スーパーロボッコ大戦
EP10





「それでは、全員乗りましたね?」
『は〜い』

 エルナーが全員の返事と、プリティーバルキリー号の席に座るメンバーのリストを照合していく。

「航路の設定及び航行プラン、認可下りたわ」
『航路設定リンク、こちらはいつでもOKです』

 操縦席に座ったポリリーナの言葉に、カルナダインのAIカルナが続ける。

「それじゃあしゅっぱ〜つ!」

 ユナの能天気な声と同時に、プリティーバルキリー号とカルナダイン、二隻の宇宙船はダンボーのドッグから出発していく。
 ミサキのクルーザーをそのままドッグに停泊させ、二隻で統一した一行は、一路銀河中央アカデミーへと向かっていた。

「到着まで、三日と言った所でしょうか?」
「星から星が三日か、すごい話だな」
「正確には、銀河中央アカデミーは超巨大複合スペースコロニーよ」
「すぺーすころにーって何ですか?」
「あのね、宇宙空間に浮いてる街って言えば分かるかな?」
「街が浮くのか?」
「後で映像資料を見せましょう」

 首を傾げるウイッチ達に、ポリリーナとエルナーはジェネレーションギャップを感じながら苦笑していた。

「途中何もなければいいのだが」
「そほまへきにひなくていいんじゃなひ?」

 バルクホルンが思案してる所に、口に何かをいっぱいほお張っているハルトマンが声をかけてくる。

「………何をしているハルトマン」
「ん? あっちあっち」

 ハルトマンが両手にスナック菓子を抱えながら指差した先では、ユナが中心となって持ち込んだお菓子を広げている最中だった。

「わ〜い、お菓子お菓子♪ 芳佳ちゃんも好きなの取っていいよ?」
「え〜と、じゃあこれを」
「あなた達、まだ出発して30分も立ってませんんわよ!」
「ちゃんとペリーヌさんの分もあるよ♪」
「そっちのはユーリィの分ですぅ〜」
「ちょっとそれアタシが取ろうとしてたのよ!」
「早いもの勝ち〜♪」
「ジュースまだあります?」
「お、この時代もコカコーラあるんだな」

 にぎやかにおやつに興じている面々に、バルクホルンの頬が引きつる。

「あいつら………」
「ノンキというべきか、大物というべきか。もっとも戦地に赴く訳ではないからな」
「しかし少佐!」
「ユナはしかってもこりないわ。それにやる時はちゃんとやるから、大丈夫」
「だそうだ。それがこちらの流儀なのかもしれん」
「むう………」
「はいトゥルーデと少佐の分」
「お、すまんな」
「まったく」

 ハルトマンが持ってきたお菓子に、美緒とバルクホルンが手を伸ばす。

「さて、我々は本当に元の場所に戻れるのだろうか………」
「確証は無いけど、可能性はあるわ」
「ならば、その可能性を我々で広げるまでだ」

 ミサキの言葉にそう言って豪快に笑う美緒を見ながら、ミサキは心中の言葉をあえて口には出さなかった。

(私の予想が正しければ、恐らく………)
「それにしても、ミーナ達は今頃どこで何をしているのだろうな………」



AD2084 太平洋中央部 特務艦攻龍上空

 浮かび上がった訓練用バルーンに素早く弾丸が撃ち込まれ、四散する。

「エイラさん! ルッキーニさん!」
「了解!」「りょ〜かい!」

 同じく浮かび上がる訓練用バルーンに二人の弾丸が突き刺さり、四散していく。

「サーニャさん!」
「了解」

 最後にサーニャが構えたスティンガーミサイルが発射されるが、何故か放たれたミサイルは明後日の方向へと飛んでいき、そして海面へと落ちる。

「誘導装置に異常が起きてるよ、マスター」
「不発弾はまずいかしら?」
「誘爆させるよ」

 ミーナの肩に乗っていたストラーフがシュラム・リボルビンググレネードランチャーをスティンガーミサイルの落ちたポイントに向けて発射、数秒後大きな水柱が上がる。

「訓練完了、帰投します」



「またかい。分かったか?」
「ええ、やっぱり撃つ直前に回路がショートしてます」
「こっちもFCS(※ファイアーコントロールシステム)にエラーや」
「やっぱ魔力とかいう奴のせいやろか?」

 攻龍の甲板上で、ウイッチ達に貸し出した銃火器の状態をモニターしていた整備班が首を傾げる。

「分かりました?」
「ああ、大体な」

 降りてきたミーナに、整備班長の大戸が今出たばかりのデータを見せる。

「あんたらが使うと、電子回路に妙な負荷が掛かりやがる。FCSくらいならあんたら無くても構わんのだろうが、誘導兵器の類は無理だろうな………」
「ボクのセンサーも同じ結果だね」
「なあなあ、もうちょっと口径大きくて弾数多いのないカ?」

 エイラが手にしたM4アサルトライフルのマガジンをイジェクトしながらボヤく。

「そないな事言われてもな………」
「それ以上言うたら、ソニックダイバー用の銃火器くらいしかないで?」
「あれはさすがにおっきすぎるよ〜」

 ルッキーニも不満を漏らすが、本来ならば数人で扱うはずの重機関銃を平然と持って飛んでいたウイッチ達の要望にはなかなか答えられない。

「これ、お返しします」
「すまねえな、ご要望に応えられなくて。あんたの装備は、合う弾すらねえし」

 サーニャから使用済みのスティンガーを渡されながらも、大戸も顔をしかめて思案する。

「しゃあねえ。遼平、その嬢ちゃん達連れて武器庫漁ってこい。他に使えるのあるかもしれねえ」
「FCS無しってなるとキツいっすね………」
「こんなのいらな〜い。邪魔なだけ!」
「ちょ、それ高いんやで!」

 銃からFCSを外そうとするルッキーニを慌てて嵐子が止める。

「変な所でギャップ問題が出てきたわね」

 甲板に姿を現した瑛花が、残弾の少ない自前の武装代わりの武器がなかなか見つからないウイッチ達を見回す。

「やっぱり100年以上の差は大きいか……」
「困りましたね」
「あんた達さ、魔女ってくらいなんだから、ホウキからビーム出したり、ロッドからス○ーライトブ○イカー出したりとかできない?」
「………何の話かしら?」
「ペリーヌだったら雷ドカーンって出せるし、坂本少佐だったられっぷうざんでズバ〜って出来るよ」
「私らそんな固有魔法持ってないゾ」
「うん」

 ソニックダイバー隊も頭を捻るが、解決策は出てこない。

「ちょうどいい、お前らも一緒に武器庫行ってみてくれ。使えそうなら、こちらでどうにか都合つけてやる」
「は〜い」

 少女達がそう言いながらその場を去っていくのを見届けもせず、大戸は置いていかれた銃火器を調べる。

「無駄弾はまったく撃ってねえ……あの歳でなんて連中だ」
「ホンマや。能力的にはこちらと十分タメ張れるんやろが………」
「その能力を発揮しきれんとは、難儀な事や」
「それをどうにかするのがオレ達の仕事だ。それ片付けがてら、お前らもなんか見繕うの手伝ってやれ」
『は〜い』

 双子の整備員がアサルトライフルと弾薬ケースを抱えながら武器庫に赴く中、一人残った大戸は腕組みしながら考える。

(何か、とんでもない事が起こりそうな予感がしやがる………急がねえと………)



『こちらフェインティア、周辺空域に異常無し』
『こちら亜乃亜、小型ワーム一体と遭遇、もう倒しました!』
『こちらエリュー、小型ワームを発見! ランクはD−クラス、殲滅します』
『こちらマドカ! 周辺空域に転移反応その他まったく無〜し』

 周囲の探査兼哨戒に出たメンバー達からの報告が続々と届く中、攻龍のブリッジには不穏な空気が漂っていた。

「妙だな………」
「ええ」

 副長の呟きに、冬后も頷く。

「ワームの攻撃が散発過ぎる。しかも出てきても小型ばかり………」
「今までに無いパターンです。あえて上げるなら、前大戦終結直後、似たようなパターンがあったらしいとの報告も……」

 ワーム研究の第一人者でもある周王も首を傾げる。
 全面的な攻撃に出るわけでもなく、思い出したかのように小型が出る現状に、ブリッジにいる誰もが言い知れぬ疑念と、そこに起因する不安を感じていた。

「トリガーハート、ライディングバイパー、四機とも帰還コースに入りました」
「帰還したら、なんでもいいから気付いた事があったら報告しろと言っといてくれ」
「了解、まあ聞く感じ前とまったく同じみたいですけど……」

 ここ数日、代わり映えのしない状況にタクミも苦笑しながら、その事を皆に告げる。

「ワームの連中、急にやる気なくしちまったのか?」
「馬鹿な。そんな事はありえん!」

 冬后の呟きに、副長が思わず声を荒げる。

「私もそれはありえないと思えます。しかし、納得の行く説明も………」
「いや」

 周王の困惑した言葉を、それまで沈黙していた艦長が遮る。

「一つだけ、思い当たる事がある。最近のワームは倒されるために出てきてるのではないかと思う」
「はあ?」
「まさか、威力偵察!?」
「ありえません! ワームの中枢はあくまで医療プログラムです! そんな戦術プログラムは想定すらされてません!」
「だが、そう考えればすべて納得できる。こちらに参加した者達の戦力を探るため、捨て駒を出してきてると考えれば、つじつまは合う」
「しかし!」
「私もそう思う」

 周王が艦長の意見に真っ向から反対する中、意外な所から賛同の声が上がる。

「アイーシャ………」

 ブリッジに姿を見せたアイーシャのきっぱりとした(元からでもあるが)口調に、周王も声のトーンを落とす。

「お前がそう言うなら、当たりかもな。けど、根拠は?」

 冬后の問いに、アイーシャはしばし考えてから話し出す。

「はっきりとは言えない。けど、確かに最近のワームはどこかおかしい。どこかで何かが外れてる。そんな気がする」
「え〜と、それってどこが?」
「分からない」
「う〜ん、そう言われても………」

 恐らく彼女にしか分からない根拠に、タクミと七恵はそろって困惑の笑みを浮かべ、上官達を見回す。
 冬后と副長はそろって黙って考え込み、周王も首を傾げるだけだったが、一人艦長だけはしばし考えてから視線を前へと向ける。

「艦内に第二種待機を発令、常時スクランブル態勢を発動可能状態に。戦闘要員をチーム分けして順次哨戒に当たらせるように」
「艦長、しかし」
「全兵装確認。異常発見次第、即第一種戦闘態勢に移行する」
「り、了解! 第二種待機発令!」
「藤枝、戦闘要員を全員ブリーフィングルームに集合させろ」
「はい!」
「総員に通達します、第二種待機態勢が発令されました。各自、持ち場状況の確認及び、発動準備を行ってください。繰り返します」

 にわかに騒がしくなったブリッジ内で、周王も持っているワームの行動パターンを全て見直そうと自室に向かおうとした時、ふとアイーシャがどこかを見ている事に気付いた。

「アイーシャ、どうかした?」
「……今、誰かに見られてた気が」
「え?」
「何の反応もありませんよ? 気のせいじゃ?」
「………」

 七恵が慌ててレーダーを見るが、着艦しようとする四機の反応以外、何も見当たらない。
 それを聞いたアイーシャが無言でブリッジを出ようとした時だった。
 アイーシャの体、正確にその体に完全に融合しているナノマシンが、何かの衝撃を感じた。
 あまりの衝撃の強さに、アイーシャは思わずバランスを崩し、その場に片膝を付く。

「アイーシャ!?」
「どうした!?」
「アイーシャさん!?」
「大丈夫。でも今のは………」

 今まで感じた事の無い、奇妙な感覚にアイーシャ自身困惑する。

(今のは、何? 衝撃、いや鼓動?)
「アイーシャ、無理をしちゃダメよ?」

 周王が心配そうな顔でこちらを見ているのに気付いたアイーシャが小さく頷いて立ち上がる。
 そして、鼓動を感じた方向をじっと見つめてみる。

「分からない……けど、何かが、生まれた………」

 呟いた言葉の意味を、アイーシャ自身も理解する事は出来なかった………



「そういう訳で、全員で順次哨戒飛行に出る事になった」
「はい! 威力偵察って何ですか?」
「まずそこからか………」

 冬后の説明に、元気良く質問した音羽に皆の視線が集まる。

「音羽、そんな事も知らないの?」
「実際に攻撃してみて、相手がどんな戦力を持っているか調べる事よ」
「へ〜」
『え?』

 瑛花が呆れ、ミーナが説明した所で他の多数の口から声が漏れた。

「ひょっとしてさっきのワーム………」
「ありえるわね」
「オイ、私もサーニャと哨戒に出た時、サーニャとそれぞれ倒したゾ!」
「はん、あの程度で何が分かるっての?」
「マイスター、少なくてもこちらの攻撃パターンは分かる」
「けど、威力偵察なら戦況報告が必要。他に反応は何も無かった」
「そ、そうだよね?」

 サーニャの一言で、慌てていた皆が他に反応が無かった事を思い出す。

「それなんだよな〜。ワームが偵察機出してたなんて話は聞いた事もねえし」
「情報を順次送信してたというのは?」
「それならそういう反応が出るはずよ。サーニャさんなら気付くはず」
「艦長の考えすぎじゃない?」
「いえ、Gのオペレッタも威力偵察の可能性を示唆してる」
「じゃあ、どうやってでしょう?」
『う〜ん………』

 可憐の一言に、全員が一斉に首をかしげてうなりを上げる。

「ま、取り合えず勘違いで済むならそれに越したコトは無い。つう事でチーム分けとシフト組むぞ〜」
「こちらは今この時代の装備を私達用に少し改良してもらってますから、残弾数から言って連続は無理ですね」
「私達はすぐにでも行けます」
「エリュー、あの今帰ってきたばっか……」
「ソニックダイバーで哨戒なんてやる事になるなんて………偵察と即戦闘、どちらの前提で?」
「私はサーニャと一緒で!」
「トリガーハートが偵察機の真似事なんてね……」

 それぞれが好き勝手な事を言う中、それぞれのリーダーが中心となってチームが決められていく。

「じゃあ、大体決まりだな。夜間シフトの連中は今の内に寝とけ。オレはシフト表を艦長に提出してくる」

 ようやく決まったチームとシフトを入力して持っていこうとした時、ふと冬后は先程ブリッジで起きた事を思い出す。

「お前らの中で、何かさっき妙な事感じた奴はいるか?」
「妙な事?」
「いや別ニ」
「何も反応はなかったけど」
「こっちも」
「………ならいい」

 アイーシャの呟いた言葉がどこか心の隅に引っかかりながら、冬后はブリッジへと向かった。


翌日

「ふ〜」
「よう、お帰りって異常なしみてえだな」
「敵影の欠片すら無かったわ。こちらがもうちょっと速度があればいいんだけど……」
「やっぱこの編成無茶あるんじゃない?」

 零神から降りた音羽に遼平が声をかけた所で、同じチームだったミーナが小さくため息を漏らし、ミーナの肩のストラーフがポツリと呟く。

「それ言うなら、ソニックダイバーだって機動時間短いっすからね〜」
「一長一短ね。戦闘スタイルは似ているけど、性能差が大きいわ。戦力と能力の均等配分を香料すると哨戒パターンは感知系を中心として、速度のある機体が周辺を電子および目視で確認という形で」
「お〜い、ウイッチの隊長さん。一応武器の改造が済んだから見てくれんか? 遼平、お前も来い!」
「今行きます。じゃあ桜野さん、ブリッジに報告お願いできる?」
「はい!」
「今行きます!」

 大戸に呼ばれ、ミーナ+ストラーフと遼平は武器庫へ、音羽はブリッジへと向かう。

「試作型次元レーダー出来たよ〜、ってあれ?」

 ミーナ達と同じチームで哨戒から帰ってくるなり、何かを作り始めたマドカが奇妙なマスコットみたいなレーダーを抱えてくるが、そこで格納庫が無人な事に気付く。
 左右を見回し、人影一つ無い事を知ったマドカは、視線を格納されたばかりの零神へと向けた。

「う〜ん、こうじゃないな〜」

 しばらく零神を見つめたマドカは、手にしてた試作レーダーを床へと置くと、その手に自前の工具を握り締めた。


「これなら、なんとかなりそうです」
「7mm以上の機銃なんてそんなに無かったからな最悪はファランクス用のガトリングガン外そうかと思ったくらいだ」
「いや、さすがにそれは無理っしょ………」
「あら、聞いた話だと、88mm担いで飛んだウイッチがいるらしいわよ?」
「どんな化け物なんだか………」
「いやあああぁぁぁ!!」

 改造が済んだばかりの銃器を担ぎながら格納庫へと向かう大戸、ミーナ、遼平の三人の耳に、音羽の悲鳴が聞こえてくる。

「何だ!?」
「桜野さん!」
「音羽!」

 三人が慌てて格納庫に飛び込むと、そこに零神のハンガーの前で崩れ落ちる音羽の姿が飛び込んでくる。

「どうした!」
「ゼロが、私のゼロが………」
「零神がどうし…」

 慌てて駆け寄った遼平が虚ろな声で呟く音羽に吊られてハンガーを見上げ、そこにある物を見て完全に石化する。

「どう? 可愛くなったでしょ?」
「こ、これあんたがやったのか?」

 つい先程まで遼平自身が整備していたはずのソニックダイバーの形は欠片も無く、代わりにまるで巨大なきぐるみのような物がハンガーに鎮座していた。

「これぞソニックダイバー・マドカカスタム! 前からあの鋭角なデザインが可愛くないって思ってたのよね〜」
「ああああ、ゼロがガ○ャピンに………」
「おいあんた! 軍の備品になんて事を!」
「大丈夫! エネルギー効率は20%アップ! 更に試作型次元レーダーも搭載! 更に兵装のMVソードはZOソードにして攻撃力もアップしたから!」
「つってもなぁ………」
「ゼロが、ゼロが………」
「あらあら、すごい事になっちゃってるわね」
「うわあ、すごい……」

 原型を留めない、という言葉しかない零神の状態に、ミーナもストラーフもさすがに二の句が告げないでいたが、次のマドカの言葉は更なる危険要素だった。

「あ、そっちのもカスタムしといたよ」
「そっち?」

 ミーナが何気なくあり合わせで作られたストライカーユニット用のハンガーの方に頭を向ける。
 そして、自分用のメッサーシャルフ Bf109K‐4が収納されているはずのハンガーに、奇妙な物がある事に気付く。
 それは、あえて言うならアニメの魔法少女でも履くようなやけに可愛いデザインのブーツで、かかとの部分にプロペラのような部品が付いている。
 どう間違えても、ストライカーユニットには見えなかった。

「そっちは苦労したよ〜。システムが独特でさ。RVのシステムに似てるのに気付いてからは…」

 マドカの説明の途中で、神速の動きでマドカの頭を向こうを向いたままのミーナが片手で鷲掴みにする。

「え?」

 そのままゆっくりとミーナの顔がマドカへと向けられる。
 そこには、貼り付けたような笑顔があった。ただし、目は1ミリも笑ってはいない。

「マドカさん、直しなさい」
「あの、せめて説明だけでも…」
「直しなさい」

 頭部に使い魔の耳が生え、まるで本物の狼にでも睨みつけられているような感覚にマドカがようやく自分の失敗を悟る。

「あの…」
「すぐに」
「は、はいい〜〜〜!」

 マドカが段々危険な域の握力に達しつつあったミーナの手から頭部を引き抜き、脱兎の勢いで工具片手にストライカーユニットだった物に向かって猛然と修復に取り掛かる。

「それが終わったら、桜野さんのソニックダイバーもね」
「分かりました〜!!」
「大丈夫、ちゃんと戻してくれるそうよ」

 そう言ってミーナは音羽に向かってにっこり微笑むが、そこには互いに青い顔で遼平と拳を握り締めあう音羽、ついでにいつの間にか音羽の頭の後ろに隠れているストラーフの姿があった。

「こ、怖ぇ………マジモンの魔女の迫力って奴か………」
「冬后さんよりも圧倒的に怖い………」
「あ、あれはボクにも無理………」
「あらあら、恥ずかしい所見られたかしら?」

 攻龍艦内に、ミーナ中佐には絶対逆らわない方がいい、という話が伝わるには、それほど時間は掛からなかった。
 なお、二機の修繕が終わったマドカが、その後にミーナに懲罰と称して個室に連れ込まれ、その夜、虚ろな顔で小刻みに震えながらもう二度と勝手に改造しません、だからそんな所に挟まないで下さい、とうなされていたのはまた別の話。


二日後

「定時夜間哨戒、異常ありませんでした」
「ご苦労さん」

 エリューからの報告を聞いた冬后が、手渡された哨戒データをチェックするが、そこにはなんの平凡もないデータしかなかった。

「この二日、全く動きが無い」
「ええ、まるでこっちが警戒し始めた事に気付いたみたいに」
「馬鹿な………」

 副長の呟きに、冬后も自分で言った事に確証が無い事を再認識する。

「オペレッタも次元異常は確認してません。しかし、確かに何かおかしいです」
「その何かが分からない。当分哨戒は続ける」
「艦長、ですが………」
「こちらでも攻龍周辺の重点探査を進言します」
「まったく、何かが起きるなら早目にしてほしいもんだ」
「それはそれで勘弁してほしいような……」

 タクミの呟きは、ほどなくして覆される事に、気付いている者は誰一人としていなかった。



「う〜ん…………」

 攻龍の食堂で、テーブルに広げられたタロットカードを見ながら唸るエイラの周囲に無数の人影がある事に、たまたま訪れた周王が気付いて歩み寄る。

「何をしてるの?」
「あ、周王さん」
「いや、動力室担当の千草の奴が趣味で持ってたタロット巻き上げて、占いやってみてんすけど」

 音羽と遼平が簡単に説明するが、エイラは出たカードを見て唸り続けている。

「星の正位置、つまり希望ダナ。他のウイッチ達は無事みたいダ」
「じゃあシャーリーも!」
「無事みたいダ」
「それはよかったですね!」
「破壊の塔の正位置、これは破壊とトラブルダナ」
「トラブルって、どう?」
「ごっついワームが出てきよるとか」
「それは勘弁してほしいで」
「戦車の正位置、闘いを意味してるナ」
「それならもうやってるよね?」
「イヤ、多分大きな闘いを意味してル」
「本当かそれは!?」
「皇帝の逆位置、……これが分からナイ」
「本来の意味は?」
「う〜ん、多分独裁を意味してるんだと思うんダガ………それ以上が分からないんダナ」
「つまり、まとめてどういう事なの?」
「………仲間は集まル。けど、大きなトラブルの果てに闘いが起きル?」
「いいんだか悪いんだか分からん占いやで」
「ホンマや」
「おいおめえら! なにサボってやがる!」
「やば!」
「すぐ行きます!」

 大戸に怒鳴られ、全員が蜘蛛の子を散らすように食堂から出て行く。

「まったく………」
「う〜ん………」
「まだ悩んでるの?」

 残ったエイラが未だにタロットを見ながら唸り、周王もそのカードを見ながら首を傾げてる事に気付いた大戸は、僅かに興味を持ってそちらへと歩み寄る。

「なんか妙な相でも出たのか?」
「そうなんだケド………」
「じゃあもう一回やってみりゃいい。占いなんて気にし過ぎる方が悪影響だ」
「そうか……」

 エイラが一度カードをまとめ、シャッフルを始めた所で突然艦内に警報が響き渡る。

「ち、来やがったか!」
「ワームか!?」
「まだ分からないわ!」
「いきなり来るナ〜!」

 エイラがカードを慌ててまとめて食堂を飛び出し、大戸と周王も持ち場に戻ろうとした時だった。
 エイラの手から一枚のカードがこぼれ、床へと落ちる。
 思わずそれを拾った周王がその事を告げる間も無く、エイラの姿は通路の影に消えていた。
 後で返そうと思って何気なくそのカードを見た周王は、そこに描かれているアルカナに顔を少ししかめる。
 描かれていたのは悪魔のアルカナ、意味は呪縛と暴力、そして、闇。



「小型ワーム、2時方向から多数接近! それに不明の反応も8時方向から多数!」
「不明とは!」
「ワームとは明らかに違いますが、パターン登録がありません! まったくの未知の存在です!」
「ソニックダイバー隊、出撃準備。未知の反応の解析急げ」
「はい!」

 ブリッジがにわかに慌しくなり、七恵からの報告に応じて矢継ぎ早に艦長の支持が飛ぶ。

『こちらエリュー! 未知の反応に心当たりがあります! 確認のため、先行出撃します!』
「許可する。確認しだい報告を」
『了解、エリュー・トロン、行きます!』
『空羽 亜乃亜、頑張ります!』
『マドカ、いってきま〜す!』

 三機のライディングバイパーが飛び立ち、空を駆けていく。

「ソニックダイバー隊、出撃。ワームを殲滅せよ」
「ソニックダイバー隊、出撃してください」
『雷神 一条、発進!』
『風神 園宮、出ます!』
『零神 桜野、ゼロ行くよ!』
『バッハ エリーゼ、テイクオフ!』

 続けて四機のソニックダイバーが出撃し、向かってくるワームへと機首を向ける。

『こちらミーナ、私とルッキーニ少尉をソニックダイバー隊、リトビャク中尉とユーティライネン中尉をライディングバイパー隊の援護に当たらせます』
「許可する」
『じゃあ私はその未知の反応とやらに行くわね。ヴァーミスかも知れないし』

 ウイッチ達が飛び上がった後、艦長の許可も待たずにフェインティアが飛び上がり、高速で反応のあった方向へと向かっていく。

「双方の詳細反応は?」
「どちらも数は多いですが、小型です。ワームはどれもDクラス、未知の反応も同クラスと思われます」
「それならクアドラロックをかけるまでもないな。だが、なぜ?」
「確かに、妙な布陣だ」

 艦長からの問いに七恵が報告するが、それに冬后と副長が同時に首を傾げる。

「第一種戦闘配置、囮の可能性もある」
「目標は本艦!?」
「有り得る。総員探索及び状況報告を密にせよ!」
「ライディングバイパー隊、未知の目標と接触します!」

 接触と同時に、未知の反応の数が減っていく。

『こちらエリュー、敵はバクテリアン! 私達の敵です!』
「Gの殲滅目標!? なぜここに!」
『これくらいなら、亜乃亜達だけで十分!』

 意外な敵に副長が思わず声を上げるが、亜乃亜の声が示す通り、レーダーに映るバクテリアンの反応は瞬く間にその数を減らしていく。

『こら〜、こっちの分も残セ!』
『あんた達が遅いのよ!』

 フェインティアとエイラ、サーニャも合流し、更にバクテリアンはその数を減らしていった。

『こちら一条、敵ワームに攻撃を開始します!』
『とりゃ〜!』
『え〜い!』

 瑛花の声と同時に、音羽の零神とエリーゼのバッハがワームへと突っ込んでいき、こちらも次々と数を減らしていく。

『うじゅ〜、ルッキーニの分!』
『わあ! ちょっと待ってください!』
『焦っちゃだめよ』

 遅れまじとルッキーニも飛び込み、可憐の悲鳴にミーナのたしなめが入る。

「……おかしい」

 次々と入る戦果報告に、艦長は不信感を覚え始めていた。



「おかしいわ………」

 手にしたFN MINIMIパラトルーパー、分隊支援用の7・62mm弾仕様機関銃を一度下ろし、自らの固有魔法を発動させて周囲を注意深く探っていく。

「ミーナ中佐」
「あなたも気付いた?」
「はい、ワームの動きがおかしいです」

 自分と同じ違和感を感じ取った可憐が、ミーナの隣で風神のレーダーを全て駆使し、情報収集に当たる。

「まるで、自ら倒されに来てるような……」
「私も……そう思えます」


「マイスター、敵の様子がおかしい」
「確かにね。こんな弱いんじゃ話にもならないわね」

 小型の飛行ユニットのような形や、ワーム同様海洋生物の形をしたバクテリアンが次々と落とされていく中、ムルメルティアの判断にフェインティアも頷く。

「ちょっと、あんたらこんなのに手焼いてたわけ?」
「それが、普段ならもっとすごいんですけど………」
「気をつけて! 指揮を取るボスがどこかにいるはず!」
「なるほど、コアね。ヴァーミスに似てるわ」

 エリューの指摘に皆が緊張するが、程なくして最後の一機が落とされる

「………あれ? 普段ならここらでドーンと大っきいのが来るんだけど?」
「妙ね………」
「反応無いよ?」
「ちょっと、話違うじゃない!」
「あっちも終わったみたいだゾ」

 手ごたえの無さにフェインティアが文句を言う中、ワームもあっさりと殲滅されていた。



『敵殲滅を確認。だが妙です。手ごたえがなさすぎます』
「オレもそう思う。しばらく待機、周辺探査を」
『了解』
「確かに妙だ……ワーム発生初期ならともかく、今なぜこんな無意味な攻撃を?」
「おびき出されたかもしれん」

 副長の呟きに、艦長がある可能性を述べる。

「まさか!?」
「周辺を精密探査、この前のようなステルス型もありえる」
「了解!」

 七恵がコンソールに向かって幾つもの検索操作を行っていく。
 そこへ、アイーシャがブリッジへと訪れる。

「お、ちょうどいい所に来たな。ちょっとアイーシャの方でも妙な反応が無いかたし…」
「来る」

 冬后の依頼より先に、アイーシャが虚空を見つめて呟いた。

「ワームか!」
「分からない……ワームであってワームでない物が来る」
「何ですかそれ?」

 思わずタクミが突っ込んだ時に、レーダーが何かの反応を捉える。

「大型反応! 正面方向、距離2000!」
「ワームか!? クラスは!」
「そ、それがワームと反応パターンが微妙に異なってます!」
「何だと!」



「来る、ネウロイ?」
「本当かサーニャ!」
「でもどこか違う………」
『全員攻龍上空に待機! デカいのが来るぞ!』
「了解!」

 冬后の指示で、皆が一斉に攻龍へと向かう。

「お先に!」
「先陣です!」

 他の機体を置いてけぼりにして、フェインティアが最速で攻龍の上空に戻ると、その場でガルトゥースを構え、肩に乗っていたムルメルティアも主砲を構える。

「負けないわよ〜!」
「さすがに早いわね」
「こっちも!」

 続けてライディングバイパーが到着、それぞれの機首を正面へと向ける。

「うわあ、Gモードでも負けたぁ!」
「すごい性能ですね」
「感心しない! 全機Aモードにチェンジ、戦闘態勢!」
「了解、今度はもっと早く飛んでやるぅ!」

 ソニックダイバーも攻龍上空に到達すると、Aモードで武装を展開していく。

「やっぱり最後ね」
「マスター遅い!」
「うじゅ〜、シャーリーだったら負けなかったかも」
「無茶言うナ、こっちはこれでも全速力だ」
「反応、更に近づいてきます」

 最後にウイッチ達も来ると、ミーナとサーニャが固有魔法で近づいて来る物を探査する。

「来たわ、かなり大きい………」
「ネウロイに似てる。けど違う」
「あの、アイーシャもワームであってワームでないとか言ってるんだけど」
「待って! バクテリアンの反応も出てる!」
「ホントだ! どうして?」

 サーニャの固有魔法、アイーシャのナノマシン感応、更にはライディングバイパーのレーダーがそれぞれ向かってくるのが別の敵に似た物だという結論を導き出す。

「見えたわ! 攻撃準備!」

 瑛花の言葉に、全員が一斉に銃口をそちらへと向ける。
 正面から近づいて来る影は、やがて大きくなっていき、その姿を露にしていく。

「ん? なんかどこかで見たようナ?」
「なんか私にもそう見えるような……」
「マスター、偵察してこようか?」
「待って、すぐに分かる……え?」
「ええ!?」
「ウソ………」
「あ、あれって!」
『攻龍!?』

 全員が近づいて来る物のシルエットがはっきりと分かるようになった時点で、同じ言葉が口から飛び出す。
 虚空をこちらへと向かってくるそれは、漆黒の異様なスタイルをしているが、そのシルエットは紛れも無く、攻龍その物だった………






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