Chapter:4−3 クレイアの手紙、ルフィーナの記憶 |
|||
アルフとクレイアの2人は、他の4人とは別行動をとり、セシウスが暮らしている寮を訪ねるため、ラバハキアの街を歩いていた。 「ヴォルティスも、閉館するまで僕達2人に調べさせなくてもいいのに…」 「仕方が無いわよ。ほとんどサボっていたようなものだし」 アルフは首を回しつつそういった。彼の言うとおり、戻ってみたら4人ともヒステリー寸前の状態で、さらにサボった(他の4人から見たら)事もプラスされ、閉館するまで2人で調べさせられたのだ。 「それはそうと…セシウスさんと一緒にいた女の人、誰なの?」 「リフレさんね。光精族の人で、『正真正銘の』お兄ちゃんの恋人よ」 アルフの疑問のクレイアが答える。しかし、今だに昼間の事を根に持っているのか、「正真正銘の」の部分を強調して言っている。 「クレイア…もしかして昼の事、まだ怒ってるの?」 「そんな事、全然無いわよ…ほら、見えてきたわよ」 クレイアの指差した建物は、図書館以上の大きさを持った建物だった。おそらくは、上空からでもすぐに分かるだろう。 「これが、セシウスさん達の寮?」 「違うわよ。これはお兄ちゃんたちが通ってる『マナ機関学校』よ。お兄ちゃんたちは、この敷地内にある、寄宿舎にいるわ」 クレイアの話を聞きつつ、2人はマナ機関学校の門を通った。 「…私達一般の面会者が入っていいのは、寮の1階にある談話室までよ。それと、校舎や他の寮も行ってはダメよ。わかった?アルフ」 「何回も言わなくても、分かるよ」 アルフはクレイアからこの校内での注意点を教えてもらいつつ、セシウスの寮の前まで来た。そして、その入り口の前に立ったその時。 『イカナル御用デショウカ?』 「うわっ!扉が喋った!?」 いきなりの事に戸惑うアルフ。それを見てクレイアは一つ重要な事を教え忘れていたのに気がついた。 「落ち着いてアルフ。魔法鍵だから、害は無いわ…水精セシウスに面会をお願いしたいのですが」 『カシコマリマシタ。扉ヲ開キマス。部外者ハ談話室ヨリ先ニハ…』 「もう分かっているからいいわ」 そして、2人は寮の扉をくぐった。 「よく来たね。そろそろ来る頃だと思っていたよ」 入り口をくぐってすぐのところに談話室があった。セシウスがその中にあるテーブルの一つに2人を招いた。そこにはリフレの姿もあった。 「それじゃあ、昼言っていた、クレイアが君の事を大切に思っているという証拠を持ってくるよ」 セシウスはそう言って、1つの扉へと入って行った。アルフはついていきたいという衝動に駆られていたが、部外者は入ってはいけない場所だという事は知っているため、何とかその衝動を押さえ込み、気持ちを紛らわすために周りを見回した。よく見るとそれぞれの人が思い思いの方法で時間を潰している。本を読む者。チェスを興じる者。《インブライト》ではよく知られている、決闘をモチーフにしたカードゲームを行っている者… 「そういえば、お話をするのは初めてね」 「え…あ、そうですね」 不意にリフレに話しかけられ、アルフは一瞬戸惑った。初対面…特に女性に対しては彼はかなりの苦手意識を持っているようだ。 「そんなに硬くならなくてもいいわよ。私はリフレよ。よろしくね」 リフレはそう言うとアルフに手を差し伸べた。アルフは気まずさを感じつつもリフレと握手をする。その時には彼女はアルフの「クセ」を感じ取っていた。 「アルフ君だったわね。もっと胸を張って」 「で…でも、僕には胸を張れるだけの能力なんて…」 「そんなことないわ。あなたは気づいていないかもしれないけど、きっといい所はあるわよ。ね、クレイアちゃん」 リフレはクレイアに話題を振る。それを聞いたクレイアは、すぐさま答える。 「うん!私はアルフのいい所、いっぱい知ってるわよ。もちろん悪い所も知ってるけど、それも含めてアルフの事大好きよ。」 「そ…そうかな…」 アルフは赤面しつつ言葉に詰まった。ちょうどその時にセシウスが戻ってきた。 「待たせたね。これがその証拠だよ。」 彼がそう言ってアルフに手渡した物。それはクレイアが彼に宛てた手紙だった。 「あ…始めからは読まなくてもいいよ。僕が読んで欲しいのはここからだよ」 セシウスはあるページまでめくると再びアルフに手渡した。その日付は今から2年ほど前の物だ。 「この日付って…もしかしたら」 そこには、アルフの思ったとおりの事が書かれてあった。 「云々 それと、今日はもう一つ素晴らしいお知らせがあります。 今日、新しい友達が出来ました。名前はアルフロストなのですが、私はアルフと呼んでいます。 とっても内気な虹精族の男の子で、道に迷っていたのに、誰にも相談できずに困っていたそうで す。 また後日会う約束もしています。これからもっと仲良くなりないな…」 それからも、今までアルフ達が共に体験してきた事(他の友人達との出会いや共に遊んだことなど)がそのつど手紙として書かれていた。そして、最後のページはこうなっていた。 「今日、アルフの家にみんなが呼ばれ、彼の決心を聞くことになりました。 『時』と『空間』の精霊に会いたい。というアルフの決心は固く、今でも信じられないくらいで す。また、私も一緒に行く事になりました。 今からドキドキして、眠れないくらいです。もちろんみんなと一緒に冒険の旅が出来るというの もありますが、初めてアルフの芯の強い所を見られたと言うのもあります…」 「どうだい?」 「どうって言われても…」 アルフは一通り手紙を読んだ後、返答に困った感じがしていた。 「たしかに、いきなり聞かれても困るかもしれないな…でも、クレイアが君や他の友人達をとても大切に思っている証拠ではあると思うよ」 「僕もそれは以前から感じていました。でも、改めて知った気がします」 ちょうどその時、談話室に大きな鐘の音が鳴り響いた。アルフは何が起こったのか分からず、あたりをキョロキョロと見回している。 それについての説明をセシウスが行う。 「もうそんな時間か…すまないが、一般の面会の終了時間のようだ。また機会があったら来るといい」 「は…はい。今日はいろいろとありがとうございました。」 アルフとクレイアは寮を出ると、ヴォルティスの家に戻っていった。 「そうか、それでクレイアの兄キに会っていたのだな」 「初めからそういっているじゃない」 ヴォルティスの家に戻った二人は、他の4人に事の次第を話した。クレイアが言うように、図書館でも一応は言っているのだが、全員が耳に入っていない状態だったのだ。 「正直、僕も驚いたよ」 「あら、アルフだってお姉さんがいるってずっと言ってなかったじゃない」 ちなみに、アルフにもシーリスという姉がいる。 その時はまだ、誰も気づいてはいなかったが、家族の話になったとたんにルフィーナの表情が曇っていく。そして、次第に泣き出しそうになり、ついには声を上げて泣き出してしまった。 「どうしたんだい?いきなり泣き出して」 「何か傷つける事でも言ったのか?」 「なんだか、深い悲しみを感じます」 その中で、クレイアだけはその原因を知っているようで、アルフを手招きすると、一度ヴォルティスの家を出た。 「ルフィーナちゃん、いきなりどうしたんだろう?」 「ねぇ、アルフ。6年前にウィバースで起きた大竜巻の話、知ってる?」 「うん。僕も小さい頃だから詳しい事は覚えていないけど、あれでウィバースが壊滅しかけたって…」 「ルフィーナちゃんね…あの竜巻で両親を亡くしているのよ。ほら、あの子寂しがり屋なところがあるでしょ?あれも、もう独りぼっちになりたくないっていう気持ちの表れなのよ…」 「そうだったんだ…そうだって知っていたら、家族の話なんてしなかったのに…」 アルフはそこまで話して、ある提案が頭に浮かんだ。 「ねぇ、クレイア。僕がルフィーナちゃんのお兄ちゃんになってあげる。って言ったら、どう思うかな?」 「きっと、喜ぶと思うわよ」 2人は再び、ヴォルティスの家に入った。ルフィーナは相変わらず泣き続けている。 「ルフィーナちゃん。もう泣かないで。」 「うう…ひっく」 「クレイアから話は聞いたよ。僕でよかったらルフィーナちゃんのお兄ちゃんになってあげるよ」 「おにい…ちゃん?」 「僕は君の両親にはなれない。でもね、お兄ちゃんならなってあげられる。どうかな?」 「そうだね。あたいも賛成だよ。ルフィーナちゃん、あたいで良かったらいつでもお姉ちゃんになってあげるよ」」 「私でよろしければ…悲しみを消すお手伝いをさせてもらえませんか?」 「珍しいな…こうもみんなと意見が一致するなんてな」 「み…みんな」 「ルフィーナちゃん。あとはあなた次第よ」 ルフィーナは服の袖で涙を拭くと、笑顔を見せた。 「みんなありがとう。でも、気持ちだけでいいわ。だから…これからもずっと友達でいさせて…」 「そんなのお願いされるまでもなく、いくらでも引き受けるよ!」 その言葉に元気を取り戻したルフィーナは、無意識のうちに羽をゆっくりを羽ばたかせる。それは、風精族にとって最大級の喜びの表現だ。なぜなら、彼女にとってアルフ達は友人であり、家族でもあるのだから… Chapter:4−3 終わり |
|||
文芸館トップへ |
|||
Chapter:4−2へ |
Chapter:5−1へ |