書評・感想 2002年 [2003年][Top]
目次
今夜はパラシュート博物館へ  森博嗣
[再読]十角館の殺人  綾辻行人
魔剣天翔  森博嗣
ジャンヌ・ダルク暗殺  藤本ひとみ
夢・出逢い・魔性  森博嗣
笑殺魔  黒田研二
月は幽咽のデバイス  森博嗣
ふたり探偵  黒田研二
人形式モナリザ  森博嗣
作者不詳  三津田信三
黒猫の三角  森博嗣
模倣犯  宮部みゆき
本能寺の変  津本陽
マレー鉄道の謎  有栖川有栖
朽ちる散る落ちる  森博嗣
書評・感想
今夜はパラシュート博物館へ 森博嗣 講談社ノベルス
平成14年11月6日(水)

全八話からなる短編集。

萌絵ちゃんや、練無くんの登場する話もあります。ただし、長編物とは異なった雰囲気がするのが気になるところ。
 著者の個性的な表現や比喩が、長編物よりも頻繁に、パワーアップして出てくるように感じます。よくこんな表現が出来るな、と感心します。さすがは理系というところなのでしょうか。ボクも理系人間ですが、次から次へと出てくるこれらの表現の量の多さにはかなわないな。ひとつやふたつなら、良い表現が浮かぶけど、それを物語の本筋とは関係ないところで惜しみもなく使用できるのは、キャパシティの違いでしょうか?
 短編集の所為か、物語の奥行きが浅いところが物足りない気がしますが、最後の「素敵な模型屋さん」は良かった。自分の子供の頃と重なる部分があって、あの頃の感覚が甦ったような懐かしさを味わえました。

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[再読] 十角館の殺人 綾辻行人 講談社ノベルス
平成14年11月4日(月)

半年前の凄惨な殺人事件の舞台となった孤島の十角館に、ある大学のミステリ研のメンバーが訪れる。外界との連絡が遮断されたこの孤島で、一人、また一人と仲間が殺害されていく。まだ捕まっていない半年前の事件の犯人の犯行なのか、それとも仲間のなかに犯人がいるのか・・・。新本格ミステリの歴史の幕は上がった。

後輩に薦められて、初めてこの作品を読んだのは十年程前のことです。それまで、江戸川乱歩やアガサ・クリスティーの作品を読んだことはありましたが、ミステリはあまり好きなカテゴリーではありませんでした。そんなボクにミステリの面白さを示してくれたのがこの作品です。
 物語の冒頭で述べられるミステリの定義。様々な解説で引用されるほど有名なこの定義に、激しく同意してます。
 この作品は数え切れないほど読み返しましたが、いまだに、ある三人の人物を区別できないときがあります。他の登場人物が個性的であるため、この三人の印象が似通った感じがするのかもしれません。この部分が少し気になるところですが、新本格の記念碑的な本作は超おすすめです。

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魔剣天翔 森博嗣 講談社ノベルス
平成14年10月24日(木)

航空機のアクロバット飛行実演中にパイロットが殺害される。飛行中のコクピット内部での射殺という密室殺人。事件前日には行方不明の財宝の強奪を匂わせる脅迫状が届いていた・・・。

この作品から怪しい人物・各務亜樹良が登場。謎の多い登場人物ばかりなのに、さらに一人追加。今後の作品に全て登場するのかは知りませんが、少なくとも「朽ちる散る落ちる」には登場してました。謎の多い人物というのはシリーズ物の作者にとっては都合が良いのでしょう。後から、実はこんな過去があったと、話を追加すれば良いだけですから。これまでの登場人物の人物像が明らかになりつつあって、物語の展開上困ったので新たに一人追加したのか、と穿った見方をしてしまう。
 作品としては素晴らしい出来だと思います。トリックも良かったし、何より練無の過去が少し明らかになったことが良かった。子供のように号泣する切ないシーンに星3つあげちゃいましょう。

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ジャンヌ・ダルク暗殺 藤本ひとみ 講談社
平成14年10月21日(月)

フランスはアザンクール。対イングランドの前線にフランス軍に従軍してきた一人の若い娼婦は、フランス軍の若い騎士と出会う。娼婦にとって、それまでに見たことがない信心深い騎士であった。神の存在を示すと約束した騎士の表情を娼婦は忘れることはなかった。十数年後、その騎士と同じ表情を救国の少女・ジャンヌ・ダルクの顔に見ることになる・・・。

ジャンヌ・ダルクという人物について知ったのは数年前。リュック・ベッソン監督の映画「ジャンヌ・ダルク」を見たときが初めてです。神を信じる純粋な心を持ちながら、気性の激しい攻撃的な性格の人物像に衝撃を受けたのです。本作品は、別の一人の女性に焦点をあてた物語なため、ジャンヌ・ダルク自身の登場は少なかったのが残念。それでも、十分楽しめた作品です。己の持てる力の全力を尽くして、自己の幸せのために生きる一人の娼婦という設定が、信心深いジャンヌ・ダルクとは対照的で、物語を興味深いものにしています。生きていくためには娼婦として働くしか道がなかった女性が、姦淫することなかれと教える神の存在を信じるはずもなかった。しかし、ジャンヌ・ダルクが火刑に処せられるとき、一度だけ神を信じてみようと思った。本当にジャンヌ・ダルクが神の使者であると信じたかったから・・・。見事な物語の展開でした。

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夢・出逢い・魔性 森博嗣 講談社ノベルス
平成14年10月13日(日)

テレビのクイズ番組に出演する紅子、紫子、練無に同伴して保呂草は上京した。番組のリハーサル直前、爆発音と火薬の匂いに気付いた保呂草は、スタジオ近くの別室で番組プロデューサの死体を発見する。銃声は一発であったが、死体には傷が二つ・・・。

10年ほど前、綾辻行人の「迷路館の殺人」を読んで以来、ある点を注意深く吟味しながらミステリ作品を読む、という癖がついてしまっています。あるトリックに引っ掛からないようにするためなのですが・・・。「迷路館の殺人」以来初めて、この作品がその網に掛かったのです。その時点で犯人がわかってしまった・・・つもりでした。が、そんなに甘くはありませんでした。もう一捻りありました。うーん、騙されてしまった。再び、その網に掛かる作品に出会えるのは何年先のことになるかと思うと、細心の注意を払うべきだったと後悔してます。
 ネタバレは拙いと思ってるので、こんな抽象的な文章になりましたが、言いたいことを理解してもらえるのかな?

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笑殺魔 黒田研二 講談社ノベルス
平成14年10月9日(水)

笑顔を見せると不幸が訪れる。保母でありながら笑顔を封印した彼女に、一人の園児が好意を寄せる。「先生、笑って」と笑顔を取り戻させようと懸命になる。その園児が誘拐された。犯人は笑顔を封印した保母に、身代金と不可解な行動を要求する。

全ての謎が、物語のラストで一本の線に繋がる、そんな作品を読み終わった後というのは爽快な気分になります。久し振りにそんな気分を味わった作品です。ユーモアのあるおちゃらけた場面あり、スピード感のある緊迫した場面あり、そして迎える謎解きのラストシーン。十分に楽しめました。今後のシリーズ展開が楽しみです。

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月は幽咽のデバイス 森博嗣 講談社ノベルス
平成14年9月26日(木)

篠塚邸のパーティーに出席した紅子と保呂草は、密室状態のオーディルームで血まみれの死体を発見する。発見されたのはパーティに出席していた歌山佐季。死体の異常な状態が謎を呼ぶ。

途中でトリックを見破ったつもりだったのですが、全然違いました。でも、なんかずるい気がして納得できない。オスカーって何者だったの? これならボクの考えたトリックの方が良いと思うので、後日のためにメモしておこう。(低周波)。紫子の関西弁の台詞を読んでいる時、李紅蘭の声を想像してしまうのはボクだけかな? 老若男女を問わず、登場人物を上手く描けているのが素晴らしいです。森作品は大好きなのですが、トリックよりも登場人物の描写に、惹きつけられているのかなと感じた作品です。

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ふたり探偵 黒田研二 カッパ・ノベルス
平成14年9月16日(月)

北海道での取材を終えたルポライター星崎綺羅の一行は寝台特急カシオペアに乗る。取材に同行した友梨は、世間を騒がすシリアルキラー"J"の次のターゲットが星崎綺羅であることを知る。婚約者とともに友梨は車内で警戒していたのだが、殺人事件は起きてしまった・・・。

読み始めてすぐに違和感というか、ある疑問を持ったのだが、読み進むうちにその違和感は自分の勘違いであると思った・・・のだが、それが実は重要なトリックだった。まんまと騙されてしまった。なかなかやりますね>黒田研二さん。
 奇妙な”ふたり探偵”という設定は、賛否両論ありそうだけど、新鮮な感じがして楽しめました。映画やドラマなどで映像化しても面白いのではないでしょうか。かつてドラマ化された綾辻行人の鳴風荘事件よりは、格段に楽しめると思うのですが、いかかでしょう?

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人形式モナリザ 森博嗣 講談社ノベルス
平成14年9月11日(水)

舞台公演中、客席の視線が集まる前で演者が謎の死を遂げる。二年前にも被害者の一族の一人が殺害されていた。凶器はそれぞれ金のナイフと銀のナイフ。果たして犯人は? 衆人環視の中での殺害のトリックとは?

Vシリーズの第二弾です。ボクにはすぐに犯人とトリックがわかりました。トリックの本質は「笑わない数学者」と同じと言ってよいでしょう。ボクはこの手のトリックはすぐに見破れるようです。ただし、紅子を襲った人物については予想外で、「やられた!」と思いました。トリックの出来については標準レベルというところでしょう。「すべてがFになる」の衝撃が強かったので、森作品には衝撃的なトリックを期待してしまうのですが、森作品の魅力はトリックよりも個性的な登場人物にあるとボクは思っています。本作ではある人物の意外な過去が明らかにされており、この先の作品を楽しむためには欠かせない作品かもしれません。

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作者不詳 〜ミステリ作家の読む本〜 三津田信三 講談社ノベルス
平成14年9月6日(金)

古本屋で手に入れた七話のミステリじみた話で構成されている「迷宮草子」。飛鳥信一郎と三津田信三は早速この本を読み始めるが、第一話を読了した時点で二人を怪異が襲う。怪異を治めるためには物語の謎を解かなければならない。読み始めたからには全七話の謎を・・・。

装丁と構成はなかなか凝った作品ですが、作品の全体的な出来としてはイマイチかな。ただし、第五話の「朱雀の化物」は秀逸。所謂「そして誰もいなくなった」タイプの作品ですが、そのトリックに森博嗣の「すべてがFになる」以来の久し振りの衝撃を受けました。衝撃の大きさは「すべてがF〜」程ではないにしても、まだまだ良質のトリックが残されていることに感激しました。惜しむらくは全七話の中の一話だということでしょう。これだけで一冊分になっていれば高く評価したのに・・・。

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黒猫の三角 森博嗣 講談社ノベルス
平成14年8月9日(金)

3年前の7月7日に11歳、2年前の7月7日に22歳、昨年の6月6日には33歳の女性が殺害されたというゾロ目殺人事件。今年の6月6日に44歳を迎える小田原静江も誕生日パーティーの最中に殺害された。果たして犯人は?そして、ゾロ目の意味するものは?

Vシリーズの第一弾です。ボクがこのシリーズの作品を読むのは二作目になります。この作品を最初に読まなかったのは失敗でした。全くのノーマークの人物が犯人でした。犯人が明らかになった場面でも信じられませんでした。「きっと、どんでん返しがあるに決まっている。そうでないと先に読んでいたあの作品は有り得ないもん。」と思って最後まで読みました。どんでん返しはありましたけど、ボクの想像してたのとは違いました。やはり、シリーズ作品は順番に読むべきですね。もし、この作品を最初に読んでいたら、犯人を当てることができたと思うのですけど・・・。

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模倣犯 宮部みゆき 小学館
平成14年7月31日(水)

塚田真一はいつものように早朝の犬の散歩に出かけた。いつものルートの公園内で犬が吠える。嫌な予感がした。犬が嗅ぎつけたものを見てみると、それは人間の右腕だった。日本中を震撼させる連続殺人事件を世間が知る幕開けだ・・・。

いやー、面白かった。こういう作品もミステリの範疇に入るんでしょうか。読者には最初から犯人がわかっている・・・。ミステリ=推理小説と思っていたので、ちょっと毛色の変わったミステリ作品だなと感じたわけです。カテゴリー分類など別段どうでも良いのですけど、とにかく面白かった。
 読者には犯人がわかっているわけですから、犯行に至った動機や、犯人を割り出す経緯が、こういう作品では重要なのですね。登場人物の細かい設定、思考の経過など詳細に上手に描かれてます。
 自分の目の前にいるのが犯人であるということに気付かない。まるで、「8時だよ全員集合」のコントで、お化けが後ろにいるのに気付かず、歓声をあげてその人物に気付かせようとする観客である子供たちの心境と似たものを感じました。
 読書も半ばにきた頃、何故、この作品のタイトルが「模倣犯」なのだろうと疑問に思いました。全然、模倣犯じゃないよ、と。しかし、最後にわかります。模倣犯の意味が。見事な構成です。ボクには書くことはおろか、想像することさえできなかった展開です。

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本能寺の変 津本陽 講談社
平成14年6月5日(水)

日本の歴史の変換点と言われる「本能寺の変」をテーマに、惟任(明智)光秀の視点に立ち、信長に叛旗を翻すに至った動機を描いた作品。

光秀が本能寺の変を起こすに至った動機には諸説あるが、もっともオーソドックスな説を採用。天下統一を目前に控えた織田信長は、北陸に柴田勝家、関東に滝川一益、東海に徳川家康、中国に羽柴秀吉、四国に惟住(丹羽)長秀を各方面軍司令官に任命していた。このときの明智光秀の立場は微妙であった。織田家譜代の家臣、佐久間信盛父子、林通勝を追放した信長は、次に自分を追放するのではないかという不安。毛利勢と対陣している秀吉の加勢を命じられ、秀吉の組下にいれられるという不満。各方面軍はそれぞれ前面に敵を抱えており、信長の近くにある軍勢は自分の兵だけという信長の見せた隙。これらを勘案して本能寺の変を起こしたとしている。
 光秀の揺れる心情を上手く描いており、物語としてよく出来た作品。
 三日天下に終わった光秀失策の一つとして、信長の首を取れなかったことがある。本能寺とともに燃えてしまったとされているが、この作品では本能寺の地下に硝煙蔵があり、その爆発によって四散したとしている。初めて聞く説である。著者があとがきで述べているが、本能寺に硝煙蔵があったとする記録は残っていないが、京都の旧家では代々伝わる常識なのだと。この話を知れただけでも価値ある一冊といえる。

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マレー鉄道の謎 有栖川有栖 講談社ノベルス
平成14年5月28日(火)

マレー半島を旅行中、殺人事件に遭遇した火村と有栖川。出入り口を内側から粘着テープでふさがれている密室殺人。帰国まで残された僅かな時間で、事件の真相を明らかにできるのか・・・。

「十角館の殺人」で綾辻行人が衝撃のデビューを飾ったのと同時期にデビューした作家が数人いたはず。綾辻の作品は全て読んだが、他の作家の作品はニ、三冊で読むのを止めた。新本格派ブームに乗ってデビューしただけで、作品のレベルが低かったからだ。有栖川有栖の作品を読んだ事は無かった。今頃になって彼の作品を読む気になったのは単なる気まぐれ。人は合理的な思考を経て行動するとは限らない。不合理な、気まぐれこそ人間らしさだ。って同じ台詞を最近どこかで使ったような気が・・・(笑)。

閑話休題。密室トリックを見破ることができなかったのがくやしい。種明かしを読んで、それは可能だろうけど、ちょっとずるいんじゃない。読者にはそんなこと思いつかないよ、と文句を言いたくなった時、物語の冒頭のあるシーンを思い出す。なるほど、そうだったのか、あんなところにヒントがあったのだ。その瞬間、大したことは無い作品だったなという感想が180度反転する。肝心のトリックが筋の通ったもので、やられたと感心させられると、ボクの評価は高くなるようだ。1つ気に入らない点があったけどね。
 それは、ダイイングメッセージ。本格派らしくせっかくダイイングメッセージを取り入れたからには、もうちょっと強い動機付けが欲しかった。なんか中途半端な意味しか無いのが残念。
 最後、火村がシャリファに語る「君も、蛍だったのか」の意味が良くわからん。名台詞のような気がするのだが。どういう意味なのか気になってしょうがない。もう一回読み返すと判るのかな?

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朽ちる散る落ちる 森博嗣 講談社ノベルス
平成14年5月16日(木)

この作品はVシリーズの第九弾になるそうですが、ボクにとってはこのシリーズで初めて読む作品になります。
 まず、感じたのは主要な登場人物の名前の読み方が難しい。すぐ慣れますけどね。慣れるまでは前のページを何回も見返しました。傾向として、個性的なキャラに難しい名前を付けてるように思います。ありふれた名前だと、周囲にいる現実世界の人とイメージが重なってしまうことがあるので、ボクは良いと思いますけどね。
 主要な登場人物同士の、表面上は非常にドライな感じのする会話が、良い雰囲気です。前シリーズの犀川と萌絵の、一見すると突拍子もない会話のやり取りも好きでしたけど、本シリーズは登場人物が増えて、濃密度が高くなった分、グレードアップしてますね。
 事件、トリックに関しては、まあまあというところでしょうか。「すべてがFになる」で受けた衝撃を期待しているボクとしては、少しもの足りないですけど。でも、十分楽しめた作品です。このシリーズの全作品を読もうという気になりました。
 前の作品は読んでないので勘違いかもしれませんが、前の作品の事件の流れを汲んでいるようです。一応、この作品内で完結した話にはなっていますが、一点だけ腑に落ちない点があります。練無が他の人物と間違われていたのだと明かされるシーンがあります。練無とその人物がそっくりであることを知っていた人物が多いのですけど、そのような伏線はどこにもはって無かったのでは。見過ごしたのかもしれませんけど、前作にその伏線がはってあるのではと想像してます。

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