2001〜2002年は暇さえあれば松本周辺にいりびたってた。私は視野の狭い人間で好きなものがあると他に目が行かないタチなので秋は「カラマツ、カラマツ」冬になると「霧氷、霧氷」 桜が終わると小谷村や例年5月末にならないと開通しないはずの鍋倉のブナ林に行きたくて行きたくて「まだ?まだ?」と、せかす意味のない信州の友人をせかしていた。個人的な意見だけど旅的にいうと断然東北が面白い。しかし幸か不幸か信州に沢山の楽しい(?)友人が出来てしまったので、あっちの情報こっちの情報に右往左往しながらいつのまにか居座ってる。おまけに松本の19号線近辺はカメラマンラインになっていて車で走ると30分足らずの範囲には、風景写真界のカリスマカメラマンを筆頭に、とびきりいい写真を撮る人々が生息している。この密度は日本一なんではないか?この輝かしいゴールドラインは、又暮らし易さでもトップライン。19号線沿いのスーパー、コンビ二は私の台所、ファミレスはリビング。そして南はロマネット、北は鈴虫荘まで私のバスルームは続く。これはもう旅ではなくて住んでるようなもんだなと思う今日この頃。
vol.1 信州 in Winter (2002. 1.29) ある朝、ある山で、起きてみると運転席に脱いだ靴が凍って床に張り付いていた。化粧水も凍っていた。窓?そんなもの普段の3倍位の厚さに凍りついている。私の血液も半分位凍っていた。写真的には条件の良い日だったらしく、いつもよりたくさんのカメラマンが登ってきていた。彼らの敏捷な動きとはウラハラに私の動きは鈍かったが、ともかく普通に撮影した。一息ついた所で憧れていたカメラマンとすれ違った。(肌はカサカサ、寒さでハナ垂らしてるような顔をホントは見られたくなかったけど、人生何故かひどい顔してる時に限って人に会うもんだ。こんなにひどい顔してるしコンタクト水が凍ってたからメガネ顔なのに「何故私ってわかるの?」) 私の葛藤をよそにその人は言った。「今日はよかったねー。サンピラーとダイヤモンドダストがでたね。」 (えっ?何、言ってはるの?サンピラーって何?) 「ブロッケンもでたね」 (???) いっそ知りたくなかったが、その日はそんな現象が出たらしい。そんなものの存在も知らなかったし、その現場にいたのに全然違う方を見てたので、気付かなかった。 そしてまた別々に撮影して再び夕方、聞いてしまった。 「幻日もでたね」 (・・・私は見てない) 数日後、別の山で私は一人だった。誰一人カメラマンを見かけなかった。だけどすごく寒かった。そしてついに私は巡り合ったのだ。サンピラーと! ダイヤモンドダストと!! 車を走らせていてフッと横を見るとストーンと金色の柱がそびえている。頭がまっしろになった。慌てて撮影した。感動で手は震えるし足もガクガクだ。あんな状態で凍っている道でよく滑ってこけなかったもんだと自分の運動神経を改めて見直した。 撮影後、「写真人生最高の日!」とメールしまくった。胸一杯満足感で溢れていた。鬼の首でもとったように見えただろう。 だけど私は体より頭の神経が弱いらしく、実は頭脳は全く機能してなかった。 帰宅後、現像の出来上がりをみて唖然とした。 興奮しながらも完璧に撮ったつもりが、絞りはf32までしぼったままだったし、調整する事を忘れたままPLをつけてたし、ゴーストやフレアーは入るわ、望遠レンズは傾いているわetc 結局風景写真というより、そこにいたという証明写真を恐ろしい枚数撮ってしまった。 教訓:現像が仕上がるまで何もしゃべらない方がいい |
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vol.2 青森のアイスクリーム (2002 4.22) 嶽温泉への道中、偶然通りかかった岩木山神社は巨大な鳥居の後ろに御神体の雪の岩木山がそびえている。ここまでわかり易いとかえって感動するもので、おまけにこの壮大な景色に密かにリヤカーアイスクリーム屋が溶け込んでいるのがいたく気に入ってしまった。しかも狛犬の如く左右に一対。このアイスクリーム屋はどうも青森、特に弘前周辺名物らしく、弘前城にも何台も出ていた。100円という安さにも惹かれ、せっかくなら写真も撮ろうとアイスクリームを買う事にした。さて観察してるとどうも左右二台あるリヤカーの左側に客が多い。単なる偶然かそっちの方が美味しいはずなので、アイスクリームを食べるイチ客としては当然左側に行くべきなのだが、右側のお姉さんのほうが写したくなる感じなんで困ってしまった。さあここからが海外を渡り歩いた私の本領発揮である。迷うことなく近くにいた青森ナンバー車のアイスクリームを食べている若者達をつかまえて、実は地元ではどっちが美味しいか噂になっているんじゃないかと訊いた。考えても仕方ない事は訊くに限るのだ。幸いそういう噂はなかったが、アイスクリームをのせる器具にはスプーン状のものとヘラと二種類あるらしく、「ヘラの方が一杯のるんですよ」とアドバイスしてくれた。 ところが「私、右側に行きたいんだけど、ヘラかな?」と訊くと、左側はヘラだったけど右側はわからないという。意を決して私は自分の目で確かめる事にした。もちろん遠慮深く少し離れた所から、他の客の注文したアイスクリームがのっかっていく様子をなんとか見極めるつもりだった。が、人が邪魔になったり早すぎたりで、どうもわからない。 その時、何かを感じてハッと視線を上げると、さっきの若者がリヤカーの背後にそびえ立つ灯篭にへばりついてアイスクリーム屋を覗き込んでいる。次の瞬間、私と目が合った若者は勝ち誇ったように片手を天高く伸ばして合図を送ってくれた。 『 O K !! 』 若者達も自ら謎を解く為に行動を起こしたのである。まだまだ日本の未来は明るい。 さて撮影の為なるべくゆっくり盛り付けてくれる様頼んで(私はスナップは慣れてないのだ)たった一個の100円のアイスクリームを5分位かけて作ってもらった。シャッターの音と私の「珍しい」「絵になる」という言葉の魔術に、アイスクリームはどんどん高くなっていく。「ヘラだといくらでも載るんですよ!」とお姉さんも上機嫌だ。前の客の倍ほどにもなったアイスクリームを写しながら『いい調子いい調子』と心の中でほくそえむ私に、しかしお姉さんは(撮影の事を考えてくれて)明るく言い放った。「これ全部落として、もう一回最初から盛りましょうか?」 その申し入れを私が慌ててお断りし、撮影を終了してアイスクリームを受取ったのは言うまでも無い。 |
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vol.3 雨上がりの災難 (2002. APR) 棚田の撮影に行った。棚田を作る位だから勾配のある土地だった。雨続きで道はぬかるんでいた。今日もあまりいい天気ではないので数人来ていたカメラマンは車道沿いで井戸端会議していた。私は坂を下った所で撮りたかったので三脚カメラを担いで降りていった。 <ツルッ> 信じられない事に運動神経のいいはずの私があがく暇さえなく、あっけなく滑って転んでしまった。しかもそれを上がって来るおじさんに目撃されてしまった。「大丈夫か?」(あーやっぱり見られてた)と聞かれ「はい、私もカメラも大丈夫です」と答えいかにもなんでもないように振舞った。(本当に痛くも何ともなかったのだ) 幸運なことに車道からは見えない場所だったので他の人には見られずに済んだ。 その後は慎重に足を運び、無事カメラをセットして車に戻ろうと坂を上って行ったその時、遠くから私の耳に信じられない言葉が聞こえてしまった。 「今、下で女の子(私)が滑って転んで・・・」 あろうことか折角見て無かった人達にまで、あのおじさんが説明してるのだ。 それ以上聞きたくなかった。みんながうなずきながら、上がってきた私のほうを見る気配がした。「大丈夫か?」あのおじさんがまたしても声をかけて来た。 私としては大丈夫でも大丈夫でなくても、人にはしゃべらんといてほしかった 「えっ何のことですか?」ととぼけたかったけど、私の服にはこけた証の泥がべったりと付いていた。なんだか腰まで痛くなってきた。 翌日私の近くで撮影していた別のおじさんがやっぱり滑って転んだ。昨日のオジサンはいなかった。私は偉そうに言った。「大丈夫ですか?このへん滑るから気を付けないと危ないですよ」 なんとなく嬉しかった。私も小さい人間だなあ |
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*21世紀以降の国内撮影は特に表示の無いものは全てPENTAX645N RVP使用 キャノンEOS1で撮影の場合はほとんどコダックE100vs使用 |