昨日4月29日は「みどりの日」。来年からは4月29日は「昭和の日」となって、「みどりの日」は5月4日になるとかいう噂もありました。それなら、この日は記念すべき日です。植木のまちとしても有名な宝塚市では、第9回花と緑のフェスティバルが開かれました。会場となった宝塚市役所前の河川敷特設会場野外ステージに今年もボーイズ・エコー・宝塚が出演すると聞いて取材してきました。
天気は穏やかに晴れて、昨年のように強風ということはなくまずまずの好条件の下、この催しは行われました。ダンス系の出し物は、ロックかディスコ音楽をガンガン鳴らせてそれに合わせて踊ればいいのですが、素養のない私にはどれを見ても同じように見えます。(まあ、何を踊っても盆踊り風になる私の発言ですから、ダンスに出場した人がこの文を見ていたら、あまり気にしないでください。)しかし、繊細なボーイ・ソプラノをいかに聴かせるかということになると、マイクをいかに使いこなすかにかかっているところもあります。それに、いつものことですが、エレピアンとの音合わせもなし。ぶっつけ本番の舞台です。それでも、新入団員もいるということですから、一度でも多くの舞台経験を積むことは大切です。また、舞台演出に定期演奏会の経験が生かされているかも見どころの一つです。司会者の紹介で、合唱団の服装やプロフィール等が紹介されました。今日の曲目は@ゆかいに歩けば A春の川で Bパフの3曲です。
10時50分過ぎから始まった舞台には15人の少年と、マネージャーの1人の少女が並びました。(おお、この3月に卒団した富谷昭夫君も特別出演。こういう熱い心には心を動かされます。)
声とエレピアンの音と声の大きさのバランスが最初から合っています。「ゆかいに歩けば」は、手拍子から始まる演出。たぶん野外を意識したことでしょう。ステージの後ろを大声で走り回る人もいますし、座席に座っている人も、音楽を聴きに来た人ばかりではないのですから、こういった野外向きの演出大いにやるべきです。出場時間が10分となると、少年達もよい姿勢で集中して取り組めます。「春の川で」など、好調な出来でした。「パフ」では、歌もさることながら、3回目の出場となる「辰」(出場のたびに大破するということですが)の動きが、これまでより上下運動もあり、舞台効果を考えた演出ができていました。
このような野外ステージでは、音楽そのものより、舞台度胸をつけることと、演出を研究することが第一です。そういう意味で、また一歩前進が見られました。今年のボーイズ・エコー・宝塚の目標は「30人以上の団を目指すこと」。現在、全国の少年合唱団はどこでも団員確保は厳しいようですが、明けない夜はないのですから、地道な活動を期待したいものです。
今日(5月28日)は、宝塚ベガホールで行われた、第34回宝塚合唱連盟合唱交歓会に行って来ました。今年の出場団体は17。新加盟のラ・カテリーナ(女声合唱)を加え、加盟団体全部が出場しました。
ボーイズ・エコー・宝塚、この日の曲目は、@「ゆかいに歩けば」 A「夏の山」 B「二つの雨の歌」の3曲です。以前どこかで披露した曲もありますが、10分という出番の中で集中して歌えばまた違うものが現れてきそうです。
「ゆかいに歩けば」と「夏の山」はメドレーという形をとるというところも今日のプログラムの味噌です。ゆかいに歩いて夏の山に登ろうというドラマをそこに感じました。「ゆかいに歩けば」は、今では少年合唱の定番曲となっていますが、今日の演奏ではオブリガードに山下薫君のソロを用い、この曲の魅力を引き出そうとしていました。山下薫君(小4)は、昨秋の入団以来めきめきと頭角を現し、繊細かつ大胆な歌いっぷりで、それぞれの歌の心を的確に表現してきましたが、今日も突き抜けるような声で、ソロはこうでなくっちゃという歌を聴かせてくれました。今後も合唱団の牽引車として活躍してくれることでしょう。「夏の山」は、ボーイ・ソプラノを育てる歌と言ったらよいような曲で、短い中に高音の美しさを聴かせる部分が含まれています。この歌は過不足なく演奏できていましたが、メドレーでやったためもあってか、やや薄味であったとも言えます。3曲目の「二つの雨の歌」は、北原白秋の2つの詩「雨」(弘田龍太郎作曲)と「あめふり」(中山晋平作曲)を岩河三郎が編曲したもので、雨のもつ陰と陽の側面を組み合わせた作品です。チャカチャカした音楽を聴いて育っていることが多い現代の少年たちが、ゆっくりとした抒情的な曲にどこまで共感して歌えるかも聴きどころでしたが、そういう心配は無用でした。陰から陽に転じるところなど鮮やかに表現できていました。「陰」があるからこそ「陽」が浮かび上がり、「陽」があるのは「陰」 の時期を経たからこそという人生の真理を少年達がつかむきっかけになればと思いながら聴いていました。
ところで、今日の演奏を一言で表すと「よくまとまった演奏」ということになりましょうか。充実した10分間でした。
休暇がとれましたので、8月9日(水)9:30〜11:30、宝塚市立宝塚小学校で行われましたボーイズ・エコー・宝塚の「夏休み練習」を参観してきました。練習会場の3階にある多目的室は、木の床が美しい部屋で隅にアップライトピアノと琴が並んでいる部屋でした。9日はお盆前の帰省時期ということもあって、参加者は9名と約半分の人数でしたが、今年も間近で練習風景を参観することができました。
挨拶が終わると、母音の発声練習から。キーを上げながら進めていきますが、この日は朝ということもあってか、やや調子が出にくいようです。中安先生はキーを下げて声が出しやすいところからやり直されます。さて、いつも感じることなのですが、歌の好きな少年が集まっているとはいえ、発声練習という基礎訓練がわんぱく時代の少年たちに好まれることはこれまでもなかったでしょうし、たぶんこれからもないでしょう。その意義をどう伝えておられるのか、また少年たちはそれをどうつかんでいるのでしょうか。
約2時間の練習のうち、前半は「さわると秋がさびしがる」が中心です。「ぽろんとこぼれたくりのみの…」という歌詞の「ぽろん」という感じをつかませるために、中安先生は生活体験と結びつけてお話をされますが、意外と少年たちはくりのみを見たことが少ないんですね。「ちゅるんとちぢれたさざなみ」となるといよいよつかみにくいです。すると、ピアノ伴奏をされていた辻先生は、紙を1枚くしゃくしゃにして、さざなみのちぢれ具合を視覚的にとらえさせようとされます。辻先生はこういう例えが実に巧みです。自然の変化に敏感な子どもを育てようという意図を感じました。こういう歌の背景になるものを大切にした指導は、深い歌心を育てる上で生きてくることでしょう。
また、8月23日の「宝塚まつり」で歌われる「宝塚市歌」「宝塚讃歌」は、郷土への愛が誇らかに歌われており、完成間近という感じでした。また、これらの歌は子どものための歌というわけではないのですが、歌っているときの少年たちの表情が実にいいのです。小さな紳士の顔になっているのです。誇りは人を強くするということを感じずにはいられませんでした。
後半は、ドイツの歌で、「菩提樹」が中心でした。近藤朔風の訳詞は文語体ですから、少年たちにとってはわかりにくいところもあります。「幹に、はえりぬ」ではなく「幹には、彫りぬ」であることや、「かげ」は「日陰」ではなく「恋人の面影」であることなどを補足説明しながら、練習は進められます。最後にはおさらいで軽く流すという感じで「五月の歌(春への憧れ)」「かすみか雲か」「ゆかいに歩けば」「元気に笑え」「夏の山」「ちょうちょう」「うるわし春よ」「ウェルナーの野ばら」などがメドレーで歌われました。まだこれからというところですが、原語に挑戦という曲もあり、半年後の定期演奏会までにどこまで仕上がっていくのか楽しみです。
さて、少年たちは励まされたり注意を受けたりしながら2時間を過ごしましたが、練習を通して、指導者と子どもの信頼関係が築かれていく過程も垣間見ることができました。人に感動を与える歌を歌うためには、歌う少年たちにあこがれや感動を伴った出会いがあることが必要です。人間的成長があるとき、歌も飛躍的に伸びるのではないか。そのようなことを思いながら帰途につきました。
8月30日は、宝塚市立宝塚小学校で、ボーイズ・エコー・宝塚の「のど自慢大会」がありました。休暇がとれたので会場に到着したら、中安先生より急遽審査員を依頼されました。観客の一人として行ったつもりだったのですが、会の進行上お受けしました。何と言っても、全員の独唱を聴くことができるのが、この「のど自慢大会」の最大の魅力です。といいますのも、どの少年合唱団の定期演奏会でも、独唱を聴く機会は少ないものです。全くないところもあります。この企画は、団員にとっては、ふだんの練習の成果を発表するよい機会になりますし、合唱団にとっても、一人一人の力を高めることが、全体のレベルを高めることにつながります。また、観客の私個人としては、まだ名前と顔が一致していない団員もいますので、それを一致させることにも大きな意義がありました。
会場の多目的室に到着すると、団員はくじを引いて出場順を決めます。今年度になって学んだ曲のうち好きな曲を1曲、自由曲として選んで短冊に書き込みます。また、最初に歌う課題曲は、在団歴によって、3とおり。入団1年目が「団歌1番」、2年目が「団歌2番」、3年目以上が「市歌」となっています。中安先生は別会場で行われた保護者会に出かけられ、練習は辻先生を中心に進められます。約1時間発声練習と、課題曲・自由曲を歌います。この日は、声の出具合もよさそうでした。また、急遽特別演奏として、モーツァルトの「五月の歌(春へのあこがれ)」が話し合いで決められ、その練習もありました。この日は床ではなく、積み木風の台の特設ステージで歌います。こういうことも、雰囲気を高める上では大切なことです。
この日のプログラムは、次のとおりです。
番号 名 前 (学年) 自 由 曲
1 鈴木 悠哉 (5) 「さわると秋がさびしがる」
2 圓井 良平 (4) 「さわると秋がさびしがる」
3 尾崎 宏樹 (4) 「ゆかいに歩けば」
4 曽我部 真史(3) 「さわると秋がさびしがる」
5 滝浪 大 (3) 「鉄腕アトム」
6 山本 幹也 (3) 「ゆかいに歩けば」
7 山下 薫 (4) 「さわると秋がさびしがる」
8 池田 一生 (2) 「鉄腕アトム」
9 宮城 拓実 (4) 「かすみか雲か」
10 山下 純平 (6) 「さわると秋がさびしがる」
11 大塚 菜穂子(6) 「歌声ひびく野に山に」
12 富谷 広男 (3) 「さわると秋がさびしがる」
13 西田 智英 (4) 「ゆかいに歩けば」
選曲を見て、「さわると秋がさびしがる」が多いのにまずびっくり。元気な歌より抒情的な歌が好きなのかな。それとも、自分の歌声を生かすのにはそれがいいと思ったのかな。いずれにしても、こういう曲を選ぶというところにも、この合唱団の特色が出ています。もちろん、音楽は時間の芸術ですから、時間を逆戻しすることはできません。緊張して、声が出にくかったり、少しつまずいたりすると、それを取り戻すことができないままに終わってしまうこともあります。この日ふだん以上にうまく歌えた子もいるでしょうが、実力を十分発揮できなかった子もいることでしょう。また、自分の歌声や歌心を生かす選曲がうまくいかなかった子もいるでしょう。しかし、そういう嬉しかったこと、悔しかったことの積み重ねが、これからの練習を支え、また、自分を知ることにもつながるのだと思います。指導者の先生方の評では、今年は全体的によい出来だったそうですし、私もそう思いました。審査は観点ごとに行いましたし、総得点では順位も出ましたが、ここでは別の視点から一口感想を述べてみましょう。
1 鈴木君
歌の世界にのめり込めるというよさをもっています。市歌は誇りをもって歌っていることが伝わり、とてもよい表情でした。
2 圓井君
抒情的な歌声で、歌詞をていねいに歌っていました。それぞれの曲のもつ雰囲気をよくつかんでいました。
3 尾崎君
いつも真摯な歌い方で、明るい声質を生かした「ゆかいに歩けば」は、伸びやかに表現できていました。
4 曽我部君
どきっとするほどきれいな歌声が出ている部分があります。歌全体の聴かせどころをつかめばさらによくなります。
5 滝浪君
自己紹介の張りのある声は磨けばさらによくなります。歌声は、むしろ可愛い感じで、元気な歌で持ち味が生かせそうです。
6 山本君
持ち味のまろやかな歌声に加え、山場を作り出す歌い方は、将来スケールの大きい歌が歌えそうな予感がしました。
7 山下薫君
それぞれの歌全体の聴かせどころ、つぼをよくつかんで表情豊かに歌えました。声と歌が一致していました。
8 池田君
かなり緊張したようですが、最後までよくがんばりました。日頃人一倍練習熱心なことが必ず生きることを期待しています。
9 宮城君
「かすみか雲か」のオブリガートという難しい選曲のため、少しつまずきもありましたが、声は抒情的で美しい表現ができていました。
10 山下純平君
途中で校内放送がかかるというアクシデントに負けずに歌い通しました。歌もこの半年間で表現力が高まってきました。
11 大塚さん
春の訪れを喜ぶというこの曲に求められるやわらかくて温かみのある表現ができていました。前半と後半の対比も見事でした。
12 富谷君
可愛い声質を生かした歌が歌えました。選曲では、優しさにあふれた歌を歌うとその持ち味が生きてくるでしょう。
13 西田君
「ゆかいに歩けば」の低音部というふだんあまり聞かれない曲に挑戦し、その美しさを再認識させたのはねうちあることです。
昨日は、宝塚ベガホールで行われた、第34回宝塚市民合唱祭に行って来ました。出場団体は偶然のことでしょうが、今年も回数と同じ34団体で、午前10時から午後4時前までの長丁場のコンサートです。もちろんお目当てはボーイズ・エコー・宝塚ですので、午前の14番目(最後)という時間帯に合わせて、9時半に会場に着くようにしました。
ボーイズ・エコー・宝塚、今日の演目は、演奏時間(1団体8分)の関係で、「さわると秋がさびしがる」、「ドイツメドレー」より、「ちょうちょう」「ぶんぶんぶん」「かすみか雲か」「唄声ひびく野に山に」の計5曲。プログラムを見た人は、
(なんや、「ちょうちょう」に「ぶんぶんぶん」か。こんな歌、小学校1年生の歌やで。)
と思ったかしれませんが、こういう歌こそきれいに歌い、うまいなあと感じさせるのはかえって難しいものです。
最初に、マネージャーの大塚さんが、
「がんばってドイツ語も覚えました。」
と、説明すると会場からどよめきが・・・
この日の曲は、夏休みに練習風景を見ていますから、それがどう生かされているかという視点で鑑賞することができます。「さわると秋がさびしがる」では、曲のイメージをつかませるために、指導の先生方は生活体験と結びつけたり、視覚的にとらえさせようとされたことが思い出されます。それは、はっきりとした形で歌の中に生きていました。子どもたちは言葉一つ一つをとても大切に歌っていました。特に最初の「ぽろん」「ぴちっ」「ちゅるん」「ぴょろん」という言葉の雰囲気もよく出ていましたし、曲の最後の消えゆくようなわびしさも感じられました。「のど自慢大会」でもこの曲を自由曲に選ぶ子どもが多かったのは、心に感じる何かがあったということでしょう。非常にきれいな仕上がりになっていました。
「ドイツメドレー」では、最初の2曲はドイツ語を覚えたことよりも、編曲と演出で、この単純な曲でも豊かな広がりをもつ曲になりうるということが大きな発見でした。「かすみか雲か」では、斉唱と合唱では、こうも違うということがわかり、合唱音楽の魅力の一面を垣間見ることができました。「唄声ひびく野に山に」の原曲は「うるわし春よ」なのですが、この日は歌詞を秋に変えて、「うるわし秋よ 紅葉に映えて」と歌われました。歌詞を変えることには賛否もあるかもしれませんが、全体テーマを「秋」とするならば、こういうアレンジもあってもよいかと思います。「麦畑」が「故郷の空」になって、新しい命を得たように。
もし、完全に「秋」だけをテーマにするなら「すすき」「小さい秋見つけた」「小さな木の実」といった組み合わせもボーイズ・エコー・宝塚には似合っているかもしれないというようなことを思いながら鑑賞していました。
おそらく「ドイツメドレー」は、来春の定期演奏会のメインとなることでしょうが、今から大いに期待がもてそうです。
「ボーイズ・エコー・宝塚」のステージに接して以来2年が経ちました。ニューイヤーコンサートのステージに接するのも3回目。人数的には苦しい状況が続きますが、それを跳ね返す演奏を期待して、7日は、阪急清荒神駅前の宝塚べガ・ホールで行われた第18回宝塚に行ってきました。
当日は、雪が舞う底冷えのする天候もかかわらず、満席に近い盛況でした。舞台正面には干支の巳の飾り付けが雰囲気を高めていました。音頭・合唱・ミュージックベル・金管アンサンブル・室内楽・吹奏楽からなる10団体(2団体が初参加、どうも毎年参加団体は微妙に変動するようです。)の合同公演最初の演目は、今年も千吉音頭子ども会による縁起のよい「千吉音頭」。和太鼓をメインに歌と踊りで賑々しく始まりました。「ボーイズ・エコー・宝塚」の団員のお囃子が、マイクを通すと大音響になって、太鼓と張り合うようにビンビン響きます。今年メインで歌うのは圓井君、山本君、西田君、鈴木君の4人。セリフは聞き取れなくても、この元気さが新世紀の扉を開いてくれます。よく考えてみれば、ある種のロックミュージックなどは、私の耳にはどれを聞いてもワウワウワウワウにしか聞こえないのですから、いいのいいの。よく考えてみると、日本民謡と西洋起源のボーイ・ソプラノの音楽を両立させるところも、ボーイズ・エコー・宝塚の離れ業。
今年も3番目登場した「ボーイズ・エコー・宝塚」。ところが、登場したのは、13人の少年だけ。伴奏の辻先生とマネージャーの大塚さんの都合が悪くて、急遽団員の滝浪君のお母様と団長の山下純平君がピンチヒッター。このような悪条件をどう克服するのでしょうか。音楽よりも教育としてはそこが大切なところです。ボーイズ・エコー・宝塚は、音楽団体であると同時に教育団体です。欠けた部分をカバーすることで、団員同士の連帯感はさらに強まるのではないでしょうか。何でもうまくいくときは問題を感じませんが、成長も少ないものです。逆に、苦しいときをどう乗り切っていったかということが、生きる力となり、将来につなぐことができます。山下君は、落ち着いた気品のある解説をして、演奏につないでくれました。
1曲目の「お祝いのカノン」はモーツァルトの原曲を3部の輪唱にしたもので、ボーイ・ソプラノの特色が発揮できる曲です。軽やかな祝典ムード中にも、声の重なりを楽しむことができました。
2曲目の「白銀は招くよ」は、コルチナ・ダンペッツィオの冬季オリンピックでアルペン三冠王となったトニー・ザイラーが映画界に進出した映画の主題歌。歌詞を日本風に直して「みんなのうた」で紹介したころから、スキーシーズンには、おなじみの歌となりました。出だしの音の低さが、ボーイ・ソプラノにはどうかなという懸念もありましたが、それは難なくカバーしてくれました。この歌では、隊形変換が見せ所の一つでしたが、これはややぎこちなさが見えました。歌としては決して悪くなかったのですが、目と耳の両方から入る情報は、その動きが気になるところもありました。
3曲目は「つばさを広げて」。夢のある歌詞と声質がピッタリあって、ルララルーラという伸びやかな言葉が生きていました。
途中、正司宝塚市長の応援のメッセージもありましたが、このべガホールは音楽専用ホールとしては、日本最初とのこと。さすが音楽文化都市というだけのことはあります。そのような土壌があるからこそ、人口20万の都市に日本で10しかない少年合唱団が育つのです。
フィナーレは約160名の出演者の合同演奏でおなじみの「翼をください」とエルガーの「威風堂々」第1番(何と作詞は中安保美先生!)とアンコールの「ビリーブ」と「ラデツキー行進曲」で、歌声を聞かせてくれました。どれもオーソドックスな演奏の中に、ハンドベルを取り入れるなど、ユニークな部分もあって楽しめました。オーケストラとの競演というのは少年達にとって、よい経験になると思います。指揮者の松山雅晴先生は、今年も出演者を生かし、つぼを心得た演奏をしてくださいました。松山先生は、その風貌もホルスト・シュタインとも似ており、統率力があるという安心感があります。
終演後は、今年もボーイズ・エコー・宝塚は、出口で「今日のひととき」を歌って見送り。3月20日(祝)の定期演奏会への期待が高まる演奏でした。
第16回定期演奏会に寄せて
ボーイズ・エコー・宝塚のみなさん、第16回定期演奏会おめでとうございます。ヨーロッパではボーイ・ソプラノのことを「神様のいたずら」と呼んでいます。神様が少年に美しい声を与えておいて、ある時が来たら突然奪ってしまうというところからそう呼ばれるそうです。みなさんは、中安先生、辻先生のもとで、その限られた期間だけ与えられた声を磨く機会に恵まれました。少年の歌声は、磨けば磨くほど清澄さを増し、人の心に元気と安らぎを与えてくれます。今回のプログラムを見れば、何よりも日本と世界の古い歌と新しい歌がミックスされて、幅広い選曲をされていることが目につきます。今日もその歌声で、聴く人の心を慰め励ましてください。
さて、日本には、現在約600の児童合唱団があるそうですが、そのほとんどは少女が大多数あるいは全部を占める「少年少女」合唱団で、純然たる少年合唱団はわずか10団体に減少してきました。近畿地方では、ボーイズ・エコー・宝塚が唯一の存在です。さすがは、「音楽文化都市宝塚」という感がします。しかし、人数的にはここ数年苦しい状況が続いています。そのような中、数少ない少年合唱団の灯を消してはならないとこれまで以上に全市的に団員を募集しようとする新たな取り組みも始まっています。
21世紀は「心の世紀」とも呼ばれています。人間同士の心のつながりや、お互いを思いやる気持ち、そして美しいものを美しいと感じる心を育むことが今こそ求められています。これまでも、ボーイズ・エコー・宝塚は、歌を通して美しい心を育てる一隅を照らす教育を営々として続けてこられました。その成果は在団生・卒団生の生き方にも反映しています。日本の少年合唱発展のためにも、また、少年たちの人間的成長のためにも、ボーイズ・エコー・宝塚の活躍を心より祈念するものです。
ボーイズ・エコー・宝塚第16回定期演奏会
困難をはねかえして
ボーイズ・エコー・宝塚は、今、大きな曲がり角に直面しています。団員も諸般の事情で現在は14人と最大時の3分の1の規模となり、その面では厳しい状況に置かれています。しかし、日本に10しかない少年合唱団の灯を消してはならないと、この4月からは練習日・時間や場所を変更するなど団員獲得のための新たな取り組みもしています。また、今回の定期演奏会においては団員一人一人を活かすことと、36曲もの曲に挑むという心意気を見せてくれました。何よりも、その溢れるような情熱を買いたいと思います。
肝っ玉をつくる
1時前に会場に着くと、卒団生の鳩成晃宜さん(在団中には「魔笛」の「俺は鳥刺しパパゲーノ」を独唱した)が、1日コーチで、この日ソロを歌う山下薫君と圓井良平君にアドバイスしていました。
「もし、まちがえても、しまったという顔をしないで歌い続けるんだよ。」
これ、舞台の上では大切なことですね。藤原歌劇団の創始者で「我らのテナー」と呼ばれた藤原義江は、「からたちの花」の歌詞が「この道」の歌詞に変わっていても平気で歌い続けたとか、オペラ「リゴレット」の重唱のところで、歌詞を忘れても、「何だっけな。」という歌詞を即興で作詞(?)して観客には気付かれないように歌い続けたといったエピソードが残っていますが、こういう肝っ玉をつくることは、歌だけでなく他のいろいろなところに生きてきます。卒団生がこういう形でかかわっているところも、この合唱団のよさと言えましょう。
また、会場では1時5分から約20分間、先日地域のコミュニティーラジオで放送されたボーイズ・エコー・宝塚を紹介する番組(中安先生と山下純平団長、西田智英君の3人が出演)が流されていました。
バイキング風「ドイツメドレー」
幕が上がって、団歌を指揮していたのはプログラムと違って宮城君。瀧浪君は残念ながら病休ということで、人数はさらに一名減。厳しいスタートでしたが、歌にはそれを感じさせないパワーも感じられました。さて、間違いなくこの日のメインの一つは、第1ステージの「ドイツメドレー」。14曲からなるドイツの児童合唱曲、民謡、歌曲の中から、お好みのものをお召し上がりくださいというバイキング風メドレーだったので、じっくり聴き込むと言うよりも、ちょっとお行儀は悪いのですが、つまみ食い的な聴き方をしていました。演奏形態は合唱だけでなく、独唱、オブリガード、輪唱を取り混ぜ、また、学年ごとの演奏など、変化をもたせる工夫をしていました。美味しかったのは、まず最初の「ゆかいに歩けば」と「元気に笑え」。よく歌い込まれていて、合唱でなければ表現できない音の重なりを楽しむことができました。一品料理として美味しかったのは、「野ばら」「五月の歌」「眠りの精」「ブラームスの子守歌」「モーツァルトの子守歌」と言ったところでしょうか。団員の持ち味を活かす選曲をされていたことが目につきました。
家族・地域とともに
第2ステージは、「楽しい歌」。宝塚出身の漫画家手塚治虫のアニメ「鉄腕アトム」「海のトリトン」「悟空の大冒険マーチ」を中心に6曲。ここでは、少年らしいやんちゃな表現を楽しむことができました。友情出演として、団員の妹や親類の幼児たちがアトムや悟空に扮して、間奏の部分に登場するという演出は、家族や地域とともに歩んできたこの合唱団らしいものでもあります。登場のたびに会場から拍手が起こるというところも、舞台の上と下が一体になっていることを感じさせました。
ところで、このステージの最後は、今流行の「慎吾のおはロック」。どう味付けするのだろうと思っていましたが、これは、録音テープを流してそれに合わせて歌い踊るというものでしたが、団員のノリがいまいちで、歌としても踊りとしてもちょっと中途半端な感じがしました。その中では、稲垣君のノリは目立ってよかったです。この曲の本質を一番つかんでいたと思います。
別れの季節
第3ステージの「四季のうつりかわり」では、季節を追いながら、日本と世界の名歌を歌うのですが、卒団する2人のソロを中心に、じっくり聴かせるステージとなりました。夏の「のど自慢大会」で最もよく選ばれた「さわると秋がさびしがる」はもちろん、1月に初演した「白銀は招くよ」は、動きが少ないぶんだけ歌に集中できて、よい仕上がりになっていました。
山下純平君は入団してまだ1年少しなのに団長の重責を与えられましたが、「出るところに出ればきちんとやれる」という秘めたる力の持ち主。歌の方でも、真っ直ぐな中にも柔軟な表現ができるようになってきました。「我は海の子」では、特にそういう表現が求められる第3節を大切に歌っていました。大塚菜穂子さんは、松本さんの卒団後ただ一人の女子マネージャーとして合唱団を陰に日なたに支えてきました。この難しい立場を立派につとめたことは、今後きっと生きてくるでしょう。この日も歌に司会にピアノ伴奏にリコーダーにと大忙しでした。この日歌った「セミ」は大曲ですが、全体としては抒情的に、また語る部分と歌い上げる部分の対比が見事でした。ご卒団おめでとうございます。
歌い継いでほしい歌
第4ステージは、「心にのこる歌」。この1年で力を入れて練習してきた曲に加えて、前回のアンケートで評価の高かった歌が再演されます。そのような意味では最もファンの声援が届きやすい合唱団であると言うこともできます。この日の中で特によかったのは、「しあわせ運べるように」と「宝塚賛歌」。「しあわせ運べるように」は、決して歌詞に書かれた神戸だけが歌われているのではありません。阪神淡路大震災で被災した子どもたちの願いが歌われています。だから、たとえ震災の記憶が薄くなってもぜひ後世に歌い継いでほしい歌です。いや、ボーイズ・エコー・宝塚は、普遍的な人間賛歌としてこの歌を全国に歌い広めてほしいと願っています。また、「宝塚賛歌」は、昨年不慮の交通事故で亡くなられた宝塚歌劇団の作曲家 寺田瀧雄さんが作曲された郷土愛賛歌。これほど熱烈な愛が歌われた郷土の歌は日本にもそう多くありますまい。少年達はありったけの情熱を傾けてこの歌を歌っていました。この歌を歌うとき、少年達の中に眠っている何かが呼び覚まされるのではないかとさえ思います。ところで、昨年度一番人気だった「Believe」は、今回会場みんなで歌う歌として取り上げられましたが、来年はぜひとも少年だけで歌ってほしいものです。
「がんばれ!ベアーズ」と重ね合わせて
もう四半世紀も前になるかと思いますが、「がんばれ!ベアーズ」というアメリカ映画が日本でもヒットして評判になりました。この映画は、ベアーズというリトルリーグの弱小チームが次第に強いチームになっていく過程を描いたコメディですが、単に野球が強くなるだけでなく、チームワークが高まり、子ども達が人間的に成長していくのを見ているうちに、いつの間にかベアーズを応援せずにはおれなくなってくるのです。同時に、この映画は、子どもを育てる上で大切なことをいくつも教えてくれます。ボーイズ・エコー・宝塚に接していると、ふと、この映画のことを思い出し、重ね合わせながら見るようになってしまう昨今です。
戻る