Chapter:3−3 大人になりたいっ! |
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アルフは目を覚ました。体中が重い。息が苦しい。まるで、何時間も強力な魔法を使用した後のように心身共に疲労しきっている。 「ここは…ハーベスさんの家?」 アルフは混濁する記憶を整理するように一つ一つ声に出して思い出していった。 「たしか、穴に落ちて…何か違うような気もするけど、そこでドラゴンと戦って…でも、どうして?…あ、そうだ。ルフィーナちゃんを助けるために…あ!!!」 アルフは反射的に上体を起こした。しかし、全身を走る痛みに再びうずくまってしまった。ちょうどその時、寝室のドアが開けられ、クレイアが入ってきた。 「あ、アルフ。気が付いた?」 「ク…クレイア!ルフィーナちゃんは!?」 「ルフィーナちゃんなら、居間にいるわよ。どうしたの?取り乱して」 とりあえず、クレイアはアルフが落ち着くのを待って、話を続けた。 「2人とも、町はずれに倒れてて、ルフィーナちゃんはすぐ目を覚ましたんだけど…アルフ、一体どうしたの?3日も眠ったままだったのよ。本当に心配したわよ。あ、みんなに伝えてくるからちょっと待っててね」 クレイアは立ち上がると、居間に向かうために振り返った。その時、アルフは何か違和感を感じた。 「ねぇ…クレイア」 「え、なに?」 「クレイアって…そんなに胸大きかったっけ?」 「そうよ。失礼ね!」 クレイアはそう言うと、ぷいっとそっぽを向いた、しかし、すぐに「…と、言いたい所だけどね」と言って、アルフにむき直した。 「アルフが眠ってる間にね、プリナスに行ってウルーシアさんに豊胸剤を作ってもらったの」 「ほうきょうざい!?」 驚きのあまり、アルフの声が裏返る。無理も無い。成長過程にある子供が服用すると、体にかかる負担が大きいため、まっとうな薬師なら子供相手には絶対に処方しないからだ。 「よく、ウルーシアさんに作ってもらえたね」 「ええ、初めは反対されたわよ。でも、どうしてもって言ったら、1日で効果が切れる様に調整した物を今回限りという条件で作ってくれたのよ」 「でも、どうして?」 「ウルーシアさんにも同じ事を聞かれたわ。理由は2つ。まず、早く大人になりたいから。2つ目は…これはウルーシアさんには言ってないのだけど…」 クレイアは少し間を置くと、続きを言った。 「アルフに負けたくないからよ」 聞かなきゃ良かった…とアルフは心底思った。 それから再び眠りについたアルフが目覚めたのは夕方になってからだった。クレイアがそばでずっと看ていたようだ。 「どう?少しは良くなった?」 クレイアの呼びかけにアルフは頷いて答えた。全快とはいかないが、普通に動く分なら問題はなさそうだ。 「そう。よかったわ…ねぇ、これから少しお散歩に行かない?」 「え!?どうしたの?急に」 アルフは目を白黒させながら聞き返した。クレイアはくすくすと笑いながら、それに対する答えを言った。 「あら、アルフ。せっかく女の子の方からデートを申し込んでいるのに断るの?」 「デートだなんて!?いきなりどうしたの?」 なんだかんだ言いつつ、二人は夕方のユグシルに散歩に出かけた。 「それでね、サンドラったら、驚いちゃって…アルフにも見せてあげたかったわ」 「それは、目の前で使われたら僕も驚くよ」 クレイアは歩きながら豊胸剤を使った時の事を話している。アルフはその話を聞きながら、町はずれに向かった。 そこには、あの穴が確かに開いていた。間違いなくアレは夢じゃない。あの時の自らの命すらも削りかねない巨大な力… 「ちょっと、アルフ!」 「…あ、うん」 「ここにアルフ達が倒れていたのよ。一体何があったの?」 「良く覚えていないんだけど…」 「ふふ、まぁ、そんな事はどうでもいい事ね。アルフもルフィーナちゃんも無事だったんだから。ねぇ、街の中央に大きな公園があるみたいだし、今度はそこに行ってみましょうよ」 2人は、方向を変え、街の中央に向かおうとした、その時アルフの足がもつれ、転んでしまった。 「大丈夫!?アルフ。まだ体調が悪いみたいね…つかまって」 クレイアはアルフに手を取って起きあがる手伝いをした。そしてアルフが立ち上がると、自らの腕をアルフの腕に絡ませた。動揺するアルフに「これならもう倒れないでしょ?」と笑顔で返す。 2人はそのままの状態で、中央の公園に向かった。 2人は、公園にあるベンチの1つに座った。しばらくは、他愛のない会話が続いたが不意にクレイアが話題を変える。 「ねぇ…アルフ」 その顔はほんの少し頬を赤く染めている。 「私の事…好き?」 「なななな、何をいきなり!?」 「答えて!どうなの?アルフ」 おかしい。とアルフは思った。普段のクレイアならそんな話題は触れない。彼女はアルフだけではない、友人全員が大好きだし、心から愛している。相手がどう思おうとそれで十分だと言っていた彼女が何故? とっさに思いついたのは「豊胸剤」の副作用だった。薬の影響で、体型だけでなく、心までもが中途半端に大人になってしまっているのだ。 「黙っていたら分からないわよ。答え…あ!」 「クレイア!?」 「あ…ああ」 困惑した表情で、クレイアは自分の胸元を手をやった。彼女の胸がみるみるうちに薄くなっていく。 「薬…切れちゃったんだ」 「そうみたいね…」 クレイアは、再び薄くなった自分の胸を見ながら呟いた。 「はぁ…1日で効果が切れるって分かっていたことだけど、なんかがっかり」 「そうかな?僕はいつものままの方が良いと思うよ」 「そうね。よくよく考えてみれば、これで良かったのかもしれないわね。胸を大きくしてもらっただけなのに、大人になったみたいな気になって…こんなつまらない事で、アルフにやきもちやいて…私、ほんとバカみたい。…ごめんね、アルフ。私の事、嫌いになっちゃった?」 アルフは、首を横に振ると、「そんなわけないよ」と言った。 「だって、クレイアが言っていたじゃないか。自分の事を友達と思っているのは、自分の事が大好きな証拠だって。それに、少しくらい背伸びしてても良いんじゃないかな?これは、ウルーシアさんが言っていた事だけど、そうやって背伸びして、躓いて、そうして少しづつ大人になっていくんだって…」 「ふふ…アルフ。今日は珍しくおしゃべりね。そうね、そういってくれると、なんだかうれしいわ。でもね、これで…背伸びはおしまい」 クレイアはそう言ういと、アルフの頬にキスをした。 「クレイア?」 「さ、ハーベスさんの家に戻りましょう。すっかり遅くなっちゃた。きっとみんな心配してるわ…あ、今日は付き合ってくれてありがと」 「あ!待ってよクレイア」 言うが早いか、クレイアは立ち上がり公園を後にした。アルフもその後を追う。前を走るクレイアの後姿を見ながら、アルフは「大好きだよ。クレイア」と心中で呟いた。 「それじゃ、あの薬を使ったのは、アルフに負けたくなかったからなのかい?」 アルフからクレイアの事を聞いたサンドラは、呆気にとられながらそう言った。 「あたいは、クレイアが『早くお母さんになりたい』って言っていたから、それでかと思ってたよ」 「まぁ、それも半分あったみたいだけどね」 今回の事はしばらくの間、6人の間での笑い話になりそうだった。 「で、当のクレイアは妙に静か…あ」 クレイアはテーブルに突っ伏すようにして、すやすやと寝息を立てている。リーフがクレイアの顔を覗き込み、状態を確かめた。 「クレイアちゃんもいろいろあったから、疲れてたんでしょね。この子の世話をしたり、アルフ君のそばにいてあげたり、プリナスまで往復したり…でも、とっても幸せそうな寝顔ね。どんな夢を見ているのかしら?」 「さて、明日にはラバハキアに出発しないとね。あたい達も寝ようか」 サンドラの意見に皆が賛成した。ハーベスが、クレイアを起こさないように慎重に抱きかかえると、寝室に運んでいった。アルフ達もそれに続いて寝室に入っていった。 Chapter:3−3 終わり |
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