花の熱



 ふたり並んで道を歩いていると、ふいに天真が足を止めた。つられて立ち止まった友雅が振り返ると、足元にうずくまる天真の、伽羅色の髪が見えた。
「……天真?」
 具合でも悪いのかとのぞき込んだ視界の端に、青紫の小さな花が露を纏っているのが見えた。
「あ、悪ぃ。──蘭が好きな花なんだ。小さくて綺麗でかわいいっつって」
「露草だね。染め物にも使われる花だよ」
「へぇ、よく知ってんな。どんな色になるんだ? 草木染めって、葉や花の色のままに染まるわけじゃないんだろ?」
「天真こそ、よく知っているね。──こういう色だよ」
 言って友雅は、小さな花を一房摘むと、白い袖に擦りつけた。明るい青の線が描かれる。
「あ……っおい! いいのかよ?」
「ああ、構わない」
 平然と告げる友雅を訝しむように眉を寄せながらも、天真の目は友雅の袖口に向けられている。
「にしても……、綺麗な青だな」
 それは、天真の腕に宿る石の色にも似た、澄んだ美しい青だった。
「気に入ったかい?」
「ああ。──けどよ、お前、それ、ほんとにいいのかよ? 落ちねぇだろ、そういうの」
「ところがね。露草で摺り染めした青は、しばらくすると失われてしまうんだよ」
「へぇ……」
「露草色はすぐに消えてしまうからね。恋の歌にも、よく詠まれる」
 移ろう心。儚く消える、束の間の美しさ。
 天真が顔をしかめたのがわかった。
「──落ちたらまたつければいいだろ」
 ぶっきらぼうな言葉に友雅が目を瞠る。消えはしないとは言わないあたりが、天真らしいと思って小さく笑った。
「なんだよ」
 睨みつける天真の、色の薄い瞳を見つめながら頬に手を伸ばす。身構えてかたくなる身体を制し、顔を寄せて、耳元で囁いた。
「そうだね、ではそうすることにしよう」
 吐息と共に滑らせた唇を首すじに押しつける。きつく吸い上げ跡を残し、身を起こしながら、飛んできた拳を受けとめた。
「てめ……っ」
「こうして何度も染め続けていたら、いつかは私の色に染まってくれるかい?」
「だ…っれが、染まるか! っつーか、んな目立つトコつけんじゃねーよ! 隠れねーだろ!」
 掴まれた腕を振りほどこうと暴れながら、天真はもう片方の手で首すじを押さえて喚いている。
「隠せないところにつけたんだよ。すぐ消えてしまうだろうから、そうしたら、またつけてあげよう」
「いらねぇ……っ」
 顔を赤くして睨む天真の髪を梳くように撫でて、立ち上がる。
 再び並んで歩きながら、染められているのは自分の方かも知れないと友雅は思った。



熱を持つ花の

その香りに誘われる

手折る日を夢見て

健やかに育てと囁く


     fin.



こめんと(by ひろな)          2011.6.4

大変お久しぶりな遙か更新です。
とはいえ新作ではないのですが……。
2007年に出した、天真BD本『天藍』からの再録です。収録CPが、天泰と友天とかゆー誰得俺得本ww
この頃から嗜好は変わってなかったのね……と、4年ぶりに読み返してしみじみしました。

先日、ツイッタで昭和腐女子(#showa_fujoshi)とかゆータグが流行りまして。見たら、もういろいろ超懐かしくて。遙か(1)はたぶん昭和腐女子と昭平腐女子らへんだと思われます。
んで。自らの歴史を振り返りつつ、ああそうだこれUPしてないや、と思い出したので、UPしてみた次第です。
遙かの更新は、今回の、この天泰&友天UPでおしまいになると思います。
でも過去作品含め、公開はしたままにしておきますので、ふと思い出したときにでも、見に来ていただければ幸いです。




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