他人事ながら訂正させて下さい


インターネット上の著作物には誤った情報が少なくないが、だからといって「本や雑誌などの印刷された書籍に誤りがない」と言えば、それは嘘になる。誤った情報が訂正されることなく、一人歩きしている場合もある。肝心なのは、そういった著作物から情報を得ようとする人が、事の真偽を判断できる能力を持つことである。

過日、ドイツの研究者から「クロサンショウウオのメスの輸卵管の写真を、ある本の分担執筆の中で使いたい」というメールをもらい、8月と10月のメスの生殖器官のカラー写真を彼に提供した(2002年7月5日、航空便で郵送)

その本が漸く出版の運びとなり、律儀にも彼は、文献の別刷りを私に郵送してくれたのだが(2003年10月2日の消印)、悲しいことに10月のメスの説明が「September」になっていた。「出てしまったものは仕方がない」と思いながらも、写真の説明が間違っている旨、到着したその日のメールで知らせてやったのだが、残念なことに彼からは、それ以来「梨の礫(なしのつぶて)」である。そのため「Septemberとあるのは私のミスではないことを、少なくとも日本の皆様には分かってもらいたい」と思い、彼宛てに送ったメールを示すことで、ここに訂正する次第である。

なお、ここでは出版されている以下の本の著者名を書くことになるので、メールも実名を出すことにする。また、彼の手紙には「この本は経費節約のためインドで印刷されたこともあって、カラー写真の仕上がりが汚い」と憤りの文面が溢れていて、以下は、それに対する私の返事である。

Greven, H. 2003. Chapter 5, Oviduct and egg-jelly. Pp. 151-181. In: Reproductive Biology and Phylogeny of Urodela (Volume edited by D. M. Sever), Volume 1 of Series: Reproductive Biology and Phylogeny (Series edited by B. G. M. Jamieson). Science Publishers, Enfield, NH, USA. (ISBN 1-57808-285-4; May 2003; 624 pages; $ 126.00)



Dear Prof. Dr. Greven,

I have just received some reprints of your recent articles. Thank you so much for this courtesy. As you stated in a reminder enclosed, the color plates do not certainly seem to be in a good condition, but I am satisfied with the fact that a photograph of the August ovary colored mint green in the salamander Hynobius nigrescens per se has been published in color. My only anxiety is the picture, designated as "September" (Fig. 5.2C, p. 155), had indeed been photographed during October (also see Hasumi, 1996). This is a bit problematic, I think.

Best wishes,

Masato



ついでに、阿部(1997)の中で、私に関する記述の間違いも訂正しておこうと思う。彼は当時、新潟大学農学部林学科の教授であった。

「この実験に用いたクロサンショウウオは、1992年4月に新潟県のある山中に生息するという情報を得て採取に出向いたが、現地の池にはまだ60〜70cmの氷が張りつめており、とても冷たくてサンショウウオは産卵に来ていないと判断し、次週に再来することにした」という、273ページにある文章の正しい日付は「1994年5月」である。

他にもケアレスミスのような間違いは、全体にわたって多々あるので、このことに目くじらを立てる必要はないのかもしれないが、その後の文章がいけない。「ところがサンショウウオを研究している同行の羽角正人博士が、彼らはすでに池の中にいると断言した」とある。確かに私は、この「季節外れの時期(1)」に捕獲可能なクロサンショウウオの繁殖池(新潟県大島村、標高760m)まで、阿部さんや学生たちを案内したときには、博士号を持っていた(1993年3月取得)。しかし、その日付を「1992年4月」と書かれたのでは、そのとき私は博士ではなかったことになってしまう(2)。

また、この本の文中で彼が引用している、道路の側溝に関する文献(羽角, 1984)が掲載されている雑誌名は「採集と飼育」である。「採集と科学」ではない。ちなみに、私の友人の藤塚治義さんからの情報によると「この本は一般的な書店では扱わず、ISBNコードもない」とのこと......(定価は39,500円)

阿部學. 1997. 第3章. 機能的なエコロードの要件. 稲垣徹(編), ビオトープの計画と設計―生物生息環境創造―, 265-279頁. 工業技術会, 東京.

[脚注]
(1) 新潟地方の標高の低い海岸丘陵地帯では2〜3月がクロサンショウウオの繁殖期だから、側溝からの脱出実験に使用するために、捕獲した個体のその後の飼育を海岸に近い新潟大学構内で考えているのなら、5月半ばでの採集行は遅すぎた。この相談を私が受けたのは、その直前である。しかし、阿部さんに就いている卒論生の実験計画なので「また来年どうぞ」とも言えず、実験に使用する個体の生殖腺やその付属器官が正常に発達しない可能性の高い、彼らの生理状態に不安が残るなかでの繁殖池への案内であり、飼育のノウハウの伝授でもあった(1)。
(2) これらの文章に続けて「半信半疑で胴長をはき、厚い氷の上で飛び跳ねて氷と格闘しながら打ち砕き、氷塊を押しやり、しびれる手をかばいながら網で氷の下をまさぐったところ、何と数十匹のサンショウウオを得ることができた。この時はさすがにその道のプロであると感心したものである」と、私のことを随分と誉めてくれているので、彼が書いたものを訂正するのもどうかと思ったのだが、いみじくも私は研究者であるから、間違いを看過することは出来なかったのである。

[脚注の脚注]
(1) この学生のサンショウウオと側溝との関係を調べた卒業論文は、学生林業論文コンテストで最優秀の「林野庁長官賞」に輝いている(1995年6月17日付、新潟日報夕刊)。


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