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最三小判平成24.9.11 民集第66巻9号3227頁(裁判所判例検索システム)
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(判決要旨)
同一の貸主と借主との間で無担保のリボルビング方式の金銭消費貸借に係る基本契約に基づく取引が続けられた後,改めて不動産に担保権を設定した上で確定金額に係る金銭消費貸借契約が締結された場合において,第2の契約に基づく借入金の一部が第1の契約に基づく約定残債務の弁済に充てられ,借主にはその残額のみが現実に交付されたこと,第1の契約に基づく取引は長期にわたって継続しており,第2の契約が締結された時点では当事者間に他に債務を生じさせる契約がないことなどの事情があっても,当事者が第1の契約及び第2の契約に基づく各取引が事実上1個の連続した貸付取引であることを前提に取引をしていると認められる特段の事情がない限り,第1の契約に基づく取引により発生した過払金を第2の契約に基づく借入金債務に充当する旨の合意が存在すると解することはできない。
(補足意見がある。)
(参照法条) 民法488条,利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項
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(判決理由抜粋)
3 原審は,上記事実関係の下で,次のとおり判断して,本件第1契約に基づく
取引により生じた過払金の返還請求権に係る消滅時効の成立を否定し,被上告人の
請求を過払金702万0354円の返還等を求める限度で認容すべきものとした。
本件第2契約は本件第1契約に基づく約定残債務の借換え及び借増しをしたもの
と認められ,当事者は,複数の権利関係が発生するような事態が生ずることを望ま
ないのが通常であって,本件第1契約に基づく取引の清算と本件第2契約に基づく
取引の開始とを同時かつ一体的に行うことにより債権債務関係を簡明にすることを
意図していたというべきであるから,本件第1契約及び本件第2契約に基づく各取
引は事実上1個の連続した貸付取引であると評価するのが相当であり,被上告人と
Aとの間には,本件第1契約に基づく取引により発生した過払金を本件第2契約に
基づく借入金債務に充当する旨の合意が存在すると解される。
4 しかし,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとお
りである。
(1)ア 同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されること
を予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金
のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,その後に改
めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債
務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新た
な借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基
本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には
充当されず(
最高裁平成18年(受)第1187号同19年2月13日第三小法廷
判決・民集61巻1号182頁
,
最高裁平成18年(受)第1887号同19年6
月7日第一小法廷判決・民集61巻4号1537頁
,
最高裁平成18年(受)第2
268号同20年1月18日第二小法廷判決・民集62巻1号28頁
参照),第1
の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく
取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評
価することができるときにおいては,上記の充当に関する合意が存在すると解する
のが相当である(上記第二小法廷判決)。
イ 以上のことは,同一の貸主と借主との間で無担保のリボルビング方式の金銭
消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引が続けられた後,
改めて不動産に担保権を設定した上で確定金額に係る金銭消費貸借契約が締結され
た場合であっても,異なるものではない。
(2) 一般的には,無担保のリボルビング方式の金銭消費貸借に係る基本契約(以
下「第1の契約」という。)は,融資限度額の範囲内で継続的に金銭の貸付けとそ
の弁済が繰り返されることが予定されているのに対し,不動産に担保権を設定した
上で締結される確定金額に係る金銭消費貸借契約(以下「第2の契約」という。)
は,当該確定金額を貸し付け,これに対応して約定の返済日に約定の金額を分割弁
済するものであるなど,第1の契約と第2の契約とは,弁済の在り方を含む契約形
態や契約条件において大きく異なっている。
したがって,上記(1)イの場合におい
て,第2の契約に基づく借入金の一部が第1の契約に基づく約定残債務の弁済に充
てられ,借主にはその残額のみが現実に交付されたこと,第1の契約に基づく取引
は長期にわたって継続しており,第2の契約が締結された時点では当事者間に他に
債務を生じさせる契約がないことなどの事情が認められるときであっても,第1の
契約に基づく取引が解消され第2の契約が締結されるに至る経緯,その後の取引の
実情等の事情に照らし,当事者が第1の契約及び第2の契約に基づく各取引が事実
上1個の連続した貸付取引であることを前提に取引をしていると認められる特段の
事情がない限り,第1の契約に基づく取引と第2の契約に基づく取引とが事実上1
個の連続した貸付取引であると評価して,第1の契約に基づく取引により発生した
過払金を第2の契約に基づく借入金債務に充当する旨の合意が存在すると解するこ
とは相当でない。
(3) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,被上告人とAとの間で
は本件第1契約が締結され,これに基づく取引が続けられた後,改めて本件第2契
約が締結されたところ,本件第1契約は無担保のリボルビング方式の金銭消費貸借
に係る基本契約であるのに対し,本件第2契約は不動産に根抵当権を設定した上で
1回に確定金額を貸し付け毎月元利金の均等額を分割弁済するという約定の金銭消
費貸借契約であるから,両契約は契約形態や契約条件において大きく異なり,本件
第2契約の締結時後は,本件第2契約に基づく借入金債務の弁済のみが続けられて
いる。
そうすると,本件第2契約がAの担当者に勧められて締結されたものであ
り,これに基づく借入金の一部が本件第1契約に基づく約定残債務の弁済に充てら
れ,被上告人にはその残額のみが現実に交付されたこと,本件第1契約に基づく取
引は長期にわたって継続しており,本件第2契約が締結された時点では当事者間に
他に債務を生じさせる契約がなかったことなどという程度の事情しか認められず,
それ以上に当事者が本件第1契約及び本件第2契約に基づく各取引が事実上1個の
連続した貸付取引であることを前提に取引をしているとみるべき事情のうかがわれ
ない本件においては,本件第1契約に基づく取引と本件第2契約に基づく取引とが
事実上1個の連続した貸付取引であると評価することは困難である。
したがって,被上告人とAとの間で,本件第1契約に基づく取引により発生した
過払金を本件第2契約に基づく借入金債務に充当する旨の合意が存在すると解する
のは相当でなく,上記過払金は上記借入金債務には充当されないというべきであ
る。そうすると,上記過払金の返還請求権の消滅時効は成立していることとなる。
(4) 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法が
ある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そ
こで,本件第2契約に基づく取引により発生した過払金の額等につき更に審理を尽
くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
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