実務の友IT時代の実務家のための文書作成法
Wordを,より速く,より便利に,より快適に!  実務の友

Wordによる短文・定型句登録活用の効率的入力法

1 定型句,短文の活用
 法律文書に限りませんが,ビジネスなどの実用文書を繰り返し多数作成する場合,同じ字句や決まり切った文章表現が多数使われます。
 パソコンで文書を作成する場合,そういうものを一々入力するのではなく,よく使われる字句や定型句,複数行にわたる定型文や短文(以下「文例」という。)を多数登録しておき,これを再利用した方が,はるかに効率的だと言えます。


2 効率化の方法
(1) 辞書機能の活用
 その方法の一つとして,辞書機能(IME=日本語文字入力システム)を利用する方法があります。例えば,「りげんほう」と入力すれば「利息制限法」と変換入力され,「いいかえ」と入力すれば「(以下「○○」という。)」と変換入力されるというのも,入力方法の効率化を図る有用な方法です。
 しかし,辞書機能は,単語ベースの登録が基本ですし,長文を多数登録すればメモリを食うし,複数行にわたる定型句,短文(文例)まで含めて登録することにはシステム的に制約があります。

(2) クリップボード機能の活用
 別の方法として,よく使われる「コピー&ペースト」の操作基本となるクリップボードの機能拡張ソフトの利用が考えられます。
 これは,文字等の入力支援機能として,他のソフトなどでも幅広く利用されるものですが,パソコンの基本システムにインストールする必要があり,そのソフトを使用しない限り登録内容の中身を目で見ることができないという問題があります。

(3) ファイルの各別保存
 そこで,多くの人は,一定の文書ファイルによく使われる多数の文例を整理して保存し,あるいは,文例ごとにファイル名を付しファイルに保存し,これを呼び出し,該当部分をコピーして基本文書に貼り付け(コピー&ペースト),あるいは挿入して再利用しているのだろうと思います。
 しかし,この場合でも,作成中の文書ファイルの外に,@別の文書ファイルを探し出し→Aファイルを開き→B必要な文例を検索し→Cその範囲を指定し→Dコピー操作をし→E作成中の文書に戻って→F挿入箇所に貼り付けをする,という煩わしい操作を幾重にもしなければなりません。

(4) テキストデータの工夫
 この問題解決のため,「Wordの友」Ver.11(JCWord11)では,ワード文書を作成しながら,文例を登録した文例集(テキスト・ファイル)を開き,テキストデータのリスト検索から,クリック1つでワード文書に挿入することができるようにしました。
 しかし,これは,テキスト形式のデータであるため,文字列に限定され,しかも,文字の装飾,書式等が含まれないため,挿入後は改めて必要な設定をしなければなりませんし,また,図や表なども,その操作対象からは外れます。

(5) クイックパーツ
 こうした場合,Word2007,2010では,「クイックパーツ」の利用により,使用頻度の高い文例を,書式付きや複数行のものであっても,また図や表であっても,これを保存し,一覧からワンクリックで呼び出して使用することができるようになっています。
 一太郎でも「アルバム機能」で,登録した文例を簡単に呼び出して再利用することができるようになっており,こうした機能は,文書作成の効率化には大変重宝なものと言えます。

(6) さらなる工夫
 しかし,法律実務で使用するWordについていえば,「クイックパーツ」は,データの保存量に限界がありそうですし,「文書パーツオーガナイザー」による編集,削除等の操作も,他の既存データとの混在があって,初心者には,そのファイルの保存と編集管理は,そう簡単にできそうにもありません。
 主に文字列を対象にし,頻繁に参照したりコピー&ペーストしたりするには,書式付きの文字列中心のデータベースから簡単に検索,指定して文中に挿入使用できるものが,求められると思います。


3 Wordのデータベース化
(1) Wordのデータベース化
 バージョンアップした「Wordの友」Ver.12では,Word文書に一定方式で,よく使われる文例を多数書き込んでおき,この文書ファイルを「Wordの友」の文例集のリストからワンクリックで呼び出し,Word文書中にそのまま挿入することができるようにしています。
 一定方式とは,通常のWord文書を作ると同じ方法で,(1)「●を付して見出しを書いて改行」,(2)「その下に文例を書いて改行」という,これだけの方法でデータを書き綴れば,すぐデータベースになって,一覧リストから文例の呼び出し再利用が簡単にできるというものです。Wordのデータベース化です。

(イメージ図)


データとするWord文書

●あいうえお
 あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねの

●六法
 憲法,民法,商法,刑法,民事訴訟法,刑事訴訟法

●ABC
ABCDEFG
 HIJKLMNOPQRS
TUVWXYZ

「Wordの友」の
文例集の
リスト表示
●あいうえお
●六法
●ABC

リストから「●ABC」を
クリックした場合
作成中のWord文書に,
そのデータ本文が挿入される。
 □□□□□□□□□□□□□□□
ABCDEFG
 HIJKLMNOPQRS
TUVWXYZ










 よく使われる文例集を文書実務のテーマやシーンごとに別々のファイルに作成しておけば,これらを「Wordの友」特装の処理システムにより,リスト表示させ,その「見出し」をクリックすることにより,これに対応する文例が素早く作成中の文書に,設定済みの書式のままに,挿入表示されることになります。

(2) 実務への応用
 例えば,訴状や準備書面,物件目録などにみられる定型的な書式や,裁判の調書等における定型句が多用される記載方法,判決書等の当事者の表示,請求の趣旨,判決理由などで,よく使われる定型的な書式や文言などについて,「Wordの友」の短文登録機能を利用して,その書式や文言を見出しを付けて登録しておけば,その見出しがリスト表示され,そのリスト表示一つをワンクリックするだけで簡単に呼び出し,そのままWord文書に挿入利用することができます。
 これを利用して作成した文書は,印刷し,必要に応じて,Word文書として名前を付し,通常どおりファイル保存することもできます。

 実務では,「どういう場合に,どういう形式・内容の文書を作成すればよいか」の情報(経験知)が分かれば,行うべき仕事は,これを元に,検討を加えながらも,かなり明確に,迅速にはかどっていくものです。
 プロであれば,知的な判断は敏速であっても,それを形に表す文書作成の知的作業面で手間や時間はかけたくないものです。その情報を敏速に検索する「仕組み」と,その情報が「直ぐ使える,役立つもの」としての「仕込み」があれば,書く力,仕事力は格段に違ってくると思います。


4 裁判文書への応用
(1) 裁判所提出書面への応用
 「Wordの友」のMy文例庫には,「裁判書式集」のファイルの中に,市販の書式参考書や裁判所Webサイト等から得たものを参考にして,訴状や答弁書,準備書面の簡単な書式や,民事訴訟手続上の各種申立書等の定型書式の雛形を多数収録しています。
 ここでは,例えば,そのリスト表示から「公示送達申立書」を選択してクリックすれば,その基本書式がWord画面にすぐ表れ,これに修正を加えて,その目的と実際に即した文書に仕上げていくという「仕組み」ができています。
Wordの友
(クリックすると,画像が拡大されます。)

 文例集にあるのは,しょせんサンプルでしかありませんので,使う人の目的や必要,好みや実務の実際等に応じて,このサンプル文を使いやすい形,使える形に作り変えていく,実践的な経験知を高めていくことが必要です。こうした「仕込み」を蓄積し充実していけば,「仕組み」と「仕込み」がマッチングして,多忙な中での文書作成作業は一層効率化が図られ,より知的な思考や検討,判断の方に時間を割くことができると思います。
(注) ここでは,IT技術による法情報処理ソフトの活用と工夫例を中心に紹介していますので,収録している文例や書式集が裁判所に提出する書類として十分適切であることまで保証するものではありません。実際に裁判所に書類を提出される場合には,窓口の案内や指導に従ってください。

(2) 調書作成への応用
 法律文書の中でも,裁判所書記官が作成する調書等は,定型的な書式や定型句が多用される典型的な分野だと思われます。
 裁判の期日には裁判所書記官は,調書を作成し(裁判所法60条),調書には,基本的に,いつ,どの事件で,誰が立ち会い,誰がどういう訴訟行為をしたかを記載するのですが,その記載事項は,法規,通達等で定められています(民事訴訟法160条,民事訴訟規則66,67条等)。
 その裁判の調書がどのようなものか,民事事件については,その記載事項,記載方法等の解説が司法協会発行の「民事実務講義案1」(司法協会のWebサイト)などに掲載されています。

 これによれば,「どういう場合に,どういう形式・内容で調書を作成すればよいか」の情報(法規,通達等の法的情報+経験知)が示されており,かなり定型的な書式,文言が多用されていることが分かりますので,ここで参考例に取り上げれば,「Wordの友」の短文登録機能等の利用方法の理解は早いと思われます。

 民事調書作成例として示された様式と記載例は,次のようなものです。Wordの友の短文登録機能では,こうした罫線入り(表形式)の書式も登録,呼込みが可能となっています。
Wordの友
(クリックすると,画像が拡大されます。)
 民事訴訟規則66条1項に規定する形式的記載事項として,事件の表示,期日,場所及び公開の有無,裁判官,裁判所書記官,出頭した当事者等,指定期日等の記載があり,さらに,同規則67条に規定する実質的記載事項として「弁論の要領等」が記載されています。

 上記の調書作成例を見ると,どの事件の調書でも,決まった位置に,同じような文言,定型句,定型文がありますので,Wordの友の短文登録機能の「仕組み」をうまく使えば,調書の作成は,全部を書き下す方法とはまた違ってくるのではないかと考えられます。

(3) 調書作成の一つの工夫例
 「仕組み」を活用するには,材料の「仕込み」方如何であり,データを収録するWord文書に,「(1)●を付して見出しを書いて改行,(2)その下に文例を書いて改行」という方法で,文書作成で頻繁に使われる定型句,短文を順次書き出していけば,自分なりの便利な実務対応辞書ができ上げることになります(以下の文章中(>)は改行することを意味する。)。
 上記の調書作成例に即して,Word文書に,担当裁判官を「●裁判官>埼 玉 太 郎」,担当書記官を「●書記官>和光  南」として登録しておけば,Wordの友では,パネルに「●裁判官>●書記官>」と見出しだけがリスト表示され,このうち,リストの「●裁判官」を選択クリックすれば,Wordの調書様式の所定欄には,指定した書式のまま「埼 玉 太 郎」と表示され,「●書記官」を選択クリックすれば,同様に,登録した名前が挿入表示されます。
 文例データを作成するときは,先に表内で作成したものをコピーして作成した方が,そのまま適切な形で挿入できて便利だと思います。
 これにより,リスト一覧から見出しをクリックすれば,ゴム判を押したようなイメージで,登録した定型文がそのまま表示されることになりますから,書式の再設定の手間も省けます。

 「弁論の要領等」欄では,訴訟行為者ごとに分類して,よく使われる内容を定型文言で分類して,次のように書き込み,データを仕込んで(蓄積して)おきます。
 「●原告>原 告」,「●訴状陳述> 訴状陳述」,「●準備書面陳述> 本日付け準備書面陳述」,「●被告>被 告」,「●答弁書陳述> 答弁書陳述」,「●請求棄却申立> 「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。」,「●裁判官>裁判官」,「●弁論分離> 本件の口頭弁論から被告Y1についての口頭弁論を分離する。」,「●証拠関係>証拠関係別紙のとおり」,「●書記官印>裁判所書記官 和光  南(注:末尾設定)

 これを「Wordの友」で呼び込めば,パネル画面に見出し部分のリストが表示され,このうち,「原告」,「訴状陳述」,「被告」,「請求棄却申立」,「裁判官」,「弁論分離」,「証拠関係」,「書記官印」などと,順次クリックしていくと,「弁論の要領等」欄には,登録済みの文言が次のようにWord画面に挿入して表示され,調書が仕上がるというものです。

 期日を入力するときは,「編集・計算」のボタンをクリックして,基本パネルに戻り,「計算」タブの[年月日]ボタンをクリックすれば,カレンダーを見ながら,間違いのない日にち,時間を指定して,[転記]ボタンによりWord画面に入力することができます。元の画面に戻る場合は,また[文例庫]ボタンをクリックします。
原 告
       訴状陳述
被 告Y1
原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。



裁判官
       本件の口頭弁論から被告Y1についての口頭弁論を分離する。
証拠関係別紙のとおり
                        裁判所書記官 和光  南

 これは,もちろん機械的な方法ですので,不十分な点は手を加え補足する必要があります。ただし,ここでは,間違いがあった場合は,元に戻すボタンをクリックして戻し,あるいは余分な改行があった場合には[BS]ボタンで消し,文頭にインデントが必要な場合は[Tab]ボタンで調節していくことが,簡単にできるようにしています。
(注) 表内でキーボードの[タブ]を使うと,新たなセルが作成されてジャンプしてしまいますので,キーボードから表内にタブを入れる場合には,[Ctrl]+[Tab]キーの同時押しが必要です。
 行間隔を狭める場合は,基本パネルの「ファイル」タブの行間スライド又は「編集」タブの行間隔微調整ボタンで広狭の調節をします。

 上記の方法はWordの友の短文登録の利用方法として,一例として示したものですので,そのまま全部採用する必要はなく,有効に使えるという部分について利用するのが実際的だと思われます。


5 データ蓄積による進化
 Word文書に「(1)●を付して見出しを書いて改行,(2)その下に文例を書いて改行」という,これだけの方式で,データ内容を一覧的に見ることができ,しかも,そのままデータベースとなって,見出しのリスト表示から簡単に,その内容を検出し閲覧できるというのは,とても便利なことだと思います。
 こうした短文登録・検索挿入の利用方法は,法律実務以外のビジネス等の各分野でも,応用し活用できる範囲は広いのではないでしょうか。

 ここでは短文登録機能と言っていますが,何も短文に限らず,A4一,二枚,あるいはそれ以上の分量の文書でも,上記の方式で自由に登録しておけば,これを再利用して文書に挿入し,あとは自由に編集して文書作成を効率的に行うことができるという場面は多いと思います。
 電子ファイルですので,文例データ・ファイルのコピーにより,同種の仕事に従事している人との間では,データ文書を相互交換し,あるいは共有していけば,一層効率的で的確な実務処理を目指すことができます。

 こうしてビジネスの各分野,各シーンに応じた文例データが蓄積され,あるいは実務家同士のデータ交換が進んでいけば,実務家の文書作成は,より速く,より効率的になり,それ以上に,Wordは,その文書実務において,より一層の情報処理と思考促進の知的ツールとして活用の幅を広げていくことになると思います。

Wordの友
(クリックすると,画像が拡大されます。)



6 補足
 一太郎のアルバム機能等を利用して裁判所書記官の調書作成方法を研究したものとして,少し古いですが,「一太郎機能を利用した効率的な調停調書の作成法−増え続ける簡裁特定調停事件に対処するために−」(書研・富士見同窓会(2003年・平成15年)編集発行「[書記官]Court Clerk」197号2頁以下)があります。

 これは,大量事件の定型的な調停調書の作成に対応するため,一太郎のアルバム機能を利用して,成立調書様式,17条決定様式,大手の債権者の表示,典型的な申立の表示,主な調停条項のパターン等をあらかじめ登録しておき,調書作成時に,これを適宜呼び出して利用し,作成事務の効率化を図ろうとする仙台簡易裁判所の実践的な研究内容となっています。
 これを見る限り,一太郎のアルバム機能と「Wordの友」の短文登録機能は,ほぼ同様の目的を実現できるものです。ここに記載されている方法は,「Wordの友」の短文登録機能でも,登録,呼び出し,文書貼り付け等は,ほぼ同様の処理手順で実現できますので,裁判所書記官の方が調停調書を効率的に作成しようとする場合には役立つものと考えられます。
 同研究内容では,アルバム機能の短文登録機能により従来の作成方法に比べ,1日当たりの作成件数は2倍強に上がり効率化が図られたことが報告されておりますが,一太郎に代えWordが調書作成の基本ツールになった以降は,これを利用しての,さらなら効率化の工夫が望まれることと思います。


「Wordによる短文登録活用の効率的入力法」を実現するWordソフト
Wordの友Ver.12




法律実務家のための文書作成ツール(Word機能拡張ソフト)の活用


(注) このシステムで紹介している文例は,IT技術による法情報処理ソフトの活用と工夫例を中心に紹介する中で,一つの参考例として示しているものに過ぎません。
 あくまで参考ですので,ご利用の際には,実務処理の目的,個別事案の内容,提出先の扱い,実務の慣行等に従い,自己責任で十分吟味された上で,ご使用ください。
2013.12-2014.01
[ HOME ]