花想


「おーっ、咲いてる咲いてる」
 弾んだ声を上げて、天真は頭上に広がる薄紅の叢雲を振り仰いだ。
「ああ、美しいな。──そう思えるのは、お前と共に見るせいか……」
 背後に聞こえた声に、天真が驚いて振り返る。
「今までにも桜を見たことは何度となくあるが、美しいと感じたことはなかったように思
う。──天真は、桜が好きなのか?」
「ああ、好きだぜ。キレーだし、散り際が潔いだろ? カッコイイじゃん。俺、4月生ま
れだからさ、ちょうど誕生日の頃こうやって桜が満開だったんだ。ガキの頃は全部の桜が
自分への誕生日プレゼントみたいに思えて……んなワケないんだけどさ、何かちょっと嬉
しかったな」
 目を細めて笑い、天真は照れ隠しに髪を掻き上げた。
「そうか……。もっと早くに、お前と桜を見に来たかった」
 天真から桜に目を移し、どこか惜しむ口調で泰明が呟く。
「──って、おまえ、だって去年の今頃は花見どころじゃなかっただろ。ってゆーかおま
え初めの頃俺のことなんか完全無視だったじゃねぇか」
「そうだな。お前は苛ついた気を辺りに撒き散らす迷惑な奴だった」
「おい泰明」
「だが不思議だ。今はお前のそばが一番落ち着く」
 ふわりと微笑まれて、天真は思わず顔を赤らめた。色の薄い髪を掻き上げ、くしゃりと
握りしめる。
「春は青、木の気を帯びる。方位は東──青龍に守られし方角だ。陰陽の理は、この時期
すべてがお前を指し示す。まるで、すべてのものがお前の存在の大きさを表しているかの
ように」
 天真の動揺に気づかず、泰明は愛おしいものを見る眼差しで桜の木に目を向けた。風に
舞う花びらに導きを与えるように、そっと手のひらを差し伸べる。
「──天真」
 ふいに後ろから抱きすくめられ、泰明は大きく目を瞠った。振り返ろうとすると、動き
を封じるかのように、腕の力が強くなる。
「──行くなよ」
「天真……?」
「花びらと一緒に、消えちまうかと思った……」
 風に髪をなびかせ、桜に手を差し伸べる姿があまりにも綺麗で。まるでこの世のもので
はないくらいに綺麗で。
「何を……」
「泰明」
 名を呼ぶ声と共に、熱い吐息が首すじに触れた。着物の衿から覗くうなじを噛まれ、強
く吸い上げられる。一瞬目を細め、泰明の身体がぴくりと揺れた。
「天……っ」
 呼びかけた声は途切れ、吐息に姿を変えた。幾重もの布地を通してさえ、天真の指は泰
明の心の平静を乱す。
「待て、天真」
 待てないと言うように熱くぬめる舌がうなじを辿り、両の手は泰明の着衣を解こうと動
く。
「だめだ天真、ここでは……」
「誰も来ねぇよ」
「そうではな、──っ」
「黙れって」
 膝から崩れ落ちるように、二人揃って花びらの上に倒れ込む。抗議の言葉は降りてきた
唇に奪われ音にならずに消えていった。
「あ……っ、天、真……」
 強引な手が留め具をはずし、合わせの間から入り込んでくる。
「桜にだって、渡すもんか」
 呟いた唇が白い肌に触れ、紅く所有の証を残した。
「身体も、心も、──全部俺のものだって見せつけてやる」
 泰明は、抵抗を諦め力を抜いた。視界に映る、陽に透ける髪の向こうの空は、桜で埋め
尽くされている。風が吹くたび枝先が揺れ、花びらがこぼれ落ちてゆく。
 胸元に寄せられた頭に手を触れ、泰明はそっと目を閉じた。


「──怒んなよ」
「……」
「泰明、」
 天真の声を無視して、泰明は長い髪を結い直していた。
「おい、泰明」
「……」
 手を止めぬまま無言で睨むと、天真がばつの悪そうな顔になり、前髪をぐしゃりと掻き
上げる。
「あー、……だから悪かったって」
 強引だったという自覚は天真にもあるのだ。だが。
 がしがしと髪を掻き回して、天真は拗ねたように泰明を睨んだ。
「けどさっきのは半分以上おまえのせいだぞ」
「何がだ」
「おまえがあんなカオしてあんなコト言うから……」
「……?」
 首を傾げた泰明に、天真が舌打ちを返した。
「んなこったろうと思ってたけど!」
「天真。何を拗ねているのだ」
「拗ねてなんかねぇよ!」
「なら何だ。ちゃんと口に出して言ってくれ。でないとわからない。困る」
 わずかに間を置いてつけ足された言葉に泰明の本音を感じ、天真は戸惑うように視線を
揺らした。
「だから。──あんなキレーなカオで笑って、俺のそばがいいなんて」
 思い出したのか、顔を背けた天真の耳は赤くなっていた。
「ああ……」
 頷いて、かすかに笑みを浮かべて泰明が近づく。
「──天真」
 近づく気配を感じながらも顔を背け続けていた天真だったが、名前を呼ばれて振り返り、
泰明の近さに驚いた。
「やす……」
 ひんやりとした手が頬に触れる。
「お前の近くにいたいと思うのは本当だ。────これからも……変わることなく私のそ
ばにいてほしい」
 かすかに触れた唇を離して泰明が囁き、目を瞠る天真をそのままに立ちあがる。
「行くぞ」
 それはまるで照れ隠しの行動のように、天真には思えた。これまでの経験からすると、
その可能性はきわめて低いとわかってはいても。
「ったく……。──やだって言われたって離すかよ」
 不本意だと言わんばかりの表情で答え、天真は勢いよく立ちあがると先を行く背中を追
いかけた。


                                        fin.


こめんと(by ひろな)          2002.4.6

森村くんお誕生日オメデト〜v
──って、もう4日も過ぎていますが……(^^;)。
ごめんね、天真っち。でもこんな決算で大忙しな時期に生まれる君がいけないんだよ……(-゛-;)。愛はあるのよ、ええとっても! だけど身体がついていかないの〜(涙)。年かしら(号泣)。
それにしても、遙か創作第1作UPから1年で、これが5本目なのですね。思ったより少ないな。ネタはあるのに書いてないのか。つーか書きかけばっかなのか(^^;) だってね、たとえばこの天泰、UPは1コ目だけど、話的には3コ目なのよ(笑)。他のも書きたい〜〜〜!! うおー!
さて。
天泰です。なにげに天真攻めCPの中ではイチオシです。──同志は奏さんしかいません(涙)。いいんだいいんだ、自己満足でも続けるんだ!(でもオトモダチ募集中〜〜)
ずっと書きたくて、書きたくて書きたくて、イメージが頭の中でぶわーっとなってしまって追いつかなくて。しかも今ちょっとスランプみたいなんですよ。思うようにね、書けないの。ホントは天泰はもっとやっすんが綺麗ででもつれなくて(爆)、そのくせ時々ふわっと笑っちゃったりするもんだから森村ドキドキのバクバクなのですよ! んで若さにまかせて暴走レッツゴー、と(爆)。──ドキドキシーンももっと書きたかったのに、残念です。いつかリベンジ! 今度は月明かりの下で!!(爆)
ああ、これ以上、何を言ってもいいわけにしかならないのでもうやめますわ(^^;)。
あ、でもこれだけは。
「天真くん、泰明さんとおしあわせに〜vv」(笑)





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