Eyes color








ある日、何気なく耳にした会話。それは私と同じくらいか少し年下の女性達の会話。
私にはあまり興味のない内容が多いのだけど、その日の会話に私は自分の耳を疑りたくなった。
まず最初に、話題となっている人物。
次に、その話題の趣向だ。


「ねぇ、ヴェノムって子、知ってる?」
「確か首領の補佐…だっけ?」
「なーんか暗い感じの人でしょ?」
「そうそう…何て言うか…前髪がさぁ」
「特徴っていうか変でしょ、アレは」

陰口と言うほどでも無いしいつもの様に通り過ぎようと思った時だった。


「それが!素顔は結構良い男なんだって!」


何処で聞いてきた話かは分からないが、そうらしい。
彼が幼い頃に一度だけ見た顔はもう分からないが。


「あ、ミリアさん…!」

運悪く見つかってしまった。

「あの、聞きたいことがあるんですけど…」
「何?」
「ヴェノムさんの素顔って…」
「悪いけど、よく知らないわ」
「そうですか…」
残念そうに顔を見合わせる彼女達の心境はよく分からない。
「貴方達も下らないことが好きなのね」
「そうですか?」
「そんなに気になるのなら彼に言ってみれば?」
「そんな!まず会う機会が無いですよ〜」
「じゃあ、彼処にいるのは誰?」
「……?、…あっ」
「私は失礼するわね」

偶然とはいえヴェノムを見つけた、というか彼が現れたのは幸いだった。
馬鹿らしい議題との関わりは極力避けたい。それに加えてヴェノムが関わっているのだ。
奴は私をあまり良い目で見ていないしな…。
恐らくは彼の忠誠を誓った主の態度にも責任はあるのだろうが。
かと言ってそれを責める気はないし勝手にしてくれればと思う。
断じて私は奴らの同類ではないのだから。







その日の夜、ザトーの部屋から出てくる彼を見かけた。

彼が彼女達の前であの前髪を上げて見せたと思うと…微笑ましくもない。
彼女達の反応もそうだが彼の反応も気にならないと言えば嘘になるが。
と、不意に目が合った。どうやら考えているうちにその目玉に集中してしまったらしい。
見詰めるのは真っ直ぐに下された前髪の間の暗い藍。

「…昼間はどうも」
「気付いてたの」
「貴女の声は分かりますから」
「…そう、文句があるならどうぞ?」
「何故?」
「そんな顔をしてそうだから」
「別に…してませんよ」
「じゃあ失礼するわね」

相変わらず反応も薄く、話はすぐに終わる。
彼も自分の部屋に戻るだろうとその場を去ろうとした時。

「…貴女は何も聞かないのだな」

静かな廊下に彼の声だけが響いた。
独特の声色はとてもよく透った。



「…聞いて欲しいなら最初から言いなさい」
「そうでは」
「あら、そういう顔には見えないけど?」
「なっ…!?」
「油断するからよ」

すっと彼の顔に垂れていた長すぎる前髪を掬ってやった。
廊下の暗さの所為だけではない、彼独特の瞳の深さが好きだった。
そんな事を思う間もすぐに私の手は払い除けられた。

「私に見られるのは嫌なのね」
「別に貴女に限ったことではない」
「あら、でも今日」
「彼女達は追い返しました。私も忙しいので」


結局、彼は私やザトー以外には滅多に素顔を晒さないと言うことらしい。


「まぁ、そんなものよね」



人には謎があればその分魅力が増すとは言うけれど。
無意識にそうなってしまっている彼の場合はどうなのだろう。

尤も、私は瞳が好きなだけで彼の頭の中までは見たくないけれど。
それとこれとは、また別問題のような気がした。







  -END-


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後書:
何だか中途半端になりました。
この続き、在るんですけど…ヴェノミリなので大丈夫な方のみどうぞ