Chapter:3−1 樹精ハーベスとリーフ


 6人は次の日の朝ウィバースを出発し、ラバハキアへ向かう途中にある、樹精の街「ユグシル」にたどり着いた。

「うわぁ、綺麗ー」

 ユグシルは街そのものが巨大な庭園になっており、訪れる者の心を奪うと言われている。ルフィーナはユグシルに着くなり、ずっとはしゃいでいる。

「ルフィーナちゃん、あまりはしゃぎすぎない方がいいぞ」

 ルフィーナのそんな様子を見て、ヴォルティスが釘を刺すように注意した。

「ちょっとヴォルティス。言い過ぎじゃない!?」
「クレイアももう少し考えたらどうだ?」

 ヴォルティスの態度に、クレイアがすこしむっとしながら言い返した。それに対してもヴォルティスは表情一つ変えず、自分の考えを述べた。

「少しはシェイディルの事も考えてやれよ。」

 ヴォルティスはシェイディルを見ながらそう言った。クレイアやルフィーナは一時、シェイディルの目の事を忘れていたのだ。

「あ…ごめんね、シェイディル。私、ずっとユグシルに行きたいって思ってて…」
「いえ、気にしないで下さい。目が見えなくてもここが居心地のいい場所なのは私にも分かりますから。」

 ルフィーナは、それ以降あまりはしゃぐ事はしなかったが、やがて、サンドラがある提案をした。

「そうだね。シェイディルの目が治ったら、もう一回みんなここに来ないかい?」
「うん。そうだね」

 サンドラの提案は全員に受け入れらてた。また、それがルフィーナが元気を取り戻すきっかけにもなった。

「やぁ、君たち。ユグシルに来るのは初めてかい?」

 6人の頭上から男性の声がする。その方向に目を向けると、木の手入れをしている青年の姿があった。おそらくは、この町に住む樹精族だろう。

「はい。そうですけど」
「そうかい。良かったら私の家によっていかないかい?この街の事を教えてあげるよ」

 6人は相談の末(というより、ルフィーナが行くと言って聞かなかった)、青年の家に行く事にした。

「あ、そうそう。私はハーベス。そして、ここは私の家の庭だよ」

 ハーベスの話では、ユグシルの家の特徴は、『広大な庭を持つ』ことなのだそうだ。また、庭は広々としたガーデニングが行われており、隅々まで手入れが行き届いている。
 少し奥まった所に、一軒の家が立っている。どうやら、それがハーベスの家のようだ。6人はハーベスと共に、家へと向かった。



「おや?ハーベス、その子供たちは?」
「ユグシルに来るのは初めてみたいだから、この街の事を教えてあげようと思ってね」

 ドアを開けると、そこには樹精族の女性がいた。

「そうね、こんな家で良かったら歓迎するわ。可愛らしい冒険者さん。あ、私はリーフ。主人ともどもよ ろしくね」

 リーフは、笑顔でアルフ達を迎え入れてくれた。
 ハーベスの家は、庭の広さに比べれば、随分こぢんまりとした造りになっている、落ち着いた色合いの家具が綺麗に置かれている。

「今、お茶を入れてくるから、少し待ってて」

 ハーベスはそう言うと、台所に向かっていった。6人はテーブルについた。普段は2人で暮らしてようだが、来客用に多くの椅子がある事は、《インブライト》共通の事柄だ。ハーベスがお茶を入れている間に、寝室に行っていたリーフが戻ってきた。
 アルフ達はついさっきまでこの家に暮らしているは2人だと思っていたようだが、実際は『3人』だった。リーフの手の中には、まだ生まれたばかりの子供が抱きかかえられている。

「あ、リーフさん達の赤ちゃんですか?」
「ええ、そうよ。でも、名前はまだ決まっていないのよ」

 クレイアは、子供を見るなり目を輝かせてリーフの傍に行って尋ねた。

「あの…抱かしてもらってもいいですか?」
「ええ、いいわよ。まだ首がすわってないから気をつけてね」

 子供を貸してもらったクレイアは、思ったより手つきが慣れており、ちゃんと首を支えながらあやしている。

「ふふっ。かわい〜。私も早くお母さんになりたいなぁ」
「大丈夫よ。こんなすばらしいお友達に囲まれているんですもの。きっと将来はたくさんの子供達に囲まれているわよ。」

 リーフの話は決して冗談ではない。精霊族はお互いの『愛』にマナが収束し誕生する。それは友情から来る物でも構わないからだ。6人はそういう意味では十分すぎるほどお互いを信頼しあっている。

「特にそこの黒髪の女の子と、とっても仲良しみたいだし…」
「シェイディルですか?」
「へぇ。あなたシェイディルって言うの。よろしくね」
「あの…僕はシェイディルじゃないですが?」

 リーフは何故かアルフに向かって話している。アルフが不思議がってリーフに聞き直した。続いて、「彼はアルフよ?」とクレイアもきょとんとしてそれにあわせた。

「あら、男の子だったの?ごめんなさい…今まで女の子だとばっかり…」
「僕って、そんなに女の子っぽいかな…?」

 アルフ以外の5人(目が見えないシェイディルは除く)は全員一致で「女の子みたい」という意見だった。事実、黙っていたらほぼ確実に性別を間違えられるだろう。

「そうね…ねぇアルフ。一回女の子になってみたら?」

 そう言ったクレイアの目に、いたずらを思いついたかのような輝きが宿っている。さらに「私も見てみたい」とルフィーナも続いた。

「じゃあ…今回だけだよ。」

 精霊族は子供のうちなら自分の意志で性別を変える事が出来る。しかし、アルフは出来ればやりたくなかったようだが、結局その場の雰囲気に圧されたようで、祈るように手を組み、ゆっくりと目を閉じた。そして、次第にアルフの体が光に包まれていく…



 アルフは再び目を開けた。まず視界に飛び込んで来たのは7対の驚いた目だった。ハーベスに至っては驚きのあまりティーポットを落としてしまっている。

「……やっぱり、変よね?」

 アルフがか細い声で呟いた。次の瞬間クレイアの驚いた表情のまま、心なしか大きな声で「そんな事無い」と否定した。

「ねぇ。本当にアルフ?」
「え…ええ。そうよ?」
「すっごく可愛いじゃない!絶対女の子の方がいいわよ。」

 女の子化したアルフは膝下当たりまである、黒くまっすぐな髪を生やしていて、元々丸い目つきもさらに輪をかけてつぶらになっている。

「でも…同い年なのに、私より胸大きい…ちょっと悔しい。」

 クレイアはアルフと自分の胸元を見比べながら呟いた。

「ふぅん。どれどれ…」
「ちょちょちょ…ちょっと、サンドラ!?」

 サンドラはいきなり手を伸ばすと、アルフの胸をさすり始めた。さらにルフィーナが追い打ちをかける。

「そうねぇ。もっと可愛いお洋服着せてみたらどうかな?」
「あ、それ賛成。リーフさん赤ちゃんありがとうございます。それと…寝室かります」
「じゃ、行こうか。アルフ」

 サンドラはアルフの首根っこを掴むと寝室に引きずって行った。

「ヴォルティス、た…助けて!」
「俺は知らねぇ」
「そんなぁぁぁ…薄情者お…」

 アルフの願いも空しく、バタンと寝室のドアが閉じられた。ヴォルティスはもうつき合ってられないと言う表情で大きくため息をついた。シェイディルに至っては何が起こったか分からず呆然としている。
 結局、アルフはその日中、女の子達に振り回されるハメになった…




「だから、イヤだったのよ〜」
「今更遅いわよ〜それじゃ、今度はこれ着てみて〜♪」


Chapter:3−1 終わり


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