Chapter:1−1 旅立ち


「どうしたんだよ?いきなり呼び出して」

 虹の精霊の街、「プリナス」にある、虹精アルフの家。アルフ以外にも、5人の子供がいる。みんなアルフの友人だ。どうやら、他の5人はアルフに呼ばれて集まったようだ。

「なにがあったんだ?アルフ」

 友人の一人、雷の精霊ヴォルティスが、どうして呼び出したのか聞こうとしている。
 アルフはしばしの沈黙の後、ゆっくりと、しかし決意を込めた口調で5人に呼び出した理由を話した。

「アルフ…本気なのか?」

 アルフの話を聞き終わると、再びヴォルティスはアルフに問いつめた。

「もちろんだよ。僕は『時』と『空間』の精霊を探しに行く。その事を伝えたかったんだ」
「あんなの、ただの伝説だろ?なんで鵜呑みにするんだよ。だいたい、誰も会ったことなんて…」

 確かに、ヴォルティスの言っている事は間違ってはいない。しかし、アルフはさらに強い口調でその言葉をさえぎった。

「なら、『誰もあったことがない』のに、どうして断定出来るんだよ。」

 「アルフ」という人物を知っている者なら、誰もが耳を疑うような口調だ。アルフ自身も少し驚きを隠せないようだ。
 しかし、ヴォルティスも今にもつかみかかるかのように、アルフをにらみつけている。

「まぁまぁ、2人とも落ち着いて」

 2人の間に割ってはいるように、1人の少女が口を開いた。この6人の中では一番年上の、火の精霊サンドラだ。
 サンドラは2人を落ち着かせると、話を続けた。

「面白い話だと、あたいは思うけどね…よし、あたいはアルフと一緒に行くよ」
「そうですね、わたくしも同行してよろしいでしょうか?」

 サンドラに続くように、闇の精霊シェイディルもアルフと共に、旅に出る意思を話した。
 水の精霊クレイアと風の精霊ルフィーナは、何も言わないが、笑顔で同行する意思を伝えてた。

「…で、どうする?ヴォルティス」
「ったく、どいつもこいつも…」

 ヴォルティスは5人に背を向けるような状態で、そう一言そう言ったが、口元には笑みが浮かんでいる。

「…わかったよ、俺も行くよ。俺だけ仲間はずれにされるのもシャクだからな」

 ヴォルティス以外の5人は、「行きたいなら素直に言えばいいのに」と思ったが、誰も口にはださなかった。



 それから、数日後。
 6人はそれぞれ旅の準備を済ませると、再びアルフの家に集まった。

「それじゃあ行こうか」
「あ、ちょっと待ってください。ウルーシアさんから、出発する前に来て欲しいって伝言を頼まれていました」

 出発しようとした時、シェイディルが思い出したように言った。一行は、ひとまずウルーシアのアトリエに向かった。

「来たようだね」
「ウルーシアさん、話って?…もしかして『時』と『空間』の精霊の事を知っているんですか?」

 ウルーシアは、6人をアトリエの奥にある客室へ招き入れた。そして、アルフがウルーシアに単刀直入に話した。

「シェイディルから話は聞いてるよ。でも残念だけど、私も伝説程度でしか知らないよ。
 ただ、ヒントくらいなら教えてくれそうな人は知っているけどね」
「その人…って、誰なの?」

 ウルーシアの話を聞いていたルフィーナがアルフに代わって訊ねた。

「多分、ルフィーナちゃんは知ってると思うけど…今はウィバースに住んでいるはずだから」
「うーんと…わかんない」

 ルフィーナはしばらく考えていたが、結局答えは出てこなかったようだ。とは言っても風の精霊の街「ウィバース」だけでは、無理があるかもしれないが。

「そう…じゃあ月精ジェルナっていう占い師は知ってる?私の古くからの親友だから、何か力になってくれると思うよ」

 そう言って、ウルーシアはアルフに一枚の紙を手渡した。書いてある内容から、紹介状のようだ。

「あと…みんな、気を付けて」
「うん、じゃあ行ってきます」

 一行はウルーシアのアトリエを後にすると森へ続く道へと向かっていった。



「本当にこっちで良いのかい?不安になって来たよ」
「仕方がないわよ。サンドラとシェイディル、空を飛べないんだから…」

 6人は、徒歩でウィバースを目指していた。空を飛ぶことの出来ないサンドラとシェイディルのこともあるし、冒険心によるところもあるようだ。事実、ウィバースへは、アクアリス経由で定期的に乗り合い馬車が出ている。
 しかし、サンドラが言うように同じ場所を回っているようにも思えた。さらに、ヴォルティスの表情もどこか曇っている。

「まずいな…地磁気が乱れている。これでは方角が読めない」
「なんだって!?でもどうして、そんなことが?」

 しかし、ヴォルティスにも原因は解らないようだ。しかし、その話を聞いたサンドラは、地面を調べ始めた。

「…やっぱり、そうだったようだね」
「何が、そうだったの?」

 クレイアの疑問に答えるかのように、サンドラは1つの石を拾い上げた。黒く妙な形をした石だ。

「サンドラ、これがどうしたというの?」

 アルフには、その石が何なのかは解らなかったようだ。他の4人もそれは同じのようだ。
 サンドラが説明を続ける。

「これは、溶岩が固まった物だよ。こいつは磁気を持っている場合があってね、そういった所では、地磁気が乱れて方角が読めなくなるんだよ」
「なるほど、確かにこの石から磁気を感じるな」

 サンドラの説明の内容を、ヴォルティスが真っ先に感じ取ったようだ。他の4人も何となく解ったようだ。
 アルフは、しばらく考えた後、一度空に出て現在位置を割り出そうと考えついた、その時だった。

「待ってください」

 シェイディルが表情を険しくしながら、アルフ達「空を飛べる」4人を制した。

「どうしたの!?シェイディル?」
「何かが、こちらに近づいて来ています。かなりの数がいるようです」

 ルフィーナが声をうわずらせながら、シェイディルに訊ねた。シェイディルは目が見えないという境遇からか、周囲の気配を読む能力を持っている。また、彼女は、記憶を失ってしまっているが、この能力だけは失わなかった。あるいは、記憶と視力を無くした後に身に付けた能力なのかもしれない。
 シェイディルの注意を聞き、全員が戦闘体勢を整えた、アルフ、ヴォルティス、サンドラはそれぞれの《魔法剣》(アルフは両端に刃の付いた剣、ヴォルティスは2本の剣による二刀流、サンドラは自らの両腕に炎を纏わせている)を作りだし、クレイアは杖を構え、すぐに魔法を使えるように精神を集中している。ルフィーナも、ややおびえながらではあるが、意識を集中する。
 その直後、周囲の茂みがざわめき始める。

「……来ます!!!」

 シェイディルがそう叫ぶと同時に茂みから無数の影が現れた。

Chapter:1−1 終わり


文芸館トップへ


Chapter:0−5へ


Chapter:1−2へ