Chapter:3−2 アウトパース


 6人がユグシルに到着した翌日の早朝。ルフィーナは1人ユグシルを散歩していた。

「みんなまだ起きてなかったから仕方がないけど…やっぱり一人って寂しいなぁ…」

 出かける前に彼女は他の5人全員に声をかけたが、誰一人として起きる者は居なかった。
ちなみに、6人はハーベスの家に泊めてもらっている。
 極度の寂しがり屋であるルフィーナは、やはり誰か無理にでも起こした方が良かったん
じゃないかとも思ったが、花に囲まれて居るうちに、次第に不安が無くなっいく気がしていた。

「でも、結局アルフ、男の子に戻っちゃたし…女の子の方が絶対可愛いを思うけどなぁ」

 ルフィーナは昨日の事を思い出し声を殺して笑い出した。しばらくして、また歩き出しながら呟いた。

「ほんと、私も樹精族に生まれたかったな…あら?あそこだけ、何も植わってないみたいだけど…」

 そこはユグシルの町はずれあった、何故か一画だけが柵で囲まれており、そこだけは何も植えられていない。
 ルフィーナは好奇心に駆られるように、柵を跳び越え中に入った。

「きゃ!」

 次の瞬間、足下の地面が崩れ、ルフィーナは地下に落ちてしまった。



「み…みんな!大変よ!!」

 寝室のドアを蹴破るような勢いでクレイアが入ってきた。

「ふぁ…あ、おはよ。クレイア…」
「おはようこざいます…朝から元気ですね」
「2人とも寝ぼけている場合じゃないわよ。ルフィーナちゃんが居なくなっちゃたのよ!」
「ふぅん…って、なんだって!?」
「リーフさんの話だと、朝早く散歩に行ったって…でも、全然帰ってこないのよ」

 クレイアの血相を変えた声に、ヴォルティスとサンドラも目を覚ました。

「朝から、うるさいぞ。クレイア…」
「さわがしいねぇ…何なんだい?」
「とにかく、探さないと…」
「探すって…何をだ?」

 4人が完全に目を覚ますまで、そんな状態は続いた…


 5人は、手分けしてルフィーナを探している。ただし、探しに行っている間に戻ってきた時のために、クレイアはハーベスの家に残っている。
 アルフとヴォルティスは組みになって街中を探し回った。

「おーい。ルフィーナちゃん!どこだー!!」
「もしかしたら、もう戻っているのかも。それか、サンドラ達が見つけているかもしれない」
「さぁな。けど、もしそうならクレイアが伝えに来るはずだ…とりあえず、手分けして探そう。俺は右に行くから、アルフは左を頼む」

 2人は途中で枝分かれしている道から、別々に探す事にした。

「なんだろう?あれ」

 アルフはユグシルの町はずれ、ちょうどルフィーナが落ちた穴を見つけた。

「まだ土が湿っている…まさかっ!?」

 アルフはイヤな予感がして、穴に飛び込んだ。地面に着地する寸前に、空を飛び、衝撃をなくす。

「まっくらだな…穴の位置からすると…だいたい20メートルはありそうだ…」

 アルフの光の羽に照らされ、わずかに周囲が見えるだけだ。また、アルフの遙か頭上に光の点が見える。しかし、次の瞬間、大きな声があたりにこだました。

『なんじゃ!お前は!?』



 そこにいたのは、巨大な竜だった。この空洞は、ドラゴンの巣穴だったのだ。
 アルフはそのあまりの巨大さに息をのんだ。

『お前もワシの宝を狙って、ここに来たのか!?』
「ち…違う、ここに落ちた友達を助けに…」
『ふん。友達…だと?ついさっきもここに入り込んできたヤツがおったがの。』

 そのドラゴンは、鼻先でその『ヤツ』を指し示した。そこには、誰かが倒れている。目が慣れてきたため、それを確認することが出来た。
 間違いない。ルフィーナだ。

「ルフィーナちゃん!」

 アルフはルフィーナに駆け寄ろうとしたが、ドラゴンに阻まれた。

『まてぃ!ワシの寝床に勝手に入り込んで、タダで済むとおもったのか?ヤツと共にここから出して欲しいのなら、ワシに力を示してみろ!』

 ドラゴンはそう言い放つと、片腕を振り下ろした。凄まじい衝撃波がアルフに襲いかかる!

「ぐわっ!?」

 アルフはとっさに防御結界を張ったが、結界を突き破って衝撃が襲いかかってきた。アルフは大きくはじき飛ばされ、壁に激突した。
 何とか立ち上がりはしたが、既に足取りはおぼつかない。

『虹精の名の下に命ずる!虹のマナよ、光の槍となれ…プリズミック・ジャベリン!!』

 アルフの呼びかけに答えるかの様に、彼の周囲に12本の虹色の槍が現れ、一斉にドラゴンに飛来した。アルフが使う事の出来る、最強の虹精術だ。

「そ…そんなっ!?」

 12本の槍は確かにドラゴンに命中した。しかし、傷一つ負わせる事が出来ない。

『ふん。この程度か…ならばせめてもの情けだ。灰すら残らず燃え尽きろ!』

 ドラゴンの口から炎がほとしばる。凄まじい熱量と共に、アルフの視界は真っ白に染まる。

『ボクハ…シヌノカ…』
『…イヤダ!ボクハマダ、シニタクナイ。ルフィーナチャンヲ、タスケルンダ!』

 アルフの頭に絶望と希望が交差する。次の瞬間、炎がアルフを飲み込んだ。



『な…なんだと!?』

 アルフの周りには強力な結界が張られている。その結界は、ドラゴンの炎を四散し、消滅させた。

「………虹と…月…の…マナ…よ…」

 アルフはその結界の中で、知らないはずの魔法を詠唱していた。虹と月。相反する力の魔法を。

「…アウトパース!!!」

 次の瞬間アルフは大きく目を見開き、魔法の最後の言葉を発した。次の瞬間、彼の瞳の色が変化した。虹精族の薄い青と月精族の銀色の双眸がドラゴンをにらみつける。

『ちょこざいなっ!!!』

 ドラゴンは再び、アルフに炎を浴びせた。しかし、再びアルフの結界によって四散する。さらに爪の衝撃波も周囲の地面をえぐり取る程の破壊力にかかわらず、アルフは無傷だ。
 アルフは地を蹴ると、一瞬のうちにドラゴンの懐に潜り込んだ。そして、手を大きく振りかざすと、『聖竜剣』の数倍はある、巨大な《魔法剣》が現れた。

「これでもくらえっ!」

 アルフは真横にドラゴンの胴をなぎ払った。ドラゴンの叫び声が地下の空間をふるわせる。
 次の瞬間、アルフの意識は暗転した。


Chapter:3−2 終わり


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