Chapter:5−2 解明


 6人はそれからも、毎日のように図書館に通っている。そして、その帰り道の事である。

「一向に、手がかりが得られないな…」
「もしかしたら、図書館には無いかもしれませんね」

 6人とも疲労の色が濃く、口数は少ない。

「今日一日で、何回その言葉を聞いたんだろうな…ここまでやったってのに、くたびれもうけだけは勘弁して欲しいぞ…」

 ヴォルティスの言葉に、全員がほぼ同時に深いため息をつく。おそらくは、他のメンバーも同じ事を考えていたのだろう。
 しかし、この時はまだ、自分達に近づいて来ている人物がいたことに気が付いていなかった。

「今日も図書館通い?」
「え…あ、リフレさん」

 後ろから声をかけられ、最初は驚きながらも振り向き、アルフが応えた。

「アルフの知り合いかい?」
「知り合いって程でもないけど…彼女はセシウスさんの恋人だよ」
「クレイアのお兄さんの?」

 彼女を知っているアルフとクレイアが、簡単に紹介を済ませた。

「でも、随分と疲れているみたいね」
「うん…ラバハキアに着いてからから、ずっと図書館通いで…何か良いアイデアは無いですか?」
「そうね…」

 リフレはしばらく考えた後、こう言った。

「あまり根詰めすぎると、大切な事を見落としてしまう事もあるわ。正面から答えが見えないのなら、横から見てみるのも一つの方法よ」
「根詰めすぎるなって言われても…全く手がかりが得られてないのよ」
「そんな時だからこそ、思いつめ過ぎない方がいいわ。私もマナ機関の研究で行き詰まる事も良くあるわよ。でも、あきらめ掛けて、『もういいや』って思ったときに答えが見つかる事は良くあるのよ」

 実際、6人の表情には、かなり落胆の色が出てたが、リフレの話を聞いて少しその色も薄くなっている。リフレも、特に励ますような事はしなかったが、6人は少し、気持ちが軽くなった気がしていた。

「じゃあ、私はここで」

 リフレは6人に別れを告げると、マナ機関学校への道を歩いて行った。



 その日、ヴォルティスの家では、これからどうするかを、全員で考えていた。しかし、なかなかこれからの行動のアイデアが浮かんでこない。

「もしかしたら、この大陸以外では何か分かるかもしれないな…」
「でも、他の大陸にどうやって行くつもりなんだい?空を飛ぶにしても、とても行ける距離じゃないよ」
「確か、アクアリスから大きな大陸間連絡船が出いた気がするけど…」
「クイーン・サイレン号の事ね。でも、次にアクアリスに来航するのは半年後だし、5年先まで予約でいっぱいのはずよ」
「そんなにも待てないわよ…他に方法は無いかしら?」

 ここでも、6人がほぼ同時に深いため息をつく。文字通りの手詰まり状態なのは、誰もが分かっていた事だった。
 結局、明日もう一度だけ図書館に行ってみようという事で話はまとまった。


 そして、その日の夜、皆も寝静まった頃に、アルフはヴォルティスの家の屋根に上ってこれからの事を考えていた。

「やっぱり…『時』と『空間』の精霊はタダの伝説でしかなかったのかな…」

 膝を抱え込み、独り言のようにつぶやく。そして、今日になって何回目か分からないため息をついた。

「眠れないの?アルフ」
「あ…クレイア」

 いつの間にか横にクレイアがいた。というよりは、考え込んでいて、そこまで気が回らなかったのだ。

「ごめん…」
「え?」
「僕のせいで、皆まで巻き込んでしまった…僕が初めから『時』と『空間』の精霊に会いたいなんて言わなかったら、こんな事にならなかったのに…」

 しかし、クレイアは何も言わず、アルフの手をとる。彼女自身も疲れているはずなのに笑顔で話しかける。

「ねぇ。私達が一度でも『アルフが悪い』って言ったかしら?」
「ううん。でも…」
「確かに、アルフが言った事よ。でも、その話に乗ったのは私達みんなの意志で選んだ事よ。たぶん、もう『時』と『空間』の精霊に会いたいという夢は、もうアルフ1人だけの物じゃなくなってるのよ。だから、元気出して。明日にはきっと何か分かるわよ」

 クレイアの話に、アルフは少しだけ元気を取り戻した。そして同時にクレイアに対して申し訳ないという気持ちが存在していた。

「僕は、いつもクレイアには励まされてばっかりだね。僕は何もしてあげられないのに…」
「そんなこと無いわ。私もアルフに励まされてる事多いわよ。正直、何回もあきらめかけたわ。でも、アルフの頑張ってる姿があったから、ここまでこれたのよ。それにね、アルフが落ち込んでいる時に励ますのは当たり前の事よ。だって、アルフは私の大好きな友達だから」
「ありがとう、クレイア。また、明日も頑張ろう。そろそろ寝ようか」
「そうね」

 再び、寝室に戻った二人は。それぞれ空いている所に横になった。さっきまで眠れなったのがうそのように、アルフはすぐさま深い眠りについていた。



 翌日、6人は再び図書館を訪れた。

「どっちに転んでも、今日1日でこんな生活も終わるか…」
「どっちに転ぶも何も、今日こそは何か見つけるよ!」

 6人は再び本を探し始めた。しかし、しばらくして、アルフが考え込んだ末に、別の分類の棚へ向かって行った。

「アルフ、そっちは歴史書の棚だぞ」
「いや、昨日リフレさんが言ってたじゃないか。正面がダメなら、横からって…それに、一つ引っかかる事があるんだ」
「引っかかる事?」
「うん。ウィバースで聞いた占いだよ」
「ああ、アレか。確か…『全ての始まり。最も近くて遠い場所』だったな」

 いつの間にか、ほかの4人も集まって来ている。そんな中、アルフとヴォルティスは(図書館という事もあって)ひそひそ声で話し合っている。

「そう。もしかしたら、精霊族…あるいは《インブライト》の始まりの場所なのかも…」
「そんなの、調べるまでも無いだろ…いや、待てよ!もしかしたら、ビンゴかもしれないぞ!」
「え!?何?何か分かったの!?」
「ああ。もしかしたら…だけどな」
「もったいぶらないで早く言いなよ!」

 6人は気づかないうちに声が大きくなっている。そして、近づいてくる『殺気』にも似た感覚を一番初めに感じ取ったのはシェイディルだった。

「み…みなさん…」
「どうしたの?シェイディル」
「…もう…遅かったみたいです」

 他の5人もシェイディルが感じた「感覚」に気が付き、6人がそろって、上を見上げた。そこには怒りに顔を引きつられている、司書の姿があった。

「あんたたちねぇ…図書館では静かに本を読むのがマナーです!騒ぐのなら出て行きなさい!!」

 結局6人は、半ばつまみ出されるように、図書館を追い出されてしまった。


「で、さっきの話の続きだが…」

 ヴォルティスの家に戻ったのち、ヴォルティスが口を開く。

「いい所で、さっきの司書が出てきたからねぇ…で、何が分かったんだい?」
「よくよく考えてみれば、一番最もらしい所を忘れてたんだ」
「そこって…もしかして」

 そういった、クレイアの声は、半分は期待、半分は恐怖で震えている。そして、アルフがその場所を行った。

「行こう。《聖域》へ!」

Chapter:5−2 終わり


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