平成17年度記録 

ボーイズ・エコー・宝塚 練習風景
     平成17年8月25日 於:宝塚市立第一小学校


 3年ぶりにボーイズ・エコー・宝塚の練習を参観しました。一昨年までは宝塚小学校に集まって合同練習していましたが、昨年からは、行き来の安全等を考えて宝塚小学校と第一小学校に分かれての練習することにしたそうです。そのため、この日行った第一小学校の練習に参加した団員は、4年生6名、2年生1名の計7名でした。第一小学校は、3年前に本館を建て替えた木の香りがする真新しい校舎でした。また、音楽室のある校舎は旧館でしたが、内装は美しくしかも冷房完備で、施設面で恵まれているなあと感じました。

 さて、練習はモーツァルトの器楽曲をもとにした2つの合唱曲「アルファベットの歌」と「セレナーデ(アイネ クライネ ナハト ムジーク)」が中心で、どちらも器楽曲らしい旋律でしたが、団員たちは全く気にすることもなく歌っていました。この日の練習では、休符の扱いや文語体の意味をつかんで歌うところがポイントになっていましたが、辻先生は、のっぺりした歌い方と歯切れよい歌い方の対比によって、その違いをつかませようとされていました。2時間の練習時間のうち、およそ4分の3がそのような新曲の練習に当てられていました。

 途中、9月に行われる「のど自慢大会」の課題曲(団歌)と自由曲の候補曲(まだ、はっきりしていないこともある)が歌われましたが、こちらはかなり歌い込まれており、また、団員たちはリズミカルな曲よりも抒情的な声楽曲を選ぶ傾向があるため(これが、一般的な小学生と違うところ)、予想以上にきれいな歌声を聴くことができました。とりわけ、去る7月31日に台湾の合唱団と共演した「遊子回郷」は、初めて聴く曲でしたが、印象に残る美しい曲でした。

 現在、ボーイズ・エコー・宝塚は、人数こそ再び10人台に戻り厳しい状況なのですが、「のど自慢大会」を通して一人一人の歌声を高めるという理念で指導されているようです。これは、他の少年合唱団にはあまり見られない特色です。ボーイズ・エコー・宝塚では、モーツァルトのステージは、1991年の没後200年のときにありましたが、来年が生誕250年となるので、新曲を加えて再上演になりそうです。来年3月の定期演奏会が期待されます。

第39回宝塚市民合唱祭
        11月3日 ベガホール

 11月3日(文化の日)は、恒例の第39回宝塚市民合唱祭に行って来ました。今年はボーイズ・エコー・宝塚の出場がトップということで、それに合わせて午前10時前に会場の宝塚ベガホールに着きました。今回は、来年がモーツァルトの生誕250年になるということで、その作品から 「アルファベット」「朝の歌」(ピアノソナタ K331第1楽章)「セレナーデ」(アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク)というもともと器楽作品に日本語の歌詞をつけたものを採り上げました。今年の8月25日の第一小学校の練習参観では、練習を開始したばかりなので、曲想をつかむという段階でしたが、この日の演奏は、出場順がトップというハンディを感じさせないレベルの高いものでした。また、この日出場した団員の人数は16人で、1列です。去年まで20人を超え2列だったこともあり、その辺りに少しさびしさを感じましたが、初出場の団員もおり、何よりも演奏の質がそれを補ってくれました。

 先ず、「アルファベット」の歌詞は「アイウエオ」の繰り返しなので、そこに感情を盛り込むことは難しいのですが、強弱の変化をつけることによってメリハリのある曲に仕上がっていました。とりわけ、音階が上昇するところのクレシェンドが美しく聞こえました。「朝の歌」でも、強弱の変化は生きていました。何よりもよく似た旋律が繰り返される部分の微妙な違いが生きていました。「セレナーデ」では、合唱らしい掛け合いが楽しめました。しかし、何といっても歌詞が文語調で、低学年の団員にとっては、歌詞を覚えるだけで精一杯だったのではないでしょうか。歌詞に共感して歌っているというところには至りませんでした。また、ソプラノパートの4.5年生は、声がよく前に出ていました。

 これは、来年3月の定期演奏会の1ステージの中心をなす曲になることでしょう。1991年のモーツァルト没後200年のコンサートは、ボーイズ・エコー・宝塚の歴史に残るレベルの高いコンサートでした。それだけに、歌詞の理解と表現を今後どこまで深め高めていくかが課題になってくるでしょう。

第23回「宝塚ニューイヤーコンサート」
     ベガホール   平成18年1月9日 

  ここ数年コンサートの生演奏の「聴きぞめ」は「宝塚ニューイヤーコンサート」という習慣が定着しています。今年は、年賀状にも愛犬の写真を掲載したものが目につきましたが、予想通りベガホールの正面には恒例の干支の5匹の犬の絵が飾られていました。私が子どもの頃は、よく鳴くこわい番犬が多かったのに、最近は人間大好きのやさしい犬が増えたなあなどと思いながら開演を待ちました。例年通り郷土民謡の「千吉音頭」で開演しましたが、今年は長年メインで輝かしい声で歌ってきた稲垣君の姿が見えないことに気づき、少し寂しい思いがしました。しかし、後継者の少年少女によって今年もにぎにぎしく演奏されました。

 7番目に登場したボーイズ・エコー・宝塚は、秋の宝塚市民合唱祭に続いて、モーツァルトの生誕250年にちなんだ3曲の演奏でした。「お祝いのカノン」「アレルヤ」「セレナーデ」(アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク)のうち、「お祝いのカノン」は、これまでも定期演奏会で採り上げられたこともあり、合唱ならではの声の重なりを楽しむことができました。また、「セレナーデ」では、歌詞がかなりはっきりと歌えるようになってきました。
 ところで、この日初公開の「アレルヤ」については、どう取り扱うのだろうという期待と不安がありました。この歌は、もともとカストラートの独唱曲。今でもウィーン少年合唱団のソリストなどによって歌われることがありますが、コロラトゥーラの技法があってこそ際立つ名曲です。日本においても、これまで桃太郎少年合唱団によって採り上げられることがありました。独唱として採り上げ、実力のあるソリストを得たときはかなり水準の高いできばえでしたが、残念ながら合唱にすると平板になってしまいました。この日のボーイズ・エコー・宝塚の演奏は、コロラトゥーラの部分を外した合唱で、フィギュアスケートに例えると、回転ジャンプを一度もしないスケートのようなもので、最後の高い声を聴かせるところだけが唯一の聴きどころとなっていました。はっきり言って、全員による合唱ではこういうことしかできないと思います。これが、10曲の中の1曲ならいいのですが、3曲の中の1曲としてはもの足りない気がしました。この曲は、やはり独唱曲なのです。せめて独唱と合唱の組み合わせというアレンジが望ましいと思います。
 また、現在の19人という数は、少年合唱としては最低限確保したい人数です。今回のコンサートでは、前回に続き、主力となっている4,5年生の頑張りが全体を引っ張っていました。

 フィナーレの合同演奏曲は、「にほんの四季」という初めての試みでした。選曲はよかったと思いますが、器楽がブラスバンドのため、繊細さが求められる場面では課題もありました。「アイーダ」や「タンホイザー」のような壮麗な曲ではブラスバンドと声の競演が生きるのですが、「にほんの四季」では、さらに弦楽器の繊細な響きが求められます。アンコールは、おなじみの「すみれの花咲く頃」と「ラデツキ―行進曲」で、松山雅晴先生のツボを押さえた指揮によってこれは大いに盛り上がりました。


第21回定期演奏会に寄せて


 
 ボーイズ・エコー・宝塚のみなさん、第21回定期演奏会おめでとうございます。

 昨年は、フランスで大ヒットした映画「コーラス」が日本でも公開され、コーラスユニット「リベラ」の来日公演など少年合唱に目を向けさせるような出来事があり、新聞・雑誌などのマスコミにも採り上げられました。ところが、今年の1月には栃木で第5回全国少年合唱祭も開催されましたが、こちらはマスコミに採り上げられることもほとんどないという状態でした。1960〜70年代には、NHKに「歌のメリーゴーランド」「歌はともだち」のような、少年(少女)合唱団が活躍する定時番組があり、子どもたちを合唱音楽へと誘いましたが、今はそういう番組はありません。日本にわずかに残っている少年合唱団は、そのような厳しい状況の中、それぞれの指導理念と方法で少年たちを育成し、地域文化の振興に貢献しています。

 ボーイズ・エコー・宝塚は、まさに地域密着型の少年合唱団です。そのため、最近まで全国的に知られることがありませんでしたが、その地道で献身的な活動が少しずつ世に知られるようになってきたことは喜ばしいことです。殺伐とした世相の中、子どもの育ちが問題になっていますが、ボーイズ・エコー・宝塚を見ると、まだこんな少年たちが日本にいるんだとほっとさせられることもあります。

 今年のプログラムを見ると、生誕250年になるモーツァルトのステージが目をひきます。実は15年前の没後200年にも、ボーイズ・エコー・宝塚は、モーツァルトのステージを組んでいるなど、これまでにもモーツァルトの曲を採り上げ演奏することがよくありました。選曲を見ても、声楽曲だけでなく、器楽曲に歌詞をつけたものもあり、そのアレンジが楽しめそうです。また、「歌の動物園」では、動物にちなんだ楽しい歌が聴けそうです。さらに、「アジアの歌」では、日本のその一員であるアジアの音楽にも目を向けようという意図を感じます。本日は、ボーイズ・エコー・宝塚の歌声によって、元気と心の安らぎが与えられ、至福のひとときを過ごせるものと確信しています。



ボーイズ・エコー・宝塚 第21回定期演奏会
        宝塚西公民館     平成18年3月21日


   いつでも歌える持ち歌だからこそ
 「もう3年したら、きっと1年生の団員が成長していい合唱団になりますよ。」
1年生が半数を占めた3年前、私は、音楽の質的な面を心配される指導者の先生方に言い続けてきました。確かに、そのときの1年生で4年生まで続けた団員は半数以下でしたが、今では合唱団の中核として立派に成長してくれました。
 さて、冒頭で歌われる団歌は、その年のコンサートのできばえを占う重要な1曲です。また、「ぼくたちの好きな歌」と題して歌われた6曲は、ふだんのコンサートでは最後のステージに聴かれる持ち歌です。団歌でも感じたことですが、音の重なりが粗く、オブリガードが目立ちすぎたりして、声部のバランスがイマイチというスタートでした。毎回大きな感動を与えてくれる「しあわせ運べるように」さえも、不安定な歌でした。いつでも歌える持ち歌だからこそ大切にしてほしいと思いました。その中では、「夏の想い出」の抒情性と「見上げてごらん夜の星を」で菊井君のビロードのようなソロが心に残りました。

   アジアの一員として
 不安定さがあった第1ステージと打って変わって、第2ステージの「アジアの歌」では、本来のよさが出てきました。ボーイズ・エコー・宝塚は、これまでにも積極的にアジアの歌を採り上げてきました。特に昨年台湾の合唱団と共演したことがきっかけで、今年のプログラムには、「杵歌」「遊子回郷」といった歌が入っています。情念の世界において、共通性を感じるこれらの歌は、聞き慣れない歌でありながら、すぐに親しくなれる歌でした。インドネシアの「川で歌おう」は、3年生の井野君、橋本君、石橋君のそれぞれ持ち味の違うソロによって歌われましたが、特に井野君の表情豊かな楽しげな歌いぶりは、この歌の本質をつかんでいると感じました。韓国の「故郷の春」は、哀愁を感じる名唱でした。このステージの最後を飾る「U&I」。これも、いろいろな少年合唱で採り上げられることが多くなってきましたが、このステージのテーマと歌詞の内容が合致していたという点でもよい選曲であったと思います。

   もう一つの「日本の四季」
 2日前に、私はTOKYO FM 少年合唱団の小学唱歌のメドレー「ふるさとの四季」を聴いてきました。これは、精緻なつくりの「歌の宝石箱」のようなできばえでした。ボーイズ・エコー・宝塚は、今年の「ニューイヤーコンサート」のフィナーレで採り上げた端村肇編曲の童謡・唱歌のメドレー「にほんの四季」に挑みました。これは、「ふるさとの四季」と同じ曲もありましたが、正月(「一月一日)からスタートし年越しして「春が来た」まで歌うという全く違うコンセプトで創られていました。ボーイズ・エコー・宝塚は、全員合唱だけでなく、学年ごとの歌、遊び歌の要素を入れた演出を大切にしていました。たとえメドレーであっても、そこでは、1曲ずつの独自性が強調されていました。また、人や子どもの生活との関わりを強調したという点で、子どもの視点からみた「日本の四季」だったように感じました。

   動物大好き
 子どもたちの大好きな動物を真正面から採り上げるという手法も、ボーイズ・エコー・宝塚らしい手法です。最初と最後の「動物園に行こう」にはさまれて、いくつもの楽しい、美しい動物が登場する歌が登場しました。学校ごとの歌あり、学年ごとの歌あり、ソロありという構成も、すべての団員に光を当てようという心配りから生まれています。並木君、河原君の「月の沙漠」のソロを聴くと、この合唱団がめざすボーイ・ソプラノを磨くという本質につながっていることがわかります。5年生の並木君のまろやかな歌、河原君の流麗な歌声は、この日最高に輝いていましたが、来年の定期演奏会でも響いてほしいと願いながら、ボーイ・ソプラノのはかない運命に思いをはせました。

   メインエヴェント
 今年度の定期演奏会は、「モーツァルトコンサート」にかけてきました。だからこそ、あえてプログラムの順序を変えてまで、最後のステージにメインをもってきました。これまで断片的に練習やコンサートでその成果を垣間見てきましたが、この日、その全貌が明らかとなりました。一言で言えば、アレンジの楽しさを楽しむことができるステージでした。「トルコマーチ」のスキャット、岡村君の楚々とした「五月の歌」、森本君と竹内郁君が張り合うように歌う歌劇「魔笛」より「ぼくは鳥刺し」など聴かせどころをつくりながら、9曲の歌が歌われました。このステージには、練習の質と量がよく現れていました。8月にはまだまだ文語調の歌詞にとまどっていた団員たちも「セレナード(アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク)」を誇らかに歌って、このステージを盛り上げてくれました。こういう楽しみ方ができるのも、練習を含め、この合唱団を追跡しているからでしょう。また、団員一人一人を活かすことや、演出を大切にしていることなどが今回のコンサートでも伺えました。いつも課題はあるんですけど、日本で一番聴く人に元気を与える少年合唱団は、ボーイズ・エコー・宝塚です。


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