10日間のSpecial電話の呼び出しを受けて、裕太は玄関近くの電話のある区画へと足を向けた。受話器を取って耳に当てると、流れてきたのは聞き慣れすぎた声だった。 「──なんだ、兄貴かよ」 「兄貴じゃないよ、周助だよ」 「はあっ!? ──あ、」 また何を言ってるんだコイツは、と思ったところで思い出した。忘れていたなんて自分でも驚きだ。いや、忘れていたわけではなく、今日という日は覚えていたけれど(学校でもいろんな人に祝ってもらった)、それの意味するところを失念しかけていた。幼い頃は、この日がくるのを何よりも心待ちにしていたのに。 それだけ、拘りを克服したということなのだろうか。 「うん。裕太、誕生日おめでとう」 「────ああ」 「またしばらく同い年だね」 電話の向こうで、よろしくと周助が笑った。 裕太のひとつ上の兄・周助は、裕太よりも誕生日が10日ほど遅い。だから、その間だけふたりは同い年になるのだ。幼い頃の裕太のワガママと周助の提案により、ふたりが同い年である間だけは、裕太は周助のことを『周助』と呼ぶことになっている。 この時だけは、兄でも弟でもない、ただの周助とただの裕太だ。 「ねえ、裕太。今度の週末、帰ってこられる?」 不二家では、ふたりの誕生パーティーは、毎年ふたりの誕生日の間にある土日に行われる。その習慣が守られなかったのは、昨年、聖ルドルフに転校と同時に寮生活を始めた裕太が意地を張って帰らなかったときだけだ。──もっとも、それでも家族からはそれぞれに祝いの品が届けられたが。 兄へのコンプレックスを克服し、目標と認めた今、誕生日に帰省しない理由はない。むしろ、この機会に会っていろいろと話をしたいと、珍しく裕太は積極的に思っていた。 「ああ。金曜、部活終わったら帰るよ。──ちょっと遅くなっちまうけど」 「えっ……」 小さく呟いて、周助が息を飲むのが感じられた。 「本当……?」 「ああ」 「──ありがとう」 ため息のように、やわらかな声がこぼれ落ちる。受話器越し、耳元で囁かれた言葉に赤くなって、裕太はわざとぶっきらぼうに言葉を押し出した。 「お前が礼言うことじゃねえだろ」 「え。──ああ、そうだね。でも……うれしいから。僕にとってはそれが何よりのプレゼントだよ、ありがとう」 「っ……! こっ恥ずかしいこと言ってんじゃねえよ! つーかてめーの誕生日はまだ先だろ!」 喚く裕太に電話の向こうで笑いが洩れる。 「うん、あと10日。──あ、違うや、あと1年と10日かな。その間ずっと、『周助』って呼んでくれる?」 「バカ言ってんな。切るぞ」 「あ、待って」 「あ? まだ何か……」 「うん。──金曜の夜から来るならさ、土曜日の昼間、一緒にどこか出かけない?」 「……ふたりで、かよ?」 「うん。僕と裕太のふたりで。デートしようよ」 「バッ…カ言って……」 「なんで? ふたりで会うならデートだよね?」 きょとんと首を傾げる姿が脳裏に浮かんだ。計算高いところもある周助は、時々こんな風に何も考えていない発言をする。計算尽くの企みよりも、むしろこちらのほうがタチが悪い。裕太は脱力してため息をついた。 「あーはいはい、勝手に言ってろ」 「裕太」 「わぁったって。デートでも何でもしてやるから」 投げやりな裕太の返事に、周助は嬉しそうに礼を言って電話を切った。 通話の切れた受話器を戻しながら、裕太は週末の帰省の前に、周助への誕生日プレゼントを選びに行こうと考えていた。 fin. |
こめんと(byひろな) 2003.3.9 裕太くん、周助くん、ハッピーバースデーイ!!(もうやけくそ) 不甲斐ない姉をゆるしておくれ……って、ちがうっつーの。──フッ、一人ツッコミももはや空しいですね。 そんなこんなでユタシュー。裕太×周助なのか、それとも&なのか。またも微妙な話を……。つかこのキョウダイはナチュラルにラブラブなので!(笑) 周助くんは2/29生まれ。裕太くんは次の年の2/18生まれ。と、いうことは、年子だけど丸一年は違わないということ。──つーと、その間はふたりは同い年なのデスネ☆ それは萌です! とっても!! この事実を知ったときから(10.5巻で)、ずっと書きたくて、書きたくて、10ヶ月も待ったのに、遅れてしまって……残念無念、また来年(滅)。てか来年は2004年で29日がありますからね! バッキリ決めますよ!!?(今から来年の話って…………) そのころには、裕太はもっと立派になって、お兄ちゃんを守ってあげられるようなイイ男に……(垂涎)。 |