゲールが来る
13. ヴォルフ : メーリケ詩集より 古い絵に
14. ヴォルフ : 眠れる幼な子イエス
15. ヴォルフ : 新しい年にゲーテ詩集より
16. ヴォルフ : エピファニスの祭
17. ヴォルフ : フォン・パーストリ : 森のアドベント

 アロイス・ミュールバッハー(ボーイ・ソプラノ)
 フランツ・ファルンベルガー(ピアノ)

なお、これらのCDを私は上京時に銀座の山野楽器店で入手しましたが、通信販売のamazonでも入手できます。

 TOKYO FM 少年合唱団 
天使のハーモニー ~ボーイソプラノの魅力~

 
 平成25年のクリスマスコンサートの会場で入手した「天使のハーモニー ~ボーイソプラノの魅力~」は、TOKYO FM 少年合唱団のコンサートに通っている人なら、必ずどこかで耳にしたことがある曲が集められています。これまでも、私家盤のような形で定期演奏会やクリスマスコンサートのCDがコンサート会場で頒布されたことがありますが、文字通り会場の拍手やざわめきも入ったものでした。今回のCDは、LIVE盤ということですが、録音状態も非常によくスタジオ録音と変わらないほどです。曲目は、大きく3つに分けられます。

1 女声合唱のための唱歌メドレー「ふるさとの四季」全曲 「ほたるこい」
2 クリスマスキャロルより 「ジングルベル」「ママがサンタにキッスした」「赤鼻のトナカイ」「もろびとこぞりて」
  「マリアは歩みぬ」「神の御子は今宵しも」「きよしこの夜」
3 ぼくらのレパートリー 「おお牧場はみどり」「気球にのってどこまでも」「翼をください」「BELIEVE」

 このCDには、TOKYO FM 少年合唱団の十八番と言われるような曲が並んでいます。「ふるさとの四季」は、平成25年3月の定期演奏会でも披露されましたが、流麗なピアノ伴奏に乗って四季の唱歌を端正でありながらそれぞれ違う色彩に歌い分けています。とりわけ、日本の唱歌が「われは海の子」「村祭り」のような元気な歌でさえいかに抒情的な歌であるかということがわかるような仕上がりになっています。クリスマスキャロルは、声質としては、北村協一先生が中心になって指導されていた頃と比べると、清澄さという点ではやや及ばないけれども、歌詞が非常にはっきりと歌われています。だから、クリスマスキャロルはややボリュームを絞って聴く方がよいかもしれません。また、「ぼくらのレパートリー」は、コバルト色の明るい声で歌われており、どの歌も一つのドラマであると感じさせ、最近のTOKYO FM 少年合唱団の実力を示した1枚となっています。このCDでは、クリスマスキャロルや「BELIEVE」で、Soliを多用しており、ステージと同質の歌を聴くことができます。いずれにしても、TOKYO FM 少年合唱団の今の姿を知るうえでは、貴重なCDと言うことができましょう。


 栗原一朗の「ありがとう」(森田和美「千年の渚」より)

 

 クラシック系の日本の少年のソロがCD化されることは、極めて少ないと言えます。笛、フルート奏者の森田和美氏のアルバム「千年の渚」に収録されている『ありがとう』は、森田和美氏の作詞・作曲によるものですが、この曲の人が生かされていることへの感謝という心を体現するためには、ボーイソプラノこそがふさわしいと考えたのでしょう。フルートの柔らかい伴奏に乗って、抒情的な栗原一朗の「ありがとう」の歌声が、繰り返されます。
 また、この「千年の渚」というアルバムでは、森田和美氏によって篠笛、インディアンフルート、フルート、木の実、アルトフルート、能管など和洋東西のフルート系の管楽器が演奏されていますが、柔らかい音色の楽器と思われがちなフルートやその仲間の楽器たちが、多様な音色や響きを聞かせてくれます。なによりも、雅(みやび)の心が伝わってくる演奏です。

 「天涯。」のソリスト聴き比べ

  「天涯。」・・・その曲の名を私は数か月前まで知りませんでした。家庭電器・音楽産業の大手「SONY」の創業者でもある故・盛田昭夫氏を偲んで、島田雅彦の壮大な詩に三枝成彰が作曲したカンタータ。2000年10月に初演されたこの曲は、混声合唱で演奏されていますが、その初演のライブがCD化されています。また、2006年から2007年にかけては、男声合唱版が六本木男声合唱団倶楽部によってが海外公演も含め3度上演されています。中でも2006年2月に行われた六本木男声合唱団倶楽部演奏会のライブはCD化されています。その後、六本木男声合唱団倶楽部によって、最終曲の「第8番」だけが単独に演奏されていますが、2013年7月に全曲が演奏され、これはDVD・ブルーレイ化されました。これらの演奏史を表にまとめると次のようになります。

 演奏年月日 指揮   合唱  ソリスト オーケストラ 
 2000.10.22  大友直人 晋友会合唱団  ルートウィヒ・ミッテルハンマー ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・
シンフォニー・オーケストラ
 2006. 2. 4  大友直人   六本木男声
合唱団倶楽部
 小澤賢哲 東京フィルハーモニー交響楽団 
 2013. 7. 3  大友直人  六本木男声
合唱団倶楽部
 栗原一朗 東京交響楽団 

 ここでは、合唱やピアノを含むオーケストラについては論じませんが、ボーイ・ソプラノのソリストについて比較研究してみましょう。

 

 初演のボーイ・ソプラノのソリストが、ルートウィヒ・ミッテルハンマーになった本当の理由は知りません。しかし、この年来日公演したテルツ少年合唱団のトップソリストであったミッテルハンマーが、帰国後ソリストとして再来日してこの初演にかかわったということは、その実力もさることながら、日本の少年でこの曲のソリストが務まる少年がすぐに見つからなかったという事情もあるのではないでしょうか。このソリストには、ロングトーンの高音が求められるだけでなく、曲全体をリードする歌唱力が求められます。さて、実際の演奏ですが、むしろ金属的な強い響きが持ち味のルートウィヒ・ミッテルハンマーは、むしろそれを抑えてレガート唱で歌い、最後には天に届けとばかり高らかに歌い上げます。しかし、惜しいかな。kやtなどの無声音は日本語の発声が十分習得できているとは言い難いところがあります。それさえ気にならなければ、大変立派な演奏であると思います。(なお、ルートウィヒ・ミッテルハンマーは、現在バリトンとして活躍しています。)

 

 それから6年たって、TOKYO FM 少年合唱団の小澤賢哲がソリストに迎えられます。「小澤賢哲」その名と歌声を私はTOKYO FM 少年合唱団第22回定期演奏会で聴いています。コンサート会場のエスカレーター前で並んでいると前後に団員のお母さんらしい人が並んでいて、「小澤君の歌声がききものである。」という情報を得ました。事実、そのコンサートの中での独唱曲「オー・ソレ・ミオ」は、くせのない明るい朗々とした歌声でした。この定期演奏会は、「天涯。」の演奏の直後ですから、ほぼ同じ頃の演奏と言えます。さて、CDを聴くと、くせのない明るい朗々とした歌声であるだけでなく、その歌からは温かい慈しみを感じ、癒されます。

  

 2010年から「第8番」だけを歌い続けてきたフレーベル少年合唱団の栗原一朗が、全曲に取り組んだ2013年7月の演奏では、この少年のもつ声質が「祈り」というこの歌の本質にあっていることが挙げられます。日本では、このような声質の少年は希少です。日本の少年は青竹のようなタイプが多く、同じ系列に当たるソリストを思い出しても、東京少年少女合唱隊の隊員の水谷任佑(フォーレの「レクイエム」のソロをCDに残しています。声はややアルト系)横須賀芸術劇場少年少女合唱団の秋山直輝(実際にソロを聞きました)の声に近いと思います。決して大きな声ではないのですが、その清澄な響きは曲全体を折り目正しい清冽なものにしてくれます。また、品のよい哀愁を感じさせるところもあります。曲想とこの曲におけるボーイ・ソプラノの位置づけを考えたとき、曲と歌い手・栗原一朗の間に至福の関係を感じることができます。平成26(2014)年、この演奏は、DVD・ブルーレイ化され、その演奏に接することができるようになりました。


 スノープリンス合唱団の「スノープリンス」主題歌

 スノープリンス合唱団は、平成21年11月1日に結成されたジャニーズJr.内ユニットですが、森本慎太郎の主演する映画『スノープリンス 禁じられた恋のメロディ』の題名をとって命名されています。厳密に言えば、同年6月に 森本慎太郎と過去のメンバーで構成された、スノープリンス合唱団が「森本慎太郎withスノープリンス合唱団」として登場していますが、11月1日にメンバーを入れ替えると同時に、合唱団名を簡略化しています。ただ、この合唱団は映画の宣伝、主題曲のためのユニットであり、平成22年1月までの期間限定予定です。ジャニーズ最年少ユニット(平均10.4歳)であり最年少CDデビューで、その年の紅白歌合戦にも登場しました。この映画は、「フランダースの犬」を下敷きにしながら、ジャニーズJrの森本慎太郎を浮かび上がらせようとした作品であるが故の矛盾点は克服しきれません。(2・26事件があった昭和11年の雪深い田舎にこんな髪型で赤いマフラーをした少年がいるかと言い出したら、作品そのものが成立しません。)ところで、主題歌の「スノープリンス」は、野島伸司の作詞で、色と心を重ね合わせた色彩感豊かな歌詞になっています。冒頭部分にドビッシーの「月の光」をアレンジし、J-POP特有のあくの強い臭みを抜いた3部合唱の歌唱に清純さを求めたと言えましょう。森本慎太郎は、アルトの声質で歌詞を鮮明に歌いあげています。

 加藤清史郎の「かつおぶしだよ人生は」

 平成21年放映の大河ドラマ『天地人』で樋口与六(直江兼続の幼少期)役を演じ一躍人気者となった加藤清史郎は、その後もトヨタ自動車の「こども店長」役でCMに出演。神木隆之介によってブーム化した「子役ブーム」を再現しました。そうなると、このブームに便乗するのが芸能界の常。NHKみんなのうたで平成21年夏に流れた「かつおぶしだよ人生は」で歌手デビューしました。この歌、題名からしてもわかるように「浪花節だよ人生は」を下敷きとしていますが、ネコの視点で描かれたかつおぶし讃歌の詩に、演歌風の曲がつけられています。さて、歌う加藤清史郎は、正確な音程で演劇的な歌を歌っています。同CDのB面?の「ランドセルどっかん」は、「1年生になったら」のような曲想の童謡で、背伸び感はなく、自然に聞こえます。なお、加藤清史郎は平成21年末の紅白歌合戦のスタートの司会を飾り、「かつおぶしだよ人生は」も歌っています。これは、河野ヨシユキの男子最年少出場記録であった11歳を塗り替えました(8歳)。


 ママとあそぼう! ピンポンパン ベストコレクション

        このCD発売の意義
  この番組が放映されていた頃、私は既に幼児期を脱していました。それどころが、この番組が放映されていた平日朝の時間帯には、登校や出勤で家にいないこともありました。ビッグ・マンモスが登場する番組の後期頃には、ビデオデッキというそれまで放送局にしかない新製品も出始めていましたが、家庭に普及するにはまだ極めて高価過ぎるものでした。しかも、ソフトは120分収録できるものが1本100円台になった今からは想像できないほど高価でした。だから、当然のことながら、子どものお小遣いで手に入るいうなものではありませんでした。現在ほとんど録画が残っていない理由もそのようなところにあります。当時絶大な人気を誇ったこの番組のCDが初めて復刻されたことは、放送文化史的な価値と共に、この時代に少年少女時代を過ごした世代の人にとっては、かけがいのない1枚でありましょう。

   音響だけでは表現できないものが
 しかし、このCDを1度通して聴いた感想は、この番組は音響だけでは表現できない部分があまりにも大きいということです。それは、CDの中に「体操の音楽」があるということだけでなく、ビッグマンモスを中心とするビデオを先に見てしまったためでもありましょう。この番組の歌は、映像でしか真に理解できないものがあります。

   ビッグマンモスに特化したDVDの発売を
 さて、このCDの中でビッグマンモスは、「あの子のこころはボクのもの」と「ゆくぞ!ビッグマンモス」の2曲を歌っています。(その他にも数曲参加していますが)とりわけ、「あの子のこころはボクのもの」は、おそらくこの番組の本来の視聴者である幼児には理解不可能なものでしょうし、歌い手より年上の少女にとってかなり斬新な歌詞と振付けの曲として受け容れられたことでしょう。その受容の心理はおそらくジャニーズjrを鑑賞するのと同質のものでしょう。しかし、ビッグマンモスが再評価されるとしたら、彼等がこの時代の少年の理想像を演じていたことを抜かして語ることはできません。同世代の少年が出演している「天才テレビ君」との違いがそこにあります。ビッグマンモスに特化したCD、いやDVDの発売が待たれるところです。

PONYCANYON INC.(PC)(M)
発売日: 2008/12/17  2500円


 ハリー・セヴァーが加入したCantores Episcupi
「Strawberries&Cream」「Twilight」

  

  ボーイ・ソプラノのハリー・セヴァーは、「美しい水車小屋の娘」を録音したのとほぼ同時期、Winchester Collegeの学生によって組織される男声アンサンブルのCantores Episcupiに加入していましたが、変声期前と変声中に2枚のCDを残しています。

      「Strawberries&Cream」
 1枚目の
「Strawberries&Cream」で採り上げられた曲は、ビートルズをはじめとするポップスとミュージカルのナンバーや映画音楽であり、ハリー・セヴァーは男声アンサンブルの一員として歌っています。また、その位置づけはアルトということで、「美しい水車小屋の娘」のような輝かしさは抑え気味ですが、歌声が前面に浮かんでくるときには、持ち前の明るい声質を響かせています。しかし、その響きは、アルトそのものではないと思える箇所もあります。その歌声が前面に出てくるミュージカル「オリバー!」のナンバー「愛はいずこに」では、オリジナルのデニス・ウォーターマンの頼りない歌唱よりも、精神的にしっかりしたオリバー少年を想像しました。また、「And so it  goes」は、最もアルトらしいしっとりとしたまろやかな響きの歌唱が印象的です。「風のささやき」では、もの悲しげなスキャット風のバックコーラスと力強いソロが対比的に聞こえて来ます。

      「Twilight」
  「変声期の声なんか聴かれたくない、ましてや残したくない。」たいていのボーイ・ソプラノならきっとそう思うでしょう。でも、ハリー・セヴァーは、「たいていの」ボーイ・ソプラノではありませんでした。2枚目の「Twilight」のジャケットでもハリー・セヴァーの位置づけはアルトということでしたが、確実に前作の「Strawberries&Cream」と違って変声期が始まっていることが伺えます。しかも、ときおりは変声前の甲高い響きも聞こえながらテナーの響きに近づいているところが興味深いです。しかも、「Panny Lane」では、器楽的なオブリガードを声で表現するという新たな試みにも挑んでいます。変声期は普通声域が狭くなり1オクターブがやっとという場合もあるのですが、声楽を学び続けてきたハリー・セヴァーは、一生で一番広い声域を与えられたときと受け止めたのか、「Grease Magamix」では、まるで声のデパートのようにいろんな声質と高さの声を組み合わせてむしろ変声期を楽しんでいるかのごとき表現をしています。「Starship」は、まさに合唱版「芸術家のカドリーユ」というアレンジで心から楽しめました。

For detailed information on Cantores Episcopi's CDs, please visit Keiko's website
:

http://blog.goo.ne.jp/kurikeinosuke/


 北村匠海の「リスに恋した少年」

  NHK「みんなのうた」平成20年2・3月のうたとして登場した「リスに恋した少年」が、3月5日にCD化されました。この作品はリスと遊ぶためにスウェーデンからロンドンまで遊びに来た親子のエピソードがもとになっています。ロンドンの観光地めぐりよりも子どものささやかな夢を叶えることに重きを置いた旅というところが、ほほえましいです。
 歌っている北村 匠海(きたむら たくみ)は、平成9(1997)年生まれの子役モデル。これまでにもCM等に出演していますが、映画「DIVE!!」も近日公開予定です。決して歌い巧者ではありませんが、少年らしい素朴な歌い方がこの歌の場合かえって好ましく、可憐な容姿とあいまって、人気上昇中です。

http://www.youtube.com/watch?v=qSNubdLe5rc


 フレーベル少年合唱団の「千の風になって」

  

  フレーベル少年合唱団は、最近音楽的な質も向上し、秋の定期演奏会だけでなく、毎月六義園で開催される野外コンサートをはじめ、CD録音、テレビやコマーシャル出演と意欲的に取り組んでいますが、このたび、「千の風になって」をCD化しました。といっても、日本語詩の作詞・作曲者でもある新井満氏がプロデュースしたメモリアル盤のCD中の1曲という位置づけです。このメモリアル盤では、演奏はほとんど器楽によるもので、フレーベル少年合唱団が録音したものは、周防義和のシンセサイザーと共演です。シンセサイザーの幻想的な響きに乗って、少年たちの透明感あふれる歌声が聞こえてくるという企画です。
  ルルルルル~というスキャットで始まり、オブリガードを多用したこの編曲は、聴く人の魂を癒してくれます。途中からは、ボーイ・ソプラノソロも入って、その部分はけなげにさえ聞こえます。
  フレーベル少年合唱団は、数十年ぶりに単独のCDを出してもよい時期に来ているのではないでしょうか。


 第2期 THE CHOIRBOYSキャロルアルバム

  イギリスの聖歌隊から選抜されたソリストで作られたコーラスユニットとしては、10年ほど前に結成され、いつの間にか消滅したボーイズ・エア・クワイヤーや、2005年末にCDデビューを飾った「クワイヤーボーイズ」が挙げられますが、このたび、2年後に「クワイヤーボーイズ」がメンバーも新たにして、CDアルバムを出しました。たぶん旧メンバーは変声期に入ったものと思われます。新メンバーは、ウィリアム・ダットン(William Dutton 1995.1.20生)、ビル・ゴス(Bill Goss 1994.12.11生) アンドリュー・スウェイト(Andrew Swait  1994.10.2生)の3名で、アンドリュー・スウェイトは、既にソロ・アルバムを出しており、本ホームぺージの「世界」のソリストのコーナーでも紹介しています。昨年末に発売された日本盤では次の14曲が歌われており、しっかりした基礎に基づいた安定感のある芯の通った歌を聴かせてくれます。


クワイヤーボーイズ
CD:UCCS-1112 \2,500(\2,381) UCJ [2007年11月7日発売]

1. オ・ホーリー・ナイト(さやかに星はきらめき)
 (with オール・エンジェルス)
2. ああベツレヘムよ
3. ディンドン、高らかに(フランス民謡)
4. どんな甘美な音楽よりも
5. メリー・リトル・クリスマス
6. きよしこの夜
7. 木枯らしの風ほえたけり
8. 神の子イエス様
9. 神のみ子のイエス様は
10. 昔、ダビデの村の
11. 甘い喜びのうちに
12. 神のみ子は今宵しも
13. ひいらぎとつたは
14. あめにはさかえ


 妻吹俊哉とフレーベル少年合唱団の競作

 

 「となりのお兄さん」的な雰囲気の妻吹俊哉のデビュー盤のメインには、アイドル歌手槙みちるが1966年に創唱した宮川泰作曲の「若いってすばらしい」がカヴァーされています。これは、なかなかダイナミックな歌唱で好感がもてます。カップリングには、妻吹俊哉の師匠 合田道人の書き下ろし作品「愛ひとつぶん」が収録されています。これは、一言一言をかみしめるように表情豊かに歌われています。さらに、合唱用のアレンジとして、フレーベル少年合唱団が歌ったものも収録されています。フレーベル少年合唱団の歌は、同じ曲でもかなり雰囲気が違う歌唱で、さわやかさとひたむきさが売りです。10歳前後の少年が理解できる愛情表現はこのようなものなのだろうかと想いながら聴いていました。私には、「おおおお~」というせり上がるような合唱表現が背伸びのようにさえ聞こえるのですが、フレーベル少年合唱団の最近の活動を知る上では、ぜひ聴いてほしい1曲です。

 ボーイ・ソプラノ&ボーイ・アルトソロによるモーツァルトのレクイエム

 ボーイ・ソプラノ&ボーイ・アルトソロによるモーツァルトのレクイエムの録音があるということは、かねてより聞いていましたが、本日、そのCDを手に入れることができました。ヨゼフ・クリップスの指揮でウェルナー・ベック(ボーイ・ソプラノ)ヴァルター・ルートヴィッヒ(ボーイ・アルト)というウィーン少年合唱団員をソリストに、さらに合唱のソプラノとアルトにも少年合唱を用いており、ウイーン宮廷合唱団、管弦楽団が演奏していることがCDジャケットには書かれています。1950年録音と書いてありますが、もう少し前という説もあります。
 大人の女声によるモーツァルトのレクイエムと比べると、ソリストの二人は不安定な声で声量不足でもあり頼りなさそうにも聞こえますが、そこはかとない色気を感じるのは私だけでしょうか。この曲のもっているどろどろした部分は見事に消されていますが、その代わり、清潔な色気を感じてしまうのです。それこそが、まさにボーイ・ソプラノ&ボーイ・アルトの魅力です。
 なお、このCDは、タワーレコードの企画によるもので1,000円とお手頃ですが、他の店にあるのでしょうか?








 第6回 全国少年合唱大会開催記念CD発売
第2回全国少年合唱大会岡山大会(2000.2.11)のCD


  平成19年2月11日に岡山で開催された第6回全国少年合唱大会の成功を期して、桃太郎少年合唱団が録音した7年前の貴重な記録がCD化されました。私はこのコンサートのステージを視聴していますが、このCDは参加4団体の歌唱の魅力を再確認するものになっています。初めてミュージカルに挑戦した栃木少年合唱団、多様なレパートリーの一端を披露した呉少年合唱団(この当時は象牙色の制服)、明るい歌声で唯一の混声合唱を聴かせる広島少年合唱隊、清澄なハーモニーでCDでもその魅力を確実に伝えることができる桃太郎少年合唱団、150人を超える全員合唱と多彩な歌を聴かせてくれます。(このときの私のコンサート評は、「全国少年合唱祭」に書いています。













 ハリー・セヴァーの「美しき水車小屋の娘」

  

   14歳の少年声楽家による「美しき水車小屋の娘」

 ハリー・セヴァー、その名を私はボーイズ・エア・クアイアの一員として来日したイギリスのトレブルの一人としてしか記憶していませんでした。その少年が前人未踏のボーイ・ソプラノによる「美しき水車小屋の娘」のCDを録音したといっても、その歌声に接するまでは「ボーイ・ソプラノの想い出」に録音された記念碑的なCDであろうぐらいにしか思っていませんでした。しかし、その認識はこのCDに接することで一変しました。

   「美しき水車小屋の娘」の歌唱

 歌曲王シューベルトの代表作の一つである「美しき水車小屋の娘」は、若者の歌である故に、これまでテノールかバリトンによって歌われてきました。シューベルトはこの歌曲集をテノールのために作っていますが、テノールでも感情によって崩れがちな歌い手ではなく、フリッツ・ウンダーリヒやイアン・ボストリッジのような様式美をもったテノールによってこそ表現できる世界であると考えていました。また、バリトンでもテノールの技巧をもったディートリヒ・フィッシャー=ディスカウや、気品のあるゲルハルト・ヒュッシュ、ビロードのような甘美な声のジェラール・スゼーの歌の評価が高くて、思慮深くて深みのある渋いバス・バリトンの持ち歌ではないと思ってました。さらに、カウンターテノールのヨッヘン・コヴァルスキーによる「美しき水車小屋の娘」もありましたが、これは歌そのものよりも技巧を聴いてしまいました。
 それでは、「美しき水車小屋の娘」はボーイ・ソプラノによって歌われたことはないのでしょうか。ありますとも!おそらく1960年代のウィーン少年合唱団員によって歌われた第1曲「さすらい」と第2曲の「どこへ」の歌唱が。しかし、この「さすらい」は前途への期待に満ちた希望の歌であり、「どこへ」は、ひたすら美しい流麗な歌であって、決して嘆きや苦悩といった激情を伴った起伏に満ちた歌ではありません。このソリストが全曲を歌ったとき、どんな歌を歌ったのだろうという興味はありますが、おそらくきれいな歌だっただろうと推察します。

   激しい感情表現と「初恋」の痛み

 先ず、何も見ないでCDの歌を聴きました。それから、歌詞の邦訳を見ながら聴きました。14歳の少年が、これまでに体験してきたことは、これから歩んでいく長い人生からすれば入口のわずかなことでしかないでしょう。それでも、感受性豊かな少年がそれを自分の心と身体で感じたことは、もっと増幅されて聴き手に伝わってきます。ハリー・セヴァーという14歳の少年声楽家の「美しき水車小屋の娘」は、思い込みが激しく、それ故に傷つきやすい感受性豊かな青春期の少年(それは青年と呼ぶべきかもしれませんが)の歌唱でした。とりわけ、「いらだち」「ぼくのもの」「ねたみと誇り」「いやな色」の激しさは、これがボーイ・ソプラノの音色かと思うようなものでありました。それでありながら、決してむき出しの感情の赴くままに歌われているのではありません。そこには、感情を抑制した知的なきらめきも感じます。それが同じ1曲の中に同時に現れているのです。とりわけ「しぼんだ花」の最後の「春は来たのだ。冬は去ったのだ」の印象的な一節は、まるで自分に言い聞かせているかのようでさえあります。さらに、終曲の「小川の子守唄」は、まるで石川啄木作詞 越谷達之助作曲の「初恋」の痛みに通じているように感じます。青春期は、人の精神におけるシュトゥルム・ウント・ドラング(「疾風怒濤」というよりも「嵐と衝動」がふさわしいでしょう)の時期。ハリー・セヴァーは、その青春期の精神を歌曲集「美しき水車小屋の娘」に乗せて感受性豊かに表現したのではないでしょうか。
 
 ケンちゃんの「主題歌コレクション」

 「ケンちゃん」シリースは、昭和40~50年代に子ども時代を送った人にとっては懐かしい番組ですが、その主題歌を集めたCDが発売されています。「ジャンケンケンちゃん」(1969)から、「フルーツケンちゃん」(1976)まで7年間にわたっての主題歌集は、宮脇康之(1961~)の歌声の成長を聴くことができる貴重なCDです。聴き直してみて、8歳頃の舌っ足らずの甲高い声から変声期の歌声までを記録しています。ボーイ・ソプラノ期の歌としては「おもちゃ屋ケンちゃん」(1973)が充実した歌を歌っています。「おそば屋ケンちゃん」(1975)では、変声期を終えたばかりの艶のない歌声を聴くことができます。その中間である「ケンにいちゃん」(1974)では、天地総子が歌っていることから、この時期は歌えるような状態ではなかったのではないかという想像をすることさえできます。
 B面には、弟役で出演していた岡浩也のまだ幼い時期のかわいい歌声を聴くことができます。岡浩也は、その後多くの歌声を残しています。
 さて、宮脇康之は、日本の子役史上最高の人気子役です。写真にもある柔らかな横分けのヘアースタイルは、前で髪を切りそろえる坊ちゃん刈り全盛のころ、「けんちゃんロマネス」と呼ばれ、おしゃれなヘアースタイルでした。また、一年中半ズボンというスタイルを日本中に定着させました。このように、宮脇康之はファッション分野でも児童文化に影響を与えた子役と言えます。
 

 アンドリュー・スウェイトの「ライト・オブ・ザ・ワールド 」

① G・F・ヘンデル:神の光の永遠の泉
② ワルター・アルコック:サンクトゥス
③ ジョフリー・バーゴン:ヌンク・ディミッティヌス
④ ジョン・ダンクワース:ライト・オブ・ザ・ワールド
⑤ F・メンデルスゾーン:主を待ちます
⑥ G・F・ヘンデル:正しきことを述べる者の足は美しい
⑦ サミュエル・セバスチャン・ウェズリー:父なる神の息吹き
⑧ F・シューベルト:アヴェ・マリア
⑨ R・シューマン:The Angel's Goodnight
⑩ C・ヒューバート&H・パリー:Long Since in Egypt's Plenteous Land
⑪ 伝承歌(マルコム・アーチャー編曲):Brother James' Air
⑫ B・ブリテン:《キャロルの祭典》より 子守唄、この小さな嬰児
⑬ J・ラッター:神は見守り祝福なさる
⑭ G・フォーレ:慈悲深き主イエスよ
⑮ コリン・マウビィ:アヴェ・ヴェルム・コルプス
⑯ 伝承歌:ロンドンデリーの歌
⑰ W・A・モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス
⑱ モートン・ラウリッドソン:慈しみと愛
⑲ ジョン・ラッター:ゲール人の息吹き
⑳ 伝承歌:アメージング・グレース

アンドリュー・スウェイト(トレブル)、
カールトン・エセリントン(オルガン)、
ベンジャミン・ニコラス(指揮)、テュークスベリー修道院学校合唱団

 イギリスで注目を集めているトレブルのアンドリュー・スウェイトとテュークスベリー修道院学校合唱団が歌うキャロル、合唱作品集。この録音をしたとき(2005年)アンドリューはまだ10歳ということですが、繊細で透明度の高い音質ありながらも安定した歌を歌っています。選曲も宗教曲でも親しみやすいものが多く、ヘンデル「メサイア」からモーツァルトやシューベルトの有名な作品、「ロンドンデリーの歌」や「アメージング・グレース」など多彩です。なお、アンドリューはその後合唱団を退団したという情報も入っていますが、確かではありません。、


 ウィリアム W. スピアマン 4世

   

"JOYFUL JOYFUL"

1.ジョイフル・ジョイフル(ベートーベン『第九』のテーマより)
2 .ピエ・イエス(A.ロイド=ウェッバー)
3.アメイジング・グレイス
4.アヴェ・マリア(F.シューベルト)
5.野ばら(F.シューベルト)
6.すみれ(W.A.モーツァルト)
7.アヴェ・マリア(C.グノー、J.S.バッハ)
8.アヴェ・ヴェルム・コルプス(W.A.モーツァルト)
9.アヴェ・マリア(G.カッシーニ)
10.ピエ・イエス(G.フォーレ)
11.グリーンスリーブス
12.エーデルワイス(R.ロジャーズ)
13.主われを愛す
14.久しく待ちにし

ウィリアム W. スピアマンIV (ボーイ・ソプラノ)
岡田知子(ピアノ)
MM-1113/平成13年10月25日発売/¥2,914(税抜)


<プロフィール>
ウィリアム W. スピアマン 4世 (William W. Spearman IV)

1987年 横須賀に生まれ。
5歳の頃から、横須賀米海軍のシアターグループに所属し、ミュージカルに出演し子役を務める。主な作品は、ミュージックマン、サウスパシフィック (南太平洋)等。 また、海外のプロや合唱団との共演、音楽之友社のレコーディング等で幅広い 活動をしている横須賀芸術劇場合唱少年少女合唱隊のオーディションに1998年に 合格し、武田雅博、渕上千里両氏の指導のもと、数々のオーディションにも選抜さ れ、同年、ルーマニア国立劇場主催の“カルメン”に子役の一人として出演。2000年には、東京交響楽団の定期演奏会、“DAN YEAR 2000 ”の“ 夕鶴”に子役 ソロに抜擢される。  その後、東京ヴィヴァルディ合奏団のクリスマスコンサートに 出演し、アヴェマリア、ピエイエスなど、主にクラシック、宗教音楽をうたう。平成13年にはファーストアルバム「ジョイフル・ジョイフル」を、平成18年には欧米的な音楽センスと、日本人を母に持つ故の美しい日本語、そして天が授けたソプラノで、『日本の歌』を繊細に色彩豊かに表現している。


JOYFUL JOYFUL のCD                                                       Kiyoshi
 昨日やっと"JOYFUL JOYFUL"のCDを購入しました。新宿のタワーにも渋谷のタワーにもなく、渋谷のHMVでようやく見つけました。これでは地方ではなかなか購入できないかもしれません。さて2914円という価格は、輸入盤を買い慣れているとだいぶ高いと思います。これで充分楽しめれば悪い気はしないのですが、収録時間がなんと33分30秒。これではシングルにも等しい時間です。同じようなCDが、イギリスのものだと60分以上ある場合が多いですから、これではなおさら高い買い物をしたという印象が強くなるでしょう。
 ウィリアム君の声は、細くてとてもきれいだと思います。歌の方は、後半になるほど声が安定し良くなってきます。カッチーニのアヴェマリアやエーデルワイスなどはとてもきれいで、印象に残りました。特にアメイジング・グレイス、グリーンスリーブス、主われを愛すなどの歌は、独特の歌いまわしで魅力があります。自分流の歌い方を身につけているようです。正統的なボーイ・ソプラノ用の歌よりも、アメリカの民謡、聖歌そしてフォスターの歌などをもっと聴いてみたい気がしました。


JOYFUL JOYFULのCD購入                      館長
  11月2日の夜、JOYFUL JOYFULのCDを入荷しましたという電話が入りましたので、3日大阪のシンフォニアで購入しました。
 ウィリアム君の声は、確かにKiyoshiさんも書かれているように繊細な美しさが魅力的です。また、いくつかの歌はただ、楽譜どおり正確に歌うのではなく、独自の節回しで歌っており、これが新鮮な感じを受けました。もう、この少年は
「自分の歌」として歌うことを覚えているのでしょうか。「エーデルワイス」はこれまでに聴いたどれよりも清楚で、しかも、最後の盛り上げ方も全体と調和しており、この歌の本質をつかんでいると感じました。歌全体を大きくつかんで歌っていることは、他のいくつかの曲でも感じました。
 フォスターの歌曲は、意外にこれまでボーイ・ソプラノでほとんど歌われていません。(大人の声楽家でも、リチャード・クルックスのテナーによって歌われたSP時代の歌唱を超えるものがないような状態です。)ウィリアム君なら、きっとよい歌を歌ってくれることでしょう。変声期までに残された時間は短いかもしれませんが、もっと多くの歌を残してほしいと願っています。

『美しい日本の歌』
Beautiful Japanese Songs


1 朧月夜 2 早春賦 3 花 4 さくらさくら 5 浜辺の歌 6 ゆりかごの歌 7 茶摘
8 夏は来ぬ 9 この道 10 夏の思い出 11 海  12 我は海の子 13 椰子の実  14 ちいさい秋みつけた
15  里の秋  16 夕焼小焼  17 紅葉  18 赤とんぼ  19 故郷  20 冬景色  21 雪  22 ペチカ

ウィリアム W. スピアマンIV (ボーイ・ソプラノ)
岡田知子(ピアノ)
MM-1201/平成18年3月25日発売/¥2,914(税抜)¥3,060(税込)


 横須賀芸術劇場少年少女合唱隊をこのたび卒隊したウィリアム・W・スピアマンⅣが、待望のCD第2弾、「美しい日本の歌」を出しました。
 「変声後もボーイ・ソプラノを維持」という言葉がふさわしい清らかな声質で歌われる唱歌・歌曲は、1曲ずつ情感豊かに歌われています。高校生のウィリアム・W・スピアマンⅣのこの声をボーイ・ソプラノと呼ぶかどうかは、意見が分かれるところでありましょうが、メール・ソプラノやカウンター・テナーと呼ばずあえて、ボーイ・ソプラノと呼ぶだけあって、ボーイ・ソプラノらしい清純な音色を楽しむことができます。これは、奇跡的なことでもあります。
 選曲は童謡・唱歌・日本歌曲の中でも人口に膾炙した名曲を集めていますので、1曲ずつの解説をすることは避けますが、有節歌曲でも1番ごとに違う歌い方をすることで、単調さを避けるだけでなく、色彩感あふれる歌に仕上げています。そのような特色は、ジャンルとしては歌曲に顕著に表れています。逆にこの声質ではやんちゃさを表現するのは難しいかもしれません。そのような意味でも「浜辺の歌」「この道」「夏の思い出」のような叙情的な歌曲においてそのよさがよく現れていると思います。

 詳細は、http://www.meister-music.com/new.html



Play of Kotohisa's voice.   上野琴久 声で遊ぶ
Chirping of the last 「囀(さえず)り」




1.鳥のように(上野哲生)
2.きらら(上野哲生)
3.星のダンス(上野哲生)
4.ピエ・イエズ(A.L.ウェッバー)
5.くりんこりん~トーナドーナ(松本雅隆:詞 上野哲生)
6.双子の星(上野哲生 宮沢賢治童話より)
7.今日も日が沈む(上野哲生)
8.アヴェマリア(G.カッチーニ)
9.Try-like(上野哲生)
10.星の国(上野哲生)
11.ののはな(谷川俊太郎:詞 上野哲生)
12.春のささやき(上野哲生)
13.アイ・アム・ザ・ウォルラス(ジョン・レノン)
14. 星の果てに(上野哲生&琴久)

歌/上野琴久 古楽器演奏・編曲・録音/上野哲生 panpipe&whisle/松本雅隆(2,7のみ)歌/上野律子〈6のみ〉
使用楽器 Psaltery,Santur,Lute,Zarb,Saz,Daf,Recorder/D-P&AppleG5sys,Mashfive,TC PowerCore,CAD E-200

 
 1~2曲ならともかく、日本のボーイ・ソプラノをまとまって聴けるCD(LPレコード)は、極めて少ないと言えます。古いものでは、金子一雄による歌曲をSPから復刻したものがありますが、この30年間のいろんなジャンルを入れても、坂本秀明、岡浩也、玉元晃、村上友一、KOUJI、ウィリアム W. スピアマンIVぐらいしかありません。
 
  さて、このたび発売された上野琴久君による「囀(さえず)り」は、これまでのボーイ・ソプラノのCD(LP)とは、かなり異なったものになっています。それは、副題の「声で遊ぶ」に見られるように、ボーイ・ソプラノという声を素材として、どのような表現が可能であるのかを追求した作品になっているからです。確かに、このアルバムには、ロイド・ウェッバーの「ピエ・イエズ」やカッチーニの「アヴェ・マリア」のような、ボーイ・ソプラノの定番としてよく歌われてきた曲も入っていますが、それはメインではありません。むしろ、「このような曲もこれぐらい歌うことができます」という証として入れているように感じます。あくまでも、このアルバムのメイン曲は、上野琴久君のボーイ・ソプラノの魅力を活かし、新しい声と歌の可能性に挑戦した父 上野哲生氏の作曲によるものです。
 これに匹敵する企画は、20年ほど前に、細野晴臣がプロデュースした、越美晴によるボーイ・ソプラノ -あるいは天使ののど自慢- ぐらいでしょう。しかし、これは女声がボーイ・ソプラノ風の声の表現をするもので、ホンモノのボーイ・ソプラノによる歌ではありませんでした。また、スキャット風の表現をする歌は、これまでに西洋にも日本にも数多くありましたが、このCDは、それらとも一線を画しています。
 第1曲目の「鳥のように」を聴くと、「囀(さえず)り」という副題をつけたわけがわかります。小鳥の囀りをボーイ・ソプラノで表現したらどうなるだろうという挑戦がそこにあります。しかし、それは決して声帯模写的なものではありません。小鳥の囀りがもたらす可愛いなという心情を引き起こすものや心の安らぎをもたらすものをこの曲は表現しているのです。このように「きらら」「星のダンス」「星の国」「春のささやき」など標題となっているものが引き起こす心情風景をボーイ・ソプラノは、決して雄弁ではなくむしろ控えめに表現しています。
 琴久君は、「くりんこりん~トーナ ドーナ」や「ののはな」のような日本語の歌詞を歌うときには、歌うというよりむしろ語るように表現しています。また、ジョン・レノンの「アイ・アム・ザ・ウォルラス」では、従来の「ボーイ・ソプラノ」を超えた表現をしています。このあたりは評価の分かれるところでありましょうが、あえて、この1曲を入れたところにこのアルバムの挑戦があります。
 さて、これらの曲の伴奏は、すべて古楽器によって演奏されています。このアルバムの慎ましやかな表現は、この伴奏によるところが大きいだけでなく、ボーイ・ソプラノと不思議な調和をしています。上野琴久君は、この最初で最後のアルバムによって、日本のボーイ・ソプラノの新しいページを開きました。

ぜひ、このCDをお手にとってお聴きください。このCDの入手方法等、詳細は、下記のホームページをご覧ください。

http://homepage2.nifty.com/tessey/

「過ぎゆく時と友だち」 新しい別部屋を作成しました。赤字の題名をクリックしてください。

  
  漫画家の竹宮恵子が、ブレインの増山法恵と共にボーイ・ソプラノによるレコード「ガラスの迷路」と「過ぎゆく時と友達」を企画・制作したことは、この分野の愛好者にはよく知られているところです。特に「過ぎゆく時と友達」には、12曲の独唱曲(一部バリトンの平野忠彦や少年合唱とのかけ合いもある)が収められています。この当時の日本のボーイ・ソプラノの歌唱力の水準を知る上でも貴重なLPですが、40年経つ今も未だCDに復刻されていません。このレコードのCD化をすすめる運動を展開したいものです。
 そこで、このレコードがどのように優れたものであったのかを、このHPを通して曲は順不同に伝えていきたいと思います。

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