「幌舞〜、幌舞〜」雪の降りしきる終着のホームで、高倉健さん演じる幌舞駅長、佐藤乙松が低い声で駅名を連呼する。映画「鉄道員(ぽっぽや)」の有名なワンシーンである。

 根室本線の幾寅は、その「鉄道員(ぽっぽや)」のロケ地に使用された駅で、駅舎の入口は今でも映画の幌舞のままになっている。

 ホームが高台に位置するために、駅舎との間に高低差ができ、駅舎からホームに出るには階段を上らなければならない。

 実は映画の演出のためにスタッフが階段のある駅を求めて北海道内を探し回ったところ、その理想を満たした駅がこの幾寅だったという。

 昭和という時代を出すために、古びた木造駅舎に施され、もうひとつの主役であるディーゼルカーも、ふっくらと丸みを帯びさせ、朱色の国鉄色に塗り替えて、すすで汚れを出すという改造をして、廃止前の盲腸線の終着駅という雰囲気を醸し出した。

 映画は巷で大きな話題となるくらいに大ヒット。映画に登場したディーゼルカーも当時は現役バリバリで、イベントや旅客に活躍して人気があった。

 私も「鉄道員(ぽっぽや)」人気にあやかって、十数年前に冬の幾寅を訪問したことがある。しかし当時は駅舎内で近距離の切符を販売する簡易委託駅。その時は残念ながら掲載には至らなかった。

 その後、2003年に幾寅は簡易委託を廃止して完全無人化。ディーゼルカーも映画の演出のために行われた改造が車体の寿命を縮める結果となり2005年に廃車となる。

 無人となった駅舎は駅事務室が映画の資料展示室として生まれ変わり、廃車となったディーゼルカーは前面のみが駅前の映画のセットと同化するようにして保存・展示されている。

 映画の公開は1999年と20世紀末ではあるが、今でも幾寅の駅舎は南富良野の重要な観光スポットとして、色々な形で観光客が絶えずにやって来る。

                                                           (2014.9.9)

 追記:「鉄道員(ぽっぽや)」に主演された高倉健さんが2014年11月10日に悪性リンパ腫のためお亡くなりになられました。高倉さんのこれまでの多大な功績を称えるとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。
幾寅のホーム。高倉健さんが演じる幌舞駅長、佐藤乙松がホームに立つワンショットに似たアングルで撮ってみた。
「鉄道員(ぽっぽや)」の幌舞駅に使用された幾寅の駅舎。入口の駅名が今も幌舞のままである。


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幾寅
無人駅となった幾寅の駅舎内は映画の資料室になっていた。
「鉄道員(ぽっぽや)」に登場しただるま食堂のセットと映画に使われたが今は廃車されたディーゼルカー。
映画のロケ地の決め手になった幾寅のホームへと続く階段。
映画用の腕木式信号機と、幾寅に到着する根室本線のキハ40