Chapter:2−1 ジェルナを探して… | |||
アルフ達がキーベツと共に過ごしている頃、プリナスではウルーシアが遅くまで仕事を続けていた。 夕方頃から降り始めた雨は、暗くなるにつれて雨足が強くなっている。 「アルフロスト達は、無事ジェルナに会えたかな…」 不意に外を見ながらウルーシアは呟いた。しばらくして、視線をテーブルに戻し、薬の調合を再開しようとした時、ウルーシアは重大な事を忘れていたのに気が付いた。 「あ、そう言えば…」 アルフ達はキーベツと別れるとウィバースへと向かう途中の馬車に乗せて貰い、街道を進んでいた。 「だいぶ風が強くなって来たな…もうそろそろウィバースに着くようだ」 ヴォルティスが外を見ながらそう言った。ウィバースは「風の生まれる街」とも呼ばれており、絶えず強い風が吹いている。 「そのようだね、着くたらジェルナさんに会ってみよう」 アルフ達は、馬車の中でそう話をしていた。しかし、サンドラが確認するように静かに呟いた。 「ところで、その『ジェルナ』って人の事、何か知っているのかい?」 次の瞬間、話し声がピタリと止んだ。そう、この時初めて、ウルーシアからジェルナがどういう人物か聞かされていない事に気が付いたのだった。 6人はウィバースに着いた後、広場の中央にある、巨大風車の下でどうしたら良いか考えていた。ひとまず、馬車の御者をしている人に聞いてみたが、答えは「さぁ…聞かないねぇ…」と、分かり切っていた様な物だった。 もちろん、今から空を飛べるメンバーで、一度プリナスに戻り、ウルーシアに聞き直すのが一番てっとり早いが、全員がそこまで頭が回らないくらい考え込んでいる。 「ねぇ…ここで考え込んでいても埒が開かないわ。とりあえず手分けして探しましょう。」 クレイアが、吹っ切れたように提案した。消極的な感はあったが、他に方法は無く、クレイアの提案通りに2人づつに別れて探す事になった。 その時に並んで座っていた順番から、サンドラとルフィーナ。クレイアとヴォルティス。そしてアルフとシェイディルというチームでそれぞれウィバースの街中に消えていった。 「あの…ジェルナさんって占い師を知りませんか?」 「うーん…聞いた事ないわ」 クレイアとヴォルティスは大通りで聞き込みを行っていた、しかし、なかなか思った様な成果は上がっていない。 「そうですか。どうもすみませんでした」 「こちらこそお役に立てなくてごめんさいね」 クレイアは礼儀正しく一礼すると、次の人に聞きこみに向かおうとしていた。 「クレイア、もう20人くらい聞いてるぞ。いつまで聞き込むつもりなんだ?」 ヴォルティス呆れきった表情でクレイアに向かって言った。 「手がかりが得られるまで…よ」 それに対するクレイアの答えも簡単な物だった。 「もしかしたら、ウィバースにいないなのかもしれないぞ」 「じゃあ、ウルーシアさんが嘘をついているとでも言いたいの!?」 「そうじゃなくて、もう他の街に移り住んでいるという事も考えられるだろう?」 「…そんな事、絶対に無いわよ」 クレイアはヴォルティスとの口論を無理矢理切り上げると再び聞き込みを始めた、しかし、心の中にわき始めた一縷の不安はぬぐい去れなかった。 ちょうどその頃、ルフィーナとサンドラは… 「あんた!今あたいにガンつけたろ!」 「え、な…何を言い出すんだい?」 「サンドラ…落ち着いて落ち着いて…」 もちろん、サンドラが一方的に突っかかってるだけだ。元々火精族は気性の荒い種族だが、サンドラはその中でもかなり荒い部類に入る。 ルフィーナが何とか止めようと、サンドラをなだめている。 「ルフィーナちゃんは黙ってなっ!」 サンドラが、ルフィーナに向かって叫んだ、しかし、ルフィーナが止まるまでもなく、相手はサンドラの凄まじい剣幕に押されて、既に逃げ出していた。 「もぅ、こんなんじゃいつまで経ってもジェルナさんの事分からないわよ…」 「さっきのヤツがガン飛ばして来たから悪いんだよ!」 どうやら、既にジェルナを探す以前の問題になり果てていたようだ… 「どう?シェイディル。何か分かった?」 「いえ、特にそれらしい気配は感じません」 アルフとシェイディルは集合場所にもなっている、中央広場の隅にあるカリヨン鐘堂で、他の4人を待ちながら道行く人を調べていた。 アルフ達の性格では、ろくに聞き込みも出来ず、ウルーシアと同じ月精族なら、気配も近いと考えたからだ。 「…やっぱり、気配とか人それぞれ違うのかな?」 「そうかもしれませんね。でも、気配は色に現れますから、アルフさんの考えも間違いでは無いかもしれませんよ」 アルフの疑問にシェイディルが肯定とも否定とも取れない返事をした。アルフには気配を読みとる力は無い。あったとしても、シェイディルは盲目の境遇から得た能力だ。おそらくシェイディルの様には読めないだろう。 「ねぇ…シェイディル。一つ聞いて良いかな?気配が色に現れるなら、僕たちはシェイディルからはどう見えているの?」 アルフの新たな疑問に、シェイディルはしばらく考えた後に答えた。 「そうですね。優しい色と力強い色。一緒にいて心強くなれる気がします。皆さんの『心の色』が私を支えてくれている…そんな気がします」 「心の色…かぁ。よく分からないけど、僕も含めてみんなシェイディルの事を友達だと思っている証拠じゃないかな?」 「私も、そう思いたいです…あ、ちょっと待って下さい」 シェイディルが何かを感じ取ったらしく、あたりを見回した。 「どうしたの?シェイディル」 「なんだか、不思議な感じのする気配が…こちらに近づいて来ています」 シェイディルが感じ取った「不思議な感じ」の正体を聞く前に、アルフ達の前に一人の女性が立ち止まった。 「どうしたの?こんなところで」 その女性は鐘堂の土台に腰掛けているアルフ達の視線に合わせるようにしゃがみながら、アルフ達に尋ねた。しかし、ちょうど影になって彼女の、顔はよく見えないが、着ている服装から月精族である事は間違いない様だ。 「あの…ジェルナって人を知りませんか?」 アルフが思い切ってその女性に尋ね返した。しかし、その答えは、意外な物だった。 「私に、何か用かしら?」 Chapter:2−1 終わり |
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