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最三小判平成21.3.3 集民第230号167頁(裁判所判例検索システム)
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(判決要旨)
継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生したときには,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合は,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効は,特段の事情がない限り,上記取引が終了した時から進行する。
(反対意見がある。)
(参照法条) 民法166条1項,民法703条,利息制限法1条1項
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(判決理由抜粋)
3 原審は,前記事実関係の下において,要旨次のとおり判断して,上告人の請
求を375万9260円及びうち374万4000円に対する平成18年10月4
日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で認容すべきものとした。
過払金に係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という。)は,個
々の弁済により過払金が生じる都度発生し,かつ,発生と同時に行使することがで
きるから,その消滅時効は,個々の弁済の時点から進行するというべきである。
上告人は,過払金返還請求権は,取引が終了した時点(本件においては平成18
年10月3日)に確定し,その権利行使が可能になるから,上記時点を消滅時効の
起算点と解すべきであると主張するが,借主は取引が終了するまで既発生の過払金
の返還を請求できないわけではないから,上記主張は失当である。
したがって,平成9年1月10日以前の弁済により発生した過払金返還請求権に
ついては,発生から10年の経過により消滅時効が完成した。同日以降の弁済によ
り発生した過払金は,原判決別紙「利息制限法に基づく法定金利計算書」記載のと
おり374万4000円であり,これに対する平成18年10月3日までに発生し
た民法704条所定の利息は1万5260円である。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記のような過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる
限り,過払金は同債務に充当されることになるのであって,借主が過払金返還請求
権を行使することは通常想定されていないものというべきである。
したがって,一
般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見
込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が
終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それ
までは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのま
まその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれて
いるものと解するのが相当である。
そうすると,過払金充当合意を含む基本契約に
基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が法
律上の障害となるというべきであり,過払金返還請求権の行使を妨げるものと解す
るのが相当である。
なお,借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないの
で,一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点に
おいて存在する過払金を請求することができるが,それをもって過払金発生時から
その返還請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生
すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借
取引を終了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に
反することとなるから相当でない(最高裁平成17年(受)第844号同19年4
月24日第三小法廷判決・民集61巻3号1073頁, 最高裁平成17年(受)第
1519号同19年6月7日第一小法廷判決・裁判集民事224号479頁参
照)。
したがって,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引
においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請
求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,
同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である(最高裁平成20
年(受)第468号同21年1月22日第一小法廷判決・裁判所時報1476号2
頁参照)。
5 これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,本件基本契約は過払金
充当合意を含むものであり,本件において前記特段の事情があったことはうかがわ
れないから,本件取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は本件取引が終
了した時点から進行するというべきである。そして,前記事実関係によれば,本件
取引は平成18年10月3日まで行われていたというのであるから,上記消滅時効
の期間が経過する前に本件訴えが提起されたことは明らかであり,上記消滅時効は
完成していない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らか
な法令の違反がある。
論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。
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