●医療
日本医師会、ゲノム医療で文科省に抗議
7月16日、国のミレニアム・プロジェクトの一環として進められている、ゲノム医療の研究での血液採取をめぐり、日本医師会が文科省に抗議文を提出した。研究は、文科省の特定領域研究・がん疫学領域の総括班による、広島県熊野町の住民を対象にしたがん関連遺伝子の解析を目的としたもの。町の有力者が研究への参加協力を募り、インフォームド・コンセントを得るという手順をとっていた。ある自治会では、90人のうち24人が不安を感じて参加を拒否したものの、自治会長の面目を潰すわけにはいかないと説得され、最終的に拒否したのは4人だった。この状況を知らせるEメールが日本医師会に届き、被験者のプライバシーや自由意思が尊重されていないと文科省に対し抗議したのである。その結果、最低でも1年間は研究を延期し、全面的に見直すことになった。
〔日経BP〈個の医療メールマガジン〉2003/7/21〕
●省庁動向
農水省、プリオン病実験指針案をまとまる
8月5日、動物の伝達性海綿状脳症実験指針検討会が開かれ、牛海綿状脳症(BSE)などの病原体となる異常プリオンを用いた動物実験の安全基準指針案がまとめられた。対象となるのは、マウスなどの小型動物を始め、猫、ウサギ、犬、さらには牛や馬、羊などの大型動物。指針案は、約3週間にわたって一般からの意見(パブリックコメント)を募り、9月下旬に開催される次回会合で確定する予定。指針が整備されることによって、農水省が2003年度から5年計画で着手するビッグプロジェクト「BSE等動物プリオン病の制圧のための技術開発」は本格的に動き出し、12月に完成予定の独立行政法人・農業技術研究機構のP3レベルの施設などで動物実験が行われることになる。
経産省、遺伝子情報取り扱い指針の検討開始
5月に成立した個人情報保護法を受け、ゲノム医療における遺伝子情報などの個人情報の取り扱いについて、経産省は法律を運用するための指針づくりを秋頃から開始する。同法では、大学などの学術研究を目的とする機関は適用除外となるが、企業が保有する個人情報は保護の対象となる。経産省としては、企業が扱うどのような情報が保護の対象になるかを含め、医薬品開発時のカルテ情報などの扱いまで幅広く検討するという。
〔日経バイオテク 2003/7/7〕
また日本医師会でも、「ヒトの遺伝子情報の取り扱いに関する委員会」を8月中に新設する。同委員会では、ゲノム医療の飛躍的な進展に伴って新たに生じる遺伝子差別など社会問題も視野に入れて検討し、最終的には日本医師会として見解を示す予定だという。
〔日経BP〈個の医療Webサイト〉2003/7/22〕
●海外事情
GM作物による食糧援助中止へ
7月31日、WFP(国連世界食糧計画)広報官は、今年のアフリカへの食糧援助は、穀物ではなく現金で行うことにしたい、と語った。これは、昨年ジンバブエなどいくつかの国が、GMトウモロコシが入っている可能性の高い米国産の穀物の援助を相次いで拒否するなど、混乱や論争が起きたことによる。今年アフリカ諸国では、不順な天候やエイズ、不況などにより630万人ほどが食糧不足に陥ると見込まれる。
〔ロイター 2003/7/31〕
GM実験農場に警告
7月25日、スコットランド環境・食糧・農村省(DEFRA)は、GM作物評価研究の一環でGMナタネを栽培した農家に対して、実験後に同じ畑に非GMナタネを栽培しないよう警告した。GMナタネの種子が大量に土中に残存して、非GMナタネに高い割合で混入する可能性があるため。
DEFRAは、EUの新しい表示規則に伴い、混入率の上限が0.9%と設定されたことと、7月25日に出されたGM作物の安全性は不確実だとする政府委員会報告の結果による警告だとしている。
〔BBCニュース 2003/7/25〕
フランス農民連盟が再び直接行動
GM作物の刈り取りを実力行使してきたフランス農民連盟は、7月19日に再び、刈り取りを強行した。今回は、ブラックスにあるバイエル・クロップサイエンス社実験圃場で、同社のGMトウモロコシを刈り取った。ジョゼ・ボヴェが投獄されても、運動は弱体化していないことを示す結果となった。この事態に、取材を受けた仏農業大臣は、花粉の飛散による影響の問題は未解決であることを認めた。
〔Le Monde 2003/7/24〕
●異種移植
ブタ臓器利用に否定的な報告が隠蔽される
英国厚生省の委託でブタの臓器利用など異種移植に関する法律・倫理面で検討を進めてきたグラスゴー大学グループは、16カ月をかけて700ページに及ぶ報告書をこのほどまとめたが、お蔵入りとなるかもしれない。すでに感染症に関する報告と臓器移植の実効性に関する報告は公表されており、それに次ぐ報告書になるはずだった。
報告は、ブタなどの動物に潜在的に存在する致死性ウイルスの感染で、訴訟が起き、莫大な補償金を支払わなければならない可能性がある点や、新種ウイルスが生まれると、患者は終身監視され、次の世代をつくることができなくなる、といった異種移植を否定する内容だ。6月19日執筆者らは、政府高官から「報告書は公表しない」旨の手紙を受け取ったという。
〔I-SIS 2003/7/29〕
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