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最二小判平成21.3.6 集民第230号209頁 (裁判所判例検索システム)
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(判決要旨)
継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生したときには,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合は,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効は,特段の事情がない限り,上記取引が終了した時から進行する。
(反対意見がある。)
(参照法条) 民法166条1項,民法703条,利息制限法1条1項
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(判決理由抜粋)
3 原審は,前記事実関係の下において,要旨次のとおり判断して,上告人の請
求を320万5334円及びうち245万4000円に対する平成19年2月3日
から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で認容すべきものとした。
消滅時効は,権利を行使することができる時から進行するものであり,過払金に
係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という。)は,発生時点にお
いて行使することができる権利である。上告人は,本件取引の継続中であっても,
自ら弁済を停止し,取引履歴の開示を請求するなどして,本件取引により発生した
過払金返還請求権を行使することが可能であったから,権利の行使につき法律上の
障害は存在しない。
したがって,平成9年2月2日以前の弁済により発生した過払金に係る過払金返
還請求権については,発生から10年間の経過により,消滅時効が完成した。平成
9年2月3日以降の弁済により発生した過払金は,原判決別紙計算書記載のとおり
245万4000円であり,これに対する平成19年2月2日までに発生した民法
704条所定の利息は75万1334円である。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記のような過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる
限り,過払金を同債務に充当することとし,借主が過払金返還請求権を行使するこ
とは通常想定されていないものというべきである。
したがって,一般に,過払金充
当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなっ
た時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で
過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が
発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生
する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解す
るのが相当である。
そうすると,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な
金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害とな
るというべきであり,これにより過払金返還請求権の行使が妨げられていると解す
るのが相当である。
借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので,一方
的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点において存
在する過払金を請求することができるが,それをもって過払金発生時からその返還
請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生すればそ
の返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終
了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反するこ
ととなるから,そのように解することはできない(
最高裁平成17年(受)第84
4号同19年4月24日第三小法廷判決・民集61巻3号1073頁,
最高裁平成
17年(受)第1519号同19年6月7日第一小法廷判決・裁判集民事224号
479頁参照)。
したがって,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引
においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請
求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,
同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である(最高裁平成20
年(受)第468号同21年1月22日第一小法廷判決・裁判所時報1476号2
頁参照)。
5 これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,本件基本契約は過払金
充当合意を含むものであり,本件において前記特段の事情があったことはうかがわ
れないから,本件取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は本件取引が終
了した時点から進行するというべきである。
そして,前記事実関係によれば,本件
取引がされていたのは昭和59年12月12日から平成18年6月8日までであっ
たというのであるから,上記消滅時効期間が経過する前に本件訴えが提起されたこ
とは明らかであり,上記消滅時効は完成していない。
これと異なる原審の判断に
は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原
判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。以上説示したところによれば,上記消滅
時効の成立を否定し上告人の請求を認容した第1審判決の結論は正当であるから,
同部分につき被上告人の控訴を棄却すべきである。
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