Catch A Heat


「おっはよー!」
 どすんと音を立てて背中にぶつかってきた衝撃に、不二はわずかに足をよろめかせた。
「あれ? ……フジ、なんかあったかい。もしかして熱ある?」
「ん〜、少しね。でも大丈夫だよ」
 のぞき込んできた英二にふわりと柔らかい笑みを向けて不二が答えた。


「ねーフジ、ほんとに平気? 休まなくて」
「うん、だいじょぶ。ほら、エージ、そんなカオしないで。君もフツーにしててくれないと皆に気づかれちゃう」
 そう言う不二は、傍目にはいつもと何の変わりもない。触ればあったかいとわかるのだが、ふらついている様子もないし、口調もしっかり。
「うー」
 不満げに口をとがらせながら、英二は頑固な友人に協力する。
 と、
「不二、ちょっと来い」
 怖いカオをした手塚がつかつかと歩み寄ってきて、不二の手首をぐっと掴んだ。一瞬英二を睨みつけて、問答無用、不二を攫って去っていく。
「な……っ、なんだよアレーっ!!」
 叫んだ英二の隣に並び、大石が小さく声をかけた。
「英二。不二、風邪ひいてる?」
「……なんでわかったの?」
「俺は英二見てたからね」
 何でもないことのように言って、大石はにこりと笑みを浮かべた。う゛っと詰まった英二に笑みを深め、手塚たちの向かった方に視線を移す。
「手塚も不二のことになると特別だからな」
「けどっ、今日のはフジが自分で部活出るって言ったんだぞっ。オレはやめといたほうがイイって言ったのに!」
「うん、わかってるよ。──だからよけいに、手塚が気にするんだろう」
「う゛うう〜」
「英二、不二のことは手塚に任せておこう。それよりダブルスのフォーメーションで新しいの試してみたいんだけどいいかな」
 あきらかな話題転換に、英二はまだ不満そうにしながらも、フォーメーションも気になるらしく、小さく息をついて笑みを浮かべた。
「しょーがないなー。──よっし、やったりましょー!」


「手塚」
「……」
「ねぇ、手塚。手痛いよ」
 不二の言葉にわずかに力を緩めたものの、手塚は掴んだ手首を放すつもりはないらしい。無言のまま部室に辿りつき、手塚はやっとその手を放した。
「手塚」
「帰れ」
 短く簡潔に告げる言葉。
「平気だよ、これくらい。みんな気づいてないし」
「俺が気づいていれば充分だ」
 振り向いて不二を見つめ返し、手塚の眉間のしわが深くなる。
「お前、自分がどんな顔してるかわかってるか?」
「え、なに。──ああ、顔色悪い?」
「ちがう」
「え? ──────てづ、」
 抱きしめられて、言葉がとぎれる。
「そんな顔をするな」
「え……?」
「心臓に悪い」
 手塚は不本意そうに口を開いた。
 熱を帯びた頬はほんのりと赤く染まっていて。わずかに潤んだ瞳とともに、こんな時に思い出さなくてもいいものを思い出してしまう。
 それだけならまだしも、誰かが不二のそんな姿を想像したらと思うと、肘の故障でテニスが思うようにできない苛立ちとは比べものにならないくらいの焦燥が、手塚の胸をかき乱すのだ。
「ほんとに、これくらい平気だから、僕のことは気にしなくていいよ」
 わかっているのかいないのか、不二はそんなことを言う。
「気にしなくていいと言われて気にせずにいられるなら、初めから声をかけたりしない」
「──まあ、そうだね」
 仕方ないというように不二はため息をついた。かすかに触れた、その息も熱い。
「触れなくても見てわかるくらいに熱があるのに無理をするな」
「うん……、わかった、今日は帰るよ。あまり部長に心配かけても悪いし」
「不二」
「君がテニスしてるトコ、見たかったんだけどな」
 ふわりと不二は笑みを浮かべた。それすら無理をしているように見えて、手塚は落ち着かない。
「早く治せ。そうしたらいくらでも見せてやる」
「ふふっ、……ありがと」
 ぶっきらぼうな言葉に返った笑みに引き寄せられて、手塚は身をかがめると熱を持って乾いた唇にキスをしていた。
「──風邪うつるよ」
「構わん」
「じゃあ、ついでに、……1分だけ、こうしていてもいいかな」
 ふっと目を伏せ、額が胸に押しつけられる。その背を抱き返そうと浮かした腕を、しかし手塚はわずかに躊躇った後にそのまま両脇に落とした。気づかれないようそっと息をついて、色素の薄い髪に包まれた頭のつむじに目を向ける。
 こんな時、普段よりもふたりの身長差、体格差を意識すると手塚は思った。あまり体格が良くないことを密かに気にしているらしい不二の手前、あまり口にすることはないが、10センチも背丈が違えば、腕の長さや、肩幅、手の大きさ、……何もかもがまるで違う。庇護欲をくすぐられるとでも言うのだろうか。おとなしく守られるような相手じゃないのはわかりきっているのに。
 大事にお姫様扱いで守りたいわけじゃない。だが、同じ視点で、ずっと立っていたいと思うからこそ、こんな時くらいは、少しは頼って欲しいと思うのもまた事実で。華奢な外見に見合わず意地っ張りな不二がこうしておとなしく身体を預けてくれているのは、手塚に満足感を与えるものなのだ。──おそらく本人は気づいてはないだろうが。
 胸にもたれた身体があたたかい。
「──不二、1分経ったぞ、そろそろ帰る支度をしろ」
 このまま放っておくと何かマズイ事態になりそうな自分を感じ、手塚はぶっきらぼうを装って声をかけた。額を離し、小さく息をついて不二が笑いを洩らす。
「もう少し優しくしてよ、僕、病人なんだから」
「さっきまで大丈夫だと言っていただろう」
「それがさっきより熱上がったみたいなんだよね」
「不二……?」
 大丈夫か、と問おうと顔をのぞき込んだ手塚の前で、熱に潤みながらも悪戯っぽい光を浮かべた瞳が微笑んだ。
「手塚が急にキスなんかするから、熱が上がった」
「──馬鹿を言ってないで早く帰れ」
 思いきり顔をしかめた手塚にまた吹き出して、不二は逃げるようにロッカーへと向かった。着替え始めた不二に背を向けドアノブに手をかける。
「それじゃあ、不二。俺はもう戻るから」
「うん、ありがとう。──ごめんね、心配かけて」
「そう思うなら早く治せ」
「ふふっ、了解」
 肩をすくめた気配が背中に感じられた。
「あ、手塚。ひとつ伝言頼めるかな」
「何だ」
「エージに。『ごめんね、ありがとう』って」
「…………」
「手塚部長、菊丸くんに伝言をお願いしてもいいですか?」
 わざわざ言い直した不二に、しばしの沈黙の後、盛大なため息をついて手塚が答えた。
「──────……わかった」
「ありがとう」
 体調不良を感じさせない笑顔で不二が笑う。しかめ面のまま部室を出ようとして、ふと手塚が振り返った。
「不二。──気をつけて帰れ」
「──うん」
 何かを言いかけてやめ、別の言葉を口にした手塚に、不二もただ頷きを返した。




                               fin.





こめんと(byひろな)     2003.2.21

うちの手塚ってば……。
──と思うコトしきり。ケド仕方ないっすね、それがうちの手塚部長ですから。
ということで突然の風邪っぴき不二様@2年冬。すでにエージとラブラブ(笑)。うち的設定では、36お花ちゃんズは1年の時クラス一緒でラブラブで(笑)、2年になってクラス別れちゃったからせめて!とばかりに部活でラブってて、3年になってまた同じクラスになれたのでとっても舞い上がって(主に菊ちーが・笑)超ラブラブ!……と言うことになっています。──ええと、ちなみにコレ塚不二&大菊における36の設定ね(苦笑)。菊不二でも採用していますが。

ということで2年冬。手塚君はまだ部長になって日が浅い……というほどでも? そろそろ慣れてきた、くらいかしら。
このお話では、この時点で塚不二にはカラダのカンケイ(笑)があることになっています。──ん? このお話では?(笑) じゃあ他の話では…………?/////(^^;)(逃)

WJでもアニプリでも部長出ないし(涙)、なんだか不二と親しげな六角柱(違)の二枚目ちっくボーイ出てくるし(ネタばれ?(^^;))、塚不二に飢えてます。塚不二ー! 今週末は塚不二オンリに遊び行って来ます! いっぱい本買うぞ!!(って、全然あとがきじゃないな……)





テニスTOP    Parody Parlor    CONTENTS    TOP

感想、リクエストetc.はコンテンツ欄のメルフォからお願いします