渡島大野の駅に降り立たった時、秋の冷たい空気と共に、牛の糞のにおいがかすかに鼻につく。このような田舎の洗礼を受けたのは日南線の
福島高松の訪問の時依頼である。
渡島大野は駅前には民家が何軒もあり、函館方面を見やると遠方にはベッドタウンと思わせるような新興住宅地が見える。秘境駅と呼ばれるようなレベルの高い無人駅が多い北海道にしては少々見劣りするが、実はこの駅は今後大きな変貌が予測される。
駅の裏側にはのどかな農地が広がる渡島大野の駅は、北海道新幹線の新函館駅の建設予定地となっている駅である。洋風のしゃれた駅舎の待合室には「北海道新幹線コーナー」という新幹線建設の進捗状況の写真や、「新幹線ができるとこんなに便利になるんだよ」といった感じの子供向けの説明パンフレットが掲示されている。北海道新幹線は道民の夢とは言っているが、一部の地元民とよほどの駅マニアの人しか訪れないこの駅に新幹線の宣伝のような掲示を見てみると、新幹線はJR北海道が社運を賭けた一大プロジェクトといった意味合いが最も強い印象を受けた。
かつては片面ホームの小さな駅だった奥羽本線の新青森が新幹線建設によって風景がだいぶ変わってしまった例が存在する。数年後に渡島大野の駅周辺で新幹線の工事が始まると周辺の風景が変わってしまうかも知れない。北海道の自然が残る渡島大野の風景を楽しむならおそらく今のうちだと思う。
北海道に新幹線の駅ができた時、渡島大野の駅に降りたときのあの牛の糞のにおいは、過去のものになるであろう。
(2008.11.10)
約6年半ぶりに訪れた渡島大野は大きな変貌を遂げていた。駅舎は北海道新幹線の終点で函館への中継駅として担う、新函館北斗仕様の立派な建物となりホームも綺麗に建て替えられていた。
駅舎や駅構内は綺麗に整備されてはいるものの、工事中の箇所が多く、橋上駅舎内の通路はあまりにも狭く、どこかのダンジョンでも探検するような錯覚に陥る。さらに駅舎が大きくなったにも関わらず、現時点ではホームに行くためのエスカレーターやエレベーターがなく、階段を上らされる。この日の朝に突然腰を痛めた身にとってはかなり辛いものがあった。
駅舎に書かれている駅名はすでに新幹線の新函館北斗、駅前のロータリーも新規に造られてはいるが、ここも工事中となっていて立入りが出来ない状態だった。これは過去に信越本線(現:えちごトキめき鉄道)の脇野田(現:上越妙高)が北陸新幹線に先駆けて移転した時と似ている。
それでも駅の裏手にはのどかな農地が残り、ホームからは放し飼いにされている馬を見かけた。以前降りたときにかすかに鼻についた家畜の糞の臭いはホームに若干長居していると今でも匂っては来る。新幹線が開業した時、よく鼻が利く人にとってはどこか田舎臭い印象を持ってしまうかもしれない。
新幹線用に改築されたが、駅員が置かれていない渡島大野につけられた別名は「日本一大きな無人駅」 しかしそんな大きな無人駅の渡島大野の晩年はあまりにも使い勝手が悪い不便な無人駅となってしまった。
(2015.6.17)