Chapter:2−2 ドットアイズ


「アルフ、シェイディル。なにか分かった?」

 既にアルフ達以外の4人は合流していたらしく、4人がカリヨン鐘堂の前に戻ってきた。

「うん。家の場所は教えてもらったから、後で来てって」
「でも、いつ分かったの?」

 クレイアの質問にシェイディルが答える。

「ここで、皆さんを待っていたら、不思議な感じのする人が通りかかって…」
「それが、ジェルナさんだったんだな」
「そのようです。」

 ヴォルティスが納得したように相づちを打つ。しかし、サンドラは何か引っかかる物があるようだ。

「その『不思議な感じ』って、具体的に言えるかい?」

 シェイディルは少し考えると、話を続けた。

「…2つの色が重なり合って、それぞれがお互いを強調しあっているような…」
「もういい、もういいよ」

 サンドラは、シェイディルの話に軽いめまいを感じたようで、眉間のあたりを押さえてうつむいている。おそらく、シェイディルの話を理解できた者はいないだろう。

「…ともかく、ジェルナさんの家に行ってみましょう。アルフ、ジェルナさんはどこに住んでいるって言っていたの?」
「南東の方。最近新しく作られた区画があって、そこの…」

 アルフが詳しい位置まで覚えていたため、ルフィーナの案内の元、迷うことなくジェルナの家にたどり着いた。



「ようこそ」

 6人は、ジェルナに招き入れられて、彼女の家に入った、床には複雑な魔法陣が描かれていて、あたりには占いに使うのであろうや水晶玉、アルフも見た事のない薬草が置かれている。
ジェルナは、部屋の奥にあるテーブルの後ろにいた、占い師独特の衣装を身にまとっている。しかし、そんな事はアルフ達にはたいした事では無くなっていた。
 うっすらと蝋燭に照らされて、ジェルナの顔がはっきりと見えている、そして、シェイディルが感じ取った「不思議な感じ」の謎も解けていった。

「ドットアイズに会うのは、初めてかしら?」

 アルフ達の視線から読みとったのか、ジェルナがささやく様に言った。
 「ドットアイズ」。生まれながら2つの属性も持つ者。そして、種族の特徴は瞳の色に現れる。彼女の瞳は、右目は月精族の銀色。そして、左目は風精族の空色だ。

「あなたの事は、ウルーシアから聞いているわ、アルフロスト。でも。あなたもまた、虹精族の瞳の色ではないようね…」

 それは、アルフが気付かないふりをしていた現実だ。本来、虹精族は薄い青の瞳を持っている。しかし、アルフの瞳の色は、虹精族や他の11種族のどれでもない、褐色の瞳だった。
 アルフはジェルナから視線を外すようにうつむいた。ジェルナだけではなく、他の5人にも見えないように。

「…どうして、私を訪ねて来たの?」

 アルフは、思い出した様に、懐にしまっておいたウルーシアからの手紙を差し出した。しかし、やはり、うつむいたままだ。
 ジェルナは手紙に目を通すと、再びアルフの方を見た。

「…『時』と『空間』の精霊を探しているのね。私で良かったら力になってあげるわよ」
「…………」

 しかし、アルフは黙ったままだ。分かっていたとはいえ、改めて自分の瞳の事を言われると、自分がなんなのか分からなくなっていて、ジェルナの話が耳に入っていない。

(一体、僕は何者なのだろうか…?僕は…僕は…)

 いつまでも何も言おうとしないアルフに、ジェルナは、再度話しかけた。

「アルフロスト…」
「…違うっ!」

 突如、アルフは大声の発すると、前を向き、まっすぐにジェルナの目を見ながら叫んだ。

「僕は虹精族…虹精アルフロストだっ!!」



 いきなりのアルフの叫びに、その場にいた全員の視線がアルフに向かった。おそらくは、アルフのこれまでの人生の中でも最大級の大声だろう。友人である5人ですら、ここまで感情をむき出しにしたアルフを見た事は無い。

「誰もあなたが虹精族であることを、否定はしないわ…少し話がそれてしまったみたいね。あなた達の行くべき道を示してあげるわ」

 ジェルナは、そんなアルフを見て、表情を和らげながらそう言うと、テーブルの中心に置かれた水晶玉に手をかざした。心なしか、水晶玉の中心がぼんやりと光っている様に見える。

『…汝らの望む物、最も近くて遠き所にあり。全ての始まりの場所にそれはあらん』

 ジェルナが水晶玉を眺めながら呟いた。しかし意味が難解で、よく解らないようだ。

「一体、どういう意味なんだ?」

 やや苛立ちを隠せない表情で、ヴォルティスはジェルナに尋ねた。

「これ以上の事は、私にも分からないわ」

 それが、その問いに対するジェルナの答えだった。


「ったく!なんなんだい、あの人は…」

 6人はルフィーナの家に向かっている。今までの不満をぶつける様に、サンドラが呟いた。

「近くて遠い所…全ての始まりの場所…?」

 クレイアはなんとか解明しようと、何度もその言葉を繰り返している。そして、何度も後ろを見て
いる。
 アルフが他の5人から少し遅れてついて来ている、とても悩んでいる様な表情だ。おそらくは、瞳の色を気にしているのだろう。

「なんだか、余計に謎が多くなっちゃたわね…」
「でも、一つだけ分かった事があります」

 ルフィーナが、「もう考えたくない」と言いたげな表情でそう言った。しかし、シェイディルの意見は見失いかけていた「答え」を導き出した。

「『時』と『空間』の精霊は実在する。と言う事だけは…」

 それが、シェイディルの意見だった。



Chapter:2−2 終わり



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