スーパーロボッコ大戦
EP29


「エグゼリカ! フェインティア! 負傷者をプリティー・バルキリーへ!」
「けど姉さん!」
「クルエルティア! 貴女の損傷も軽くないわ! カルナダインへ戻るのよ! 後は私が!」
「マイスター、新たな反応!」

 とっさの急加速離脱と、アンカーによる救出作業を並列したトリガーハート達だったが、全員が少なからずダメージを負い、それでもなお生身の者達を守ろうと押し寄せる無数の敵へと対峙する。

「ムルメルティア、あんたも下がってていいわよ」
「マイスターがかばってくれたから、私は無傷だ。まだまだ戦える」
「あっそ。さあて、それじゃあ…」
「待てマイスター、妙な反応が……これはひょっとして…」



「くたばれ!」「ちええい!」

 負傷者を守るため、二体の武装神姫が縦横に飛び、奮戦していた。

「ストラーフ! 無茶してはダメよ!」
「飛鳥! そろそろ下がれ!」
「まだまだ行けるよマスター!」
「……大丈夫です、お姉様」

 マスターであるミーナとシャーリーが声をかけるが、武装神姫達は頑として奮戦を続けている。

「ルッキーニ、大丈夫か! おい!」
「うじゅう〜〜〜………」

 固有魔法の多重シールドで爆発の直撃はしなかった物の、吹き飛ばされた衝撃で完全に目を回しているルッキーニをシャーリーが片手で抱えながら、トリガーを引き続ける。

「動かしてはダメです! 早くこちらへ!」
「負傷者が多過ぎる! 防衛戦が維持できない!」
「エルナー、聞こえてる!? こうなったらエルラインを…」

 後方で負傷者の治療にあたっていた白香がシャーリーに呼びかけ、負傷者の多さにミサキが声を荒らげる。
 ユナが最後の切り札を使おうかと思った時、大型爆撃機程はあるネウロイが間近まで迫ってきた。

「皆、退避を…」
「あ」

 ミーナが撤退命令を出そうとした時、サーニャが小さく声を上げる。
 すると、突然爆撃機型ネウロイの動きが止まったかと思うと、爆散した。

「攻撃!? 誰が!」
「誰がとは挨拶だな、バルクホルン大尉」

 砕け散っていくネウロイの影から、一つの人影が現れる。
 それは、ピンクがかった金髪をし、使い魔らしい猛禽の翼を生やして自信にあふれた顔をした一人のウィッチだった。

「マルセイユ!」
「マルセイユ大尉!?」

 そのウィッチを知っていたハルトマンとミーナが思わず声を上げる。

「え〜と、誰?」
「通称《アフリカの星》、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ中尉。ハルトマン中尉に並ぶウィッチ4トップの一人よ」
「どうしてそんな人がここに?」

 ユナの率直な問にミーナが説明するが、別の疑問をポリリーナが口にする。

「無論、増援に来たに決まっているだろう」
「増援って………」
「それに私だけではないぞ」
「目標、前方の中型、撃って真美!」
「はい!」

 マルセイユの背後、巫女装束にも似た扶桑陸軍ウィッチの軍曹に身を包んで首からカメラを下げたウィッチの指示に、かたわらで巨大な砲を掲げた同じ扶桑陸軍ウィッチ軍曹に身を包んだ、おかっぱ頭の小柄なウィッチがその巨砲をぶっ放す。

「皆さん無事ですか! 到着が遅れました!」
「いや、いい所だったようだぞライーサ」

 マルセイユの隣、同じく鳥類の翼を生やしたウィッチが並ぶ。

「こちら第31統合戦闘飛行隊《ストームウィッチーズ》! 現時刻より戦闘に参加します!」

 カメラを下げたウィッチ、ストームウィッチーズ隊長の加東 圭子少佐の宣言に、ウィッチのみならず皆の顔が僅かにほころぶ。

「グラーフ・ツェッペリンが陸戦ウィッチを載せて今こっちに向かってるわ! 他にも機動艦隊も急行してる!」
「今の内に態勢を整えて! 治療と補給を再優先!」
「マスター! 前!」

 更なる増援の報を圭子が叫び、ミーナがストームウィッチーズが防いでる間に皆を下がらせようとするが、そこに大型のネウロイが接近してくる。

「行けない!」

 ミーナは銃口を向けてトリガーを引くが、手にした銃からは空の薬室を叩くハンマーの音が響くだけだった。

「しまった、弾切れ…」
「今助けます! ディアフェ…」

 ミーナの残弾が無いのを見たエグゼリカがアンカーを打ち出そうとするが、その横を突然何かが通り過ぎる。
 それがスイングされた小型ネウロイだとエグゼリカが認識した時、ネウロイ同士が激突して壮絶な轟音を立てる。

「え? 姉さんでもフェインティアでもない?」
「全員攻撃!」

 明らかにアンカーによるスイング攻撃だと思ったエグゼリカだったが、側を通り過ぎていった短刀を手にしたウィッチの姿に首を傾げる。

「あら、貴女ずいぶんと変わった装備してるわね」
「いえ、その…」

 肩口で髪を切りそろえた、扶桑陸軍の軍服に身を包んだウィッチがエグゼリカを見てにこやかに微笑みかける。

「角丸隊長! あいつ固いです! もう一発お願いします!」
「しかたないわね」
「ディアフェンド!」

 そのウィッチがワイヤーの付いた短刀を小型ネウロイに投じ、同時にエグゼリカもアンカーを別の小型ネウロイに突き刺す。

「せいあああぁぁ!」
「ディアフェンド、スイング!」

 2つの小型ネウロイが振り回され、同時に大型ネウロイに直撃、完全に大型ネウロイを粉砕する。

「やるわね、あなた」
「ウィッチにもアンカー使いがいるとは思いませんでした………」
「これは私の固有魔法《金剛力》よ。自己紹介がまだね、扶桑皇国陸軍飛行第50戦隊所属、角丸 美佐中尉よ」
「超惑星規模防衛組織チルダ所属、TH60 EXELICAです」
「変わった部隊ね。ここは私達が防ぐから、一度着替えてきた方がいいわ」
「え〜と、姉さん!」
『一度カルナダインに撤退、緊急メンテナンスを行うわ。その様子なら少しなら任せても大丈夫だと思うし』
「じゃあお願いします!」
「さて、それじゃあもう一踏ん張りね」

 カルナダインに一時撤退していくトリガーハートを見送りながら、美佐は片手に機関銃、もう片手に短刀を構える。

「皆、準備はいい?」
『イェーガー中尉〜〜! 心配してたんですよ〜!!』
『クロステルマン少尉、お怪我を!? 誰か回復! 治癒魔法出来る方いませんか!?』
『………済まない、今引き剥がす』

 通信から聞こえてきた元部下の情けない声に、美佐が思わず苦笑。

『フラン、アメリー、ラウラ、心配してたのは分かるけど、旧交を温めるのは後でね』
「角丸中尉! 先陣はこちらで受け持つわ! 防衛戦構築をお願い!」
「了解、加東少佐。他の部隊は?」
『あら、遅れたかしら? こちらは向こうの方に回るわね』

 ウィッチ達が新たな防衛戦を構築する中、通信機からまた別の声が響いた。
 それと同時に、新たなウィッチの一群が、攻龍の方へと向かっていった。



「何か来た!」
「ウィッチ?」

 音羽が半ばからへし折れた二本目を投げ捨て、三本目のMVソードを抜いた所で、ふと上空を指差す。
 そちらを見た瑛花が、その独特のシルエットからウィッチだと判断するが、それがどんどん近づいて来る。

「ルチアナ! マルチナ! 行くわよ!」
「分かった」「何あの大っきいストライカー!?」

 上空から、黒い軍服に赤いズボンを履いた三人のウィッチが一気に迫り、小型ワームを次々と撃墜していく。

「なんか、派手ですね………」
「もうこの際なんでもいい!」
「あらあら、何でもとは失礼じゃないかしら?」

 可憐とエリーゼも思わずぽかんとする中、ソニックダイバーのそばに美緒と同じ扶桑海軍士官服を来た、穏やかな口調のウィッチが舞い降りる。

「こちら第504統合戦闘航空団《アルダーウィッチーズ》、今から貴方方の増援よ」
「増援感謝する。私がソニックダイバー隊リーダーの一条 瑛花上級曹長だ」
「私は戦闘隊長の竹井 醇子、階級は大尉よ。まあそれは後にして」
「こちらドミニカ、勝手に始めてる。行くぞジェーン」
「はい大将!」

 お互いの自己紹介の暇も無く、向こうではアルダーウィッチーズの隊員達がエリカ7の援護に入っていた。

「いい所で乱入とは無粋な人達です事……」
「エリカ様! 手当と回復を!」
「こちらへ!」「援護するから!」

 同じ扶桑陸軍の軍服を来た長い長髪で狐の耳と尻尾を生やしたウィッチと、短い髪で虎の耳と尻尾を生やした日焼けしたウィッチがエリカとエリカ7の一時撤退を援護。
 エリカも文句を言いながら、それに従っていく。

「待って! 他の所にも援護に…」
「大丈夫よ、他の部隊もそろそろ着いたようだし」

 音羽が亜乃亜達の方を見ながら声を上げた時、淳子の言葉通り、また新たなウィッチ達が到着する所だった。



「うわあ、いっぱい来た!」
「なんじゃ失礼な奴だな、増援に来てやったというのに」

 突如として現れたウィッチ達に、亜乃亜が思わず素っ頓狂な声を上げたのを、先頭にいた黒い軍服にティアラを思わせる魔導針を発動させているウィッチが少し変わった口調でたしなめる。

「こちら第506統合戦闘航空団《ノーブルウィッチーズ》、これよりそなたらに助太刀しよう。このハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタインが来たからには安心せい!」
「は、ハイン………なんでしたっけ?」
「ハインリーケさんでいいでしょう。私がここのリーダーのジオール・トゥイーよ」
「よろしく頼むぞ。行くぞ者共!」

 ハインリーケを先頭に、ノーブルウィッチーズがバクテリアンへと襲いかかる。

「………変なの来た」
「ティタ、それ言っちゃダメ」
「すいません、ウチの戦闘隊長、お姫様育ちでちょっとずれてるんです」

 思わず呟いたティタを慌ててエリューが遮るが、最後尾にいた扶桑陸軍巫女風軍服に何故か紫の袴を履いたウィッチが頭を下げる。

『皆おまたせ! 回線リンク確認! 向こうから人手はすぐには無理だけど、援護物資をどんどん送るって! 私もすぐに出る!』
『他にも多数のウィッチらしき反応がこちらに向かってきている敵群と交戦に入ってるようです!』
『増援の艦隊ももう直到着する! 巻き返せるぞ!』
「よお〜し、一気に反撃するわよ!」

 ウィッチ達に負けじと、RVを駆る天使達も一斉に攻勢へと転じていった。



「すごい………これが全部ウィッチ………」
「とりあえずは、一安心と言った所かしら」

 攻龍の一室、臨時に設けられたある実験室で、宮藤博士や機械人達の協力の元に作られた装置の中央にいたアイーシャと、その観測結果を計測していた周王が胸を撫で下ろす。

「それで、やっぱり感じるかしら?」
「間違いない、こちらをずっと見てる。遠い、けど近い所から」
「遠いけど近い………」

 周王がアイーシャの脳波や他の船から送られてくる観測データを洗い直すが、アイーシャと他数名しか感知できていない〈何か〉の存在を立証出来ないでいた。

「私達をここに引きずりこむ程の力を持った存在………そんな奴相手に、どう戦えば………」
「大丈夫」

 不安げに呟いた周王に、アイーシャが相変わらず抑揚のない、ただしっかりとした声で断言する。

「音羽達も、他の人達も、そして来てくれたウィッチ達も皆力を合わせてくれる。きっと大丈夫」
「………そうね。悪いけど、そろそろブリッジに行くわ。七恵一人じゃ手が回らなそうだし。何かあったら教えて」
「分かった」

 アイーシャをその場に残し、周王は急いでブリッジへと向かう。
 その足音が遠ざかった所で、アイーシャは観測装置から身を外すと、周王が向かったのとは反対方向へと向かっていった。



「魔力が切れた者は上空の青い飛行艇へ! 弾丸と予備の銃は下の小型艦にも積んである! 攻撃を惜しむな!」
「マスター、上!」

 大和へのオペレートを処理容量の空いたブレータの遠隔操作に任せ、美緒とアーンヴァルも戦列へと加わりながら、周囲のウィッチ達へと向かって叫んでいた。

「無事だったみたいね、美緒」
「来てくれて助かった、淳子」

 かつての戦友と背中合わせの形になった所で、互いに小さく言葉を交わす。

「だが、どうしてここへ?」
「ああ、この子のお陰よ」

 そういう淳子の肩、犬の耳を思わせるようなヘッドパーツを付け、両手に十手を持った小柄な影に美緒の目が驚きで見開かれる。

「それは、武装神姫か!」
「そうよ、501が行方不明になった直後に、あちこちのウィッチの所に現れてね」
「来るぞご主人様!」
「そうねハウリン。詳しくは後で!」
「こちらも来ましたマスター!」「聞いてる暇があればだがな!」

 淳子の肩にいた犬型MMSハウリンが敵の接近に戦意をむき出しにし、二人のウイッチはそれぞれの武装神姫を従え、銃口を敵へと向けて突撃していった。



「各部隊の識別登録、完了した。我々も参るぞ陛下!」
「サポートよろしくね、サイフォス」

 全身甲冑の騎士その物の格好をした騎士型MMSサイフォスが両手剣コルヌを抜き放ち、圭子も愛用のカメラと銃をそれぞれ手に持ち、周辺を見回していく。

「こちらも行きましょうぞ、師匠!」
「無茶し過ぎたらダメよ、紅緒」

 美佐の隣で真紅の日本甲冑の武将のような姿をした侍型MMS紅緒が長槍破邪顕正を構え、美佐と共に押し寄せるネウロイに対峙する。

「マルセイユ! 負傷者に敵を近付けないで! 真美は装備を交換! 中距離戦闘を心がけて!」
「了解、ケイ!」「分かりました!」
「ラウラ、アメリー、私と防衛線を維持! フランは漏れ出た奴を各個撃破!」
「了解」「はい!」「言ってる内に来た!」
「でやあああ!」
「せやっ!」
 圭子と美佐の指示が飛ぶ中、近づいてきたネウロイやヴァーミスをサイフォスと紅緒が次々と叩き斬っていく。

「陛下には近付けさせぬぞ!」
「師匠、ここは私が死守致します!」
「なんか、剣鳳さんみたい」
「これ、いらないなら借りるですぅ!」

 ユナが思わず呟く中、下ではユーリィが真美が投げ捨てた88mm砲を持ち上げたかと思うと、そのまま旋回させてぶん投げる。

「行くですぅ〜!」
「うわ!」「おっと」

 唸りを上げて飛んでいった88m砲がその軌道上にいた敵を巻き込み、しまいには中型ネウロイに激突して轟音を立ててネウロイ諸共粉砕する。

「真美以上の怪力………」
「すごいウィッチだな」
「陛下、あれは私と同じ機械仕掛だ」

 圭子とマルセイユもユーリィの予想外の攻撃に唖然とするが、サイフォスの助言に顔を見合わせる。

「それだけではありませぬ、隣の小柄な兵や先程上空の旗艦に補給に戻った三人に、向こうの白い看護兵もそうです」
「敵だけじゃなく、味方もそういうのが出てきてるのね………」
「どういう意味?」

 美佐のつぶやきに、補給を済ませて戦列復帰したミーナが思わず問い返す。

「ああ、貴方達が失踪した直後から、あちこちにネウロイとも違う妙な敵が現れ始めたの。そしたら次にこの子達みたいな武装神姫があちこちのウィッチ達の所に現れて、その敵との戦い方を教えてくれてね。
更にここで大規模な戦闘が起きるって言い始めて、世界中のウィッチ達に総動員がかかったって話」
「こっちなんか、501探索のためとかいっていきなり再結成したと思ったら、紅緒が現れて気づいたらこんな事になってるし」
「へえ〜、そんなに来てるんだ」
「世界中!? そんなの司令部が認可する訳が………」
「上でも何かあったみたいよ。詳しくは後で!」

 ストラーフとミーナが圭子と美佐の話に別個の感想を漏らすが、そこで飛来したネウロイのビーム攻撃に、ウィッチと武装神姫は散って反撃に移る。

「この作戦、提案したのは扶桑からって話! 何か知ってる!?」
「上層部に、この事知らせたのは武装神姫以外にもいるって噂! 嘘かホントかは知らないけど!」
「来るぞ陛下!」「来ます師匠!」「行くよマスター!」

 お互い聞きたい事は山ほどありながらも、まずは目前の敵に対処するために、二人のマスターは武装神姫と共に敵へと向かっていった。



『トリガーハートの方々、聞こえてますか!』
「聞こえてるわ、どうしたのエルナー」

 ウィッチ達の増援で盛り返した戦況の中、エルナーからの通信にカルナダインで応急メンテナンスを受けていたクルエルティアが答える。

『こちらに向かっているウィッチ達ですが、敵の増援と交戦状態になってる模様です! 中型までなら対処可能でしょうが、幾つか大型らしい反応があります! ここはウィッチの方達と私達で応戦しますので、増援に向かって下さい!』
「了解、確かにこれなら任せられそうね」
『トリガーハート及び各随伴艦、緊急メンテナンス完了です! けれどクルエルティアは32%、フェインティアは21%、エグゼリカは19%戦闘力ダウンしています。無理はしないでください』

 カルナからの通信と同時に、各メンテナンスポッドからトリガーハート達が起き上がる。

「カルナ、座標を転送。速度の問題から一番遠い所からフェインティア、私、エグゼリカの順で急行するわ」
「分かったわ姉さん」「仕方ないわね〜」

 随伴艦をリンクさせながら、三人は座標を確認、それぞれにカタパルトを向ける。

「マイスター、各ポイントからも武装神姫の反応がある。そうそう苦戦はしてないだろう」
「だといいけどね。TH44 FAINTEAR、発進するわ!」
「TH32 CRUELTEAR、発進!」
「TH60 EXELICA、発進します!」

 カルナダインから3つの閃光が、こちらに向かってきているウィッチに向かって、飛び立っていった。



「なんじゃアレは!?」
「トリガーハートの人達だね、増援に向かうって言ってたよ」
「もう妾の感知範囲から抜け出すぞ、なんという速度じゃ………」
「速度じゃあの人達が一番だし………」
「亜乃亜、右後方から来てる!」
「む、黒田中尉! 7時後方、水面下じゃ!」

 あっという間に見えなくなったトリガーハートをハインリーケと亜乃亜が見送る中、水中から飛び出そうとしたバクテリアンを即座に撃破していく。

「次は9時方向! ジーナ少佐!」
「分かった!」

 ハインリーケの指摘したポイントに、別のウィッチが銃弾を叩き込み、浮上してきたバクテリアンを撃破する。

「あれ、確かあのアンテナ、水中は分かりにくいってサーニャちゃん言ってたような?」
「そうじゃ、だがサポートしてくれる者がいるのでな」
「サポート?」
「次はどこじゃ、イーアネイラ!」
「はあい、お嬢さん」

 ハインリーケの呼びかけに答えるように、水中から下半身が文字通り人魚のようなパーツを装備した武装神姫、マーメイド型MMSイーアネイラが跳ね上がり、水中探査の結果をハインリーケの魔導針へと送る。

「うわ、あんな子もいるんだ………なんで私達の所に武装神姫来ないんだろ?」
「この際、そんな事はどうでもいいわ!」
「どっかに来てるとか」

 亜乃亜が思わず呟いた所に、エリューとティタのそれぞれの反応が返ってくる。

「こちらでは陸戦ウィッチまで動員しての総力戦じゃ! 空母に陸戦ウィッチ載せて砲台にするなぞ、誰が思いついたのじゃろ?」
「あ、道理でこっちに向かってる空母にもウィッチの反応があると思った」
「精鋭のアフリカ前線部隊が来るみたいです。私一度見てみたいと思ってたんですよ〜」

 ハインリーケのボヤきにも似た絶叫に、マドカと紫の袴を履いたウィッチ、黒田 邦佳が追加で答えた。

「邦佳! 新手が来た!」
「来るなら来やがれ???が!」
「………なんか、あっちの人達は人達で変わってるような」
「B部隊の人達はリベリオンからの義勇兵が多いので、その………」
「口が悪いのは勘弁してください………」

 邦佳だけでなく、青いリベリオン海兵隊の軍服を身を包んだウィッチも罰が悪そうに頬をかくが、次の瞬間には同時に振り返ってトリガーを引いていた。

「増援が増えるのはありがたい事だわ。礼儀作法に少し問題がある人もいるようだけど」
「少し………かなあ?」
「この際、どうでもいいわ。少しでも戦えるならね!」

 ジオールがノーブルウィッチーズを見ながら、こちらも水中から迫るバクテリアンに攻撃を叩き込んでいく。
 亜乃亜は少し首をかしげるが、途切れそうにない敵影にエリューが叫びながら別の敵群へと狙いを定めた。

「ここだけじゃなく、他の所でも乱戦状態になってるわ。全員は来れないかも」
「それはこっちでも確認してる。一体貴方達何体来てるの? 武装神姫専用っぽいデータ通信がひっきりなしなんだけど?」

 イーアネイラが海面から顔を出して告げるのを、マドカが別の疑問を口にする。

「さあ? それとGにはすでに武装神姫が一人、派遣されてるそうよ」
「え?」



 戦場より300km後方 扶桑海軍大和型弐番艦・武蔵 艦内会議室

「502統合戦闘航空団、敵群一団と接敵、交戦開始しました!」
「グラーフ・ツェッペリン交戦中! やはり敵はウィッチが搭乗してない艦には攻撃してきません!」
「507統合戦闘航空団、なおも交戦中!」
「ええい! 今一体戦況はどうなっておるのだ!」

 会議室内に設置された無数の通信機から次々と入る戦況報告に、室内に居並ぶ将官の一人が叫ぶ。
 会議用のテーブルには、各国の将官がずらりと並び、ほぼ全員が苦虫を噛み潰したような顔で戦況報告を聞いていた。

「現状では一部優勢、もしくは拮抗状態と推測されま…」
「拮抗だと! 動かせる限りのウィッチを総動員させたのだぞ!」
「これだけの状況、なぜ誰も予測できなかった!」
「動かせる部隊はすべて投入しろ! この際戦費も何も関係はない!」

 説明を求められ、参謀の一人が解析結果を報告するが、それをかき消すような怒号がどの国の将官からも飛んだ。

「ウィッチにしか興味が無いだと!? 我々を馬鹿にしているのか!」
「抽出機動艦隊はまだ到着せんのか!」
「ロスアラモスの新兵器の件はどうなっとる!」

 報告と怒号、命令が飛び交い、会議室もまたある種の戦場になっていた。
 そんな中、将官達が並ぶ席の最前列に座っていた扶桑皇国大将の階級章を付けた提督が、静かに報告をまとめて閲覧していた。

「敵群も戦果も予想を遥かに上回っている。彼女達はがんばっているよ」
「そいつぁよかった」

 提督の背後、特別に用意された席に、室内で唯一軍服を着ていない精悍な顔つきをした若い男が、手にした身の丈近くはあろうかという巨大なキセルから紫煙を燻らせる。

「君が教えてくれなければ、ここまで態勢を整えられなかった。重ね重ね礼を言おう」
「それは、戦場で頑張ってる嬢ちゃん達に言うこったな」

 不遜とも言える態度で、謎の男は笑みを浮かべる。
 よく見れば、その左頬には赤いタトゥで漢数字の五と刻まれていた。

「もっとも、その中にはオレの仲間も混じってっからな。こんな所で油売ってるなんてバレたら、後でどやされそうだ」
「じゃあなんで行かないんですか?」

 男の肩、そこに白い軽装甲に身を包んだ一体の武装神姫が間近で男を見つめる。

「行きたくても、オレのRVは壊れたまんまだからな。行きたくても行けやしねえ」
「この時代では修理出来ない模様です。つまる所、現状ではオーナーは役立たずです」
「相変わらず、小さい割には言う事キツイよな、ウェルクストラ」

 天使コマンド型MMSウェルクストラの理路整然とした辛辣な言葉に、男は僅かに顔をしかめる。

「そうでもない。我々では理解しきれない事があまりに多過ぎる。君の、いや君達の助言がどうしても必要なのだ、エモン君」
「オレもそんくれぇしか出来る事はねえしな………情けねえ事この上ねえ………」
「その状態の君をここから出させるわけにもいかんよ」

 口から盛大に紫煙を吐き出す男、Gからこの世界に送り込まれたGの中でも珍しい男の天使、エモン・5が提督の懇願とも取れる言葉に、頭をかきむしる。

「正直、頭を使うのは苦手なんだがよ」
「オーナー、センサーに反応有り。どうやら苦戦している部隊にあちらから救援を向かわせた模様です。最高速度はマッハ2・5、すぐに合流すると思われます」
「そいつぁトリガーハートって連中だろうな。ウィッチ達が見たら腰抜かさなきゃいいんだが」
「こちらから見れば、どれも驚愕する者達ばかりだ。問題は、これだけの戦力を持って対抗せねばならない敵とは、一体………」
「さあて、ね………」

 エモンは再度紫煙を吸い込みながら、目つきを鋭くする。

「オーナー………」
「ウェルクストラ、あいつの事はまだ言うな。あの化け物の事はよ………」

 エモンの目は鋭いまま、心中にしまったままの〈何か〉に向けられていた………



武蔵から250km先 空母グラーフ・ツェッペリン艦上

「FIRE!」

 号令と同時に、無数の砲火が上空から押し寄せるネウロイ・ヴァーミスその他も混ざった敵影へとばら撒かれる。

「敵は小型だけ! 十分私達だけで対処出来るわ!」

 艦上に陣取る空戦用とは違う、キャタピラ状のパーツで構成された陸戦用ストライカーユニットを装備した陸戦ウィッチ達の先頭、ブリタニア陸軍 第4戦車旅団C中隊 隊長、セシリア・グリーンダ・マイルズ少佐が激を飛ばしながら、自らも手にした52口径砲を速射する。

「やっぱ航空隊を先行させたのマズったんじゃ?」
「今更言っても遅いですよ!」
「ここを突破して、早く合流しましょう!」

 ブリタニアを中心に、リベリオン、扶桑、カールスランドの四カ国の陸戦ウィッチからなる混成部隊が、空母上で口々にボヤきつつ、襲い来る敵へと砲火を浴びせ続けていた。

「10時方向! 新たな敵影!」
「パットンガールズ! そっちお願い!」
「イエス、サー!」

 黒地の戦闘服で統一されたリベリオン陸軍所属陸戦ウィッチ隊、通称《パットンガールズ》が即座に甲板左舷へと回り、雨霰と大口径砲を連射する。

「後ろからも来てるぞ」
「フレデリカ少佐!」
「マティルダ! シャーロット! ルコ! 後部に回るわよ!」

 スリングに槍という前時代的な装備をした黒人ウィッチの指摘に、マティルダは慌てて後部にも部隊を分ける。
 甲板上に唯一空戦用ストライカーを装備した、顔に傷跡のあるやや年かさのウィッチに率いられ、アフリカから義勇兵参加した黒人ウィッチ、カールスランドの試作重戦車ユニット6号「ティーガー」を駆る小柄な少女、そして三八式歩兵銃を手にした扶桑の陸戦ウィッチというアンバランスな四人が急遽後部甲板に回り、7.92mm弾、投石、88mm砲弾、三八式実包のこれもまたバラバラな弾幕で接近してきた敵を撃破していく。

「や、やっぱりマルセイユさん達に戻ってきてもらった方が!」
「向こうも今交戦中だって! こっちよりひどい事になってるみたい!」
「ここは我々だけで戦うのみだ」
「新たに目標接近、総員構えて!」

 扶桑の陸戦ウィッチのルコこと北野 古子軍曹が押し寄せる敵に涙目で叫ぶが、ティーガーを駆るシャーロット・リューダ軍曹が通信から聞こえてきた戦況を返し、マティルダは顔色一つ変えず、投石代わりのスクラップを振り回していた。
 そこへ傷跡のあるウィッチ、ティーガーとシャーロットの顧問をしているフレデリカ・ポルシェ少佐の号令に全員が新たな敵群に狙いを定める。

『マイルズ少佐! レーダーに感あり! 大型だ!』
「何ですって!?」

 ブリッジからの通信に、マイルズは思わず叫ぶ。
 程なくして、上空から駆逐艦ほどはあろうかという大型ネウロイが接近してきた。

「行けない! 総員、敵群撃破後に大型へ集中砲火!」
「Oh、もうちょっと待って!」
「こ、こっちも少しタンマ!」
「目標殲滅率、60って所よ! まだ離れられない!」
「く、マイルズ隊、上空大型ネウロイに照準!」

 小型を殲滅するよりも大型の射程内に入るのが先と判断したマイルズがなんとか先手を取ろうとするが、さすがに上空高くにいる大型までは届くかどうかギリギリだった。

「隊長! 私が行きます!」
「ダメよフォートブラッグ! 幾ら貴方でも一人じゃ太刀打ち出来ないわ!」

 マイルズの傍ら、積み上げられた弾薬ケースの上で陸戦ウィッチをそのまま小型にしたような武装神姫、砲台型MMSフォートブラッグが突貫しようとするのを、マイルズが制止。
 グラーフ・ツェッペリンの護衛を務める駆逐艦や巡洋艦が大型ネウロイへと攻撃を開始するが、予想以上に頑強な大型ネウロイには僅かにその進行を遅らせるのが精一杯だった。

「後方片付きました!」
「シャーロット! 貴方のでアレ狙える!?」
「やってみます!」

 踵を返したシャーロットがティーガーの88mm砲の仰角を上げていく。

「照準、敵機中央部に…」
「! 総員防御!」

 シャーロットが狙いを定めようとするが、そこでネウロイの表面が発光、攻撃の予兆だと悟ったマイルズの声に、ウィッチ全員(すでに20歳を超えているフレデリカ以外)が慌ててシールドを展開、大出力のビームがティーガーめがけて発射されるが、数人がかりのシールドでかろうじて防いだ。

「なんて火力………!」
「甲板に一部被弾!」
「何発も食らったらヤバイです!」

 マイルズも思わずたじろぐ中、部下達が周辺の被害を報告してくる。

「シャーロット、撃ちなさい!」
「はい!」

 これ以上待てないと判断したフレデリカの指示の元、ティーガーの88mm砲から魔導榴弾が発射、目標の大きさゆえに見事に命中、表面装甲が剥がれて、しかもコアの一部が露出する。

「シャーロット! 二発目!」
「今装填してます!」
「あっ!」

 この機を逃すまいとするマイルズだったが、古子の声に再度上空の大型ネウロイを見る。
 そこには、確かに見えたはずのコアの一部が全く見えなくなっていた。

「今確かに!?」
「移動した。獣が身を隠すようにな」
「コア移動型!?」

 一番目のいいマティルダの報告に、マイルズが驚愕する。

「ダメだ隊長! コア反応が目標内を始終移動しまくってる!」
「くっ………総員、上空大型に火力を集中! コアが少しでも見えたら叩き込んで!」
「無理ですよぅ〜、この距離じゃあ〜」

 フォートブラッグもコアを狙おうとするが、距離がある上に始終コアは移動を続け、ルコに至っては涙目になり始めていた。

「私が行くわ! 航空ウィッチは私しかいないし!」
「無理です! あの威力、シールドが張れない少佐が直撃食らったら!」
「やっぱり私が…あれ? 隊長! 高速でこちらに接近する反応があります!」
「また敵!?」
「いえ、これは………」
「行って、ディアフェンド!」

 陸戦ウィッチ達が戸惑う中、高速で接近してきた純白の機体から、アンカーが大型ネウロイへと叩き込まれる。

「キャプチャー!」
「あれは………! シャーロット!」
「はい!」

 突然の事にマイルズが驚くが、ネウロイに叩きこまれたアンカーが、コアを捕捉している事に気付くと即座に攻撃を指示。
 叩き込まれた魔導榴弾が見事にコアを粉砕、大型ネウロイは光の破片となって砕け散った。

「やった!」「ブラボー!」

 陸戦ウィッチ達が喝采を上げる中、上空から降りてきた者に皆の視線が集中する。

「TH60 EXELICA、これより皆さんをエスコートします!」
「………変わったウィッチですね」
「何か違うように見えるが」
「あんなストライカーユニット見た事ないですけど」
「そもそも、あれウィッチなの?」
「え〜と、なんて説明すれば」
「話は聞いてるわ。私はブリタニア陸軍のセシリア・G・マイルズ少佐よ、よろしく」

 古子、マティルダ、シャーロット、フレデリカまでが首を傾げる中、マイルズだけが敬礼してエグゼリカに声をかける。

「トリガーハートの事を聞いてる? どこから?」
「ちょっと変わった人達が戦ってるけど、味方だって、この子から」
「増援ありがとうございます! 隊長共々、礼を言わせてもらいます!」

 マイルズがフォートブラッグを手で指し示し、フォートブラッグもマイルズを真似るように敬礼する。

「私が先導します! 501と合流しましょう」
「了解。それじゃあ、パーティーに遅刻しないように急ぎましょう!」
『お〜!!』

 エグゼリカを先導に、陸戦ウィッチ達を載せた空母部隊は、速度を上げていった。



「ふむ、これはまずいか?」

 フライトジャケット姿の明らかに成人していると思われる長い黒髪のウィッチが、滞空しながら腕組みをして唸る。

「後方、敵機!」
「右方片付きました! 回ります!」
「前方、更に敵機接近!」

 彼女の周囲では、護衛を務めるウィッチ達が右往左往しながら、押し寄せるネウロイと応戦していた。

「エセックスまで退いて下さい少将! ここは私達でなんとかします!」
「退くと言っても、後ろも前も敵だらけでどうやって退くと言うのだ?」
「じゃあ506の人達を呼び戻しましょう!」
「向こうも交戦中、しかもこっちよりも派手にやってるようだぞ」
「し、しかし!」

 金髪で幼いと言ってもいい生真面目そうなウィッチが叫ぶが、黒髪のウィッチは僅かに首を傾げるだけでその場から微動だにしない。

「ふむ、どいていろヘルマ」
「はい?」

 ヘルマと呼ばれた金髪のウィッチが思わずどける中、黒髪のウィッチは首にぶら下げていた小銃用のスコープを覗き込み、固有魔法を発動。
 美緒と同じ《魔眼》の効果で前方から来る敵を見据えると、もう片方の手でMG42S機関銃を構え、トリガーを引いた。
 放たれた銃弾は、射程範囲ギリギリと言ってもいい距離で次々と命中、小型のネウロイは一方的に撃墜されていった。

「すごい………」
「昔ならこんな狡い真似をしなくてもよかったのだがな。最近腕が鈍ってきているな………」
「あ、あのう、ご主人様………」

 ヘルマが唖然とする中、黒髪のウィッチの肩にいた幾つもの砲がセットされたポットに乗り、更に二丁拳銃という重武装の割には気弱そうな声を出す丑型MMSウィトゥルースが何かを確認していた。

「どうしたウィトゥルース?」
「何か来ます、すごい早いです」
「こちらでも確認しました。ネウロイではないようですが………」

 後方で黒い軍服に白髪紅瞳にメガネをかけたウィッチが、魔導針を発動させて状況を確認する。

「すれ違い様に周囲のネウロイの反応が消滅してます。相当な戦闘力と推測されます」
「ネウロイを撃墜しているのなら味方だろう。ハイデマリー、あとどれくらいで到着する?」
「あ、はい、この速度だと…」
「多分、あと5秒、4、3、2、1」
「え?」

 白髪紅瞳のウィッチ、ハイデマリーが答えるよりも早く、ウィトゥルースがカウントを開始。
 それがあまりに短い事にヘルマが声を上げた時、周辺をソニックブームが吹き荒れる。

「カルノバーン!」

 ソニックブームと共に射出されたアンカーが中型ネウロイに突き刺さり、スイングされて周辺の小型ネウロイを一掃しつつ、リリースされて残った小型諸共爆散する。

「ほう………」
「す、すごい………」
「何ですか今の………」

 すさまじい戦闘力に、ウィッチ達が全員唖然とする。
 ただ一人、黒髪のウィッチだけは鋭い目で突如として現れた者を見据えていた。

「私は超惑星規模防衛組織チルダ所属、TH32 CRUELTEARです。ウィッチの方々を救援及び先導に来ました」
「出迎えご苦労、私はカールスラント空軍ウィッチ隊総監・第44戦闘団司令、アドルフィーネ・ガランド少将だ。今回の作戦を指揮を一任されている」
「総監……少将? 上位指揮ユニットと認識します。………そちらでは上位指揮ユニットも戦列参加するのですか?」
「いえ、多分この人だけです………」
「本来なら引退して後方指揮に徹するはずなのですが………」

 クルエルティアの疑問に、ヘルマとハイデマリーがやや言葉を濁す。

「こちらからも聞こう、リーネ曹長と501の連中の行方を知っているか?」
「501の方々なら向こうで交戦中です。他のウィッチ隊の増援もあり、善戦しています」
「ふむ、出遅れたか………」
「ご主人様、そもそも勝手に出撃したのはご主人様の方だったような………」
「それではクルエルティアとやら、エスコートよろしく頼むぞ」

 ウィトゥルースの提言をあっさりスルーし、ガランドはクルエルティアに片手を上げて先導を頼み込む。

「了解しました。巡航速度を超低速に設定、皆さんの先導に徹します」
「それでは行くぞ諸君!」
「少将〜〜!」「待って下さい〜!」

 先導するクルエルティアに勝手についていくガランドに、護衛のウィッチ達は大慌てで後を追っていった。



「だりゃああぁぁ〜〜〜!」

気合と共にレザージャケットにマフラーを巻いた小柄なウィッチが扶桑刀を一閃、小型ネウロイを両断する。

「お見事ナオちゃん」

 それをすぐ側で見ていた、細身のウィッチが賛辞を送りながら身を翻し、自分を追ってきていた小型ネウロイに銃弾を叩き込み、あっさりと撃破する。

「敵機10時上方に新たに出現!」
「ラル隊長! このままでは弾薬が足りなくなります!」
「いっぱい用意してきたつもりだったのだけど、敵もいっぱいとはね………」

 ベスト姿で狐の耳を生やした小柄なウィッチと、ヘアバンドの後ろからシロクマの耳を生やしたウィッチが左右から報告するのを、コルセットを装着したウィッチ、第502統合戦闘航空団《ブレイブウィッチーズ》隊長、グンドュラ・ラル少佐が僅かに顔を曇らせる。

「今更サンガモンまで撤退するわけにもいかないし、補給艦も向かってきてるはずだから、それと合流できれば………」
「そう簡単に合流できればいいのですが、その前の問題が………」
「たああ〜〜〜すう〜〜けええ〜〜〜てえええ〜〜〜!!」

 そう呟くラルと狐耳のウィッチ、部隊内での教官役を兼任しているエディータ・ロスマン曹長の前を涙声で悲鳴を上げながら、スオムス空軍仕様のセーターにショートヘアのウィッチが通り過ぎる。
 なぜかその後ろをネウロイ、ヴァーミス、ワーム、バクテリアンの小型ユニットが大挙して追っていた。

「ニパさんそのまま真っすぐ飛んで下さい!」
「できればもうちょっと遅く!」
「無理イィ〜〜!!」

 ちょうどいいとばかりにガリア空軍の制服に身を包んだお下げ頭のウィッチと、扶桑海軍の藍色の士官服に身を包んだショートヘアのウィッチが狙い撃ちしていく。
 そんな状況でも、なぜか敵の攻撃は追われるウィッチに集中していた。

「なんでか分からないけど、アレ楽でいいね」
「そんな事言ってられませんよ! あのままじゃニパさんが持ちませんよ!?」

 何故か敵のほとんどが一人に集中し、追われてる当人以外は楽な戦いにラルが頷くが、ヘアバンドのウィッチ、副隊長のアレクサンドラ・I・ポクルイーシキン大尉が声を荒らげる。

「こっちは片付いた!」「ニパ君今行くよ!」

 マフラーを巻いたウィッチ、管野 直枝中尉と細身のウィッチ、ヴァルトルート・クルピンスキー中尉が即座に追われてるウィッチ、ニパことニッカ・エドワーディン・カタヤイネン曹長の救援へと向う。

「マスター、何かが高速でこちらに向かってきますよ?」
「む? 敵か?」

 そんな中、ラルのそばでメガネにナースキャップ、手に注射器型デバイスまで持ったナース型MMSブライトフェザーがラルに申告。

「待って下さい、この反応は…」
「ガルトゥース! ファイアー!」
「ぴぎゃあ〜!」

 ブライトフェザーが確認するより早く、飛来したレーザーがニパをちょっとかすめてその後を追っていた敵群をまとめて撃破する。

「な、なんだ今の!?」
「あれ! あいつ!」

 直江が驚く中、クルピンスキーが上空を指差す。
 そこには、増援に来たフェインティアの姿が有った。

「危なかったわね〜、このTH44 FAINTEARが来たからには…」

 フェインティアが余裕たっぷりの口調で名乗った時、ブレイブウィッチーズの銃口が一斉にフェインティアへと向けられる。

「ちょっと何この扱い!? せっかく助けに来て上げたのに!」
「助け? 何言ってやがる!」
「この間、散々こっちのショバ荒らしてくれたじゃない」
「ニパさんまで撃墜しかけて!」
「今度は何が目的?」

 矢継ぎ早に叩きつけられる敵意のこもった言葉に、フェインティアがある疑問へと辿り着く。

「ちょっと待った! 私に似た奴にあった事あるの!?」
「似てる? あれは君だと思ったが?」
「違います、マスター」

 ラルまでもが警戒する中、ブライトフェザーが皆を静止する。

「極めて似てますが、兵装とエネルギーパターンが違います。なにより…」
「私が保証する。マイスターは君達の味方だ」

 ブライトフェザーの指摘に、フェインティアの隣でムルメルティアも断言する。

「あんた達が言ってるのって、ひょっとしてこいつ!?」

 フェインティアが慌てながら、イミテイトの画像をブレイブウィッチーズに向けて投影する。

「ああ、確かにこいつだ。本当にお前じゃないのか?」
「間違いないね、こんな感じのお供連れてた」
「向こうが本気じゃなかったみたいですから、なんとかなりましたが………」
「あの時は痛かった………」

 ウィッチ達の言葉に、フェインティアの顔色が変わる。

「カルナ! ブレータ! とんでもない情報よ! あいつが、私の偽者もこっちに来てるわ!」
『本当ですか!?』『詳細は分かりますか?』
「ちょっとそこの武装神姫! 私の偽者が現れた時の戦闘データある!?」
「はい、ありますけど………」
「それよこしなさい! ムルメルティア、ラインパスを!」
「了解した、マイスター」

 増援が来たのは自分達だけではない。その情報は瞬く間に激戦を繰り広げている乙女達へと伝えられていった………





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