江津から2つ目の駅、千金は江の川からちょっと離れた山あいの小集落の駅である。周囲に民家は車1台が通れる幅の道路沿いに7~8軒くらいで他は田んぼが広がる典型的な農村地帯である。
この辺りの路線としては1930年の戦前の開業に対して、千金の駅開業は戦後の1958年だった。車が高嶺の花だった開業当時にとって駅の存在はありがたいものだったかも知れない。だが車が普及している今は存在が希薄な駅になっている。また周辺の道路が狭いため車による訪問も難易度が高い。
千金にやって来る列車は1日5往復。列車が来ない時間帯は田んぼの用水路の水が勢いよくジャージャー流れる音しかして来ない。
三江線の各駅には地元の伝統芸能である神楽の演目の愛称が付けられている。千金の愛称は「日本武尊」となっていて、千金という縁起の良い名前は、かつてこの周辺で日本刀の材料となる良質な砂鉄が採れたことに由来するもので、日本武尊と草薙の剣にちなんだ形だ。
モータリゼーションの影響により、地元利用者が少なく、常に廃線の危機に立たされていた三江線だが、2016年秋、JR西日本はとうとう廃止の表明をしてしまった。時間になれば必ずやって来るディーゼルカー、この千金にとっては限りある光景となってしまった。
(2016.10.9)