Genius


 不二の会話は、いつだって唐突だ。
「手塚ってさぁ……」
 顎を反らせ、通った鼻梁と眼鏡越しの景色を頭上に見ながら、不二はぼんやりと呟いた。
 場所は手塚国光の自室、そしてその部屋の主の胸に背中を預け、身体の力を抜いてくつ
ろぎきっている。
「手塚って、キス上手いよね」
「────その判断の根拠は何だ」
 半ば呆れた口調で手塚が問うと、不二はくすりと笑みを洩らした。
「うん。何となく」
 手塚の眉間に刻まれた皺が深さを増す。
「だって、すごく気持ちいいから」
 別に誰と比べてってワケじゃないんだけどさ、と不二は笑う。比べられてたまるか、手
塚は思ったが、それは他の多くの言葉と同様、口に出されることなく胸の奥にしまわれた。
「すごく上手なんだろうなって思う。──手塚すごいね。テニスだけじゃなくてキスも上
手いんだ」
 不二の頬は今、いつもの穏やかな微笑みではなく、どこか含みのある微笑に支配されて
いる。髪と同様色素の薄い瞳には、悪戯めいた光がちらついていた。
 何やら上機嫌ならしい不二と反比例するように、手塚がことさらに顔をしかめてみせる。
「それを言うならお前だろう」
「え、僕?」
 不二は一瞬きょとんとした顔をした。
「ああ……、──なに、『天才』?」
 引き合いに出したテニスで自分についた通り名を思い出したらしい。口にしながら、不
二はすでに笑い出していた。
「ヤダな、キスの天才って何? なんかあんまり嬉しくないよそれ」
 言いながら、変わらぬ機嫌の良さで不二はくすくすと笑い続ける。その度かすかな振動
が、手塚の身体に伝わってきた。背を丸めて笑うせいで、手塚に寄りかかっていた身体が
少しずつずり落ちていく。手塚が手を伸ばして支えようとすると、不二は自分で手をつい
て落下をくい止めた。そのまま膝をついて身体の向きを変えながら、こんなことを口にす
る。
「どうせ天才になれるなら、そうだな、手塚を喜ばせる天才とか、──あ、手塚を困らせ
る天才でもいいな」
「それ以上天才になってどうするんだ……」
 思わず本音が洩れた。しまったと思うよりも、口調と同じくげんなり気分が勝って、鬼
の手塚部長をもってしても、どうでもいいという気分にさせられる。
 ──いっそのこと、開き直ってしまおうか。
「僕、天才? ──どっちの?」
 喜ばせるのと、困らせるのと。
「両方だ」
 振り向いた身体を抱き寄せて、ため息とともに正直な答えを返す。おとなしく抱かれた
身体はまだ笑っていて、手塚を複雑な気分にさせた。
「でも君には勝てないんでしょう? だって僕、No.2だもんね?」
「どうだかな」
「あれ、負けてくれるの?」
「どっちの話だ」
「テニスの話。──キスの話でもいいけど」
「──負けるつもりはないな」
「どっちの話?」
「両方」
 即答に、腕の中の身体がまた揺れる。衿から覗く鎖骨に唇を寄せると、肩に手がかかり、
そっと押し返された。
 どこか好戦的な光の浮かぶ、淡い色の瞳を見つめ返す。
「ひとつお手合わせ願えますか、手塚部長?」
 笑いを含んだ声とともに、やわらかな挑戦状が唇に押し当てられた。


                               fin.





こめんと(byひろな)     2002.5.6

はい、着々と増えていっておりますテニプリ・塚不二創作。──ちゅーしかしてないのになんなんでしょうこのヒトたちわ(^^;)。っていうかホントに中学生かなぁこれ。
手塚部長、キスもお上手らしいですね(笑)。しゅーすけくんはなんでそんなのわかるんでせうか(^^;)。比べてる相手が裕太とかだったら大笑いです(いやシャレになってません(^^;))。でも個人的見解では、不二家(フジヤにあらず(^^;))では挨拶代わりのちゅーとかしてそうだと思うのですが(見解じゃなくて願望か?)。
──ええと……塚不二のあとがきなんだから、塚不二のことを書きましょうね私(^^;)。
この不二先輩、ちょろっとうっすらグレイですか? この文字色(シルバーだ)くらいに?(笑) 真っ白しろ〜よりも、ちょっといたずらっ子ちゃんな方が可愛いですよねv 部長、困ってるみたいですが負けるつもりないみたいですし、二人の将来は安泰そうです(笑)。
あ。おもいっきり蛇足なのは百も承知で念のため。
この二人、キス止まりですよ。だって中学生ですものv(まだ言うか!笑)





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