熱い夏へ


「手塚、……いい加減にしないと怒るよ」
 静かな声が空を裂いた。遅くまで残っていた面々の視線が一点に集まる。手塚の左手首
を掴んで、不二は静かに手塚を見上げていた。
「君がどれだけテニスが好きか、僕はそれなりにわかってるつもりだ。強くなりたいこと
も、そのために青学を強くしたいのもわかる。──けどそれで腕が悪化したら意味ないだ
ろう」
「別に悪化など」
「見くびらないでほしいね」
 強い口調で遮られ、手塚はやむなく口を噤んだ。見上げる不二の瞳は、しかしうっすら
と細められていて、彼の怒りの深さを窺わせる。
「今年の夏、全国制覇。それは君の希望だよね。もちろん僕もしたいけど。──でも今年
の夏、S1で出るくらいなら僕はテニス部をやめるから」
 “君がいないと、意味がない”
「──ああ」
 想いは正しく伝わったようだった。手を放し、不二がにっこりといつもの笑みを向ける。
「僕、“2”って好きなんだよね。だから僕の指定席ってコトで、取っておいてくれると
嬉しいな」
「ああ、わかった」
 苦笑交じりに手塚が頷く。密かに息づくような腕の痛みは、不二の手が触れたときから
感じられなくなっていた。


                    *                  *                  *


「手塚部長、これは僕に対する仕返し? 嫌がらせ?」
「何のことだ」
 手塚部長。わざとらしく役職名をつけて呼ぶ不二に、手塚が表情を変えぬまま問い返す。
不二は目の前に練習試合のオーダー表を掲げてみせた。
「これ。『D2。不二周助、河村隆』 ──確かに僕は2が好きだって言ったけど……」
「不満か?」
「まあいいけどね、たまには切り込み隊長ってのも」
 ふたりのやりとりを窺っていた河村が、おそるおそる声をかける。
「不二、あの、俺とじゃ……」
「ううん、そういう意味じゃないんだ。河村と一緒に試合が出来るのは嬉しいよ。楽しみ
にしてる。よろしくね」
「あっ、こ、こちらこそ!」
 河村に向けた笑顔のまま、不二が言葉をつないだ。
「まあね、うちの面子を見渡してみれば、英二と大石以外にまともなダブルスできそうな
のって、僕と河村くらいしかいないからね」
 手塚が眉をひそめるのを見ながら不二はさらに言を継ぐ。
「みんなして妥協とか協調って言葉を知らないからなあ。部長からしてこんなだし?」
「不二、」
「決めた。僕の今年の目標」
「……不二?」
 手塚を見上げて、不二はにっこり特上の笑みを浮かべた。
「今年の夏、君には試合させないから」
 硬直した手塚から、再び河村に視線を戻す。
「勝とうね、河村」
「あ、ああ」
 半ば勢いに押された形で河村が頷くと、不二はその後ろで興味津々聞き耳を立てていた
面々に声をかけた。
「そういうことだから。協力、してくれるよね」
「ああ、もちろん」
「オレもオレもー! 手塚の出番は緒戦で終わりッ! ねっ、おーいし♪」
 満足げに頷く乾の後ろから、菊丸が手を振って身を乗り出す。同意を求められた大石は、
ちらり見やった手塚の渋面に苦笑しつつも、不二に肯定の視線を送った。
 皆に微笑みを返した不二の視線が手塚を通り、校舎の壁に掛けられた時計に向けられる。
「あ、そろそろ休憩終わるね」
 声を掛けあいコートに向かう。と、ふいに不二が立ち止まり、皆を見送るようにまだそ
の場を動かずにいる手塚を振り返った。
「手塚。──行こう」
 いつもと立場が逆だ。思って不二はかすかに笑った。同じことを思ったのか、手塚の頬
にもかすかな苦笑が浮かんでいる。
「行こう」
 真っ直ぐ目を見つめて、不二は繰り返した。
「ああ」
 簡潔な応えが返る。
 “さあ、行こう、熱い夏へ────”




                               fin.





こめんと(byひろな)     2002.7.26

手塚さんには容赦ない不二周助(笑)。タカさんにはあんなに優しいのに(笑)。珍しく原作に則っていますね(死)。
史上最高に不二塚寄りの塚不二です。これでも本人は塚不二のつもりです! 珍しいですよ、私がこんなにひとつのカップリングにこだわってそればっかり書いてるのは。だってこのお話で19本目(!?)ですが、カケラも塚不二でないのは7本だけですよ。すごいことです。──今後どうなるかは分からないけどね☆(死) だって今ものすごくパパ不二書きたくて……(またそういうイバラなコトを)。鳳不二もいつか書きたいし!
いや、ええと塚不二の話を。
塚不二です。どんなに周助が攻撃的でもどんなに手塚さんがかわしきれてなくても(をい)塚不二です。──いや、読みたい方は不二塚で読んでくださって構いませんが。ていうか最終的肉体的に(ぎゃん!)塚不二ならあとはどうでも。……だからうちの周助君こんなんなのよ……ていうか攻め×攻めカップルだしね……。
WJでタカさんが「最後のテニス」とか言ってて(号泣)、「うわ〜〜んっ手塚の試合なんかイイからタカさん勝って!!」と、手塚ファンにあるまじき暴言を思ったトコから思いついたという……(し〜ん)。だからこの話書いたのはもうずいぶん前なのです。UPがと〜ても遅くなってしまいましたが(^^;)。周助を巡って手塚vs河村にするつもりはカケラもありませんが、タカフジダブルスのことと、あと手塚さんの腕のこと、それから“No.2の男・不二周助”をね、からめてみました☆ いかが? しかし、タカフジダブルスの初お目見えは、ホントは一体いつくらいだったのでしょうかね?? ちなみにmy設定では2年の終わり〜3年頭くらいということになっています。だからこの話の時点ではリョーマはまだいないと。桃&薫君も出てきてませんね。なにげに薫君ってほとんど書いていないことに気がつきました。ていうか『夏だからね!』にしか出てきてない……? うぎゃ、早く薫不二書かないと!(ヲイ)





テニスTOP    Parody Parlor    CONTENTS    TOP

感想、リクエストetc.はコンテンツ欄のメルフォからお願いします