書評・感想 2003年 [2002年][Top]
目次
ブレイブ・ストーリー  宮部みゆき
六人の超音波科学者  森博嗣
リアルワールド  桐野夏生
そして扉が閉ざされた  岡嶋二人
闇匣  黒田研二
御手洗潔の挨拶  島田荘司
恋恋蓮歩の演習  森博嗣
神々の世界  グラハム・ハンコック
書評・感想
ブレイブ・ストーリー 宮部みゆき 角川書店
平成15年5月19日(月)

小学生のワタルは平凡ながらも両親とともに幸せに暮らしていた。しかし、突然運命の歯車が狂いだした。母親がワタルを巻き込んで無理心中をはかる--そんな状況まで事態は悪化するのである。この悲劇の運命を変えるために、”現世”とは異なる”幻界”という世界に存在する運命の塔を目指して、ワタルは旅立つ。

うーん、これはおもしろかった。ファンタジーものを読むのは初めてですが、こんなにもハラハラ・ドキドキするとは予想外でした。
 主人公のワタルが理屈っぽいところに、小学生という設定に無理があるような気もするのですが、純真な子供でなければ物語りは成立しないので仕方がないのかもしれません。それ以外の設定はお見事です。
 叶えられる願いはただ一つだけ。当初の目的どおり自分の運命を変えることを願うか、その願いを捨てて幻界で出会った仲間を救うことを願うか、究極の選択を迫られます。そしてワタルが出した答えは・・・。旅を経て成長したワタルの頼もしさを感じ取れる素晴らしい答えです。

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六人の超音波科学者 森博嗣 講談社ノベルス
平成15年4月10日(木)

山の中にある超音波研究所。研究所に通じる唯一の橋が何者かに爆破された。研究所ではパーティーが催されており、出席者は陸の孤島に取り残される形となった。そんな研究上内で一人の研究者が遺体となって発見された。

六人の研究者の内、外国人が二人という設定です。実際の研究所の場合、外国人が居たとしても不自然ではありませんが、物語の中にまで外国人研究者を登場させる必要があるのだろうか? しかも、ファラディなんていう思わせぶりな名前まで付けて、と疑問に思っていましたが、最後には納得できました。さすがにこれには気づきませんでした。
犯人に関しては予想通りでしたが、他の仕掛けには全く気付きませんでした。お見事です。

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リアルワールド 桐野夏生 集英社
平成15年4月8日(火)

自宅にいた十四子は、隣の家からの大きな物音に驚き、そして嫌な予感を憶えた。隣の家の母親が殺されたのだ。容疑者は行方をくらましている自分と同世代の高校生の息子だった。母親殺しを実行した犯人に興味を持った十四子を含めた四人の女子高生は、犯人の逃亡劇に巻き込まれていく・・・。

現実ではないと理解していながら、いまどきの高校生ならこういう行動を起こすだろうなと、納得できてしまう不思議な感覚が味わえた作品です。一時期、マスコミを賑わせた少年による残虐な事件を思い起こします。作品中でもその事件をあらわすキーワードがでてきますし・・・。その後、この事件報道に刺激を受けたと思われる事件もありました。大抵の人は真似をしようなどとは思わないのに、極一部の人間が興味を覚える。興味を覚えた人の中でも大抵の人は行動に起こすことはないのに、極一部の人間が実際に行動を起こす。本人は英雄気取りなのかもしれません。大人になりきれない子どもの証拠だというのに・・・。

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そして扉が閉ざされた 岡嶋二人 講談社文庫
平成15年3月18日(火)

数ヶ月前に事後死した咲子の母親に呼び出された男女四人が核シェルターに閉じ込められた。部屋の中には、咲子は事故死ではなく殺されたと告発する母親のメモがあった。事故死だと思っていた四人は、この中に殺人犯がいるのかと疑心暗鬼になりながらも、当日の行動を思い出し真相にせまっていく。

予想を裏切られ、その手があったかのか、やられたという思いのする作品です。ただ、登場人物の顔が最後まで想像できなかったのが残念。その辺の描写が欠如してるのではと思うのですが、充分楽しめました。
 余談ですが、カロリーメイトと水だけで人間は生きていけるのでしょうか? 疑問です。

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闇匣 黒田研二 講談社ノベルス
平成15年3月18日(火)

目が覚めると何も見えない闇の中。手足は縛られ体の自由が利かない。一体、自分の身に何が起こったのか? 物語はそこから始まる・・・。

受験を控えた高校生の頃に大学を訪問したときのこと。いろんな研究室を見学したなかで、一番印象に残っているのが音響に関する研究をしているところでした。壁と天井一面に凹凸がついた、音をほとんど反射させない部屋に案内されたのです。研究室の人いわく、「音を反射しないので電気を消して真っ暗にすると、良く眠れて昼寝には最適です。ただし、起きたときにここが研究室だと気が付かないと、真っ暗で音を反射しないので、異常な感覚からパニックになることがあります。」 という話を本作を読みながら思い出しましたが、あまり関係ないのかな・・・。

冒頭部は謎ばかりで、徐々に物語が進行してラストに全ての謎が一気に明かされる、という展開はボクの好みです。今までに読んだ黒田作品の中では硬派な感じのする本作が一押しです。

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御手洗潔の挨拶 島田荘司 講談社文庫
平成15年1月27日(月)

「数字錠」、「疾走する死者」、「紫電改研究保存会」、「ギリシャの犬」の四篇からなる、名探偵御手洗潔が挑む短編集。

島田荘司の作品を読むのは今回が初めてです。有名な「占星術殺人事件」の著者であり、また、綾辻行人をミステリ界に送り出した重鎮ということは知っていたのですが、これまで彼の作品を避けてきました。明確な理由があるわけではないのですが、綾辻以前の古い作家だという思い込みがあったのかもしれません。読んでみて、やっぱり少し古臭さを感じました。実際、十五年も前の作品ですから当然といえばそれまで。それにしても、名探偵という設定には少し違和感を覚えます。
 「数字錠」の組み合わせ数では戸惑いました。こんなの一瞬でわかるはずでは・・・。当時はわからなかったのでしょうか? 別世界に迷い込んでしまったかのような戸惑いを感じずにはいられません。

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恋恋蓮歩の演習 森博嗣 講談社ノベルス
平成15年1月21日(火)

航行中の豪華客船ヒミコ号にて、銃声とともに何かが海中に転落した。目撃証言によると転落したのは一人の人間。調査の結果、乗客の羽村怜人が行方不明。また、羽村の隣の客室から関根朔太の自画像がなくなっていることも判明した。船内の捜索が行われたが羽村も絵画も見つからない・・・。

読み始めてすぐに、ミステリではなく恋愛小説ではないのかと思いました。「今はもうない」を読んだ時も感じましたが、森博嗣って恋愛小説を書く才能もあるのでは? 恋愛物をほとんど読まないから新鮮に感じるだけの、ボクの勘違いかもしれませんけど。
 前作の犯行現場が飛行中の航空機、本作は航行中の豪華客船。本格ものでは嵐の山荘から舞台を移そうとすると、こういう特殊な設定が必要ということなのか。嵐の山荘も充分特殊ですけどね。
 一番印象に残っている場面は、紅子が片平を叱るシーン。彼女の強さはもはや失うものがないからなのか。少ないとはいえボクにはまだ残っているから、あそこまでは強くないのだ、と勝手に自分を納得させたのでした。

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神々の世界 グラハム・ハンコック 小学館
平成15年1月13日(月)

我々が知る有史以前に超古代文明が存在したのではないかという説。世界各地に残っている洪水伝説に着目し、これらは単なる神話や作り話ではなく実際に起こった事件を我々が記憶しているのである。その証拠を求めて各地の水中遺跡を探索する。

世界中でベストセラーとなった「神々の指紋」の続き・・・かな? 「指紋」では、超古代文明の痕跡は南極大陸の厚い氷の下に存在するはず、と言っていたのに、いつのまにやら世界各地の海底に沈んでいるということになっています。
 洪水伝説に注目しているのは前作と同じですが、本作ではその筋の世界的権威グレン・ミルン教授の協力によって得られた水没地図を新しい証拠として採用しています。現在わかっている全てのパラメータを考慮して、世界各地のあらゆる年代の陸と海の境界を計算するというもの。ただし、地殻変動は考慮されていないそうです。
 伝説と水没地図から遺跡がありそうな海中を著者本人がダイビングして、写真を撮っています。しかし、その写真を見ても遺跡だとはボクには思えないのです。特に、プーンプハールの海中遺跡(?)の写真はひどい。ほとんど何も見えません。著者いわく、持病の偏頭痛が酷かった。なんだかなー。

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