ひとりじめ

「なーなー、コレ食った? すっげーウマイんだぜ!」
 自分が作ったわけでもないのにやけに自慢げに言って、菊丸は空になったプラスティックのカップを差し出した。

   白桃の ふわふわプリン

「エージが好きそうな名前だね」
 にっこり笑って不二が同意を示す。
ちょっと甘いけど口どけがやわらかでおいしいらしい。それはますます彼の好みだ。帰りにコンビニに寄ってみようと桃城は思った。
 菊丸の「うまい」と言う台詞は本当に旨そうに聞こえるから不思議だ。
 皆も同じ気持ちなのだろう、越前などはすでに空っぽのカップを覗き込んで、くんくんと匂いをかいでいる。
 と、その越前が、菊丸の持つカップをぺろりとなめた。
「──あまい……」
 舌を出しながら、しかしまんざらでもなさそうな表情だ。きらり光った猫目が隣で呆然としている猫を見上げる。
「けっこう、ウマイっすね、これ」
 にやりと笑うその表情が、何やら意味ありげだ。
 すると菊丸が途端に不機嫌な顔になった。
「やっぱダメ」
 何事かと見守る皆の目の前で菊丸はひとり唇を尖らせる。
「やっぱコレおいしくない。みんな食わない方がいーよ!」
 行こっ、桃。
 ついでのようにつけ足して、菊丸は先に歩き出した。
 不二と越前が顔を見合わせて肩をすくめる。桃城は慌てて菊丸の後を追った。


「エージ先輩! ──どうしたんですか、急に」
 同じ高さにある顔は、覗き込まなくても表情がわかる。
「今日の帰り、コンビニ寄ってきませんか。俺もさっきのプリン、食ってみたいッス」
 あえてプリンの話を持ち出すと、猫目がちらりと桃城を見た。
「旨いんでしょ」
「……うん。──桃ならいいや」
 英二が唇を尖らせる。
「けど、みんなには食わせたくない。────だって」
「だって?」
「──────みんなが桃のコト食ってるみたいじゃんっ……!」
 叫んでぷいっと顔を背ける。耳が赤い。
 理不尽な怒りだと、どうやら自覚はあるようだ。
 桃城は一瞬呆気にとられ、ついで大きく吹き出した。
「なんだよっ!!」
「す、すんません。……けど、……エージ先輩、かわいい……」
「っさいなあっ! やなもんはやなのっ!!」
 わがままネコは、照れを通り越していたくご立腹のご様子。
「だって桃はオレのだもん……っ!」
 意地になったように主張する英二に笑みをこぼして、桃城は英二の身体を抱きしめた。
「エージ先輩。いつだって俺はエージ先輩のもんっすよ」
 ね、と触れるだけのキスをする。と、瞬いた猫目がきらりと楽しげに光を反射した。
「さっきのプリンの方がおいしい」
 ひどいことを言う。
「な……っ。──ちょ、ちょっとエージ先輩、そりゃないっしょ……」
「ねー桃! コンビニ行こ!」
「はっ!? 今からッスか……?」
「そう! まだ時間あるし、今から行けば5限間に合うだろ!」
 すでに英二は抜け出す気まんまんだ。バレたらお説教くらいじゃ済まないのだが(テニス部にも迷惑がかかる)、英二と二人でそれはあり得ないだろうとも思えた。
「おっし! じゃあ行きますか! 競争しましょうか」
「いいよん。ゼッタイ負けないもんね!」
「んじゃ負けたらエージ先輩の奢りッスよ!」
「いーよ、桃が負けたら桃の奢りね!」
 強気な発言と笑みを交わす。せーので同時に走り出した。




                               fin.





こめんと(byひろな)     2002.7.8

わがまま菊ちー(笑)。
小ネタコーナー用に書き始めたのに長くなったのでこちらに(苦笑)。
桃味ネタ第2弾です。好きねー私。だってホントに桃味の新製品多くありませんか!? なんでなんで? なんで世の中そんなに桃を欲しているの!!?(爆笑)
んでもって桃菊。桃菊ですよ! 菊桃ではないので注意。──いや、菊桃もイイケド(笑)。
オイラが書くと自然と攻めクンが年下のクセに微妙に包容力ありげになります。そういうのが好みだからね、仕方がないですね。実際の桃っちはどうなんでしょうそこんところ??

ちなみにこの↑プリン、ほんとにあります。不二家から出ています。よりにもよって不二家かい!(爆笑) パッケージも可愛いです。ペコちゃんが目印。ちょっと杏仁豆腐っぽい感じでオイシイです、私的には。皆さんもドウゾ〜。





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