星降る夜に永遠(とわ)の願いを

──written by 透海あきらsama@銀の雫


「『お祭り』と……そう言ったのですか、ゼフェルが?」
お茶を注いでいた手を一瞬止めて、ルヴァは顔を上げた。
「はい、確かに言いました。今晩ゼフェルの故郷の工業惑星でお祭りがあるか
 らそれに行ってくるって……」
途方に暮れた様子でランディが答える。いつもは元気に輝いている空色の瞳も、
今日はいささか曇りがちであった。
「行きたいって言うなら行かせてあげればいいんじゃないですか? ゼフェル様
 だって子供じゃないんですから、自分の行動ぐらい自分で責任取りますよ」
大して興味なさそうに、冷たく言い放つのはセイラン。ランディの突然の訪問に
機嫌を悪くしているのは、誰の目にも明らかであった。
今日は日の曜日。ルヴァとセイランがのんびり午後のお茶を楽しんでいる時、
ランディがやってきたのである。「ルヴァ様にご相談したいことがあるんです」と。
「まぁまぁセイラン、ランディが心配する気持ちもわかってあげて下さい……そう
 でなくても最近のゼフェルの『脱走』には目に余るものがありますからねぇ」
ため息をつくルヴァに、
「それは俺も思うんです。ゼフェル、ここしばらくは毎週のように聖地を抜け出し
 て、その度にジュリアス様に叱られて……女王試験が始まる前まではずっと
 落ち着いていたのに、どうして今になってこんな……」
ランディのため息が重なる。
新しい鋼の守護聖として聖地に来たばかりの頃、周りの者たちへの反発からゼ
フェルは聖地からの脱走を繰り返してはジュリアスとやり合っていた。それでも
教育係だったルヴァの親身の努力や、同じ年頃のランディやマルセルの懸命の
熱意に少しずつ心を開くようになり、脱走の回数も減り始めたのであった。それと
ともに守護聖としての自覚も芽生え始め、先の女王試験を通じてひと回りもふた
回りも成長したかのように見えていたのだが……今回の女王試験が始まって数
週間経った頃から、ゼフェルの行動は目に見えて荒れてきていた。
「ただ、気になるんです。どうしてゼフェルが今回はわざわざ俺に行き先を告げる
 ような言い方をしたのかって。そんなことしたら俺が止めようとするの、わかって
 るはずなのに」
ランディには珍しい、苛立ちを含んだ声。
「ランディ様……」
その様子にさすがのセイランも少し真剣な眼差しになる。
「ルヴァ様、俺、どうしたらいいんでしょうか。このまま見逃してゼフェルのやりたい
 ようにさせる方がいいのか、それとも嫌われるのを覚悟してでも止めるべきなの
 か……なんだか俺、ひとりじゃもうどうしていいんだかわからなくなって……」
ルヴァ様、お願いします、とランディが頭を下げた。
セイランもじっとルヴァの方を見つめる――そこからどんな答が出てくるのか、息
をつめて見守るように。
「あぁ、ほらほらランディ、そんな悲しそうな顔をしないで……確かに難しい問題で
 はありますが……こういうのはどうでしょう」
明るさの違う2種類の青の瞳が、ルヴァの方に引き寄せられる。期待と不安の交
錯する中、ルヴァお発した言葉は。
「――あなたもいっしょに行くんですよ、ゼフェルの故郷の惑星に」
いつも通りの穏やかな笑顔。拍子抜けするほど明るい声。
「……はぁ?」
呆気に取られる2人。
「ル、ルヴァ様、俺も聖地を抜け出すんですか!?」
「えぇ、そうすればゼフェルが何か無茶をしそうになった時も、そばにいて止めるこ
 とができるから安心じゃないですか」
「それにしたって週末で執務がないとはいえ、守護聖様が2人して聖地を抜け出す
 なんて……ジュリアス様に知れたら大変ですよ?」
「大丈夫ですよ。オスカーだってよく主星に降りてるようですが、ゼフェルみたいに
 騒動にはならないでしょう? こっそりやればわかりませんって。ね?」
笑顔で同意を求めるルヴァに、
「そ、そうでしょうか……」
気圧された感のランディ。
「ゼフェルはいつも行動が目立つから事が大きくなってしまうんですよ。今回は2人
 で協力して、うまくやって下さいねー」
「でもルヴァ様、俺は……」
それでも食い下がろうとするランディだが、ルヴァの微笑みは付け入る隙を与えな
い。
「さぁ、難しいことは考えずに、たまにはゼフェルに付き合ってみてはどうですか?
 案外、今までわからなかったことが見えてくるかもしれませんよー」
いまだ解せない様子のランディを差し置いて、ルヴァはうんうんと頷きながらひとり
で納得しているのだった……。


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「……ルヴァ様」 本当に自分までいっしょに聖地を抜け出していいものかどうか迷いながらも、それ でも最終的には「わかりました。俺、そうしてみます」とルヴァに告げてランディが 帰っていくと、待ち焦がれたようにセイランはルヴァの腕に身体を摺り寄せてきた。 そして疑わしそうに、でも少し甘えを含んだ瞳で上目遣いにルヴァを見上げる。 「悩める素直な守護聖様は誤魔化せても、素直じゃない僕には通用しませんよ。  そろそろ本当のことを仰ってくれてもいいんじゃないですか?」 拗ねたようなセイランの声。 瞳に声に感情を滲ませるあたり、ルヴァの前ではセイランだってよっぽど素直であ る。ルヴァは心の中で苦笑した。 「ルヴァ様はわかってらっしゃるんでしょう? 今回のゼフェル様の言動の意味が。  そしてゼフェル様の言う『お祭り』が何なのかも」 じっと見つめてくる蒼い瞳は、ルヴァの答を聞くまで許してくれそうもない。 「あー、やはりあなたにはお見通しなんですねー」 口元に柔らかな笑みを浮かべ、やさしい視線をセイランへと向けたルヴァであった が、次の瞬間にはすっと真顔に戻る。そしてゆっくりと、静かに口を開いた。 「――ランディに、いっしょに来て欲しかったんですよ、ゼフェルは」 「その『お祭り』に、ですか?」 「えぇ。でもゼフェルの性格では素直に誘うことなんてできないでしょうし、仮に百  歩譲って誘えたとしても、ランディの性格では止めに入ることぐらいゼフェルにも  わかっているでしょうから。結局は『脱走予告』のようになってしまいましたけど」 最近のゼフェルの行動の荒れ具合は、今までの比ではなかった。女王候補たちに も冷たくあたることが多かったし、ジュリアスやオスカーといった年長の者には食っ てかかり、マルセルやティムカなど年下の者にはわざと傷つけるような言い方をす る。聖地を抜け出すにしても、前までならばばれないようにはしているけれども結 局は見つかって怒られる、という形だったのに、今は敢えて気付かれるように抜け 出し、その先でわざと問題を起こしてジュリアスの逆鱗に触れているとしか思えな いのである。ゼフェルがジュリアスに呼び出される時は当然ルヴァもついていくの だが、ルヴァがどう言葉を重ねてみてもゼフェルは自分の本心を明かそうとはしな かった。 「……おめーには関係ねーだろ」 その一点張りで。 「それにしても何だってわざわざ『お祭り』なんですか? ランディ様と2人、童心に  返ろうってわけでもあるまいし」 至極当然なセイランの問いに、ルヴァはやさしく微笑んで答える。 「あぁ、『お祭り』という言い方には少し語弊があるかもしれませんねー。別に縁日  のようなものではないのですよ。ゼフェルもきっとどういう言い方をしようか迷った  と思うのですが――」

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賑やかな音楽と着飾った人々。路上には店があふれ、色とりどりの綺麗なお菓子 や冷たい飲み物、他の惑星のものと思われる珍しい食べ物が並び、子供たちは玩 具やぬいぐるみを目当てにゲームで一喜一憂する――それがランディの知ってい る『お祭り』の光景だった。ところが今、目の前にある道路は静まり返っていて人影 もなく、街灯は点いているもののそれはお祭りの喧騒とはかけ離れたものだった。 今夜、『お祭り』があるというゼフェルの故郷の工業惑星。技術の進んだこの惑星 ならば、その装飾も華やかなものに違いないと考えていたランディは、少々拍子抜 けしてしまった。 「……ずい分、静かなんだね」 横に立つゼフェルに声をかけてみる。 「……あぁ」 返事は、短い。 聖地を出る時から、ゼフェルの態度はずっとこうである。今日はいっしょに行くから と告げた時も、「……あぁ」としか返ってこなかった。 (ゼフェル、怒ってるのかな……) ちらりと横目で顔色を窺ってみるが、その紅い瞳には怒りの表情は見えないように 思えた。それよりもむしろ、怯えや不安のようなもの――下手に触れると泣き出し てしまいそうな、そんな脆さが感じられて。 (ゼフェル……) できるものなら、今すぐこの場でその細い身体を抱きしめてしまいたい衝動に駆ら れる。でもそれすら拒むような雰囲気が今のゼフェルには、あった。 (ふぅ……) ランディはゼフェルに気付かれないよう小さくひとつ息を吐くと、いつもの能天気さ を装い明るい声を上げた。 「ゼフェル、お祭りってここでやるのかい? それともどこか別の場所なのか?」 「……まだ向こうだ」 それだけ言うとゼフェルは足早に歩き始めた。ランディもあわててその後を追う。 ゼフェルが黙ったまま歩き続けるので、必然的にランディも無言になった。 そのままどれくらい歩いただろうか、気が付けば目の前には黄昏時の海が広がっ ていた。 「着いたぜ」 ゼフェルが低く呟く。 近代的な建物の中にわずかに残された、自然の砂浜。沈みゆく夕日の残照に水 面が紅く染まっている。それは息を呑むほど美しい光景だったが――他には何も なかった。 「着いたって……ゼ、ゼフェル、本当にここなのかい?」 戸惑うランディを尻目に、ゼフェルは海岸に降り立つと波打ち際をどんどん進んで いく。 「待ってくれよ、ゼフェル!」 ゼフェルの後を追いながら周りに目をやると、確かにあちこちに人影があった。 友達同士、家族連れ、恋人たち――楽しそうに談笑する者、静かに語らう者、黙っ て肩を寄せ合う者――それぞれが思い思いに時を過ごしながら、誰もが時々は海 と空に目をやっている。まるで「何か」を待っているように。 (やっぱりここで何かが始まるんだ……) じゃあ自分たちもこの辺でその「何か」を待つのかと思いきや、前を行くぜフェルは 一向に歩調を緩めようとはしない。砂浜も端まで来てしまうと誰もいなくなり、その 先は岩場が続いている。ランディの方を振り返ることもなく、ゼフェルはそのまま岩 場へと進んでいった。 (どこまで行くんだろう、ゼフェル……) 暗くなってきて足元は見え辛いけれど、この程度の岩場を進むのに苦労するラン ディではない。しかし、行き先がわからないとあっては多少の不安も生まれてくる わけで。ゼフェルは相変わらず黙ったまま何も言ってはくれない。 潮溜まりを器用に避けながらいくつか大きめの岩を越え、その辺りではひときわ高 く突き出した岩の上まで来た時、不意にゼフェルが足を止めた。 「ここにするか……」 わずかに紅を残す水平線に視線を馳せて、ゼフェルが呟く。 ゼフェルもその「何か」を待っているのであろう。 しかし、今2人がいるのは他の人々が集まっている砂浜からはずい分と離れてし まっている。こんなところにまでその「何か」は現れてくれるのだろうか。やはり少し 不安になるランディであるが、傍らのゼフェルはもうその場に座り込み、海の方に 目をやったままこれ以上動く気配はない。 (ゼフェルがここだって言うんだ、きっと大丈夫!) 心を決めて、ランディもゼフェルの隣に腰を下ろした。 陽が完全に沈み、空が濃紺へと変わる頃、1つ、また1つと星が輝き始めた。闇に 覆われる一歩手前の空に輝く星は光が柔らかいように思われて。それはランディ の好きな時間の1つでもあった。 海からの潮風が頬に心地良い。 時が止まったような静寂の中、波の音だけを聞きながらこうしてゼフェルと2人でい るのも悪くない。女王試験が始まって以来の忙しい日々を考えると、それはとても 贅沢な時間だった。 やがて空には夜の帳が下り、星の光は輝きを増していく。とは言ってもここは工業 惑星。湾岸に立ち並ぶ建物群の明かりが煌々と夜空を照らし、肉眼で確認できる のはひときわ明るい一握りの星たちだけであった。 (やっぱりここの夜空は明るいんだな。俺の育ったところでも見える星の数はもっ  と多かったし……まぁ、聖地とは比べちゃいけないんだろうけど) ランディがそんなことをぼんやりと考えていた時。 今の今まで不夜城のように灯り続けていた建物の明かりが――不意に消えた。 「……来るぞ」 ゼフェルが立ち上がって空を仰ぐ。 「く、来るって……いったい何が来るって言うんだよ、ゼフェル」 訳がわからないままランディもつられて立ち上がった。途端に夜空が近くなったよ うな錯覚に囚われ、反射的に目をこする。手を離し、徐々に視界が元に戻っていく と同時にランディの瞳に星が映り出した。人口の光が消え、自然の闇に包まれた 今、その数は先ほどの比ではない。空を覆い尽すほどの満天の星。その迫力に 圧倒されそうになったその瞬間。 「―――!!」 空にあった星たちが、一斉に海に向かって降り注ぎ始めたのである。

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「流星群、ですか?」 「えぇ、聖地でも年に数回、起こりますよねー。その大規模なものが5年に1度、ゼ  フェルの故郷の惑星ではあるそうなんです」 「それが『お祭り』の正体……?」 思わぬ言葉に呆気に取られるセイラン。 それが予想通りの反応だったのだろうか、実はそうなんですよーと妙に楽しそうに 続けるルヴァ。 「その夜は『セレブレイション・オブ・ホーリーエルフ――聖なるエルフの祝福――』  と呼ばれていましてね、大切な人に自分の本心を打ち明ける勇気がもらえる日だ  とされているそうなんです。愛の告白はもちろんのこと、普段はなかなか言えな  い家族への感謝の気持ちや、相談しづらい悩み事なんかも友人に聞いてもらっ  たり。あと、『あの花びんを割ったのは僕です』みたいなちょっとした懺悔をするこ  ともあるようですけどねー」 「……そんなことまでするんですか」 くすりと、セイランが微笑みをもらす。 「エルフたちの祝福は1時間ぐらい続くそうです。でも最初の10分程度でかなりの  数の星が流れ、あとは普通の流星群と同じぐらいの割合で静かに流れ続けるん  だとゼフェルは言っていましたねぇ……」 『その最初に流れる光のシャワーで心に纏ってる鎧をすっかり流しちまうんだ。で、  その後にゆっくり降ってくる星たちが勇気をくれる。本当のことを話す勇気を……  すげー不思議なんだ、なんでかわからないけど本当に素直になれるんだ、その  時だけは……』 ゼフェルが聖地に来てしばらく経った頃、ようやく心を少しずつ開きかけたぜフェル がルヴァに教えてくれた故郷の風習。 『お祭り』というよりは『儀式』なのであろう。素直になるための、ちょっとした儀式。 普段からどうしても反抗的な言葉しか言えないぜフェルにしてみれば、それは格好 の機会だったに違いない。エルフたちの祝福によるもの、という大義名分。この夜 は、素直になれる夜。エルフたちの魔法にかかってしまうから……。 「きっとゼフェルはランディに聞いてもらいたいことがあるのだと思うんです。そして  それは最近のゼフェルの荒れた行動の原因に関することなのでしょう。何かを  言いたいのに言えずにいる。そんなもどかしさのようなものが、今のゼフェルか  らは感じられてましたから……」 「……ルヴァ様」 「今のゼフェルには、ランディじゃないとだめなんでしょう。そして今夜、ゼフェルに  とってランディは絶対に必要な存在だったんですね……」 独り言のように呟くルヴァの手に、セイランはそっとその白い指を絡ませた。 「なんだか寂しそうですね、ルヴァ様。『子離れ』ですか?」 口調こそ軽くからかっているような感じではあるが――その目は決して笑ってはい ない。ルヴァの頭の中が他の誰かで埋まってしまっているこの状況を、セイランが 快く思うわけなどなくて。ルヴァははっと目の前の恋人に意識を戻した。 「あ、いや、あの、セイラン、これは、ですね……」 雲行きが怪しくなってきたことに遅まきながら気付き、ルヴァがあわてて言い訳し ようとしたのを一瞬早くセイランが遮る。絡ませた指に、若干の力を込めながら。 「大丈夫ですよ、ルヴァ様。ゼフェル様はルヴァ様にとっては特別ですからね。心  配なさるのも当然ですし、そんなお2人の過去にいまさら嫉妬するほど僕も大人  気なくはありませんから」 にっこりと、花のように綺麗な微笑み――どうやらご機嫌が直るまでには相当の努 力が必要なようである。 ルヴァは密かなため息とともに覚悟を決めた……。

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夜の海が光であふれていた。 圧倒的な質量感を伴って流れてくる星々。 空だけでなく海をもその光で染め上げ、ともすれば空と海の両方から星が迫って くるような感覚にとらわれる。 (す、すごい……こんなの、初めてだ……) 発する言葉など、もはやない。 体験したことのない光の洪水の中、ランディはただ立ち尽くしていた。 「なぁ、オレ……守護聖として、ちゃんとやってきたと思うか……?」 ランディを現実に引き戻したのは、消え入りそうなゼフェルの声。 気が付けば周囲には闇が戻り、空を彩るのは無数に瞬く星たちと、その間を時折 流れていく流星のみ。 「……ゼフェル?」 空を見上げて佇むゼフェルの頬の上で、流れる星たちがきらりと光る。 それがまるでゼフェルの流している涙のように思えて――。 「……昔、仲の良かったヤツが、死んじまった。いっつもつるんでたヤツだった。女  王試験が始まってからそれを知って……聖地抜け出してこの惑星(ほし)に来て  みた。別に墓参りするつもりでもなかった……ただ、あいつとの思い出を確かめ  たかっただけで……」 ――守護聖として聖地に連れて行かれる時、あいつは最後までエアバイクでオレ の乗ったシャトルを追いかけてきた。 『ゼフェルーっ! お前は頑張るんだぞ! お前なら絶対にできるから、大丈夫だか  ら! だから、お前は頑張れーっ!!』 声の限りに叫びながら、あいつは泣いていた。 オレも泣いていた。 こんな別れは嫌だった。あいつと離れたくなくて、自分の意志を無視する理不尽さ に腹が立って、その怒りの方が先に立って、オレはあいつの言葉をきちんと胸にし まうことができなかった。 大切なことだったのに。 それに気付いたのは、あいつの死を知ってから。 あの言葉が結局、あいつの、オレへの、最期の言葉―― 「……思い出しちまったんだ、あいつの言葉を。そしたら急に自分がわからなくなっ  た。自信が失くなって、怖くなって……守護聖としての、オレの力。いろんなとこに  送り続けてきた、この力。それが本当に正しいことだったのか。一歩間違えれば  破滅にもつながるこの力を、オレはちゃんと、使えてきたのかって……使えるよう  に、頑張ってきたのかって……あいつは、オレならできるって言ってくれてたんだ。  オレを信じてくれてた。その期待に、信頼に……オレは、ちゃんと応えていたか?」 その時、星は流れていなかった。 しかし、ゼフェルの頬には一筋の透明な滴が光っていた。 「オレ、もうわかんねぇんだ。考え始めたら、ただ怖くて、もうこの力が使えなくて。で  もそれじゃあ、あいつの言葉を裏切ることになっちまう……答なんて、どこにもない  のに……それでも、探そうとして、聖地を出て、でもこんなことしてる場合じゃない  って思って……ホントに、わかんなくなって……!」 吐き出すような、悲痛な叫び。 ゼフェルの頬を伝う滴は、流星のように消えてゆき、また新たに瞼のふちに光が生 み出される。 その光が流れ出すより早く――ランディの腕は、ゼフェルの身体をしっかりと抱きし めていた。 「大丈夫だよ、ゼフェル、大丈夫だから……」 ひと言ひと言、ゼフェルの心に直接届くように。ゆっくりと。想いの全てを込めて。 「お前はちゃんとやってきたよ。今だってよく頑張ってる。みんな、それはちゃんとわ  かってるから……」 言いながらランディはゼフェルの背中をやさしくさする。 ランディよりもひと回り小さな身体。その身体で、ゼフェルはたったひとりで戦おうと していた。友の言葉を守るために。押し寄せてくる守護聖としての重圧に、ひとり、 必死に――。 「ゼフェル、ひとりで苦しんでいたんだな。ごめん、俺、気が付かなかった……」 「違…う……、おめーは何も、悪くなんて……」 縋るように見上げてくる紅い瞳――もうこんな悲しい思いを、ゼフェルにはさせない。 「ゼフェル、俺はずっとお前のそばにいるよ。離れたりしない。だから、ゼフェル……  もうひとりで、こんな風に泣いたりしないでほしいんだ。俺、絶対お前の支えになる  からさ。頑張るから……まだまだ俺なんて頼りないかもしれないけど、でも俺はも  う二度とゼフェルを泣かせたくないんだ。お前のことを大切に思う気持ちなら、絶対  誰にも負けないよ、俺は……」 そう言ってランディはゼフェルの瞼の縁でまだ光っている涙を、そっと口唇でぬぐう。 いつもならば「ばっ、ばかっ!何こっ恥ずかしいことしてんだよ!!」と怒鳴るゼフェ ルだが、今は大人しくランディのやさしさに身を委ねている。 (あれだけたくさんの流れ星を見たんだ。今夜願ったことは、必ず叶うよな――) ランディはもう一度、ゼフェルの身体を強く抱きしめた。 エルフたちの祝福を受けて、真実(ほんとう)の想いが伝わっていく。 心がつながるこの夜に、願うことはただ1つ。 今、目の前にいるこの愛しい人の大切な笑顔を、どうかいつまでも守り続けることが できますように……。


fin.






さんくすめっせーじ(by ひろな)     2003.2.16

ランディ…………っ!!!!
──と、思わず叫んだ(声は出さずに──出せずに?)アイカワヒロナ。
もう、もうもう、あきらさんちのランディ様の王子さまっぷりと言ったら……!

あきらさんのサイト【銀の雫】でキリ番(えええと……2222、でしたっけ? ←ちゃんと覚えてろよ(^^;))をGetし、「ランディ×ゼフェルで! んでルヴァセイもひっそりあったらいいな〜v」なんて贅沢なリクをしてみたら、なんと叶ってしまいましたよお母さん!(何)

あきらさんちのルヴァ様、けっこう肝座ってて好きなんですよね〜。でもセイランには激弱で(笑)。いや激甘ですか(*^_^*)。
そしてゼフェル。──かわいいなぁ……。最近、うちのゼフェルくんはめっきりケダモノになっていますが(^^;)、こうして受けゼ創作を見ると、本来のゼフェル(?)はこうあるべきなんじゃないかと思わされます。毛を逆立てた仔猫のイメージ。ランディはもちろんわんこね!(笑)
流星群の設定もステキで。エルフの祝福……、文明の発達した星でその習わしがあるというミスマッチも私好みなのですv 私もあまり(っつーか、全然)星の見えないところで育ったので、たまに見る満天の星のものすごさはよくわかります。ホントにね、心が洗われる気がするよ。

あきらさん、素敵なお話をありがとうございました!
私もキリリクの地感と風鋼がんばります……(遅)。




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